【にか薬】オートマタパロ1
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 帰り道にいつも通る商店街。そこから細い横道に逸れてしばらく歩くとその店はある。店先のディスプレイにはアンティーク人形や時計、オルゴールなんかが並んでいる。一見雑貨屋のようだが違う。鍵のスペアを作ったり靴や鞄を修繕したりする、まあよくある店だ。店主が以前機械だかなんだかの修繕もしていると言っていたような気もするが、俺はもちろん、他の客でもそんなことを頼んでいる所は見たことがない。ガラス窓の付いた扉を押す。ガラガラとベルが鳴る。中へ入ると奥から声がする。

 

──らっしゃい。ちょいと待っててくんな。

 

太い声と時代がかった口調。しかし出てきたのは黒髪色白の美少年である。

 

──おう、長谷部さんじゃねえか。久しぶりだなあ。

 

──……相変わらずだな、薬研。

 

長谷部が半眼で言うと薬研は大きな目でパチリと瞬きをして小首を傾げた。

 

──おう。それで今日は用向きは?

──この革靴なんだが、底がすり減ってきていてな。修理を頼みたい。

 

足元を指差して言う。

 

──長谷部さんは良く働くからな。減りも早いだろう。滑ったりしちゃ危ねえからな。おい青江、仕事だぞ。

 

後半は店の奥へ向かいながら薬研が言った。

 

 青江とはこの店の店主である。いつも店の奥に引きこもっていて会うことはめったにない。数度会ったことがあるが、長い前髪で片目を隠し、口元に薄っすらとした笑みを張り付かせた様子ははっきり言って不気味だった。できればあまり会いたくない相手だ。得体のしれないものには近づかないに限る。それでもいつもこの店を使うのは、その店主の腕がとても良いからではあるのだが。

 

 少しして薬研が戻ってきた。スリッパを手渡してくる。

 

──これ履いてその辺に掛けて待っててくれ。

 

──ああ、よろしく頼む。

 

スリッパに履き替えて革靴を薬研に渡し近くの椅子に腰掛ける。思わずふうと息をついた。

 

──やあ、見覚えのある靴だと思ったら長谷部くんじゃないか。久しぶりだねえ。

 

……青江だ。何故出てくる。

 

──おやおや、眉間に皺が寄っているよ。お疲れかい。

 

自分の眉間をとんとんと指で叩きながら青江が言う。余計なお世話だ。早く仕事に戻れ。

 

──はいはい、全く、つれないなあ。

 

──は!?

心の声に返事をされ思わず素っ頓狂な声がでる。

 

──ふふ、薬研、お疲れの長谷部くんに熱い珈琲でも入れてあげてくれるかい。

 

言いながら青江が引っ込む。薬研もおうと答えて奥へ入って行った。

 

何なんだ、あいつは。相変わらず不気味な奴だ。

 

──くそ、腕が良くなければこんな店来ないというのに。

 

ぶつぶつ言っていると薬研が珈琲を持って戻ってきた。長谷部にカップを渡しながら言う。

 

──あいつの腕は世界一だからな。俺が保証する。まあ俺には難しいことはさっぱりわからんが。

 

長谷部はお礼を言ってカップを受け取り、溜息をついて珈琲を啜った。

 

 

***

 

 

 夜中。薬研が看板を店の中へ仕舞い入り口の鍵を締める。店の明かりをパチリと消す。

 

──店仕舞い済んだぞ、青江。

 

──ああ、ありがとう、薬研。

 

キリキリ、キリキリ、どこかから音がする。

 

──おっと、そろそろ眠る時間か。

 

薬研が言う。

 

──もう少し起きるかい?

青江が尋ねる。

 

──いや、いい。明日は土曜日だよな。八時には巻いてくれよ。

 

──わかっているよ。九時からのテレビ番組に間に合うようにだろう。君も飽きないね。

 

──お前も見てみればいい。なかなか面白いぞ。

 

そう言うと薬研は眠たそうにんん、と唸って瞬きをした。

 

──おやすみ、青江。

 

薬研が青江の額に口付ける。

 

──おやすみ、薬研。

 

青江も薬研の額に口付けを返す。

 

薬研は満足そうに微笑むと目を閉じた。カクリ、と全身から力が抜ける。

 

青江は薬研を軽々と抱き上げて運び自分の寝台の横にある一人掛けのソファーに座らせた。

 

薬研の艶やかな黒髪を優しく撫でて整えてやる。

 

──また明日、僕の愛しい機械人形オートマタ。

 

 

<了>

説明
パロディ初挑戦作品。
読めるものになっているといいのですが……。

2015年11月20日 23:42
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刀剣乱腐 にか薬 掌編 パロディ 

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