君が 飛んだ日
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   君が 飛んだ日

 

 

 

 碧い海、蒼い空、青い羽根の蝶が飛んで、今日もぼくに見せ続ける。

 

 あの日の青空を。あの日の君を。

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 崖の上から海が見えて。絶景だなんて言われてて。

 

 ここから見える海は、とても、碧くて。

 

 ここから見える空は、とても、蒼くて。

 

 ここで、君と話をしたね。

 

 

 

 蝶々が好きで、小学校の時に、芋虫を育てて、みんなから芋虫と言われたけ

ど、君は、静かに笑っていたね。

 

 あの芋虫がさなぎになって、孵った蝶が、きれいな青色の羽をしていた時、

みんな、ただ、見とれて。

 

 あの後、君に聞いたね。

 

 あんな、きれいな蝶になることを知っていたのって。

 

 君は、静かに笑いながら「だって、蝶々の幼虫だよ。大人になったらきれい

な蝶々になるんだよ」そう言ったね。

 

 ちょっとふっくらとして、おっとりした君は、いつも静かに笑っていて。

 

 でも、肩までのばしたその黒髪は、とてもとても、きれいで。

 

 振り向くときに、その髪がゆれるのを見るのが、好きだった。

 

 いつもおとなしいのに。

 

 ぼくが転んだあの日は、すぐに走ってきて、傷口に絆創膏を貼ってくれて。

 

 うれしかった。

 

 教室で、いつも、蝶々の図鑑を見ていて。静かに笑っていて。

 

 教室の机に、静かに座る君の笑顔が好きだった。

 

 

 

 小学校の帰り道が同じで、よく、君は、ぼくに話しかけてくれたね。

 

 はじめに呼びかけてくれるのは、いつも、君なのに。

 

 結局、話すのはぼくで、君はいつもニコニコ話を聞いてくれて。

 

 好きな漫画の話をして、好きなアニメの話をして、くだらないことを自慢し

たり、くだらないことで、笑ったり。

 

 そんなぼくを、君は、いつも笑いながら見ていてくれて。

 

 

 

 中学校に入ってからも、同じ道を帰っていたのに。

 

 君は、ぼくに、呼びかけてくれることはなくなってきて。

 

 話をすることも、なくなってきて。

 

 あの日、あの場所に君を誘ったのは、ただ、君に、笑っていてほしかっただ

けなんだ。

 

 絶景だなんて言われている、あの場所。

 

 あの場所から見た海は、碧い色で。

 

 あの場所から見た空は、蒼い色で。

 

 あのとき、なぜか、青い羽根の蝶が飛んで、

 

 知っていたのに。隠された上履きも。こみ箱に捨てられた教科書も。

 

 何より、君が、ただ人を傷つけたくなくて、だから、笑って、ただ黙って笑

ってて。

 

 何をされても、ただ、静かに笑ってて。

 

 逃げる場所なんて、なかったのに。

 

 あの日に君と見た海は、碧いあおい、色だった。

 

 あの日に君と見た空は、蒼いあおい、色だった。

 

 あの日見た君の笑顔は、力なくて、青白くて。

 

 だから、元気になってほしくて、ただくだらない話をしたのに。

 

 何で、そうしなかったのだろう。なんで。

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 あのことを知った後。

 

 ぼくはカッターナイフをポケットに入れて、家を出た。

 

 何でもよかった。あいつらに、ただ思い知らせたかった。

 

 でも、学校に向かう前にみた海は、どうしようもなく碧い色で。

 

 その先に広がる空は、どうしようもなく蒼い色で。

 

 だから、君のことを思い出してしまって。

 

 ぼくは、ただ、立ち尽くすことしか出来なくて。

 

 あの日に君が飛んだ海。碧いあおい、色だった。

 

 あの日に君が飛んだ空。蒼いあおい、色だった。

 

 あの日から、見つめる海の色も、見つめる空の色も、碧い蒼い色なんだ。

 

 何度悔やんで見直しても、何度憎んで見直しても、碧い蒼い色なんだ。

 

 それでも、どうしても、見つめてしまう。

 

 誰を憎んでも、みんなも、教室も、学校も、この世界であっても。

 

 それでも、あの日に君に伝えられなかったのは、ぼくだ。

 

…もう、いいんだよ。何もかも。ただ、生きてくれたら…

 

 そう言えなかったのは、ぼくだ。

 

 碧い海を見つめてる。

 

 蒼い空を見つめてる。

 

 そうすることが、ぼくの罰だとしても。

 

 そうして、思い出していかないと。

 

 君のことが、消えてしまうから。

 

 いっしょにアニメショップに行きたかったな。

 

 静かに笑う、君の笑顔が好きだったな。

 

 もう取り返すことは出来ないんだ。

 

 風にゆられながら、ゆらりゆらりと、青い蝶々が飛んでいく。

 

 碧い海のその上を、ゆらりゆらりと飛んでいく。

 

 風にゆられながら、ゆらりゆらりと、青い蝶々が飛んでいく。

 

 蒼い空のその中を、ゆらりゆらりと飛んでいく。

 

 風にながされながら、遠くに遠くに。

 

 ただ、青い色のみが、消えないままに。

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 あの場所は、今日も、何も変わらない。

 

 あの日から、何も変わらない。

 

 ただ、君がいないだけだ。

 

 碧い海も、蒼い空も、あるのに。青い羽根の蝶も、いるのに。

 

 君は、いない。

 

 青い色のその中に、君だけが、そこに、いないんだ。

 

 何も出来ない、ぼくに、青い色を、見せ続けるだけで…。

 

説明
碧い海、蒼い空、青い羽根の蝶が飛んだ。もう戻らないあの日に。
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いのち 生きる 孤独 

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