未完成没作「刀と三姉妹」 |
おじいちゃんが残した刀は、寂しいと暴れる。悲しいと泣く。家族旅行に連れていってもらえなかったときなんか、八つ当たりで家じゅうめちゃくちゃにしていた。
だから、依子も藍も菜月も、刀だけ留守番させることなんかできない。毎日交代で、誰かが学校にこっそり連れていくことにしている。いちばんお姉ちゃんの依子は高校生、真ん中の藍は中学生、末っ子の菜月は小学生だ。本物の刀を持っているなんてバレたら、先生に取り上げられちゃうから、見つからないようにすっごく気をつかっている。
「聞いてよ、二人とも。一ノ介ったら今日ね、体育の時間、こっそりランニングの列に混ざってたんだよ。後ろの子がきゃーって悲鳴あげてさ。倒れちゃった。あたしが後ろから二番目だったから、あとで何とかごまかして、それですんでよかったけどね」
真ん中の藍が、うでぐみして刀を軽くにらんで言う。
「バレなかったからよかったじゃん、お姉ちゃん。わたしはこないだ美術の時間に男子に見つかっちゃって、たいへんだったんだよ」
おっとりしている末っ子の菜月も、肩をすくめた。花びんに生けた花をかいているときにずるずるとロッカーからはいだしてきた一ノ介が、花にまざろうとしたのだ。
それを同じクラスの男の子がめざとく見つけて、刀はぼっしゅうされてしまった。
「だれですか、こんなおもちゃ持ってきたの」
先生がこわい顔で見回したので、菜月はしかたなく手をあげるしかなかった。一ノ介がふんばってさやから出てこなかったので、本物の刀だということはバレずにすんで、よかったけれど。
「最近一ノ介、やんちゃで困るわね。おじいちゃんの一周忌が近いのと、何か関係あるのかな」
長女の依子は、刀の柄をそっと押さえて、つぶやいた。
おじいちゃんが去年亡くなってから、姉妹は三人だけで暮らしている。お父さんとお母さんはすでに他界していた。家に代々伝わる、日本刀の「一ノ介」は、去年まではふつうに床の間にかざられているだけだったのに、おじいちゃんが亡くなってから、動き始めた。しゃべったり食べたりはしないけれど、遊んであげないと怒って柱を切り刻んだりする。夜はだれかがいっしょに寝てあげないと、外にふらっと出ていってしまう。しつけの難しいペットみたいだ。
少し前までは、学校ではちゃんと動かずにいてくれたのに、このごろ、三人が怒っても聞いてくれないことが多い。
「身内以外の人には刀のことはないしょなんだし、おとなしくしてないなら、蔵に閉じ込めちゃうよ」
藍なら、本当にやりそうだ。
おじいちゃんが刀のために建てていた蔵は、かたい金属でできていて、一ノ介でも簡単には破れない。けれど、かわいそうだからと、三人とも一度もそこには閉じ込めないであげていた。
「明日は、菜月のばんだっけ」
依子が、心配そうに下の妹を見やる。
本当なら、自分がずっと刀を世話してもいいと思っているのだけど、立元家のおきてで、そうはいかないのだ。
蔵から出てきた古い書物に、こう書かれていた。
「もしも刀が再び力を得、動き出した際には、その家の子らが交代で相手をしてやること。誰か一人にやらせてはならぬ。さもないと刀は、関わっていない者を家族と認めず、家から追い出し始めるであろう」
「大丈夫だよ、あたしだって、ちゃんと相手できるよ」
菜月は胸をたたいて言う。
一ノ介のことはちょっとこわいけれど、きらいではなかった。
「みんなにケガとかさせないように気をつけるんだよ」
藍に言われ、「分かってるよ」と菜月は口をとがらせる。
ここまでしかない。
家の中だけで日本刀使う三姉妹の話。祖父が残したので 使わないと呪われる
しかしいじめられた三女が学校へこっそりもっていって…みたいな流れになるみたいでしたが
設定に穴があるので完成はやめときました。
説明 | ||
意志を持つ刀を受け継いだ三姉妹の話。 | ||
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