ヘキサギアFLS4 爆撃評価任務:2048号(上) |
――ここは遠いいつか、どこか。
人類の営みを支える資源が尽きるよりも早く、次の時代を迎えることが出来なかった世界。
衰退と混乱に沈んだ人類は、甚大な汚染と引き替えに生み出される永久機関ヘキサグラムと、人類を電子情報化し生存の負荷を取り除こうとする人工知能に翻弄されていた。
現実からの逃避、抵抗、服従、利用。生き延びた人々それぞれの思惑が引き起こす戦乱と荒廃は、穏やかな生存の場、ただ生存しようとする人々をも巻き込み、拡大していく。
その人物も、そうして生き方を変えることを強いられた一人だった。
「マサゴ=イワオ二等兵……。人事資料の照会に成功。着任を許可」
森の空白地にテントやプレハブが立ち並ぶ中、トラックから降り立った少年は、胡乱げな眼差しをした灰色の装甲服の男にそう声をかけられた。
いや、端末を手にイワオと向き合うその男は、合成音声を放っている。電子情報体化した人間の意識が操作するアンドロイド兵、パラポーンだ。
「四〇五前線監視基地へようこそ。貴官の所属部隊となる四〇五七パトロール小隊は再編成中。二番兵舎へ出頭せよ」
「ええと、どれでしょうか……」
「到着に伴い、個人端末のデータが更新されている。参照されたし」
淡々と告げ、パラポーンは踵を返していった。イワオは緊張した面持ちでそれを見送ると、ため息をついて腰のポーチから端末を取り出す。
イワオが身に付けているものは、パラポーンと同じデザインの装甲服だった。アーマータイプと呼ばれるもので、パラポーンも利用する能力拡張装備だ。イワオ自身は生身だが、デザインはパラポーンのものと変わらない。
基地に翻る旗が示すのは、ここに展開している組織がMSGヴァリアントフォースであるということ。人工知能SANATの下で活動する軍需企業MSGの軍事部門だ。
イワオはMSGの社員ではなく、ヴァリアントフォースに直接入隊した新人だった。故郷での生活を追われてこの組織にたどり着き、訓練を受け、初めての任地がここだ。長年生活を共にしてきた猟銃を肩にかけ、イワオは二番兵舎へと歩き出す。
最初に会ったパラポーンにこそ面食らったものの、基地はイワオの興味を惹く光景に溢れていた。すれ違う兵達は世間話に花を咲かせているし、駐機場からはヴァリアントフォースの主力ヘキサギアであるボルトレックスが立ち上がり、発進していく。活気があるその様子は、イワオがヴァリアントフォースに抱いていたイメージとは異なっていた。
「数の上では生身の兵士の方が多いってのは本当なのかも……」
そう呟き、乱暴な運転のトラックを躱してたどり着いた先、プレハブ兵舎の前には人影がたむろしていた。やはりイワオと同じアーマータイプ、センチネルを身に付けた男達だ。
「……おう。お前、四〇五七の新入りか?」
「あ、はい。マサゴ=イワオ二等兵です」
リーダー格らしき男が訊ねてくるので、イワオは姿勢を正した。しかしちらと見ると、その男の階級章は軍曹のものだった。
「よし、これで全員だな。じゃあ行くぞ」
「え、え? 出撃ですか?」
「ちげえちげえ。残りのメンバー――パラポーンと合流しに行くんだよ」
ひらひらと手を振ってイワオを制し、男は立ち上がる。他のメンバーも怠そうに歩き出す様子に、イワオはおずおずと追随した。
再びの移動を経て、たどり着いた先は整備テントの一つだった。骨組みが立てられ照明も吊るされ、倉庫のような出で立ちのその中へとイワオは連れられていく。
テント内は入り口の左側が作業スペースとなっており、エンジニアがアーマータイプの点検作業を行っているようだった。そして右側にはロッカーのような設備が立ち並び、多数のセンチネルが収められている。
単なる保管設備ではなかった。イワオはその設備から幾つもの通信規格のケーブルが伸び、テントの外へと続いているのを見つける。ケーブルの先には、基地のアンテナ群があるようだ。
「新しい四〇五七のメンバーだな」
待ち構えていたセンチネルの一団から、そんな声が上がる。合成音声だ。腕を組んだ声の主は、他のセンチネルらから前に歩み出て、
「四〇五七パトロール小隊、隊長のダヤン准尉だ。着任おめでとう」
准尉、と告げるダヤンにイワオは眉を動かした。正式な尉官ではない、間に合わせの階級だ。配属前に受けた説明によれば、この部隊は以前一度壊滅し、重傷を負った隊員の一人がパラポーン化し隊長を引き継いだのだという。
「君達に加え、私も含めてパラポーン五名が部隊に加わる。今最後の一人がダウンロード中だ」
ダヤンが設備へと振り向くと、最も手前に収められたセンチネルがアイセンサーを明滅させていた。そしてふと顔を上げると、感触を確かめるような動きで歩み出てくる。
「ジ、ブ、ブツッ……。う、ん。こんなもんかな」
やや高い少年のような声で、そのパラポーンは呟いた。首を揺らし、斜に構えた姿勢でダヤン達に向き直る。
「お待たせしました。俺はリガです。技能データをいろいろ持っているので、ダウンロードが一番長引いたみたいですね」
「よろしくリガ、私が隊長のダヤンだ。期待している」
そう言って握手を求めるダヤンに、リガはしげしげと観察するような視線の動きを見せた。そうしてやっと握手に応じられ、ダヤンは全員に呼びかける。
「私以外、四〇五七は全員が新しく集められたメンバーだ。新兵、傭兵、パラポーン、いろいろ出自はあると思うが、共に頑張っていこう」
「前の編成では全員生身で、しかも壊滅したんですよね。それで俺達パラポーンが編成された」
口を挟むリガに、生身の隊員達はイワオも含めて顔を見合わせた。同じように身じろぎするダヤンは、直立不動のパラポーンの中で傾いだポーズを取るリガに咳払いのようなノイズを放つ。
「――不安かね。君はパラポーンとしてダウンロードされるのは初めてだったな」
「いえ、確認しただけです。不安はありません。俺はもう情報体だし、センバツで高い適正を認められて多くの技能データ付与を許されていますから」
腰に手を当て、リガはキリリと言った。その言葉に、生身の隊員のリーダー格が呟く。
「センバツかあ……」
イワオもヴァリアントフォース入隊に際して聞いたことがある。情報体からも戦闘用パラポーンに適した者が選ばれ、パラポーンとして戦場を共にすることとなると。情報体側は戦闘に適した者が選抜され、仮想空間上での教育、訓練を受け、優秀な者には戦闘技能データのインストール許可やデータストレージの開放も行われているのだと。
「第一〇七八期パラポーン適正選抜、第八位か。大したものだな」
「いやあ、トップテンの中では下から数えた方が早いぐらいです」
「なぁんだそりゃ……」
迂遠な言い回しに、生身の隊員の誰かがぼやく。リガは一瞬そちらに視線を向けたが、
「結果を出すため、この戦場に適した技能データを得てあります。長距離行軍、近接戦闘、狙撃、トラップの設置と解除、トラッカー――。ただの新人では収まらないつもりです」
「そうか。君と同じく新人の隊員もいるから、是非高めあって活躍してくれ。そう、そこの君、マサゴ君」
「は、はい!」
ダヤンに呼びかけられ、気を抜いていたイワオは姿勢を正す。斜めの目線を向けるリガに圧力を感じながら、イワオはダヤンの質問を受けた。
「同期はエリートみたいだが、君は何か得意なものはあるかい?」
「えーと、故郷では猟師をしてました。狙撃ならちょっと出来ます……」
隊員の誰かが口笛を吹いた。
「ヘイヘかよ」
「地元の発音じゃシモ・ハユハって言うらしいぜ」
「かっけえじゃねえか」
笑いながら肘で小突かれ、イワオはしどろもどろに応じる。そしてその様子を、リガは腕を組みじっと見つめていた。
「うむ。新人二人共に自然の中での活動技能はあるようだな。助かることだ」
頷き、ダヤンは端末を仕舞う。そして隊員達を見渡し、
「しかし我が隊は結成されたばかり。まだまとまってはいないし、互いの役割も認識できていないだろう。私自身、野戦任官で隊長に繰り上がった身だ。そこでしばらく、我が隊にはアドバイザーが付くことになっている」
「アドバイザー?」
「ああ、我々の任務である偵察のプロだ」
腕を組んだまま、リガは意外そうな声音でダヤンに訊ねた。ダヤンは特に不満げな様子も無くそれに応じ、
「ここで一緒に挨拶をしてくれることになっているんだが……。まあ、自由な人だからな」
そう言ってダヤンはテントの入り口を見るが、それらしき人影は見えない。しかしその一方で、隊員達はダヤンの背後であるテント奥から、一人がもう一人を引きずってくる姿を目撃していた。
「シィング、いくら廃材を漁ったってマシなものなんて出てきませんよ。ほらもう准尉も待ってる」
「やーめーろーよー。せめてこのポンコツ冷媒が死んだ時のための間に合わせぐらい拾わせろよおらぁ」
センチネル型の首から上を観測ユニットに換装したパラポーンが、フェイスガード付きのセンチネルを引きずってくる。その会話に、ダヤンが気付いて振り向いた。
「お二方……そちらでしたか」
「ホホホ! どうもどうもダヤン准尉。お見苦しいところをすみませんねえ。ほらシング、潮時ですよ」
「けっ……」
肩を落とした様子でフェイスガードのセンチネルは立ち上がり、尻に付いた砂を払う。あまりにも人間くさい動き、パラポーンではないことは明らかだった。
「偵察・破壊工作コマンドのシング曹長とフォーカス伍長だ。単独行動権限も持っていて、私がパラポーン化する前に救助してくれた方でもある。部下も揃いましたので、一つよろしくお願いします」
「あじゃじゃじゅじゅじゅ」
頭を下げるダヤンに対し、フェイスガードの男シングは意味のわからない呟きを漏らす。隊員達が固まると、聞き耳を立てるジェスチャーを見せてフォーカスが皆に向き直った。
「『暑くてたまらねえのに足止めさせやがって。てめえらさっさとモノにならねえと泣かすぞ』とのことですねえ」
「いや、明らかにそんなに話してないだろ」
傾いだポーズのリガが、冷めた調子で告げた。すると、耳聡くそれを聞きつけたのか、シングは首をだらりと巡らせてリガを視界に捉える。
「お? あんだてめえ……。ヒネリのねえツッコミしやがって」
「いや、漫才じゃないですよ」
「んなこたわかってんだよ。……は、雑魚が。いらねえ口叩きやがって」
シングはリガの階級章をチラリと見て、言葉の最後を付け加えた。それに対してリガは肩をすくめるような動きを見せ、
「弱いつもりはありません。パラポーンとしての責務を果たすべく努力してきたし、力も付けてきました」
「結果が一つもねえじゃねえか。雑魚以前の問題だな」
鼻をほじるジェスチャーを見せつつ天井を見上げるシングに、リガは腕組みを解いた。
「お望みならここで一つ結果とやらをお見せしますが?」
「り、リガ君。シング曹長も……」
「やれるもんならやってみな」
二人を交互に見るダヤン越しに、シングはほじり続行で告げた。瞬間、隊員達が見る前でリガが飛び出す。
マーシャルアーツ的な足捌きのリガは、シングに掴みかかって投げる動きのようだった。そしてシングはだらりとした、構えらしい構えもない様子で接近を見ている。
「インファイトスキル発動……!」
起動コマンドを発しながら、リガはシングの胸部装甲と腰部ポーチを掴み、身体を潜り込ませてシングを投げ放った。手本のような背負い投げの動きだった。
しかし、その技の中から声がする。
「へえ」
身を折ってシングを投げ放つ回転動作の上で、別の回転が起こった。掴まれたシングが脚を振り上げ、投げられるよりも先に足から着地する動きだった。がに股着地を決めたシングは、投げの動作で身を折ったリガにヘッドロックをかけるとその抱えた頭にゴツゴツと拳を当てる。
「もしもし雑魚さぁん、お留守ですかあ? オラオラなんか決めゼリフ言ってみろよ」
「な、ハ?」
「てめえらも舐めてかかってっとこうやって型にハメてやっからなあ。無様晒したくなかったらソンケーを見せろよ、いいなあ?」
抱えた小太鼓でも打つようにリガの頭を叩き続けるシング。言い放つその姿の横で、フォーカスが笑うように肩を震わせながら拍手していた。
かくして、一悶着はあれど四〇五七小隊は発足した。そして翌朝に早速最初のパトロールに出動することが伝えられ、隊は整備テントから解散。生身の隊員達は兵舎に荷物を置きに行く。
イワオが四人部屋の自分のベッドを整えていると、パラポーンのはずのダヤンが隊員達を夕食に誘った。フィールドキッチンが置かれた配給所で、隊員達を前にダヤンは改めて挨拶し、隊員達が親睦を深め合うことを提案。若いイワオをして、隊長としての評価を得ようと努力していることが窺える様子だった。
偉ぶるでもなく、人間的な様子を見せるダヤンの様子に隊員達も打ち解け、夕食は和やかに進む。さらにその後パラポーン達も交えて明日のパトロールの詳細と、隊内での役割分担についてのミーティングが行われ、消灯時間前の自由時間となった。
「なんか変な奴もいるし、隊長も柔そうだが、それ以上悪くはない部隊みたいだな」
イワオと二段ベッドを共有することになった、生身の隊員のリーダー格の男がそう言った。軍曹のホープスという男で、傭兵だという。
「そういうものなんですか?」
「ああ、お前もいくつか部隊を渡ればわかる。そのためにゃ生き残らなきゃならんが、いざというときはパラポーン化もあるし大丈夫だろ。いやむしろ、頑張らないとパラポーン化されちまうのかな?」
そう言って笑うホープスに、イワオも付き合うように笑った。すると、イワオの腹が鳴る。
「ハラペコか? 育ち盛りだもんなあ。訓練の間は美味い物も食えなかっただろうし、辛いか」
「いやあ、別にそんな」
「こんな女っ気の無いところでそんな恥ずかしがってると勘違いされるぞ。――そうだ、こういう基地なら酒保とつるんでバーかなんかやってる奴がいるはずだ。なんか食おうぜ。俺も落ち着けそうな所が見つかって一杯やりてえし」
「いや、明日出動ですし、僕は飲みませんよ!?」
「一杯だけなら平気だって! マサゴは飯食いながら横で故郷の話でもしてくれてりゃいい。猟師だったんだろ? いろいろ聞きてえなあ」
そんなホープスに連れられ、イワオは夜の基地に連れ出される。ホープスの見立て通り、プレハブ施設の余りスペースに空きコンテナやパイプ椅子を並べた部屋があり、生身の隊員達が静かに飲み食いをしている場所があった。
そして、ホープスは下戸だった。ロックグラスを空ける頃には呂律が回らなくなっていたホープスは、そのままカウンター代わりのコンテナに突っ伏して寝息を立て始める。
「ほ、ホープス軍曹! ヤバイですってこんなところで寝たら」
慌てるイワオに、どういうわけかマスター役をしているパラポーンが仕方なさそうな雰囲気を発しながら横目を向けてくる。そしてパラポーンは無言で、イワオが注文したレーション缶を前に置いていった。
「あ、どうも。――じゃなくて、連れて帰らないと」
「自分が頼んだもんは完食してけよ?」
不意にかけられた声に、イワオは振り返る。
ホープスと反対の隣席には、いつの間にかシングが座っていた。
「子供に夜遊び教えるにゃ肝臓がひ弱すぎたなあ、そいつ。なんつったっけ」
「え、あ、あの、え?」
リガを相手に見せた立ち回りを思い出し、イワオは一気に緊張していく。その様子に、シングはセンチネルのヘルメットを半開きにしながらわざとらしい口調で、
「えぐっ、えぐっ。どいつもこいつも人のこと見た目で判断して会話のキャッチボールもしてくんねえ」
「ええ……。し、シング曹長?」
「えぐえぐ、俺が聞いてんのはそいつの名前だよう……。まあいいけどさ」
すっぱりと泣き真似を止め、シングはパラポーンに何かを注文した。口元だけが見える横顔には無精髭が生え、口をひん曲げた表情をしているのが窺える。
「お前、単なるルーキーじゃねえんだってな。猟師? このご時世に珍しい」
「え、聞いてたんですか?」
「話してりゃ聞こえるだろ。俺は廃品漁りしてただけだぜ」
他のことに集中していながらも、周囲の声を聞き分けていたということだ。注意力の高さにイワオは感心した。
「僕の故郷は山の方で、標高が高いところにはまだ木も残ってるんです。余所から来たヘテロドックスに追い出されるまでは、そこで」
気楽そうな様子のシングに、リガのように突っかからなければ安全だと判断してイワオは素直に明かす。
「へっ、世の中迷惑者ばっかりでやになっちまうよなあ。――何取ってたんだ?」
「ええと、鳥とか。たまに鹿や猪も」
「猪は豚の元だけあって美味いらしいな。食うどころか見たことすらねえけど。――銃は? どんなんだ」
「た、ただの散弾銃でした。父から習って」
イワオが一つ明かすごとに二センテンスは話を進めるシング。その速度に、木訥としたイワオは応じるのがやっとだった。
「人撃ったことは?」
その点だけは、シングも問い一つに絞った。大事なことなのだと察し、イワオは呼吸を整える。
「――何度か」
「はー世知辛い。そんな中でご立派だぜ」
一瞬で軽い調子に戻り、シングは仰け反る。そしてパラポーンが持ってきた琥珀色の液体入りのロックグラスを手に取る。
「ま、俺からしてみりゃド新人に代わりはねえが、どっかの誰かと違って素直だしテーチョーに扱ってやるか」
「ど、どうも」
「ちったあ反抗しろよ。プライドが無さ過ぎるのもつまんねえぜ」
好き勝手にそう言いつつ、シングはグラスの中身を舐めるように飲んでいく。
そんなシングに振り回されつつ、イワオは先程よりも落ち着いていた。身振り通り好き勝手だが、シングの語り口には何か一貫性があるように感じたのだ。
「しかし、ガキ一人でよくもまあヴァリアントフォースなんて入ったもんだぜ。リバティーアライアンスじゃダメなのか? うん?」
その問いに、イワオは視線を手元に落とした。缶の中のウインナーのトマト煮を見つめ、
「勉強がしたいんです……」
「はあん?」
「MSGにはSANATが収集した情報や文化を、若い人に教える学校があるって聞いたんです。そこに入るには、MSGが流通させる貨幣が必要だとも」
プラスチックのフォークでウインナーを刺して掲げるイワオに、シングはグラスを手に沈黙した。この会話の中で初めて主導権を得たイワオは、しかし静かに続ける。
「読み書きや経済の勉強をして、猟で稼ぐことを安定させたいんです。僕が学んだことの価値が世界に通用するようにしたい。そういう勉強が出来る場所への近道が、ヴァリアントフォースだと思ったんです」
「ふうん」
酒を含みながら、シングは小さく頷く。イワオが語った内容は幾つもの情報源で裏付けを取ったものであり、SANATは自身が収集した情報の価値評価を行っているのだという動機も付いた話であった。
「……ま、いろいろ考えてるなら死なないように気をつけることだな」
グラスを呷り、シングは投げやりに告げる。そこへ、マスターのパラポーンが注文品を持ってやって来た。
皿に盛られたビーフジャーキーと、瓶コーラであった。シングはそれを受け取ると、皿は手元に、コーラはイワオの前に押しやる。
「え、あの」
「なんか飲んどけよ、バーなんだから。おごりにしとくからよ」
そう告げて、シングはジャーキーをつまんでかじり始める。噛み切りにくそうなその横顔に、イワオは小さく吹き出した。
「笑ってんじゃねーぞテメー! じゃーお前噛み切れるのかよオラ!」
「筋に合わせて裂けばいいじゃないですか」
「はぁ!? お前……結構頭いいじゃねえかこの野郎!」
自分だけ酒飲んでないからですよ、と思いつつ、イワオの夜は更けていった。
翌朝。四〇五七小隊は出撃する。
「このエリアでは、リバティーアライアンスがゲリラ戦を繰り広げている。この森林を突破した先に、親アライアンスの企業都市があるためだ」
出撃前のミーティングで、ダヤンはそう説明した。
「奴らの活動拠点は森の中に隠蔽されているし、そこへの補給ルートも同様だ。上空からの索敵だけでは発見できないので、我々のような部隊が必要とされている。……敵も密林戦のプロだ。警戒を厳にしていこう」
実感の強い口調でそう告げるダヤンに、イワオは緊張も露わな表情を浮かべる。すると彼の言葉を引き継ぎ、シングが腕を組んで言い放つ。
「というわけで、油断したり勝手なことしたりうるさいと死にます。嫌なら俺とダヤン隊長の言うことをよく聞くように。良い子の皆はわかったかなぁぁぁぁぁ!?」
ヘルメットの耳の辺りに手をかざし、腰にしなを作ってシングが問いかける。ホープスやイワオ達は互いに顔を見合わせ、ひとまず拳を上げて応じた。
「パラポーンの皆もオーケーですかあああ!?」
セイ! セイ! とカモン系の手振りでフォーカスも促すと、パラポーン達は無言で敬礼した。ただ一人、リガだけは後ろの方で腕を組んでいたが。
そうして、出発の時が来る。基地の前線側へのゲートへと、部隊は隊列を組んで歩き出した。
戦闘経験のある傭兵達とパラポーンが前方と後方を担当し、隊列中央には指揮系統のトップであるダヤンとシング達、そして戦闘経験の少ないイワオとリガ、部隊の武装運搬を担当するスケアクロウ・タイプが配置される。
「ルーキー共、こいつを持っていけ」
隊のトップらのすぐ後ろについたイワオとリガにシングが振り向いてそう告げる。そうして差し出してくるのは、それぞれ異なる二丁の銃だった。
「イワオ、お前にはマークスマンライフルだ。射程が延長されたアサルトライフルなんでな、銃撃戦になった時に頭を出した奴をこれで狙い撃て」
「あ……はい」
銃と弾倉を受け取ったイワオは、それを背面ラッチに取り付ける。その様子をリガは腕を組んで見ており、
「技能に合わせた装備というわけですね。俺には、何を?」
「あ? お前はこれだよ」
続けて、シングが指先に引っかけてプラつかせて見せたのは安っぽい作りのサブマシンガンだった。
「射程が短いから敵が近付くまで勝手にぶっ放すなよな。弾倉も入れんな、いいな」
「な……なんですかそれは! 俺だって狙撃はできますよ!」
「実績がねえって昨日から言ってるだろ……。それに近接戦闘でのサブマシンガンは重要な銃器だぞ。わかってんのか?」
そう言いつつ、シングはトリガーガードに指を引っかけてガンプレイをしてみせた。軽い扱いに、リガはわなわなと震える。
「俺が何か気に入らないことしましたか?」
「聞きました奥さん? この子自覚が無いんですってよ」
「んまあ!」
漫才じみたやりとりに、イワオはおそるおそるリガの様子を窺った。センチネルのヘルメットしか顔を持たないパラポーンのリガから表情は見えないが、握り拳から伝わるものはある。
「偉そうな口叩く前に実績を稼げってんだよ。これからそれがゴロゴロしてる実戦の現場なんだからさ。その上でこれは重要な武装だぞ? わかんねえのか?」
シングの問いに、リガはそっぽを向いた。そうして背部ラッチに装着されたショットガンを手にし、見せつけるようにコッキングしてみせる。
黙りこくり苛立ちをまき散らすリガに、イワオはその隣で居心地悪そうに俯く。しかしシングとフォーカスは渡そうとしたサブマシンガンについての世間話を始め、呑気に行軍を続けていく。
基地のゲートを抜けるとさすがにシングもフォーカスも話をやめたが、雰囲気は解決されないまま、部隊は森へと踏み込んでいく。
その森は、旧時代から深い樹海として知られていた領域の一つ。環境の悪化と、人類勢力の衰退とが拮抗しあった結果、その規模はさほど変化していない。
木立によって日差しは遮られ、足下もその根と下草に包まれ不確か。地形そのものも高低差に富んでいるような地域で、それ故の人の出入りの少なさとこの植生であった。
人を寄せ付けぬ、という価値を利用するリバティーアライアンス部隊を追い、ダヤンら四〇五七小隊はこの地を征服しなければならない。幸い、戦闘装備の中でも重いものをスケアクロウに搭載でき、アーマータイプ装着者とパラポーンで構成された部隊の足取りは軽い。しかし視界は効かず、分け入れど分け入れど変わらぬ景色は気を滅入らせるには充分だ。
「今回は再編第一号ということで、一番短いパトロールコースだ。頑張ろう」
小休止時、ダヤンはイワオとリガにそう声をかけた。森や山に慣れたイワオは、ダヤンの気遣いに頷く。そしてリガは無言で、泥のついたアーマータイプの脛を擦っていた。
「基地に接近しようとする奴がいたら、この先の高台が一つの目標だよなあ。まさにそこをチェックするためのルートなわけだ」
「ホホ、上からも目立つ所でしたねえ」
そう世間話しつつ、シングは携行糧食のエナジーバーをかじり、フォーカスは観測ユニットのレンズを磨いていた。ハイキングでもしているかのようなリラックスっぷりだが、すでにこのエリアは安全が保障されていない領域だ。狩りで獲物を追うことはあっても、撃たれた経験は無いイワオは糧食を取り出す気力も無い。
緊張をはらみつつ、行軍は続く。話題に上がった高台も近付いてきていた。
「ダヤン、ストップだ」
「! 全軍停止!」
不意に顔を上げたシングの指示で、ダヤンが命令を下す。そしてシングは手振りでフォーカスに指示を出した。
「アイ、アイ」
フォーカスは小声で応じながら、隊に随伴してきたスケアクロウによじ登った。観測ユニットのレンズ部に手でひさしを作り、遠くへ視線を飛ばしている。
「――ホホ、あれですね」
視線を固定したまま、フォーカスは自身の頭を小突いた。すぐさま、フォーカスが捉えた映像が四〇五七小隊のメンバーへ配信される。
それは、高台の斜面を何か機械が登っていく様子をズームで捉えた映像だった。金属色のそれは、輪郭線を強調されるとワイヤーフレームへと変形し、該当する機種が表示される。
「民間で生産されている小型ヘキサギア。それに偵察装備を組み合わせたもののようですねえ」
熊のようなシルエットのヘキサギアがのそのそと移動する様子は牧歌的なものだったが、その存在はむしろ剣呑なものだった。基地を偵察しようとするリバティーアライアンス部隊がそばにいるということなのだから。
「全周警戒……」
ダヤンの指示に、前方と後方に展開していた隊員達が距離を詰め密集陣形となる。イワオも周囲を見渡し、少しでも怪しげな部位にはマークスマンライフルに備えられたスコープを向けて確認を取った。
しかし緑と茶の斑の中に、敵の姿は見えない。イワオはスコープから目を離し、そして隣でリガがなにか身じろぎするのを見た。
リガは、視線を上げたままショットガンにスラッグ弾を装填し、コッキング。そして視線に合わせてショットガンを構えた。
「リガ二等兵……?」
イワオが思わず呟いた瞬間、シングが振り向く。そしてショットガンを構えるリガを見ると、すかさず蹴りを放った。
「てめえふざけんな……!」
シングの蹴りがリガのショットガンを跳ね上げ、暴発の銃声が響いた。すかさずシングはリガが視線を向けていた先に振り返り、その様子にフォーカスも追随。隊が共有する戦域マップに、フォーカスが敵勢力を示すピンを打った。
「小規模の偵察部隊ですね」
「囲え囲え! アルファ分隊は右、ベータ分隊は左からだ! スケアクロウは各分隊を支援! イワオ、お前もダヤンのそばで狙撃支援!」
ダヤンを置いて、シングが指示を飛ばす。隊が動き出す中でイワオもすかさずそばの木の陰からピンが打たれた地点にマークスマンライフルを向けるが、その間に背後では、
「てめえこの雑魚! 何しようとしてくれやがる!」
「結果を見せろと言ったのはあなたでしょう……!?」
「てめえのプライドに何人付き合わせようとしてやがるんだ死にやがれ馬鹿!」
尻餅をついたリガに、シングが蹴りを叩き込んでいる。そしてシングはリガのショットガンを取り上げ、
「ハンドアックスはあるな? お前はそれでダヤンとイワオの護衛だ。二人から五メートル以上離れたら俺が直々に殺してやるから覚悟しとけ」
そう告げると、シングは自分のショットガンとサブマシンガンを手に飛び出していく。マシンガンを掃射し始めるスケアクロウのタンデムシートから、フォーカスが笑った。
「逸りましたねえ。ドンマイドンマイ! 下手な考え休むに似たりですよぉ!」
両手指さしを見せると、フォーカスもスケアクロウを飛び降りてシングについて走り出していく。
イワオは俯いたリガを一瞥するが、前方からの銃撃戦の響きに顔を上げ、スコープを覗き込んだ。フォーカスが捉えたか、木々の合間に人影の輪郭が浮かび上がっていた。
背後からはスケアクロウの援護、前方からは応戦の射撃が始まる中、シングは樹海を突っ走った。がに股も露骨なドタドタとしたフォームだが、獲物を見つけた肉食爬虫類のように最短距離を行く瞬発だった。
「ったく、ステータス任せの新人がいるとこれだから困る」
ぼやきはリガについてだ。優秀だと褒めそやされてきたルーキーは、しばしば勘違いを起こす。リガはその典型だった。
即ち、リガへの評価は『よく学び取ることができる』というものであるにも関わらず、リガ本人は『自分が優秀である』と認識しているということだ。
訓練生として優秀であることと、絶対的に優秀であるということの取り違えだ。現実とのすり合わせ無しに、ただ「可」であったことを「優」として身勝手に振舞うことは許されない。
「どーれ、でかい口叩けなくしてやっかな……!」
呟きながら突進するシングは、敵の射点に見当を付けると幹や岩の影を飛び跳ねるように移動し、銃撃をやり過ごしながら接近していく。
対アーマータイプ級の銃弾の風切り音が耳元に響くが、シングにはそれらは当たらないという確信があった。風切り音を立てる弾はすでに過ぎ去り行くものだし、当たる弾はなくなるような動きをしている。説明は出来ないが、ずっとこうしてきた、そうなる動きだ。
射点が近付き、最後の遮蔽となる幹からシングは飛び出す。そして構えるのは、左手に持ったサブマシンガンだ。疾走しながら放つ銃は、小口径弾をフルオートでばらまくもの。その制圧力は、敵を物陰に押し留める。
「ビビったら負けだよなあ!」
一弾倉分をすぐに撃ち尽くしたサブマシンガンを放り、シングは突入した。『線』を越えた感覚と同時に、起伏や幹の影に隠れた人影が見え始める。白のアーマータイプ、リバティーアライアンスが用いるポーンA1だ。
「そーれ一人目ぇ!」
一瞬で周囲を見回し、シングは手近な位置にいた一人へショットガンを放っていた。対アーマータイプ向けに数を絞り重い散弾を装填されていたショットガンは、ポーンA1の胸部を陥没させて白い人影をよろめかせる。
「ほっほー! 盾ぇ!」
灰色の陰りと化し、シングはその人影に駆け寄ると掬い上げた。残りのアライアンス兵らに盾として死体を掲げつつ、ショットガンを突き出して後退していく。
下がっていく先は、展開していく味方の一方のそば、それも応戦するアライアンス兵の中でも一番近い者が、他の兵からの射線を遮るルートだ。スケアクロウからの射撃もありポジションを変えられないアライアンス兵からは、一人と少し分の射撃しかシングには向かない。
このポジションを咄嗟に計算することはパラポーンなら簡単だろう。しかしシングが頼ったのは感覚だった。戦場という、常に人が死に続ける空間に相反し、生き延びてきたというコンバットプルーフ付きの感覚だ。
「勝ち筋だぜえ、クソッタレ共」
シングは笑いながら、ショットガンをアライアンス兵へと撃ち込み続ける。散弾の嵐に横殴りの機銃掃射が合わさる中、打ち倒されつつも彼らは反撃できるポジションへと移動しようとしていた。
しかしシングはその更に背後に、追いついてきた四〇五七小隊の隊員達が展開するのを見る。その様子に指を鳴らし、シングは幹の影から飛び出して後退を始めた。
シングを追おうと姿を現したポーンA1の影へ、挟み込むように銃撃が始まる。装甲が弾け、粘りのある飛沫が飛び、敵が背後で倒れていくのをシングは感じ取っていた。
「よおし、こっちは教科書に載せたいぐらい上手くいってやがるな」
展開していた隊員達に合流し、シングはハイタッチを一つ。すでに敵のいた場所はキルゾーンとなり、銃火の彼方に動くものはいない。
「連中の偵察機材を回収できれば上の上ってところだなあ――」
「あっ」
傍らの隊員が声を上げる。シングが見ると、何人かの射手が弾倉交換に入った隙を突いて、折り重なった敵兵の死体の下から生存者が飛び出したのだ。アーマータイプのアシストを駆使し、一気に高台の稜線を越えようとする。
「おっとしぶといぜ」
感心しつつ、シングは傍らの隊員からアサルトライフルをふんだくり照準。スコープ無しの照星を敵の背中に向ける。
しかし、敵はシングが引き金を引くよりも先に仰け反り倒れた。ヘルメットの後頭部が割れ爆ぜ、若干鈍いアサルトライフルの銃声が響く。
「お、こいつはイワオだな」
シングがライフルを返しながら振り向くと、ダヤンらがいる位置から伏せ撃ちをしていたイワオが起き上がるのがかすかに見える。
シングは頷き、静かになった森の中へ声を張り上げた。
「周辺警戒! 生き残りと、奴らの痕跡を見逃すなよ! お巡りさんのように現場検証だ!」
その指示に、隊員らは包囲陣から防御陣へと身を回す。そうして、銃火を浴びせた領域へと足を踏み入れていった。
かくして、新編成での初任務において四〇五七小隊は敵の偵察部隊を捕捉、撃破。現場の捜索と保持に努め、増援部隊に敵兵の遺体と装備を回収させることに成功した。
帰投し事後処理を済ませた隊は休息の時間に入り、イワオはホープスに連れられまた基地のバーを訪れていた。今度は、他の隊員達も一緒だ。
「初任務の成功に!」
「乾杯!」
酒が注がれたアルマイトのマグカップを打ち合わせ、隊員達は笑顔を交す。その輪の中で、イワオは粉末ジュースを溶いたカップを手にしていた。
「イワオ、お前最後の狙撃凄かったな!」
「俺達の二倍はある距離からサラリーマン野郎の頭をシューッ! だもんな!」
屈強な男達にもみくちゃにされつつ、イワオは愛想笑いと会釈で時間を過ごす。そんな様子を、カウンター席でシング達がだらけた様子で見ているのが背後に見えていた。
酒宴が進み隊員達がへべれけの様相を呈し始める頃、イワオはカウンター席へと移動する。
「お疲れ様です。今日はフォーカス伍長もいるんですね」
「ほほほ、パラポーンなんで何にも食べられないですけどね。こういう場の雰囲気や、話を聞くのは好きですねえ」
「物好きよなあ」
プレッツェルをつまみながら、シングが呆れた調子で呟く。
「他のパラポーンの方は違うんですか?」
「あいつらも元は人間だからな、人それぞれさ。我の強い奴もいるし、どこにでもいそうな奴もいる。この隊の奴らがどうかは、もう少し見てみないとわからねえな」
「一名ほどわかりやすいのがいますがね」
「なー。さっき帰ってきてから絞ってやったら『お、おでは、自分で考えて最善の成果を出すつもりでした』とか半ベソ掻いててな! チョー無様でなー!」
酔ったシングがゲラ笑いしながら椅子の脚を叩く。リガのことを思い出し、イワオはおずおずと問いかけた。
「リガ君は……どうなんですか? 二人はかなり強く指導していますが」
「あ? ああいうな、安全地帯で褒めそやされて出来るようになったことを自分の成果みたいにしてる奴ぁダメってことよ。しかも奴は諸々の技能は後付けデータでくっつけただけで使いどころの勘なんかもありゃしねえ。今が一番危ない状況ってわけよ。今日みたいに暴走しかねねえ」
「自分がまるで戦争アクションものの主人公だと思ってるみたいで、傍から見る分には愉快なんですけどねえ」
わかるわかる、とシングとフォーカスはハイタッチ。不憫に思い、イワオは、
「リガ君はリガ君なりに活躍しようとしているのでは?」
「借り物の、センスじゃない力なんて『なり』じゃねーさ。ましてや、自分ものにもしてないうちに偉ぶってるようじゃな」
「自分の技能で出来ることをするのは、戦場では当然のことですからねえ。能力があるというなら、負うべきは責任というわけですよ」
アドバイザーという、イレギュラーな任務を負っている二人の言葉にイワオは沈黙した。二人は、言うとおりなのだろうと。
「奴は中身が空っぽのままプライドだけ肥大してやがるからなあ。俺達がいなくなった後が厄介だろうよ」
「そこまでいくと面白いとは言ってられませんねえ」
「奴は同期のお前を自分より下に見てる。お前の小言なら効くかもな。覚えておくといい」
シングの指摘に、イワオは俯いた。
「今までずっと、僕は敵対する人に囲まれて生きてきました。ここでようやく、明確に味方だって人達に囲まれて……。でも、そんな中でも、そういうことってあるんですね」
「味方だからこそ問題になるのさ。敵ならぶっ殺せば済む話だからな」
その言葉に、イワオはハッと顔を上げた。シングはヘルメットの奥に顔を隠し、
「信頼できる奴以外味方にしないことだ。人生気楽になるぜえ」
実際に気楽に言うシングに、イワオは視線を向ける。無精髭の口元、傷だらけのアーマータイプに、シングのコンバットプルーフが浮かんでいた。
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二次創作シリーズ「ヘキサギア・フロントラインシンドローム」を応援していただきありがとうございます。第一話三〇〇閲覧、第二話二〇〇閲覧に到達し、自分としてはヘキサギア界隈の熱量に感服し続けている感じです。 さて今回はいろいろ事情もあって、第四話前後編の前編から先に投稿してみようと思います。そんな実験的な試みに合わせてか今回の主役はシリーズの悪役、シング達です。 言いにくいことをズバッと言うついでに敵のこともズバズバやってしまう奴らがメインとなるとどうなるか。楽しんで頂ければ良いかと。 本作品はコトブキヤのコンテンツ『ヘキサギア』シリーズの二次創作作品であり、同作の解釈を規定するものではございません。 またフィクションであり、実在物への見解を示すものでもないことをあらかじめご了承下さい。 |
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