【MH擬人化】恋人は森丘の火竜 中編【レウライ】
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※注意(必ずお読みください)

 

 

・モンハンの擬人化二次創作

 

・独自の設定あり

 

・文章力皆無(重要)

 

・ライゼクス右固定(重要)

 

・陰湿な暴力あり

 

・腐向け(重要)

 

・あとは、何でもありな方向け。

 

 

かなり私の趣味が全開なため、以上の表現が苦手な方は

 

このままブラウザバックすることを強くお勧めいたします。

 

 

大丈夫な方のみ、次のページへとお進みください。

 

 

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森丘での温かな日々

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、ゼクス。美味いか?」

 

「…………」

 

「ははは、良い感じにがっついてるな。

 

その様子だと、食欲の方はあまり問題なさそうだな。」

 

「…………」

 

 

………………本当に、一体何なんだ?

赤色の髪の青年が差し出してきた肉を頬張りながら、もう何度目か分からない程脳内再生してきた疑問の言葉を、俺は口の中で再び繰り返す。

 

 

「おかわりもすぐに用意するからな。好きなだけ食うといい。あと、今日はホロロさんから貰った木の実もあるんだが、良かったらどうだ?こっちもすごく美味いぞ。

 

そういえば、今度レギが熱帯イチゴを持ってきてくれるんだと。ああ、熱帯イチゴというのはな、砂漠の方で採れる食用の実のことで…」

 

 

火竜の巣に連れてこられてから早一週間、俺は、拍子抜けしてしまうほどに献身的な介抱と世話を、この住処の主から受けていた。

 

 

今まで青電主から受けてきた俺の傷に薬草を塗りたくって包帯を巻いたり、体内の火を使って温めた水で、すっかり汚れきった身体を綺麗にしたり、

 

身体の動かせない俺の分の食糧をたくさん用意してきたり、俺が見たことないような美味しそうなものを差し出してきたりと、

 

 

赤い髪の青年は、敵対種族であるはずの俺に実に様々な施しを与えてきた。

 

 

だからこそ、理解が出来なかった、

 

 

こいつが優しく接してくる理由も、俺の前で浮かべてくる笑顔の意味も。

 

 

 

……電竜は、凶暴で残忍な性格の者が大半を占め、周囲の他のモンスター達から非常に嫌悪されやすい種族だ。

 

 

俺だってその一員である以上例外ではなく、酷く冷遇され、虐げられながら、どうにか生きていた。

 

当然、『優しさ』や『好意』などとも全くと言っていいぐらい縁なんてない。

 

 

そんな冷酷な世界で生きてきた俺は、それ故に、突然与えられた『温かさ』に順応することができず、ただただ困惑していた。

 

 

「…………もういい。食いたくない」

 

「分かった。あとは、他に何かしてほしいこととかは無いか?」

 

 

そのせいもあってか食欲が沸かなかった俺の、3分の1ほど残して突き返した肉塊を

 

火竜はやんわりと受け取りつつ、柔和な態度で俺の望みを訊ねてくる。

 

 

しかし、俺を『恋人にしたい』などと宣っているこの青年は、どうも俺と一緒にいることに並々ならぬ多幸感を覚えているらしく、

 

そのためか、何も頼んでいなくとも俺の世話を焼きたがっていたりするため、うっとおしいことこの上なかった。

 

 

だから俺は、左手に小さな肉塊を抱える赤髪にこう吐き捨てる。

 

 

「……俺は寝る。絶対起こすなよ」

 

「…そうか」

 

火竜は少々寂しげな声を発しつつ、空いていた右手でそっと俺の身体に布団を掛け、

 

 

「おやすみ、ゼクス。」

 

俺の頭をそっと優しく撫でると、すぐにベッドから離れていった。

 

 

 

 

…………………………ホント、訳分かんねえ。

 

火竜の男が電竜の男である俺に好意を持つなんて、思考回路がどうかしているとしか思えない。

 

 

だって、おかしいだろ?電竜は本来火竜の敵なんだぞ?

恋するにしたって普通は同種の女に見惚れるもんだろうが。

 

 

なのにあいつは、真面目なツラして俺のことを『好き』とか言ってくるし、

 

俺のためだと思うことは何でもやろうとするし、当然のように優しくしてくるし……

 

 

全っ然訳分かんねえよ……、一体何考えてんだよ、あいつ………

 

 

……………とにかくもう寝よう。これ以上考えるのも億劫だし、今はとっとと休んでしまいたい。

 

 

 

すっかりぐちゃぐちゃになってしまった思考から逃れるように、俺は両眼を瞑り、

 

瞼の裏には何も映さず、何も見ようとはせず、ただただ眠りに身を委ねていく。

 

 

布団の恩恵もあってか、身体全体を包み込む温かさが自然と俺の中へ溶け込み、

 

それとともに外界への認識の消えつつあった俺の意識は、そのまま徐々に夢の世界へと誘われていった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっ、ぐうぅ…っ!」

 

「ゼクスぅ?今まで一体どこへ逃げていたのかなぁ?」

 

 

…っ!な…、んだこれ…?痛いし…、くる、しい…?

「ちゃんと分かってんのか、お前が俺の玩具だってこと?」

 

 

青白い光を纏った姿に、嘲笑的な、この声……、目の、前にいる、のって…、まさか……!

「あ、が…っ!」

 

 

痛いっ!いたい…っ!なんで…、なんで、こいつがここに……?

「持ち主の元から勝手に離れるなんて、

 

いい度胸してるようなぁ。ああっ!?」

 

「うっ…!くっ…!」

 

「てめえは大人しく俺に苦しそうな顔見せ続けときゃあいいんだよっ!」

 

「ごふっ、ぁがあああああああああああああああああっ!!!!」

 

 

やめ、てくれ…、許、してくれ…!たのむ…!

痛…、い、いたい…!く、るし、い…!こ、んなの、いやだ…っ!

こ、わい…、だれか、たすけ……っ!

「……ス!…クスっ!」

 

 

 

 

 

 

 

「ゼクス、しっかりしろ!ゼクスっ!!」

 

「はっ!?」

 

 

誰かの切羽詰まったような声で、俺は飛び起きた。

 

 

「……ぁ?」

 

落ち着いて周囲を見回してみれば、俺の最も会いたくなかった青白い光を持つ冷酷な男の姿は既に無く、

 

 

「…大丈夫か、ゼクス?なんだか、ものすごくうなされていたように見えるが」

 

その代わりに、晴れた空のように蒼い眼をした赤毛の青年が、心配そうに顔を曇らせながらこちらを見ている姿が在った。

 

 

……そうだ。奴はもう俺の近くにはいないんだったな。

 

 

本来であれば、悪夢から逃れられたことを安堵する方が自然であるこの状況。

 

だが、そう思うには夢の内容はあまりにも生々しく、過酷なものだった。

 

 

「…っはぁ、はぁっ、は、はっ、ああ…、はぁっ、う、は…、く、うう…っ、はぁ、はぁ…っ!」

 

「ゼクス、どうした?苦しいのかっ!?」

 

「い…、やだ…、はぁ…、はっ、いや、だ……っ、は、あうう、ああ…っ!!」

 

 

怖い。

 

息が苦しい。

 

 

もう随分と離れた場所にいるはず、だから、もう俺に近づいてくることは無いと、そう思っていたはずなのに、

 

夢の中のあまりに生々しすぎた地獄は、どう足掻いても俺の脳裏から消えてくれない。

 

 

やはり、俺はあの男から逃れることはできないのか…?

そんな途轍もない恐怖が頭の中でじわじわと広がっていき、

 

それと同時に俺の発する吐息はどんどん荒いものになり、悲鳴は意味も為さずただただ掠れていく。

 

 

半年という長い時間の暴力によって刻みつけられた、永遠に続くかと思う程に耐え難い息苦しさの中で、

 

 

不意に、温度を持つ何かが、怯えている俺の身体に触れてきた。

 

 

 

「……ぅあ?」

 

 

紅い両眼に映るは、震える体躯をぎゅっと抱きしめると共に、俺の頭を優しく撫で始める火竜の姿。

 

そして、未だ恐怖から抜けきれない俺に届いたのは、太陽の下で干した布団のように柔らかでとても温かな音吐。

 

 

「……余程怖い夢を見てしまったんだな。可哀想に」

 

「……うぅ…?」

 

 

不思議なことに、こいつに撫でられるたびに、少しずつではあるが呼吸が楽になっていく。

 

頭の中を覆いつくしていた恐怖も、懐抱された瞬間からしゅーっと急速に消えつつあった。

 

 

こいつ、一体何を…?

当時の自分にとっては不可解だったその現象に、俺は思わず目を丸くしたが、

 

赤い髪の青年はそんなこともお構いなしに、俺の頭を撫で続ける。

 

 

やはり当然のように柔和な笑みを浮かべていた目の前のそいつは、

 

独り言のように小さな、しかしまだ少しだけ息が苦しかった俺にもはっきりと分かるように、さらりとこんな言葉を吐いてきた。

 

 

「こうなったら、仕方がないな…。今日は一緒に寝てやるか。」

 

「……え?」

 

「やはり、お前のことは、独りにしておけないからな」

 

「は、ちょっ…、待…っ!?」

 

 

俺が制止するよりも先にベッドに上がり込んだ赤毛の青年は、一切の遠慮も躊躇も無く俺の隣に寝転がりだした。

 

 

…くそっ!ふざけんなよ、このクソ火竜!まだ15とはいえ、俺だってガキじゃねえんだ!

少しばかりトラウマになるような夢を見たくらいで、眠れなくなるわけねえっつーの!!

誰かと一緒にいることを依然として煩わしく思っていた俺は、ここから蹴落としてでもこの火竜を自分から突き放そうとする。

 

 

しかし、先手を打たれるかの如く、こいつの両腕に再び抱きこまれたことで、

 

俺は逃げるチャンスと追い出すチャンスを一気に失ってしまった。

 

 

……にも拘らず、さほど危機感を感じなかったのは、そのがっしりとした体躯と頭上で動かされる手の温度が余りにも心地好かったからだろうか。

 

 

「大丈夫…、大丈夫だからな……」

 

「……。」

 

 

『俺に甘えたっていい』と言わんばかりに発せられた、包容力のある穏やかな低い声と柔らかな手つきは、

 

すっかり震えあがっていた俺の心から、少しずつ恐怖を取り除いていく。

 

 

そうされていくうちに徐々に安息を覚えていき、再び眠りの世界へと誘われようとしていた俺の身体。

 

 

こいつが与えてくる『温かさ』は、相変わらず俺の思考を?き乱してくる。

 

だが、同時に何故かこの場から離れたくないとも思ってしまっていた。

 

 

…なんつーか、すっげえ気持ち良いよな……

 

 

毛布のような柔らかさに太陽のような温かさ、それからそよ風のような優しさ。

 

そんな、余りにも心地の良すぎるモノ達に包まれていた俺は、瞼の重みに従うように目を瞑った後、

 

 

その意識は穏やかな眠りへと、急速に落ちていった…

 

 

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火竜の巣に連れてこられてから10日が経つ頃には、俺の両脚と翼も少しはまともに動き出すようになってきた。

 

 

「……。」

 

 

火竜の恋人になることをどうにか回避したかった俺は、ぱたぱたと翼を動かす練習をし始め、同時に少しずつ自分の力で歩き出そうとしていた。

 

 

まだ足元は覚束ないし、背中の両翼も空を飛べるほど強くは羽ばたけないが、

 

それでも徐々に回復していることは感じており、このまま行けば此処から逃げ出すことも夢ではなくなるだろう。

 

 

「お、ちゃんと自分で動く練習もしているんだな。えらいえらい。」

 

 

こちらの様子を眺めながら、感心の微笑みを浮かべるこの巣の主は、

 

どうやら俺が逃げ出すことなどこれっぽっちも考えていないらしい。随分とお気楽なもんだ。

 

 

「……ほんと、早く歩いたり、飛べたりできるようになればいいな。

 

そうしたら、お前と一緒に外を出歩くことが出来るし、俺が見せたいものもいっぱい見せてやることが出来るもんな」

 

「……」

 

 

……こいつ、俺が本気で恋人になるとでも思ってんのか?だとしたら、本当に救いようがねえほどの馬鹿だな。

 

 

怪我が完治してしまったら、てめえなんざ用済みなんだよ。

 

本当のことを言わねえのは、それまでこいつの好意を存分に利用させてもらうためだ。

 

電竜が、敵対種族を騙すなんて当然のことだろ?

そんな風に思っているにも拘らず、俺の心の中は何故かものすごくざわついていた。

 

 

……ああ、まただ。この温かさは、いつも俺の思考を?き乱す。

 

火竜が優しい言葉を掛けてくるたびに、そっと触れてくるたびに、必ずと言っていい程俺はおかしくなってしまう。

 

 

電竜にとって火竜は敵なのに、火竜のことなんて何一つ信用していないはずなのに、

 

そういう風に自分に何度も言い聞かせているはずなのに…

 

 

「……わっ!」

 

「ゼクスっ!」

 

 

突如、身体全体がぐらりと揺れたかと思うと、次の瞬間には、澄んだ蒼い眼と精悍な顔が自らの両眼に映し出された。

 

 

「……はぁ、良かった。大丈夫か?」

 

倒れかけていた俺を受け止めて安堵の笑みを浮かべる火竜。

 

それを見た俺の心臓は、

 

 

―――――――トクン。

 

 

そういう意図もしていないはずなのに、再び無様に高鳴ってしまう。

 

 

……っ!だからなんで、こんな奴相手に…!火竜の男と…、他人となんて…、俺は、絶対……っ!

「…触んなっ」

 

 

―――ドンッ

 

 

「わっ」

 

両手で押し出された赤毛の青年は、その勢いのまま派手に尻餅をついてしまった。

 

 

痛みに悶える火竜を冷ややかな目で一瞥した後、

 

俺は相変わらず覚束ない足取りでベッドへと戻ると、そのまま布団へと潜り込んだ。

 

 

ふん、いい気味だ。お前が俺をおかしくするから、恋人にしたいだのほざくから、こういう目に遭うんだよ。

 

 

……けど、こんなことしたからには、流石にあいつも頭に血が上ってるんじゃないだろうか。

 

だとしたら、好意を注ぐ対象ではなくなった俺はきっと殺されてしまうのかもしれない。

 

 

そう考えて初めて、ようやく己の失態を責めたが、今更そんなことをしたってもう遅い。

 

 

だが、火竜の返してきた行為は、俺が全く予想だにしていなかったものだった。

 

 

「……ははっ」

 

信じられないことに、俺に突き飛ばされたそいつは、とても柔らかな手つきで俺の背中を撫で始めていた。

 

 

「……………え?」

 

気になって恐る恐る布団から頭を出してみれば、先程と全く変わらない、柔和に綻ばせた端正な顔が目に映る。

 

 

「良かった。その分だと、元気はあるようだな」

 

 

……いやいやいや。相変わらず何を言ってんだ、こいつは?

電竜に攻撃されたっていうのに、なんでそんなヘラヘラしてられるんだよ…?

しかし、俺の向ける怪訝な目をさほど気にしていないらしい赤毛の青年は、

 

今度は露になった俺の頭に優しく手を触れていて、こいつの持つその温かさが、俺の中の警戒心をまた少しずつ削いでいく。

 

 

ホント、意味分かんねえ……。

 

なんでだよ……?なんで…、どうして、こんな……、

 

 

なんで……、火竜が、敵対種族である俺に、そんな風に優しくしてくるんだよ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

火竜の巣に連れてこられてから、20日が経った頃、

 

此処の主の施してきた治療と俺自身が毎日練習をしてきた甲斐もあって、

 

とうとう両翼と両脚をまともに動かすことが出来るようになった。

 

 

「これで…、これで、ようやく……」

 

ようやくあの変な火竜とも、おさらばできるし、自由を掴むことだってできる、そう思うと心が躍り出す。

 

おまけに、現在この巣にあいつはいない。あの赤毛の青年は肉を獲りに行っている最中だ。

 

 

逃げ出すなら、今がチャンス。

 

 

それが解っていたからこそ俺は、長い髪をポニーテールに纏めてからすぐに、すっかり元通りになった両翼を羽ばたかせ始める。

 

元気を取り戻した飛行能力の基が望み通りに激しく動いてくれていることを確認した俺は、

 

いよいよ最高潮まで達しようとしていたテンションに沿うように助走を始め、そのまま天井に空いた穴目掛けて飛び上がろうとして、

 

 

「お、ゼクス。とうとう動けるようになったのか!」

 

 

直後に全身を地面に激突させてしまった。

 

うう…、くっそいてえ……

 

 

「だ、大丈夫か…?」

 

帰宅直後の火竜がやはり心配そうにこちらに駆け寄ってくる。

 

 

はぁ…、なんでこうタイミング悪く帰ってきちまうんだよ……。

 

 

幸い、大きなケガはしていないが、恋心を寄せられていることと

 

一度青電主を一撃で墜落させていることを考えると、こいつの目の前で逃げるのははっきり言ってかなり無謀だろう。

 

 

「別に…、大したことはねえ…」

 

「そ、そうか…。なら、良かった…」

 

 

どうにか起き上がって、服についた汚れをはたくと、俺はまたいつものようにベッドに戻ろうとするが…

 

 

「…なあ、ゼクス」

 

「……なんだよ?」

 

 

赤髪の青年は突然呼び止めたかと思うと、次の瞬間には俺の右手を左手で掴みながら、こんなことを言い出してくる。

 

 

「せっかくだから…、外、一緒に行ってみないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

余りにも必死な、もといしつこい誘いにあえなく根負けしてしまった俺は、

 

久方ぶりの外界を、こいつの手に引かれるままに回っていくことになった。

 

 

無論、最初はあまり気が乗らなかったのだが、紅い色をした二つの瞳が、

 

『あるモノ』を映し出した瞬間に、ついさっきまで抱いていた感情は徐々に別のものへと変化していく。

 

 

「……すげえ」

 

 

眼下に広がっているのは、東側を浅い緑に覆われた丘陵と

 

高く聳え立つ岩でできた火竜の巣を境に西側に分布している、数多の木々の群集。

 

 

沼地ではまず見られなかった鮮明な色に、地上を包み込む広大な濃い緑と薄緑のコントラスト。

 

そんな光景を前にして俺は、驚きのあまり思わず感嘆の声を漏らしてしまっていた。

 

 

頭上に広がる蒼く澄んだ大空とその中に浮かぶ眩い光に見守られている未知の世界は、

 

どうやら未だくすみが残っていた俺の心に、ずっと忘れていた小さな輝きを少しずつ落とし込んでくれているらしい。

 

 

「どうだ、すごいだろう?実はここ、ほとんど全部が俺の縄張りなんだ」

 

「え、マジで……?」

 

「ああ」

 

 

あっけらかんと言ってのける火竜に、俺は唖然としてしまう。

 

 

こんな広大な土地全てを自分のものにしてしまうとか……。

 

もしかするとこいつは、俺が思っているよりも相当強い火竜であるのかもしれない。

 

だとしたら、此処から逃げ出したい俺にとっては恐ろしいことこの上ないんだが……

 

 

「せっかくだから下にも降りてみようか。そこにも、お前に見せたいものがたくさんあるんだ。」

 

 

 

 

 

火竜と共に地上に降りた俺は、森丘の色々な場所に連れ回された。

 

 

背丈が極めて低い草に覆われた丘では、雄大な景色を見て再び感銘を覚えたり、

 

蒼く澄んだ大空に浮かぶ陽の光を、全身に受けてみて、

 

ずっと感じた事の無かった温かさが俺の心を、身体を包み込んでいくような感覚に、思わずおぼれそうになったり、

 

 

そんな俺の様子を見ていた火竜の綻んだ顔に気づいて、途端に恥ずかしさが込み上げてきたり、

 

自分の感情を隠すように赤毛の青年目掛けて思い切り放電してしまったり、

 

それをいとも容易く避けてしまったそいつの驚いたような顔を見て、悔しさのあまりむっと頬を膨らませてしまったりもしながらも、

 

手を引かれるままに俺は、また別の場所へと誘われていく。

 

 

次に連れてこられた森の中では、『秘密の場所』を(頼んでもいないのに)教えられたり、

 

鳥のさえずりに耳を澄ましてみたり、そよ風に乗って微かに香る緑に心地良さを感じたり、

 

近くを飛んでいた大電光虫の放つ淡い光を眼で追いかけてみたりしながら歩いていると、やがて小さな沢のある狭い場所へと辿り着いた。

 

 

木漏れ日に照らされてキラキラしている水がまるで宝石のようだと思えるほどに綺麗な空間で、

 

そこにある水辺で泳いでいた普通よりも大きなサシミウオに、ふと興味を惹かれた俺は冷たいものの中に両手を突っ込んでみたり、

 

 

数十回の失敗の末にようやくそれを捕まえられた時は、素直に嬉しかったり、

 

ただ、こちらの奮闘をじっと眺めていた火竜からの拍手が聞こえてきた時は、再び現れた羞恥心に従うようにそっぽを向いていたり…、

 

 

………なんつーか、俺…、思いの外すっげえ楽しんでしまっているような……

 

 

 

 

 

 

 

「ゼクスさん、ゼクスさん♪ボクとも一緒に遊んでくださいニャ!」

 

「はぁ、お前もかよ…。ったく、しょうがねえな」

 

 

煌めき続けていた水場からさらに奥の方へ進むと、今度はアイルーもしくはメラルーと呼ばれる獣人族達の住処に行き着いた。

 

 

主たるアイルー達の背丈が低いが故に、俺からすればやや狭小ではあったりするこの巣に、

 

前触れもなくやってきた見知らぬ黒い髪の電竜に対し、彼らも最初は警戒心を露にしていたのだが、

 

 

火竜が俺のことを『別に悪い奴じゃない。こいつは俺の恋人候補だ』と真顔であっさりと言ってのけたり、

 

トロサシミウオと呼ばれる大きな魚をすんなり差し出してみたら(俺は基本的にあんまり魚は食わない)、

 

意外なほど簡単にこちらに好意を向けるようになった。それでいいのかよ……。

 

 

あるメラルー曰く『レウスさんがそう言うなら大丈夫ニャ!』とのことらしい。

 

まあ、俺自身もこんな小さな奴らに手を出す気はさらさらないのだが……

 

 

そういう訳で、一気に懐かれるようになってしまった俺は、気がつけばこの巣にいる柔らかいもふもふ全員に自分の周りを囲まれていた。

 

 

「ぼ、僕に一緒に遊びたいニャ!」

 

「ゼクスしゃん!このドングリ、良かったら一緒に食べましょうニャ♪」

 

「すっごく綺麗な翼ニャ。もっと近くで見てみたいニャ〜♪」

 

「こらこら、そんな一斉に言われたらゼクスだって困ってしまうだろう?」

 

「ご、ごめんなさいニャ!じゃ、じゃあ、順番に、順番に行くニャ!」

 

 

「……」

 

 

…………なんでなんだ?

この地の主である火竜といい、住民である獣人族達といい、

 

危険な種である俺のことを、なんでこんな簡単に、素直に信じることが出来るんだよ…?

 

そんな疑念を持つと同時に俺の心臓は、再びざわざわと騒ぎ始める。

 

こいつらから与えられた温かさと、それを拒否したい俺の気持ちが頭の中で激しくせめぎ合っている。

 

 

すぐにでもこの温かさを受け入れることが出来れば、毛布のような柔らかい心地良さが一気に俺の全身を包んでくれるのだろう。

 

そして、それはきっと俺にとっても幸せなことでもあるのだと思う。

 

 

だが、もしそれを受け入れてしまえば、俺は…………、

 

 

 

「……ニャ?ゼクスさん、どうしたニャ?」

 

「なんだか元気がないニャー。何か悲しいことでもあったのかニャ?」

 

「…………」

 

 

…………やっぱり俺は、この優しさに溺れるべきじゃない。

 

そんな思考で頭がいっぱいになってしまった俺が最善策として選んだ答え。それは、

 

 

「……っ!」

 

「ゼクスっ!?」

 

「「「ンニャッ!?」」」

 

 

温かみの存在するこの場所から、優しく接してくる火竜や獣人族達から、なるべく離れた所まで早急に逃亡してしまうことだった…。

 

 

 

 

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青き雷の逆襲

 

 

 

 

 

 

電竜に愛情というものは一切存在しない。

 

 

殆どの電竜の子供がこの世に生を受けてから、最初に身をもって知ることが、そんな残酷な事実だ。

 

 

生まれてまもなく親に置き去りにされた電竜は幼い時から、

 

襲い来る敵から自分の力だけで自分の身を守らなければならないし、

 

食糧だって自らの手で狩れなきゃ、到底生きていけない。

 

 

そうして孤独なまま成長していった電竜の子は、

 

非常に残忍で凶暴な性格を形成し、他者のことなどもはや餌同然にしか思わなくなる。

 

 

少し成長してから『ゼクス』と名乗るようになった俺も、

 

他の奴のことは一切信用せず、たった独りで生き抜いていくことを何よりも望んでいた、

 

 

心の底からそう思っていた、はずなのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ」

 

アイルー達の巣から無我夢中で逃げてきた俺は、

 

眼下に広がる丘陵と森を眺めながら、すっかり暗くなった空を悠々と飛行していた。

 

 

途中まで必死に走っていたせいで両脚に痛みを感じるが、

 

自分を追いかけてきた火竜やアイルー達はどうにか巻くことが出来たし、

 

あとは、森丘ではない『何処か』へ向かって飛んでいけばいいだけだ。

 

 

「…ハッ、ざまあみろってんだ」

 

あの間の抜けた火竜のことを想像しながら、一人でほくそ笑む蛍光色の電竜。

 

 

こんな時、本来なら、清々しい気分にどっぷり浸かっているべきなのだろう。

 

あるいは、新天地への希望に胸をときめかせながら、瞬く星々を見渡しても良かったかもしれない。

 

 

だけど、曇り切っていた俺の心は、火竜から離れた後もなお、全然晴れてはくれなかった。

 

 

「……っ、なんで、」

 

それどころか、奴との距離が遠くなるにしたがって、『ズキン』とした胸の痛みがどんどん強くなってきているような気がする。

 

 

それは、まるで心臓にぽっかりと穴が開いたみたいな……

 

 

…ああもうっ!せっかく、あいつから逃げることが出来たって言うのに、

 

なんで、こんな沈んだ気分にならなきゃいけねえんだよっ!!

これから、青電主もあの火竜もいない新天地に行くんだ。こんな所で落ち込んでなんかいられるかってんだ!

そう思い、頭をぶんぶんと横に振り、顔を両手でパンっと叩いて気分を切り替えると、

 

未だ知らない土地に向かうために、自分の両翼を素早く羽ばたかせようとして、

 

 

 

 

「……見ーつけた♪」

 

その瞬間に、背筋が凍りつく感覚が俺を襲った。

 

 

「……っ!」

 

二度と聞きたくはなかった恐ろしく愉しそうな声音。決して思い出したくはなかった残酷な狂喜の言葉。

 

 

まさか…、そんな訳……

 

 

自分のすぐ近くにいるであろう恐ろしいモノを、それでもどうにか否定したくて、

 

それを発した主に、祈るように恐る恐る両眼を向けてみれば、

 

 

「……よお、ゼクス。会いたかったぜ」

 

 

この世で最も会いたくなかった青白い光を纏う電竜が、

 

怒りに満ちた鋭い黄色の眼光を、真上から俺の方へと集中的に突き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……っ、ハァ、ハァ…ッ!」

 

 

なんで…、どうして…っ!

後ろから追いかけてきている青電主の放つ雷球をギリギリの所でかわし続けながら、

 

一気に狼狽しきった思考状態のまま、俺は夜空の中を全速力で逃げ惑っていた。

 

 

なんで、こんなとこまで…?流石に此処までは来ないだろうと、そう思っていたのに……!

だが、その考えが根拠のない希望的観測であったこともそれなりに理解はしていた。

 

 

散々俺を玩具扱いし、逃亡を阻止し続けたあの男が、

 

少し見失ったくらいで諦める程生易しい奴ではないことを、俺自身誰よりもよく知っていたはずだ。

 

 

だというのに俺は、まるで忌まわしい記憶を取り除いたかのように、そのことをすっかり忘れ、そして安心しきっていた。

 

 

……くそっ!こんなことなら、あいつらの所から飛び出してくるんじゃなかった。

 

 

今となっては不毛な考えしか浮かばない後悔に歯噛みしている間に、

 

最悪の未来を示す凶悪な眩い光は、どんどん距離を詰めてきている。

 

 

とにかく、逃げ延びないと。

 

 

そんな思いで頭がいっぱいだった俺は、

 

ともすれば千切れてしまいそうなぐらいに両翼を限界まで激しくバタつかせた。

 

 

もう二度と暴力に支配されたくない。青電主も火竜もいない新天地で自由に生きていきたい。

 

 

しかし、そんな切なる願いは、無慈悲にも粉々に砕かれてしまうことになる。

 

 

「が、あっ……!」

 

 

頭部に突如襲い掛かった衝撃。それとともにぐらりと揺れる視界。

 

翼の動きを止めた体躯が急速に落下し始め、真上で歪んだ笑みを浮かべる青電主を両眼に映し出したその瞬間に、

 

 

俺の自由は終わってしまったのだと、否応なしに思い知らされることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…が、ああっ!」

 

「はぁ…。またお前に会えて嬉しいぜ、ゼクス♪

 

…で、お前。俺から離れてた間、一体何してたワケ?」

 

「…、あ、ぐっ…!」

 

 

地上に墜落し、直後に青電主に捕えられてしまった俺は、

 

再び全身に刻みつけられることになった暴力に対し、ただただ苦悶の声を発し続けているしかなかった。

 

 

「なんなんだよ、これ…?俺が汚した髪も身体も服も全部丸ごと綺麗になって、

 

その上、血色までよくなってやがるじゃねえか……。なぁ、」

 

「…っ!」

 

 

いやだ、怖い…!

ポニーテールを形作っていた留め具を乱暴に外された後、

 

沼地にいた頃と同じように長い髪を掴まれ、引っ張られてしまった俺は、

 

近くの岩壁に身体を押し付けられ、言葉にできないほどの恐怖を覚えながら、

 

奴の執念と理不尽な怒りのこもった形相を強制的に見せつけられることになる。

 

 

「なんで玩具であるてめえが、俺より幸せになっちまってんだ、ああ?」

 

「…しあ……?」

 

「とぼんけんじゃねえぞ、クソがっ!!」

 

「ぐ、ううっ…!」

 

 

……い、たい、痛い…!

腹部に強い衝撃を受けて、思わず中身を吐き出しそうになってしまうが、

 

俺を捕えておくことに必死らしい青電主は、やはりその手を緩めたりはしてくれない。

 

 

「玩具に!俺の所有物である弱い電竜のてめえに!

幸せに生きていく資格なんてねえって、何度も何度も言って聞かせてきたよなぁっ!?」

 

 

いた、い…、くる、し、い……

 

 

「なのに!てめえは俺の知らない所で!反吐が出そうな程に幸せそうな感じ出しやがって!

弱者のくせに!玩具のくせにっ!!生意気なんだよぉっ!!」

 

「…っ、かは…!」

 

 

 

…………『幸せ』?俺…、が……?

し、らない…、そんなの…、知らな、いっ……!

それは…、あいつが、火竜が…、勝手に、やってきた…、ことで……、

 

俺は、そん、な…、感情なんて、全然……

 

 

…………『全然』…?

断続的な痛みを加えられ、耳を劈くほどの罵声を聞かされていた

 

俺の頭の中に、不意に浮かんできたひとつの疑問符。

 

 

同時に思い出されるのは、俺を恋人にしたいなどと言ってきたあの赤毛の青年のこと。

 

 

…………なんで俺は、まだあいつのことを……?

あんな火竜なんて、別に好きでも何でも、ない、はずなのに……

 

なんで…、俺の中に、こんな……?

 

「…あ、ぐっ」

 

「ふざけんな…、ふざけんなっ……!」

 

 

地面に全身を叩きつけられた衝撃で、一気に現実へと引き戻された意識。

 

 

理不尽な怒りの矛先を容赦なく向けてくる青白い光の電竜は、

 

狂ったように喚きながら、俺の身体に重い拳を入れ続けている。

 

 

再び鮮明な恐怖に塗りたくられた思考には、もはや次々と刻みつけられる痛みの味しか存在せず、

 

俺が情けなく苦悶の悲鳴を上げている間も、『最悪の絶望』はすぐそこまで押し寄せてきていた。

 

 

「……こうなりゃ、てめえには相応の罰を受けてもらわねえとな…」

 

「……?」

 

 

不意ににたりと笑みを浮かべだした青電主に、痛みに悶えていた俺は更に本能的な危機を感じてしまう。

 

 

その予感が当たっていることを示すかのように、俺の身体を乱暴にひっくり返し、

 

背中に生えている両翼に手を掛け始めたそいつは、淡々とした声音でこう言い放ってきた。

 

 

「今からお前の翼をへし折ってやる。俺から逃げようなんて、二度と思えねえようにするためにな。」

 

「……っ!!」

 

 

耳朶を突き刺した残酷な宣告に凍り付いた俺は、どうにかしてこの地獄から逃げるために身体を這わせようとしたが、

 

それを見越していた青電主が許してくれるはずもなく、奴の片手と両脚にあえなく自由を奪われてしまった。

 

 

「…ったく、往生際の悪い奴だな」

 

「やだ…、いやだっ…!!」

 

「…はぁ。ったく、暴れんじゃねえよ、クソが」

 

「が、あっ…!」

 

 

「てめえはなぁ、大人しく惨めに苦しんでりゃ良いんだ、よ!」

 

「い…、ぐ、あぁっ…!!」

 

 

冷酷な言葉を投げつけられるとともに、俺の右翼に生まれていく激痛。

 

着々と翼を捻っていく両手は、悲痛な声を聴いても当然のように止まることなどない。

 

 

い、たい…、いたい、くる、しい……

 

やめ、てくれ…、やめてくれ…、ゆるし、て、くれ……

 

やだ…、やだ、いやだ、イや、だ……

 

痛い、いたい…、イタイいタい、クル、し、いっ……

 

 

考えることすらも放棄したくなるほどの強烈な痛覚に全身を蝕まれ、

 

やはり自分にはこの絶望から逃げ出す術はないのだと完全に諦めてしまった俺には、

 

せめて目の前の凄まじい現実だけは直視しなくていいように、

 

そうすることでほんの僅かでも理不尽な痛みに耐えることが出来るように、

 

 

視覚を司る二つの紅を両の瞼でぎゅっと塞ぎ、そのままずっと暗闇だけを見続けるようにすることしかできなかった。

 

 

微かに聞こえてきた誰かの声にも、殆ど気づけなかった程に…………

 

 

-5ページ-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……

 

 

……………

 

 

……………………

 

 

…………………………

 

 

………………………………あれ…?

……俺は…、一体どうなっちまったんだ……?

次に眼を開いた時、俺の身体は何故か岩壁に対して横向きにもたれかかっていた。

 

 

まだ多少ぼやけていた両眼で辺りを見回してみると、

 

眩い光を感じるとともに、此処にも朝が訪れようとしていたことを認識する。

 

 

視界がはっきりするとともに、この状態に至った理由を全く分かっていなかった俺は、

 

とにかく現在の状況を確かめるためにすぐさま起き上がろうとするが、

 

 

「……っ、く」

 

直後に全身を走った激痛によってあっけなく阻まれ、ここでようやく自分の身体が傷だらけであることに気づいたことで、

 

今動くのは危険だと直感で判断した俺は、その場に留まりつつ、自分の身に起きたことを少しずつ思い出していく。

 

 

 

……………確か俺は、火竜の元から逃げていて……、

 

その途中で青電主に見つかって、あっさり捕まってしまって…、

 

嫌という程に沢山殴られて…、終いには一番大切な翼まで奪われそうになって……、

 

 

けれど、そこから後の記憶が、ほとんど丸ごとすっぽ抜けていて…………、

 

 

 

 

………………そっか…。俺、気絶しちまってたんだ……。

 

 

この場所に連れてこられたのも、恐らくは意識がない間のことだったのだろう。

 

そう考えるなら、自分の今の状況にもそれなりには納得することが出来る。

 

 

……けど、だとしたら、俺を此処まで運んだのは……?

そういえば、折られかけていたはずの翼も激痛はするが、動かすこと自体はできるし、これって…………?

 

 

 

――――――――ズドォォンッ!!

「……!?」

 

不意に耳朶を打った凄まじい衝撃音によって、俺の意識は一気に現実へと引き戻された。

 

 

「な、何なんだよ…、一体…?」

 

 

かなり近くの方から聞こえてきた尋常ではない程に凄まじい轟音。

 

そいつを発した主の正体が気になり、未だ痛みの残る体躯をほんの少しだけ傾けた俺は、

 

全く予想だにしていなかった光景をその両眼に映し出すことになる。

 

 

「…………え…?」

 

 

視界の中心に入り込んできたのは、俺自身も嫌という程によく知っていたはずの一人の男。

 

 

「………か、は…」

 

 

だが、目の前に在った、全身ボロボロの状態で無様に倒れていたその姿は、

 

自分の記憶に散々刻みつけられたモノとは何もかもが違うように感じられた。

 

 

自らの象徴でもある、恐れを抱いてしまう程の眩さを持つ青白い光をことごとく失い、

 

掠れた苦悶の声を上げている、これまでずっと見た事の無かった青電主の弱々しい姿に、

 

奴にずっと恐怖を抱いていた俺も、驚きのあまり思わず絶句してしまう。

 

 

…………一体誰が、こんな……?

思いがけず訪れた、余りにも奇異な展開に、ややあってようやく抱き始めた疑問。

 

それに答えるように、すぐに青電主の前に舞い降りてきたのは……、

 

 

 

「…………か…、りゅう……?」

 

 

大きくて立派な翼と巨大な棘の生えた太くて長い尻尾を持つ、赤髪蒼眼の火竜だった。

 

 

俺が未だ見た事の無かった、冷酷な怒りの形相を浮かべていたそいつの身体は、

 

足元に転がっている青い電竜以上にズタズタに傷つけられていて、

 

ところどころが焼け焦げている上、部位によっては赤い液体も僅かながら漏れ出ており、

 

レザージャケットの開いた部分から見える屈強な胸板も荒々しく上下しているが、

 

 

当人はまるで意に介していないらしく、平然と立ったまま、

 

すっかり冷え切った二つの蒼に惨めな青電主の姿を映し出している。

 

 

まさか…、こいつが青電主を……?

黒炎王や銀火竜などならともかく、見るからに『通常種』であるはずのあいつが、

 

強大な力を持つ電竜に打ち勝ってしまうなんて、そんなことがありえるのか……?

しかし、俺の頭の中に現れたそんな疑念は、火竜の起こした行動によって、あまりにも容易く払拭されてしまう。

 

 

「…が、ああっ…!ひっ…!」

 

 

突然、青電主の胸倉を乱暴に掴み出した赤毛の青年。

 

 

満身創痍な体躯を無理に矢理引っ張り上げられた年上の電竜は、

 

痛々しい悲鳴を上げながら、何故か怯えたような表情を浮かべている。

 

 

膨大な雷を操る程の強い力を持ち、プライドも高いあの男には最も縁のないモノだと思っていた『恐れ』の感情。

 

 

だが、火竜の冷たい蒼を、奴の電竜としての本来の紅い眼がはっきりと反映させてしまった時、

 

他の誰よりもずっと強かったはずの青電主は、今にも泣きそうな顔で震える口を開く。

 

 

「…い…、嫌だ……。殺さないで、くれ…、頼む……」

 

絞りだすように吐き出される、必死の懇願。

 

 

そんな哀れな姿に成り下がった電竜に対して、『空の王者』の異名を持つ青年は、

 

一片すらも顔色を変えないまま、ほんの少しだけ考えた後、淡々と言葉を投げかける。

 

 

「…………なら、もうゼクスには二度と手を出すな。」

 

静かな低い声音に含まれていた、明確に絶大な威圧感。

 

 

「もし、またあいつに近づこうものなら、その時は…、分かっているな?」

 

「ひっ…!わ、分かった…。分かった、から……」

 

それに完全に気圧されてしまったらしい青電主は、震えた声でどうにか答えを返すと、

 

 

自分の服を掴んでいた火竜の手が離れた直後に、驚く程瞬く間にこの場から飛び去って行ってしまった……。

 

 

 

 

「ゼクスっ!」

 

奴の姿が完全に見えなくなった後、すぐさま俺の元へと駆けつけてきた火竜。

 

 

温度のある両腕は、前に悪夢を見てしまった時と同じように、ボロボロな俺の身体を優しく包み込むが、

 

俺を見下ろしてくるその端正な顔は、何故かものすごく悲しげな色をしていた。

 

 

「な…、んで……?」

 

あの青電主に打ち勝つことが出来て、俺のこともちゃんと取り戻せたというのに、

 

どうしてこの青年はそんな顔を浮かべてしまってるのだろう、と不思議に思ったが……、

 

 

「ごめん…、ごめんな……!」

 

「……!」

 

突如降り注いだ小さな謝罪の声に、俺は余計に訳が分からなくなってしまう。

 

 

…………なんで…、お前が、そんなこと言うんだよ……?お前は……、お前は、別に…………

 

 

そんな頭の中に朧げに浮かんできた疑問符と言葉を、勢いのままに火竜に向けて吐き出そうとするが、

 

ただでさえ疲弊し、とうとう限界を迎えてしまった身体と精神ではそれも叶わず、

 

 

 

 

俺の意識は、そのまま深い暗闇の底へと沈んでいってしまった…………。

 

 

 

 

(続く)

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リオレウス×ライゼクスの擬人化BLの続きです。
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