真・恋姫無双 〜黄龍記〜 第三話 |
真・恋姫無双 〜黄龍記〜
第三話
黄巾賊討伐の章 前編
一刀の武 天下無双なり
冀州・広宗
ワァアアアアアッ
黄巾賊の正規軍と官軍主力軍が今正にぶつかり合い、それぞれの目的の為、そして生き残りを賭けてお互いの命を奪い合っていた。
だが、戦況は圧倒的に官軍側が不利であった。
それもその筈、何せ官軍五万に対し、黄巾賊は十五万を超える大兵力。
その上中央から派遣されてきた官軍兵達は服装や剣は華やかではあったが国に残してきた女房子供、またはうまい酒の事ばかり考えている様な兵ばかりで、今迄碌な戦経験をした事の無い脆弱な兵。
対する黄巾賊兵は元農民が主体の兵といっても、各地で幾度と無く官軍と戦い続けて経験を積み重ねて戦慣れしている為に間違いなく強兵と言えた。
三倍の兵力差に弱兵と強兵。
量、質共に敵より劣っているのだ。
これで苦戦するなと言う方が無茶と言うものだろう。
だが、その苦戦する官軍の中で唯一互角に、いや寧ろ押し返している軍があった。
一刀と桜(徐晃)が率いる義勇軍である。
「うおりゃあーーーーっ!」
フォン ドガァアアッ!
「うわあああっ!?」「ぎゃあああああっ!」
義勇軍の先頭に愛馬・白兎に乗って駆ける一刀が剛槍・黄龍牙を振るう度に確実に数人が、多い時には十数人の賊が斬られ吹き飛ばされて逝く。
「やぁああああっ!」
ブォン ドガァアッ!
「ぐわぁっ」「ぎゃああっ!」
そして一刀の直ぐ隣に付き従う桜が普段の引っ込み思案で大人しそうな印象とは裏腹に、大斧を自由自在に振るって敵を薙ぎ倒す。
凄まじい武を誇る二人の突進力と突破力の前に、戦慣れしている黄巾賊の者達も全く手も足も出ない。
そしてそんな二人の武勇に鼓舞される様に義勇軍の兵士達も士気を大いに高め、怒涛の如き凄まじい勢いで黄巾賊を討ち倒して行くのであった。
「一刀様!新手の敵が押し寄せて来ます!」
桜の言葉に一刀は前方を見てみる。するとそこには黄巾賊の後衛部隊だろう軍が押し寄せて来るのが見えた。
「(敵は大軍、まともにぶつかると被害が大きくなる可能性がある以上、避けた方が良いな)全軍後退!後衛の弓隊の所まで下がるぞ!」
一刀の指示の下、義勇軍の兵士達はまるで津波が引くかの様に後退する。
その整然とした後退振りは並々ならない錬度を感じさせるには十分な物であった。
そして一刀は更なる指示を出す。
「桜、弓隊の指揮を頼む。向かって来る敵に対して斉射三連で怯ませて勢いを止めてくれ。
敵が怯み勢いが止まった所に俺が騎馬隊を率いて突撃、敵を混乱させる。桜は敵が混乱したのを見計らい、全軍を持って止めを刺してくれ」
「判りました一刀様」
策戦を聞いた桜は直ぐに弓隊の下へと駆けた。
対する一刀は騎馬隊と歩兵隊を率いて弓隊の後方へと移動する。
そしてほんの僅かな丘陵の上で待機していた弓隊一千の下に桜が到着、直ぐさま指示を出す。
「弓隊の皆さん、敵に対して斉射三連を行います!
斉射後は左右に分かれて後方へと移動、合図と共に歩兵隊と一緒に敵に突撃します。
いいですね」
「はっ」
指示を出し終え、弓隊の準備が完了すると桜は馬の踵を返して敵が来るまで待機するのだった。
一方、弓隊の後方へと回った一刀は率いていた義勇軍を騎馬隊と歩兵隊とに分けて、前衛に騎馬隊、後衛に歩兵隊と二重の縫矢陣を敷いて待機させると突撃の時を待った。
ウォオオオオオ ワァアアアアア
迎撃の準備が整った義勇軍。
そこに一刀達が散々に叩いた前衛軍と合流した黄巾賊後衛軍が突撃してきた。
「弓隊、斉射用意」
緩やかな丘陵の上に待機する弓隊が桜の指示に従って弓を構える。
そして黄巾賊が弓の射程内に入った瞬間!
「第一射、放てっ!」
ザアアアアッ
「ぐっ」「がぁっ」「ぐわああっ」
放たれた矢が黄巾の賊徒達を次々と射抜いて絶命させる。
だが距離もあってその数は大した事は無く、黄巾賊は怯む事無く突撃して来た。
そして放たれる第二射、距離が縮まり第一射の時よりも多くの敵が倒れるが、それでも黄巾賊の勢いは止まらない。
「第三射、向かって来る敵を直接狙って下さい!」
桜の言葉に弓隊が向かって来る黄巾賊に狙いを定める。
先頭を走る黄巾賊の者達は自分達が直接狙われている事を知って僅かに動揺する。そこへ・・・
「(今!)放てぇっ!」
ピュピュピュピュピュッ ザァアアアッ
「ぐえっ」「ぎゃあっ」「うわあああっ」
雨の様な矢が放たれ、先頭付近を走っていた黄巾賊の者達は集中的に狙われて次々と矢に射止められ絶命していく。
この状況に流石の黄巾賊も怯み、一瞬だが突撃の勢いが殺された。
その次の瞬間、
「おおおおおおおーーーーーっ!!!」
左右に分かれて後退した弓隊の間を切り裂くかの様に躍り出た一刀率いる騎馬隊が、勢いを殺された黄巾賊の者達に襲い掛かった。
「おりゃあーーーーーっ!!!」
「ひっ!?『ズドォッ』ぎゃああああっ」
ザンッ ザシュゥッ
突き、斬り、薙ぎ払う。
一刀の余りの迫力に思わず怯んだ敵軍。
そのど真ん中に飛び込んで一刀は縦横無尽、八面六臂の戦振りで黄巾賊を蹴散らしていく。
更にその後に続いた騎馬隊もまた勢いに乗って敵を蹂躙。
逆に丘陵から突然飛び出す形で半ば奇襲された黄巾賊の者達は、一刀の迫力と圧倒的な武力、そして騎馬隊の凄まじい突撃の勢いとにより瞬く間に混乱に陥れられるのだった。
そしてそこへ更に・・・
「今です!全軍突撃します!!」
「「「うおおおおおおおおおっ!!!」」」
桜に率いられた約四千の義勇軍が突っ込んでいく。
混乱し、浮き足立っている黄巾賊の者達には最早体制を整える暇も無い。
唯一方的に討たれ、蹂躙されるだけであった。
「な、何て奴等だ・・・退け、退けぇーーーーーっ!!!」
黄巾賊部隊の指揮を執っていた隊長が、その余りの勢いと凄まじさに恐慌をきたして慌てて撤退命令を出す。
しかし撤退命令を出すのは少し遅かった。
「お前が指揮官だな!」
敵中突破を果たして来た一刀が既に指呼の距離まで迫っていたのである。
「ひぃいいいっ!?」
「覚悟ぉっ!!」
ドスッ
「ぐはっ・・・ば、化け物め・・・・・」
ドシャッ
そして一刀の槍で心の臓を一突きされて指揮官は絶命した。
「し、指揮官が殺られた・・・もう駄目だぁ! 退け! 退けぇーーーーーっ!」
指揮官が一撃で殺られた黄巾賊は我を失い、我先にと慌てて逃げ出していった。
「よし!今日も我々の勝ちだ!勝ち鬨を上げろーーーっ!!!」
「オーーッ!」「オオーーッ!!」「オオオオオーーーッ!!!」
漢の正規軍が押される状況の中、一刀率いる義勇軍だけが連日勝利を重ねていたのである。
義勇軍陣地
「わははははっ」「それ、もっと飲め」「う〜い、もう飲めねぇ」
一刀は連日勝利を重ねていた義勇軍の皆に久しぶりの酒を振舞って慰労していた。
「皆 楽しんでますね」
一刀と共に陣中を見て回っている桜も皆が楽しんでいる様子を見て微笑んでいる。
だが皆が楽しんでいる中、表情にこそ出してはいない物の一刀だけは余り浮かない様子だった。
「一刀様? 何か不安な事でも」
「うん、不安とは違うんだけど、確かに俺達義勇軍は連戦連勝を重ねている。しかし戦況は未だ不利な状況だ。
幾ら俺達が勝利を積み重ねても十五万を超える黄巾賊が相手では焼け石に水でしかない。
このままだとそう遠くない内に官軍が敗れる時が来るだろう、そうなる前に何か手を打たなければ・・・」
「そうですね・・・でもどうすれば・・・・・」
「・・・せめて黄巾賊の首領張角、張梁、張宝の三人の居場所が解れば手の打ち様もあるんだけど・・・・・・玄武か」
突然の一刀の呼び掛けに何処からとも無く現れた玄武・・・一刀に絶対の忠誠を誓う忍者頭・・・が膝を付いて報告する。
「御待たせして申し訳ありません一刀様、漸く敵の首領の居場所が判明いたしました・・・・・唯幾つか併せて報告したい事があります」
「報告したい事? なんだ」
「はっ、どうも敵の首領の張角、張梁、張宝は唯の旗頭に過ぎない様なのです。
彼女達三姉妹は元々は流れの旅芸人だったらしく、黄巾党とは元を糺せばその三人の熱狂的な支持者達だった様です」
「ちょ、ちょっと待って下さい! それじゃあこの反乱騒ぎはどう言う事ですか?」
玄武の報告に桜が戸惑い、思わず問い質した。
当然であろう。普通に考えれば流れの旅芸人とその熱狂的支持者達が反乱など起こす筈が無いのだから・・・
「それがどうやらこの反乱騒ぎは黄巾党そのものが起こしたものでは無く、その力と勢いを利用した者達が裏で画策して起こした物の様です」
「・・・つまりこの反乱は張角、張梁、張宝の三姉妹が起こした物では無く、彼女達の人気と人望を利用して引き起こされたと言う訳か」
「はい、色々調べてみると黄巾党と呼ばれる三姉妹の熱狂的な支持者達は黄巾賊全体の二割にも満たない数の様です。
それ以外の者達は盗賊や山賊くずれ、後は食い詰め農民などが集まって出来ただけの賊軍のようです」
「そんな・・・首謀者だとばかり思っていた者達が利用されただけの単なる飾りだったなんて・・・」
玄武が報告する真実に桜が呆然となる。
そんな中、一刀は殊更冷静さを保って玄武に先を促す。
「張角達が飾りならこの反乱騒ぎの黒幕は誰だ? 当然調べてあるのだろう?」
「はい、この反乱騒ぎの真の首謀者は波才、張曼成、何儀、管亥と言う元は数万規模の盗賊や山賊を率いていた賊将達。
更にその下に同じく盗賊や山賊の頭領だった馬元義、趙弘、韓忠、孫夏、唐周、程遠志、ケ茂、何曼、劉辟、黄邵と言った数々の賊将達。
彼らこそが今回の反乱を企てて起こした首謀者達です」
「なるほどな、大方数万の兵力を持つに至った賊将達が調子に乗って今回の反乱を起こしたと言う所か・・・なら首謀者に祭り上げられた張三姉妹は今どうなっている? 既に殺されているのか?」
「いえ、どうやらその三人は数万に昇る黄巾党の者達に守られて今の所は無事なようです。
唯三人も、三人を守る黄巾党の者達も黄巾賊から身を守る事で精一杯の様子。
そして現在は冀州にある廃棄された古城の一つに立て籠もり、状況を伺っている様です」
「そうか・・・・・玄武、戻って来たばかりで悪いがその廃城に腕利きの者と共に潜入して黄巾党の状況と内情を詳細に調べて来てくれ。急いで頼む」
「判りました。では早速・・・」
一刀に一礼すると玄武は直ぐに姿を消した。
「一刀様、どうなさるのですか?」
玄武が姿を消すのを見届けた桜が一刀に話し掛ける。
問い掛けられた一刀は自分の考えを桜に話した。
「張三姉妹を味方に付けられないかと考えているんだ」
「張角達をですか?」
「ああ、今の話からすると少なくとも黄巾党と黄巾賊は別の軍だ。なら味方に付ける事は可能だと思う。それに・・・」
「それに?」
「彼女達が利用されただけと言うなら何とか助けたいとも思う。
勿論、幾ら飾りとは言え反乱の首謀者と目されている人物を助けるのは容易な事じゃないだろうけど・・・それでもね」
「そうですか・・・(クスッ)」
「おかしいかい?」
「いえ、一刀様らしいと思いまして・・・『国(漢)の為でもなければ義の為でもない。我々はあくまでも力無き人々の笑顔を守るの為に戦うのだ』でしたね」
「ああ」
「付いて行きますよ・・・例えその道が茨の道であったとしても、何処まででも・・・」
「桜・・・ありがとう」
桜の言葉に一刀は嬉しくなり、思わず感謝の気持ちを込めて優しく抱きしめてしまった。
「あっ・・・・・」
抱きしめられた桜は頬を赤く染めて身体を僅かに強張らせる物の、そのまま自分も両手を一刀の背に回して受け入れた。
それから二人は暫くの間、穏やかな空気に包まれたまま抱き締め合うのだった。
黄巾賊の内情を知ってから半月
一刀達は相も変わらず黄巾賊と激戦を繰り広げていた。
だが一刀率いる義勇軍の力に恐れをなしたのか、ここ数日黄巾賊は義勇軍に対しては積極的に攻撃を仕掛けようとはしなかった。
それ所か逆に一刀達が攻撃を仕掛けようとすると、大軍を以って義勇軍を包囲しようと黄巾賊兵を動かすので迂闊に仕掛けられなくなってしまっていた。
そこで一刀達は黄巾賊に罵詈雑言を浴びせて挑発し、撃って出る様に仕向けるのだが・・・
「駄目です一刀様、幾ら挑発しても一向に乗ってきてくれません」
「そうか、参ったな。動く敵が相手なら寡兵でもまだ対処の仕様もあるんだけど、動かない敵が相手じゃあ数の少ない俺達には打つ手が無い」
「相手が動かない事には奇襲は不可能ですしね」
「うん、それに夜襲も騎馬隊のによる一撃離脱の策で今迄散々仕掛けていたから敵も警戒してる。
これじゃあ流石に如何する事も出来ない」
打つ手無しの状況に流石の一刀も思わず溜息が零れそうになった。
結局この日も一刀達は敵と一戦も交える事無く軍を引かざる終えなかった。
義勇軍陣地
「困りましたね。まさか大軍を擁する黄巾賊が仕掛けて来ないなんて・・・」
「全くだね、かと言ってこちらから仕掛けるのは危険すぎる。
敵軍の動き、明らかに義勇軍を包囲しようと動いていた。下手に仕掛ければ全滅する恐れもある」
「打つ手無し、ですね・・・どうしましょう」
「う〜〜〜ん」
一刀と桜、二人して何とか打開策を考えていると・・・
「一刀よ、少しいいかな」
盧植将軍が数人の共を連れて訪れて来た。
「盧植将軍? どうしました、こんな夜更けに」
「うむ、今日の義勇軍の様子を見て少し相談があってな。それとお主に会って見たいと言う者達がいてな、連れて来た」
「そうですか、それで俺に会いたいと言う人物は後ろの女性達ですか?」
盧植と共に天幕に入って来た三人の女性を見て一刀は聞く。
「うむ、わしが以前ある事情により?県楼桑村に身を隠していた頃、文学や兵法を説き教えていた弟子の一人で劉玄徳と言う。
此度はお主同様義勇兵を募ってわしの力になりたいと言って来てくれたのじゃ、ほれ劉備」
「は、はい。あ、あの、始めまして私は性を劉、名が備、字を玄徳と言います。
それでその・・・貴方が噂に聞く天の御使い様ですか?」
これが後に人々から天の御使いと呼ばれる事になる北郷一刀と、三国志を代表する英雄の一人劉備玄徳との最初の出会いだった。
真・恋姫無双 〜黄龍記〜 第三話いかがだったでしょう。
今回は黄巾賊の内情、及び英雄との最初の出会いまで。
やっと真・恋姫無双の登場人物が出てきました。
と言ってもほんの触りだけですけどね。
なお、作中の中に出て来た一刀の愛馬・白兎、及び剛槍・黄龍牙に関しての説明文は近々投稿する人物プロフィールに載せますので暫くお待ち下さい。
さて次回は、黄巾賊討伐の章 中編
物語りも徐々に架橋に入っていく予定です。
こう御期待!
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四作目を投稿。 |
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