異能あふれるこの世界で 第二十八話 |
【大阪・姫松高校(麻雀部部室)】
恭子「すまん。時間かけさせたな」
洋榎「ええて。むしろ恭子の気持ちがわかって嬉しいくらいや」
恭子「気持ちて。なんやそれ」
洋榎「部活への気持ち、ゆーたらええんかな。ちっとも来んから『もしかして、あんま思い入れとかなかったんかな』とか思うてまうやん?」
恭子「あり得んやろ。今まで私の何見ててん」
洋榎「いや、わかってんねんで。わかってんねん。けどもやな、そうでも考えんと説明つかんかったっちゅう話や。流石のうちも、頭ん中ようわからんくなってもうて」
恭子「ほんで、寂しゅうなって私んとこ来たと」
洋榎「せや。悪いか? あとな、いちいち突っ込むんめんどいから、もううちって言うていけや」
恭子「また言うてもうてた?」
洋榎「今は言うてへん。けど、いちいちめんどいねん。つまらんこと突っ込ませんなや」
恭子「でも、こればっかりはな。大事な言いつけやから」
洋榎「言いつけ?」
恭子「……まあ、これもええか。善野さんからな、上に行くつもりなら今から言葉も直していけ、みたいなこと言われて」
洋榎「善野監督っ!? 連絡取れんっちゅうのはどうなったんや! どこで会うた? お体は大丈夫やったんか?」
恭子「多いわ。一気にくんな。ほんで場所は、言えん。けど、説明の中に出てくるから会ったんは言える。ぶっちゃけな、私は連絡取れんけど監督だけは連絡取れんねん。これも言うたらあかんで。あえて人間関係を絶っとる状態やから」
洋榎「ちゅうても体がアレやし、話も全く聞かんから、どっかで倒れてもうたんちゃうかとも思うててんで。インハイに来てくれた時も、話はできてたけどあんま動かんようにしてたっぽいし。無事かだけでも教えてくれんか?」
恭子「まあ、そのへんは大丈夫や。インハイの時よりも元気あったんちゃうかな? 私の今の状況も、実は善野さんが企画して手え回したもんやし」
洋榎「はあっ?! ちょ……なんやもう、さっきから驚いてばっかやんけ。これもう最初から順に聞いた方がええんかな?」
恭子「大人しゅう聞いてくれるなら、そんな難しい話やないで」
洋榎「聞くわ。ちゃんと聞くから一から話したってくれ」
恭子「ん、わかった。まあさっきもちょっと言うたけど、始まりはインハイん時の相談でな。洋榎に『無いのは自信やろ』言われて、後でじっくり考えてもほんまそうやなって納得してん。ほんでどうしよかな思て、相談に行ったんが赤阪監督んとこや。強うなりたいんです、言うて」
洋榎「監督、喜んだやろ」
恭子「嬉しいとは言うてくれた。けど、結局んとこはどうにもならんかった。姫松の監督やりながら私を鍛えるんは、どっちにとっても効率悪すぎるらしいわ。私の方を頑張ったら姫松が疎かになるし、逆もまた然りっちゅうことでな。監督本人は力になれん、と言われた」
洋榎「部活やりながら鍛えるとかいうレベルちゃう、っちゅうことやな。これ、かなり濃い話してるで」
恭子「監督の本気っぷりを知ることができたんは、後になってからやったけどな。その場では……ちょい色々あって…………なあ、覚えとったらでええから、私が礼言うとったって伝えくれん?
今は顔、合わせられんから」
洋榎「なら今日言うとく。こっそりな」
恭子「助かる。そんで監督に断られてへこんどったらや、いきなり『善野さんに会わせたる』言われて……もうわけわからんわな」
洋榎「いや、こっちもわからんわ。なんでそうなんねん。どっか端折ってないか?」
恭子「これがそのままやねん。あの人な、確かに本気で話したらめっちゃ頼りになるわ。けど、頭の回転ええからって説明省くのどうにかならんのかな。話の展開早すぎてついていけへん。こっちはもう頭ん中わけわからんことになってんのに、ほんわか口調でぶっこみ続けてくるし。しかもこっちからなんか聞いたらすっとぼけよるし」
洋榎「まあなあ。そゆとこあるわなあ。なんでか抜けてる振りしてるけど、誰がひっかかんねんってレベルやし」
恭子「ほんで『私はだめだけど、善野さんなら相談相手になってくれるから』とか言うて。正直、話の流れとかわからんままやったから、説明もぼんやりしてまうけどな。せっかくの機会やし、会わせてもろたっちゅう話や」
洋榎「そら機会がもらえるんなら、うちかて何おいても会わせてもらうわ。恭子はええなあ。なんやもうめっちゃ羨ましなってきた」
恭子「気持ちはわかるけども、こっちかて藁にも縋る思いやってんで。もしここで善野さんにも断られてたらな、私の麻雀人生は詰みや。終わりや。そらそやろ。打つ手ないもん。頼れる人も、他には一人もおらん。私だけでやれることなんぞ高が知れてる。たいした上積みもないまま大学行って、インカレにも出られず、そのまま埋もれていく未来がすぐそこまで来とったんや」
洋榎「どうやろな。まあ確かに、今から半年の独学で上積みっちゅうんは期待できんけど」
恭子「幸い、善野さんはめっちゃ親身になってくれてな。事前に赤阪監督とも打ち合わせとかして、いくつか手を考えてくれてたみたいや。そんで会うなり、『まず恭子の話を聞きたい』言わはってな。私の考えてることを垂れ流すだけの楽しゅうもない話を、ただただじっくりと聞いてくれたんや……」
洋榎「んー? 善野監督ってそこそこ話す方やけど、聞くだけでもええってタイプやん。久々に会って話聞けたら、それだけでも楽しめたんちゃう?」
恭子「いやそれがな、結構時間とってくれてん。今の善野さんの話も聞けたし、ちょっとはあほな話もしたで。あの顔と雰囲気のまま、とんでもない冗談かましてくるんは相変わらずやった」
洋榎「あれかー。あの人、なんでポーカーフェイスのままおもろいこと言うんやろな。ウケるタイミング逃すから笑いにくいねん」
恭子「後からくんねんな、あれ。ああ見えて生粋の大阪人やから、笑いの取り方にもこだわりがあるんちゃうかな」
洋榎「そもそも善野監督と赤阪監督が仲ええっちゅうのも謎やし。あの組み合わせで、なにが成立するんやろ。どんな話しとるかいっぺん聞いてみたいわーて昔から、っと話がずれてもうた」
恭子「おっと。せやな、軌道修正しよか」
洋榎「善野監督と会って、話聞いてもろて」
恭子「言われたんが、善野さん自身も動けんいうことや。事情も教えてもろて、我儘言うてもどうにもならんことがわかった。それ聞かされた時は終わったと思うてんけど、次に言われたことはもっと衝撃的やった」
洋榎「何言われたん?」
恭子「私を外部の人間に任す、て」
洋榎「外部っちゅうことは、どっかの教室でも通うんか? それとも個人コーチとかか?」
恭子「そこが言えんとこや。ずっと言うてたやろ? 確認取らんなあかんて」
洋榎「ここかーっ! ここやったかあ……うっわめっちゃ気になんねんけど」
恭子「すまんな。こればっかりはどうにもできん。次の土日でまた会うから、そん時は忘れずに確認取るから」
洋榎「早うて来週? いやこれマジきついて。しかもアカンかもしれんとなると」
恭子「いや、たぶん話せんと思うで。その方にええことなんもないし。ただ洋榎が知りたい言うてごねてるだけやろ? ほっとけ、とか言われるんちゃうかな。あんま期待せん方がええで」
洋榎「ちょっ、お前もう少し食い下がれや! 教えてくれたら、うちがなんかええこと用意したるから。ほれ、例えば……今は思いつかんけども」
恭子「思いつかんのかい」
洋榎「頼むわ……なっ!」
恭子「何が『なっ!』や。今のでさらにやる気なくしたわ」
洋榎「うそやろっ?!」
恭子「ほんま中のほんまや。話戻すで」
洋榎「たのむわーおねがいやーきょうこー」
恭子「はいはいわかったわかった。んでな、善野さんは私の思いをちゃんと聞いた上で、事前に思うとった人に任すんが一番ええと確信したらしいわ。私の同意を得られたら仲介人通して当人に話をつける、みたいなこと言われたんや。そん時の私の衝撃がわかるか? もう頭ん中はぐらんぐらんや」
洋榎「は? なんでショック受けるん? うちやったらふつーにええ話やと思てまうけど……はっはーん。恭子、お前まさか、また善野さんに教えて貰えるかもーとか思うてたんとちゃうか? 流石に無理やとは思いつつも、ちょびっとだけ期待してもうてたんとちゃうかあ?」
恭子「……そこまで期待はしてへん。ただちょっと、もしかしてと思うてたけども」
洋榎「うそくさっ。もしかしてくらいで、そんなショック受けるわけないやろ」
恭子「ちゃうて。ただちょっと、お二方にそれぞれ断られた上に、他の指導者のとこ行け言われたんがな……なんちゅうか」
洋榎「なるほどな。寂しくて悲しくて辛かったと」
恭子「そうは言わんけど」
洋榎「思うてはみたと」
恭子「違うて」
洋榎「いやー善野監督好きなんは知ってたけど、赤阪監督もけっこう好きになっててんなあ。知らんかったわあ」
恭子「……いや、あのな」
洋榎「言い訳はええから、続き話てんか。すぐ話すんなら、もう突っ込まんといたるで」
恭子「くっ……まあええ。続き言うても、言えるんはこのあたりまでやからな。付け加えるなら、紹介された方と昨日会ってきたってくらいか」
洋榎「んで、教えてもろたわけか。麻雀を」
恭子「まあな。けど、講義自体はこれからの説明とか中身のさわりなんかをざっとやったくらいかな。時間かけたんは、半荘だけやった対局とその後の解説」
洋榎「打ったんか。で、どんくらい強かった?」
恭子「馬鹿みたいに強い。勝てる気が一切せんかった」
洋榎「プロレベルか?」
恭子「下手なプロより強い、やろな。姫松の監督らよりも強いんは確実や。しかも、ちょい説明しにくいけど……麻雀に対する考え方が、かなり変わってんねん。そこそんな重要視するとこか、ってあたりをめっちゃ重点的に突き詰めてる感じ、言うたらわかるか?」
洋榎「ほーん、おもろいやん」
恭子「正直な、私そんときあんま機嫌よくなかってん。姫松から出て麻雀学ぶんも抵抗あったし、あんま知らん人やったから人見知りも出まくってもうて……」
洋榎「出たで〜恭子の悪い癖」
恭子「言わんといて。しかもそんな気分悪い時に『私の教えたことを姫松で広められたくないから、プロになるまでは部活に行くの禁止』っちゅう条件を突き付けられてな。加えて私には自分とこの子飼いに麻雀教えろとか無茶振りしよるし。これも今考えたら恥ずかしいんやけど、そん時に軽く切れてもうてん」
洋榎「恭子が知らんような奴にキレるとか、めっずらしいやん。見たかったわあ」
恭子「見たかったも何も『お前の講義にそんだけの価値あるんか?』とか、遠回しに言うてしもただけやで」
洋榎「おうおう目上相手に言うたったなあ。そんでそんで? どうなったん?」
恭子「その先生もな、多分大らかな人やと思うんやけど、流石にむっとされてな。『なら私の講義の質を保証して貰えば納得できるだろ』とか言い出して、電話かけに出て行ってん。その場に残されたんは、私と子飼いの一年と某高校の三年や」
洋榎「ん、三年がおるんか。ちょい気になるな。どこのかは言えんのやろけど、どんくらい強いかは言えるやろ。ざっくりでええから教えといてんか」
恭子「それいるか? まあええけど。そうやな、何がええかな……あ、インハイの個人戦に出とったで。まともにぶつかったら私よりも強いんちゃうか」
洋榎「ほーう、恭子より強い三年がおるんか。先生も強うて……その子飼いの一年は、どっかの大会出てへんのか?」
恭子「あー……インハイにおったで」
洋榎「一年でかっ?! っちゅうことは」
恭子「終わり終わりっ! 詮索はここでおしまいや。追及したらあかん。わかるやろ?」
洋榎「っかあー! なんやその面子。ええやんええやん、めっちゃおもろそうやん! なあ、なんとなしでええから、うちが興味持っとったって言うといてくれんか? こう見えて、わりと役に立つと思うねんけど」
恭子「お前連れてったら、なんもかんもわかってまうやんけ! 私は別にええけども、先生にも事情がやな」
洋榎「言うてみるだけ! 言うてみるだけでええねん。ほんで先方さんに『気が向いたら呼んで欲しいなあ』って意思を知っといてもらうだけや。うち、便利やでー。強いし、色々できるし」
恭子「まあ言うだけは言うといたるけど、望み薄ってのはわかっといてや」
洋榎「言わんかったら望みはゼロ、言うてくれたらゼロやない。うちにとっては言うてもろたら丸儲けや。上手いこと言うてくれたら確率上がるかもしれんから、よろしゅう頼むで〜」
恭子「まあええけど……あ、また話ずれたな」
洋榎「おっすまんすまん。戻したって」
恭子「えっと、三人残されたところか。そこで少し話したんやけど、みんなやらなあかんことも考えなあかんこともあってな。この講義で成長するんが必須なとこあんねん。でまあ、ここでも機嫌悪かったから色々あったけど、よろしゅう頼むわっちゅう感じにはなった……と思う」
洋榎「恭子はなあ、うちが居らんとコミュニケーションがなあ」
恭子「なんでお前が保護者気取っとんねん。いらんわ」
洋榎「そうかー? まあええけどな。ほんで、電話っちゅうのはどないなってん」
恭子「ああ、電話な。えっと……これやばいな。どこ取っても言えんことばっかやんけ。どう言うたらええんやろ」
洋榎「はあ? たかが電話やろ。別にそこそこの有名人が出てきても驚かんぞ」
恭子「いや……そう言うんはわかるけどな。私もそう思うててんけどな。まあ、あれや。そこそこどころやない有名人が電話の相手で、いきなり電話渡されたこっちは完全にてんぱってもうた、っちゅう話や」
洋榎「そんだけか? なんや、言いづらそうにしてたわりには、ざっくりしすぎてる気がすんねんけど」
恭子「追加があんねん。わけがわからんことにやな。その人とはまた別の、名の通ったプロがやで? 『その人が講義をやるなら受けてみたい』とか言うたらしくてな、車飛ばしてほんまに来てん。電話してから一時間くらいで」
洋榎「待て。恭子が電話した相手もやばいし、来たんも知られた奴っちゅうことか?」
恭子「せやな。知らん方が驚くわ。特に電話に出た方はなあ……ええわ。こっちは言うたる。別に口留めされてへんし」
洋榎「おーおーこれはありがたいな。繋がりっちゅうのも馬鹿にできんとこあるからな。連絡してものを頼める相手がどんくらいのレベルかっちゅうのは大事なこと――」
恭子「瑞原プロや」
洋榎「……………み、水原?」
恭子「誰やそれ。わかりにくいボケすんな。牌のおねえさんや」
洋榎「えっ、ちょっ…は? あ、えーっとな、ちょお待ってや」
恭子「待つで」
洋榎「あー、つまり恭子を教えるんは……トッププロと繋がりがあって、頼み事もできて、講義をやる言うたらとんでもないプロが受けにくるようなお方、っちゅうことか?」
恭子「ちなみにな、瑞原プロも電話で『はやりも受けたーい』っちゅうて、マネージャーさんを混乱させとった。ただな、言うとくけど、その人自体はさほど名前が売れてるわけやないねん。もちろんプロでもないしな」
洋榎「ん? ん? この流れでそれは無理ないか? 誰も知らんキャラがそんな対応されるとは思えんし。うちらレベルでも知らんような奴か?」
恭子「流石にそれはない。私も一応知ってたし。まあこれ以上は言わんとく」
洋榎「くーっ! ええなあ。ええなあ恭子ぉ! 瑞原プロと直電して、えらいプロとも会うて。プロも受けたいような講義を受けられるて……お前どんだけやってもろてんねん!」
恭子「ほんまな。心からそう思うわ。なんで……なんでこんなことなってるんやろな。真面目な話、自分でもようわからんねん。そん時もな、なにこの状況、って言いたかってん」
洋榎「なあ恭子。ここまでやってもろたら、強ならな嘘やで。本気でやって、本気で強うなって、大学で大暴れしてプロ行くしかないで。わかってるか?」
恭子「当たり前や。やるしかないやろ。せやから……ああ、これもあった。お前に邪魔されたから全然できてへんやんけ」
洋榎「なんや、その紙切れ。どれどれ……って、ただの何切るやん」
恭子「そう見えるやろ? ちゃうねん。これは何切るやない。無理に言うなら、そうやな。『何があったら切る』か?」
洋榎「語呂悪っ。なんやそれ」
恭子「普通の何切るやったら、切る牌選んで理由が語れたらそれでええ。けどな、これは全ての牌について、切る理由を説明せなあかんねん。例えばこう問われてると思えばええ。どういう理由があれば、あなたはこの面子の中抜きをしますか?」
洋榎「そんなん、読み切れん三人リーチの共通安全牌で他に確実な候補が無い時、とか答えたらええやろ」
恭子「せやな。どの牌でもそれでいけるな。万能の答えや。そんで、洋榎やったらそんな手抜きの解答を提出できるか? これ、今まで話しとった先生が出した宿題やで? 私には、そんな気い抜いた回答を出す度胸はない」
洋榎「いうてお前、こんなん考えてもしゃーないやんけ。回答? 無限にあるわ。天文学的な個数になるやろが。時間切れまで書きまくる気いか?」
恭子「それやねん。洋榎が来る直前にな、そのことで頭悩ましててん。意図があっての出題と思うてええはずなんやけど、その意図が全くわからん。わからんから、答えようがないねん。とりあえず、ありきたりなことだけでも書いとこうとは思うてるけど」
洋榎「はー相変わらずまっじめやなあ。まあこうなったらしゃーない。うちも手伝うたる。牌もあるしな。とりあえず並べてみて……一応、他の奴等の捨て牌もテキトーに作っとこか」
恭子「すまんな。助かる」
洋榎「ええて。無理言うたのはこっちやし。こんなんで助けになるならいくらでもやったるで」
……
…
洋榎「はー。相変わらずつっまらん麻雀しよるなあ。まあな、百歩ゆずって開局早々の平たい状況ならそれでもええわ。けどなあ、しょーもない子のリーチくらいやったら押すやろ。そもそもどんくらいの点数状況想定して言うてんねん」
恭子「お前こそわけわからんわ。平たい場でも先手取られたら考えるやろ。仮定やから行けばええっちゅうんは好かんな」
洋榎「うちがそんなショボい考えでもの言うわけないやろ! ちゅうかお前、跳満狙える手えをみすみす逃しても、まだ次の手が来てくれるとかお目出度いこと思てんとちゃうか? 甘いで。行ける時は行けや。中途半端がいっちゃん悪いねん」
恭子「何が中途半端や。ほんの少し受け入れが狭うなるだけやんけ。見てみいや、最高形の受け入れは変わらんやろ? なら、攻めながら受けることができるこの一打。文句の付けようがないわ」
洋榎「その減った受け入れも満貫狙えるやろが。一牌押すだけで二種類の受け入れを残せるんなら、もう当然の押しと言うてええ。文句の付けようがないな」
恭子「……それ言うなら、まだ切る必要のないその一牌で振ってもうたら何もかもが終わりやん。この手を大事にしたいからこそ、丁寧に打ちたいんや。なんでそれがわからん?」
洋榎「振りたないなら、ちゃんと読んだらええだけの話ちゃう?」
恭子「誰も彼もがお前くらい読めたらそうするわ! うちにそんなん求めんなや。わかってんのに煽んな」
洋榎「あーまたうち言うた―」
恭子「ほっとけ! お前がうち言え言うたんやろが!」
洋榎「こいつー監督のー言いつけをーやぶってまーすーよー」
恭子「おまっ…………あかん。完全に熱なってるわ。ちょお待て。落ち着かせえ」
洋榎「おっとお、そんなん言うたかて…………あー、いや。せやな。アカンわこれ」
恭子「はあ……」
洋榎「いつの間にかガチで言い争うてたなあ。こんなんかーなり久しぶりちゃうか?」
恭子「三年になってからは無かった気いするな。二年の、いつかまではあった記憶あるけど」
洋榎「レギュラー取る取らんの時期やったかな? あの頃は、よう熱うなって語り合ってたなあ」
恭子「意見、全く合わんかったけどな」
洋榎「結論も出んかったなあ。いくら話してもまとまらんことこの上なかったし。けどまあ、そういうんがええねん。楽しかったわあ」
恭子「まあな。今も口は悪なってたけど、ええ感じやったし」
洋榎「うちも恭子もゆーこも、考え方から打ち方から、なんもかんもがまーったく違うとるからなあ。麻雀やってもそうやし、部活のことも、先々のことも……ホンマに全部や。全部が違う。違ってもうた」
恭子「……せやな」
洋榎「まあ、プロ行く気満々やったうちが言たらアカンのかもしれんけどな。高卒でプロいけるんは一握りだけやし。ゆーこが本気で打つんは高校までなんは聞いてたから……わかっててん。わかって言うてんねん。でもな、ちょびっとくらい愚痴も言わせえや」
恭子「聞くで。なんでも聞いたる」
洋榎「…………言うてええか? けっこう無茶言うかもしれんけど」
恭子「言うとけ言うとけ。今しか言えんこともあるやろ。うちのもまとめて、ここに置いていこうや」
洋榎「せやな。そうしよか」
恭子「ああ」
洋榎「……みんな、アホや。アホばっかや! 打ち続けたいんなら打ってったらええやんか! 強なるで? 麻雀なんて打つだけ強なるゲームやろ。ええやん。ずーっと好っきな麻雀のことだけ考えて生きてこうや! めっちゃ楽しいで!」
恭子「……」
洋榎「なんでみんなへーきで麻雀捨てんねん! ほな今まで頑張ってきたのはなんやったん? 遊びか? 本気なフリしてみーんな楽しんどるだけやったんか? せやからみんなうちより強うならんかったんか?」
恭子「んなわけないやろ」
洋榎「せや。ちゃうのはわかってんねん。けどな、わからんのや。なんでやーって、みんなみんな問い詰めてやりたなんねん。できんけど。それでも……泣くほど悔しいなら、やったらええやんけ! やってみんうちに捨ててもうて、どいつもこいつも意味わからん! わからんちんのどてかぼちゃや!」
恭子「……そうか。わからんか」
洋榎「わからんなあ! あんだけ麻雀好きやー言うて、他んことほったからかしで打ち込んできて。そんで時期きたから辞めるわー言われても、うちは嘘やろとしか言えんで。将来か? 先行き不安やからそうせざるを得んのか?」
恭子「そういうのもあるやろな」
洋榎「どーでもええやんか! 二目と見れんようなブサイクなんぞ、うちの周りにはおらん。ぶっちゃけな、アカンくなっても結婚したらどうとでもなるて。ゆーこも恭子も絹も漫も浩子も、みんなかわええんやから好きに生きたらええやんか! うちがいっちゃんイケてないのに、なんでうちだけプロに飛び込んでんねん! 独り身多い世界に入って大丈夫ですかー、ってほっとけや! うちかてそこそこかわええっちゅうんねん!」
恭子「……突っ込みどころが多うて仕方ないな。けど、とりあえずこれは言うとくで」
洋榎「なんや!」
恭子「本音言うてて、恥ずかしなってきたら茶化しに入る癖、直そな」
洋榎「ちょっ」
恭子「あと、わかってんのに、嫌やからってわからんわからん言うのもあかんで。プロ行く前になんとかしとき」
洋榎「…………優しゅうすんなや。ええ歳して駄々こねて、あーかっこわるっ!」
恭子「ええやん。ここでは何言うてもええ。さっきそう言うてくれたやん」
洋榎「はあ……やっぱ勝ちたかったわあ。ここにうちらがいたっちゅう証を残してな、たまに集まって見に来たりして……ほんで、あの時はすごかった、あの時はやばかった言うて、楽しい思い出語んねん。ずーっと、ずーっとや。そういうモンが、欲しかったなあ……」
恭子「はいはい。まあしばらく待っとけや。さみしいかもしれんけど、そのうちちゃんと追いかけたるから」
洋榎「…………頼むわ」
恭子「ほんま、困ったやつやなあ」
洋榎「……お互いさまや」
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恭子の事情説明と洋榎の色んなアレコレと | ||
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