こんとん物語 31 |
殺人とは、その手を血に染めることだ。
すなわち、自らを地に落とす行為。と言えば分かりづらいが、地獄へ落とす行為と言えば分かるだろうか??
こんとんは殺人の重大性について理解していた。
月に数回、あまりにも広大な屋敷を掃除しているが、人間の内容に比べれば、その掃除にかかる手間は大したものでは無い。
人間の内容を掃除するには、人間の根本と自分の根本を理解する必要がある。
殺人は自らを汚す行為だが、その掃除は、頭が味わった事の無い感覚に襲われる事は間違い無い。
まともに掃除を体験した事がある人にだけ分かる感覚だ。
「私は殺人を許せないのではなく、その行為をする人を理解出来ないと理解しているから、理解せずに社会的抹殺つまり、殺人罪に落としこもうとするのです。」
「いきなり、どのような事をお話しするのでしょうか? こんとん様。」
「いえ、独り言です。それより、今の話理解出来ましたか? イザベル。」
「大方は。ただ、感覚的には理解しかねてございます。」
「もし、そうなのだとすれば、私が犯罪者的なのか、それともあなたが犯罪者的なのか。そのどちらかですね? イザベル?」
「何をおっしゃられるのでしょう? そして、何をおっしゃられたいのでしょうか?」
「その、あなたが犯人だと、言っているのです。イザベル。それは分かりますよね?」
「((私|わたくし))がでございますか? それは誠に((遺憾|いかん))なのでございますが・・・・?」
「それです。その感覚がもっとも理解出来ない。自分では処理出来ない掃除・・・つまり、殺人ですが、その掃除を押し付けられてなお、その余裕を持っていられる。それが絶対に理解出来ないのです。」
「私が理解されない人間だとおっしゃられたいのですか?・・・・そんな。」
「もし、犯人でないという事だったら、ごめんなさい・・・・。でも・・・・。」
「いえいえ、私が悪かったのです。あなた様のおっしゃられます”正論”に対しては私は反論する余地を持っていませんでしたのに、無理に反論して・・・・・。申し訳ございません。」
え、とこんとんの思考が止まる。
「私、生きて参りましたが、こんとん様ほど御((聡明|そうめい))なお方はお会いした事はございませんでした。私、その、目を疑ってしまいました。私、会見を述べさせていただきますと、私の完敗でございます。」
えーと、とこんとんが脳をフル回転させる。つまり、これは自分が犯人だと言っているのではないだろうか?
しかし、口外にだ。
負けた。
こちらには証拠はゼロ、勘と確信つまり、気持ちだけしか無いのだ。
この時点では、完全に負け。
((畳|たた))み掛けてどうにかなると思った私が愚かだったのだ。とこんとんは自戒する。
「すみません。現時点では何でもないのです。」
半分涙目になりながらもこんとんは((憤|いきどお))りを((鎮|しず))める。
「そうでございましたか。」
二人きりになった電車の中での事だった。
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