縁殺神と不幸少年 |
縁殺神と不幸少年
さぁさぁと雨が降り注ぐ。さわやかなようでさわやかじゃない気温の中、朽ちた社の中から美しいため息の音が漏れ出る。
「……この我も、もうすぐで心霊共の仲間入りか」
そう呟いたため息の主は穴の開いた屋根から天を見上げる。
「まったく。人というのは泡のように生まれて泡のように消えるのぅ」
とはいっても、そう作ったのは創造神なのだがとぼやいて口を閉じる。
「…………」
耳を澄ませると、あちこちから木が軋む音がする。無論外の木々のものではない。この社の柱が悲鳴を上げているのだ。おそらくもって明後日、いや、何とか3日はいけるだろうか? と希望的観測をするが、意味はない。
(今の季節柄、強い風が吹きやすい。明日辺りに来そうな予感がする)
彼女の予感は当たる。なにせそういった類の存在だからだ。
「縁殺神として崇められた我が世界との縁を切られるとはなぁ。何とも洒落た皮肉よな」
そう。彼女はかつて社の周辺に存在した暗殺集団に崇められていた女神だ。しかし、その暗殺集団はもういない。
時代の流れについて行けず、国の人間や同業者にそのほとんどを闇へと還され、何とか生き残った者も寿命によって同胞の元へ旅立っていった。
(神として生を受け、早200年。短い生であったなぁ……)
せめて300年ぐらいは生きていたかったが、とは呟いたもののそんなに長生きできないと生まれた時から何となく感じていた。
何せ暗殺集団という誰かに延々利用されるか、全てを裏で操るかの2択しか選べないような人間たちに作られた神だ。正直、200年生きられただけでも十二分に奇跡と言えるだろう。何と思っていたところに雨音が一際強く打ちつけられた。
「ひっ!」
思わず身を屈める。社は雨音と呼応するように悲鳴を上げたが、壊れることはなかった。ゆっくりと強張った体を緩め、安堵のため息を吐く。
「お、驚かせよってからに………」
だが、一度生まれた恐怖は拭い去れない。彼女は膝を強く抱えて目を強く閉じる。
(心霊になるとは、どんな感じなのだろうか……)
人は神が生んだものだが、神も人から生み出されたものだ。人よりもはるかに長く生き、その姿も自在に変えたり、一定に保つことも出来る。しかし、それは数多の人々から信仰されている神々に限った話だ。人から崇められぬ神は神でなくなり、心霊へと堕ちる。人から生まれた心霊は意思を持っていることが多いが神の心霊はそうではない。人であれば肉体があるが神に肉体はない、要は“素”がない。故に消えるときは全て消える。心も、意思も。
「恐怖というのは、想像していたよりも締め付けてくるな……」
まるで体をぬめ付いた布で縛られるような感覚。何をやっても拭い切れない不浄。彼女にはそう感じれた。
「はぁ……」
いっそのこと、自ら命は断てないだろうか? と本気で悩んでいる彼女の耳に雨音や木々の音とは違うものが紛れ込んできた。
(…………人の声?)
耳を澄ませて聞いてみると、どうやら多数の人間が何かを探しているようだった。
「探せ! まだそう遠くへは行かれていないはずだ!」
「何としてもお戻りいただくのだ! でなければ人類に未来はないと思え!」
「コウニジンさま〜! いずこですか〜!」
(なんじゃあ?)
変だ、と彼女は感じた。敬語を使っているくせにその声色に敬いの色があまり感じられない。そこに感じられるのは欲望の色。
(あ〜、阿呆が金儲けで始めた宗教集団か)
であればそれも納得できる。そして彼女は推測を続ける。
(宗主はさっき“探せ!”と怒鳴っていた男じゃろう。で、探しているのはおそらく宗教で崇められている生き神か何かじゃな)
神は基本的に自分が崇められている場所しか移動できない。つまり、逃げ出すことが出来ないのだ。キリスト教で例えるならば、どこにあろうが教会であれば行くことができるが、その周辺へ行くことは出来ないのだ。まぁ、例外はあるがそれは別の話。
(つまり、逃げ出すことが出来たということは神ではない)
ただ、それが完全に彼女と無関係かというとそれは違う。
「あやつら、こっちに来るだろうなぁ……」
誰かを探している人間がこんな古びた社を見たらどう考えるか? 確実に“この中に逃げ込んだかも?”と考えるのが自明の理だ。そして、中に入ってそれを探そうとする。だが、ここはいつ崩れるかもわからないオンボロ社だ。大人数が入って探せばどうなるか、なんて誰でも想像できる。
「……耐えられると良いのぅ」
今日が命日か、彼女は盛大にため息を吐いて覚悟を決める。
「どうせいつとも知れぬ命。今日果てたところで大して変わらんか」
そう呟いた時、落雷と共に社の扉が開いた。稲光に映された影を見た時、彼女は死を覚悟したのだが光が消えた時に見えた姿を見て唖然とした。
(こ、子供?)
扉を開いたのは5,6歳程度の男の子だったのだ。
「……………」
男の子は何もせずこちらを見ているのだが、それが奇妙だった。
(…………もしや?)
とりあえず立ち上がり、左に移動してみると男の子の首も同じ方向に動き、反対側に移動すればそれを追うように動く。
(こやつ)
確信を得た彼女は男の子に近づいて声をかけた。
「お主、我が見えておるな?」
その質問に子供は頷く。
(そういう事か……)
どうやら“コウニジンさま”とやらはこの男の子の事のようだ。
(この坊主、本来見えぬものが見えるようじゃの)
極稀に本来であれば見えないものが見える人間がいる。それを人は“霊感”などと呼ぶがこれは違う。この男の子が持っているのは“理を見る眼”だ。
(本来であれば聖人やら偉人になれるものなんじゃが……)
どうやら、この男の子は運がないらしい。となれば……
「はぁ、我の最後の一仕事というやつか」
「……?」
首をかしげている男の子を無視して集中する。自身の神の力を使うために。
「坊主、今からお主の悪縁を切ってやる。後は好きに生きよ。なに、お主の目があれば大概の事は出来る」
それだけ告げ、彼女は意識のスイッチを押した。
「神力、縁殺しっ!」
その言葉と共に世界は灰と黒の世界へと変わる。縁殺神として崇められた彼女の力、それは読んで字の如く縁を殺す力だ。縁を切る力とは違い、縁そのものを殺すため、その縁が蘇ることはない。
彼女はその力を使って少年の“悪縁”を殺そうとしたのだが、そこには想像を超える光景が広がっていた。
「な、なんっ!?」
思わず絶句した。なにせ少年の悪縁は大樹と見間違うばかりに太く、そして体を飲み込んでしまうほど数多く繋がっていたのだ。
(こ、これは、こんなものが、生きていられるのか!?)
200年存在していた彼女でも見た事がなかった。人間の悪縁なぞ太くてもせいぜい家の梁程度のものだし、繋がっているものも多くて4本ぐらいだ。
(……やれるのか?)
だが、彼女が臆したのは悪縁に対してではない。殺しきれるかどうかだけだった。
(いや、どうせ消える命、全て使ってくれよう!)
その手に光の刀を生み出し、彼女は握りしめる。
「はぁああああああああああああああああ!」
そして、咆哮と共に悪縁へと切りかかった。
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はいどうもおはこんばんにちわ。作者の風猫です。
ふとしたときに思いついたアイディアを小説にしてみたのですがいかがでしたでしょうか?
まぁ、合間合間やら息抜きで書いていきますのでかなりの鈍足更新になるでしょうがちまちまやっていこうと思います。
何卒、宜しくお願い致します。
では、また次回。
何かありましたらコメントを頂ければ嬉しいです。
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とある女神さまと一人の少年のお話 なんとなく思い浮かんだアイデアを書いてみた小説です。 合間を縫って書いていきますので鈍足更新ですが読んでいただければ幸いです。 |
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