真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 62 |
「こんなところでしょうか。私たちの出会いと言えば」
「そうか。そこでやっとお前たちは力の向けるべき場所を見つけたんだな」
「そう、ですね。その通りです」
長々と話したからか、今度は愛紗が茶をすする。
「ですが、正直に言いますと、今でもふと悩んでしまうことがあります」
「何を?」
「……玄輝殿は最初、桃香様の事をあまりよく思っていなかったですよね?」
「うぐっ」
思わず渋い顔をしてしまった。
(あの時の話、今でも若干気にしてるんだよな……)
色々あった、いや、やったからなぁ……。桃香に対してどうにも後ろ髪を引かれるというか。とはいえ、すでに皆が知っていることだ。否定する必要なんてない。
「まぁ、あの時はな」
「私自身も気にはなっていたのです。桃香様が理想へ向かうお姿は変わっていないのに、どうにも危うく見えてしまうことが多くなったような気がするのです」
そう言って彼女は眉根を寄せて悩みを吐露した。
「もしかしたら、私たちが桃香様を“弱くしてしまった”のではないかと」
「それは……」
「玄輝殿とぱーてぃーの時に互いに話された後は前の強さを取り戻されたように思えるのですが、そうなると私が感じていた危うさはなんだったのだろうかと」
茶に映る自身の顔を見つめながら続きを口にする。
「私たちが桃香様にいらぬものを背負わせてしまったのではないかと思うようになってしまったのです」
「……はぁ」
一度嘆息してからその頭に手刀を入れた。
「げ、玄輝殿?」
「悪いがこればかりははっきり言わせてもらう。お前は馬鹿か?」
「なっ!」
「それは弱くなったんじゃない。お前たちが桃香の弱さが“見えるようになった”だけだ」
「弱さが、見えるようになった?」
俺が言えたことじゃないが、愛紗も愛紗で視界が狭くなることあるよな、と心の中でつぶやいてから話を繋げる。
「いいか、一人であれば自分で何でもしなければいけない。でも、仲間がいれば自分ができなかった穴を誰かが埋めてくれる。桃香はお前たちと出会うまでは一人で色々やっていたはずだ。それが愛紗と鈴々っていう心強すぎる仲間ができたんだぞ? さらに義姉妹の契りまで交わしたら誰だって弱いところが出てくるだろうさ」
「それじゃあ、私が見ていた危うさというのは……」
「桃香が“最初から持っていた弱さ”だろうさ。お前たちでなくても仲間ができれば出てきてたと思うぞ」
俺の言葉を聞いていた愛紗は目から鱗が落ちたように呆然としてから、涙混じりの笑い声を口からこぼしていた。
「……で、悩みはどうなった?」
「おかげさまで吹き飛んでしまいました」
その言葉を聞いて互いに笑いあった。
茶屋を出て、大きく伸びをした。
「さてと、これからどうするか」
「どうするも何も警邏に戻るだけですよ」
「げっ、忘れてなかったか」
「……忘れるとでも?」
冷たい視線を適当に流してふと通りの奥を見ると少し人が集まっているようだった。
(……この匂いは?)
どうにも食欲を誘う匂いに腹の虫が鳴ってしまう。
「……食べに行かないか?」
「はぁ、まぁ確かにまだ朝食を食べていませんでしたからね」
呆れ半分笑い半分のため息を吐いて、彼女は同意してくれた。
「行きましょう。多分、今日開店すると広告されていた饅頭屋だと思います」
「へぇ、そうなのか」
新しいものに惹かれるの山奥の村の人間の性、そう思って足を進めようとしたら右手を愛紗に取られてしまった。
「で、ではいきましょうか!」
「え、あ、ああ」
そのまま彼女は俺を見ることなく饅頭屋へ向かう。でも、正直それはそれで助かった。
(絶対今の俺、仲間や雪華には見せられん顔してる……)
自分で顔が真っ赤になっているのが鏡を見なくても分かるほど熱い。こんな茹でだこみたいな顔を見られないことを祈った。
「……うまいな」
「そ、そうですね」
何とか買えた饅頭を二人して頬張りながら話をする。
(座ってるのにどうにも落ち着かん……)
歩きながら食べようと話をしたのだが、それは不作法と愛紗に言われ、今は適当な長椅子に(北郷の案で街中に設置されているのだ)腰かけて食べている。
(う〜ん、話すことが思い浮かばん……)
どうしたもんかなと思い、何とはなしに町人の近くで話している町人の話に耳を傾ける。
「そういや聞いたかい? 西涼が最近どうにも怪しくなってきたらしいぜ」
「あれ、お前さん西涼に親戚でもいるのかい?」
「いんや。行商をやってる叔父がいるんだよ」
「……お前さんの叔父さんいくつだよ」
「んなこたぁどうでもいいんだよ。でだ、その叔父が言うにゃ“戦が起こりそうなきな臭さがある”って言ってたんだよ」
(西涼か……)
確か、騎馬戦力が有名だったか。そこがきな臭いってぇと。
(相手は、曹操か?)
ちょっと気になる。俺は引き続き町人たちの会話に耳を傾ける。
「まぁ、あそこに戦仕掛けるって言ったら曹操の所しかねぇだろ? え〜と、魏だったか?」
「う〜ん、そこがちょいと怪しいって話なんだよなぁ」
「うん? どういうことだよ?」
「いや、叔父の話だと“魏ではまだ戦準備してなかった”って言ってたんだよ」
「なんだそりゃ。なら叔父さんとやらの気のせいじゃねぇのか?」
「俺もそう思ったんだけどな? “いいや、あれは戦の気配だっ! それだけは間違いないんだ!”って譲らねぇんだよ」
「……行っちゃ悪いがそれなんか憑りつかれてねぇか?」
「それも疑ったんだがなぁ。本人も説明できなくて苦しんでるんだよな。“確かにその時にはそう考えられる理由があったんだ。でも、帰ってきたら忘れちまったんだ”ってさぁ」
その言葉を聞いて饅頭を食べていた手を止めた。
「……なんだと?」
「玄輝殿? どうされましたか?」
「愛紗、すまん。少し席を外す」
食べかけの饅頭を愛紗に預け、話している町人に近づく。
「話しているところ済まない、ちょっといいか」
「ん? なんでぇああああああ!?」
「み、御使い様!?」
驚いた町民をなだめてからさっき話していたことについて聞いてみた。
「さっき、お前さんの叔父が話していたことを聞きたいんだが、叔父は今どこにいる?」
「ええと、5日前に行商に出ちまいやした。確か、洛陽の辺りに行くとか言っていましたが」
「そうか」
行商が5日前に出ているなら、今から追いかけるのは難しいな。
「さっき話していたことは行商に出るどのくらい前に話していたんだ?」
「行商に出る前、というか帰ってきてすぐだったので一か月、いや3週間前ぐらいでしたかね」
「旅に出る前にその話をしたか?」
「へぇ。ただその時は怪訝そうな表情をされただけでしたね。返事も曖昧というか“あ、ああ、そうだな。そうだった”みたいな感じでしたね」
「……そうか」
これは、間違いない。
(あいつらが西涼にいる? 何が目的だ?)
……いや、今はここで考えるのはやめておこう。
「すまんな。これは礼だ」
食事代とその後二人で分けられるようキリのいい金銭を置いて改めて礼を言った後、愛紗の元に戻る。
「すまん、待たせたな」
「いえ、それはいいのですが、あの二人が何かしていたのですか?」
「いや、特には……」
と言いかけて、そこから先を止めた。
(もう、余計な心配はかけさせたくねぇ)
どうせ心配されるならわかりやすい心配をしてもらった方がいい。俺は正直に話すことに決める。
「……もしかしたら、西涼に白装束がいるかもしれない」
「なっ! それは真ですか!?」
「ああ。白装束と出会ったときにおこる記憶の消滅みたいなことを行商人が体感していたらしい」
「それは病や何かに憑りつかれてしまったのでは?」
その可能性も否定できないが……
「行商ってのはいろんな場所を見て回る。俺が知っている行商人は細かな変化を見逃すことなんてしなかった。だからこそ気になるんだ」
「……そうですか」
そう言ってうつむいてしまう愛紗になんて声を掛ければいいのか、すぐに答えが出ずもどかしく思っている間に彼女から声が出た。
「……行かれるのですか?」
「……すぐには行かない。相談しなければいけないこともあるし、やらなければいけないこともある」
「やらなければいけないこと?」
「ああ。とにかく一度城に戻ろう。今後の事を相談したい」
「そう、ですね」
椅子から立ち上がろうとする愛紗に俺はさっき自分から声を掛けられなかった代わりに手を差し出した。
「……急ぐからな」
「……はい」
その手を握られたのを確認してから俺は城を目指し、二人して走った。
俺はその時、後ろを見なかったがふと思った。
(ああ、これも俺の“轍”の中に入るんだろうな……)
この時感じたうれしさやら恥ずかしさやらも“俺”を作る轍なのだと、ぼんやりと感じたのだ。
〜休息:終〜
はいどうもおはこんばんにちわ。作者の風猫です。
いやはや、長い休息がやっとこさ終わりました……
さて、やっとこさこれで本編の方に戻ります。
次に出てくるのは……
待て次回!
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白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話 オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。 大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。 ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・) |
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