PokemonSM CosmosEpic 33:迷い、そして、進み |
ポータウンにリーリエの姿はなく、グズマと戦うだけに終わった。
どうすればいいのかと迷っているヨウカの前に現れたのは、ウラウラ島のしまキングであるクチナシだった。
彼はヨウカがウラウラ島のキャプテンの試練を突破した実力を認めてポケモンバトルをしてくれるというのだ。
そして、彼らはポケモンバトルをするためにエーテルハウスに戻ってきた。
「あ、クチナシおじさんだー!」
「アセロラちゃん」
エーテルハウスに戻ってきたとき、アセロラはクチナシに気付くと彼にいの一番に駆け寄ってきた。
「もークチナシおじさんってば、スカル団の本拠地に一番近いところに住んでるんだからスカル団をちゃんと見張っててよっ!
なによりもおじさん、けーさつかんでしょ!」
「・・・俺があの警察署にいるのは、家賃が安いからだ」
アセロラが眉をつり上げながら怒っていても、クチナシは動じていない。
彼の考えが読めず、食えない気がしたヨウカはエーテルハウスの中にあるポケモンの回復装置を使うため、エーテルハウスにはいった。
だが、エーテルハウスに入った瞬間にある少年と再会したので驚く。
「グラジオくん!?」
「・・・来たか・・・ヨウカ・・・」
そこにいたのは、グラジオだった。
彼との再会は完全に予想外で、何故ここにいるのだと問いかける前にセイルがヨウカに問いかけてきた。
「なんだ、こいつは?」
「・・・この人、グラジオくんって名前で・・・一応スカル団のやとわれようじんぼう・・・なんだって」
「なに・・・?」
スカル団に関係していると知ったセイルは、グラジオを睨みつける。
一方のグラジオは臆することなくセイルを見つめ返したのだが、元々の目つきのせいか睨み返す形になってしまった。
「あーはいはい、そこまでそこまで」
「ツキトくん」
そんなとき、ツキトが二人の間に入り込んでにらみ合いを終わらせた。
「どうしてお前がここに?」
「・・・そいつに頼まれてな。
ヨウカは友達、助けたいんだろ?」
「うん」
「どうやらグラジオもそのつもりらしくてな、スカル団とは完全に縁を切るみたいだから、その度胸に応じてやろうってことで協力することにしたんだよ。
友達がいる場所までオレが船を操縦して連れてってやろう、てな」
「えっ・・・!」
ヨウカは驚きながらツキトとグラジオを交互にみた。
「・・・元々、本当に仲間になる気もなかったしな・・・今回のことで完全にスカル団とは縁を切ることにした」
「・・・グラジオくん・・・」
「・・・準備ができたら、波止場に来い」
それだけを伝えるとグラジオは出て行き、ヨウカはしばらく立ち尽くしていたがハッと我に返るとエーテルハウスに設置されている回復装置でポケモンを回復させた。
「いくんだな?」
「うん」
ツキトの問いに対しヨウカはうなずくと、モンスターボールをしっかりベルトにつけて、エーテルハウスを出て行った。
「・・・来たのか」
「うん、来たよ」
日が暮れ始めてきた頃。
ヨウカはグラジオが待っている波止場まで来た。
彼とともに友達を、リーリエを救うために。
「・・・だが、まだ行かない」
「まだ?」
「実は、ハウには一喝を入れたところだったんだ」
「え、ハウくんにも?」
「ああ・・・」
そこでハウの名前を出しつつ、グラジオはヨウカがセイルとともにポータウンに行っている間になにが起きていたのかを説明した。
彼はリーリエとコスモッグがスカル団に連れて行かれたと知ると、エーテルハウスに乗り込んだが、そこには子ども達とハウがいた。
グラジオはなよなよしたハウを見て怒り任せに怒鳴ったのだ。
「お前が不甲斐ないから、リーリエもコスモッグも、奴らに連れて行かれたんだ!!」
と。
ハウは言葉を真に受け、さらにグラジオが本気で怒っていることにたいして戸惑っていた。
そんなハウにたいし、グラジオはリーリエとコスモッグを連れ戻しにいくとだけ告げた後で、ヨウカが戻ってくるのを待っていたのだ。
彼女なら間違いなく、自分に手を貸してくれると信じて。
「・・・だが、オレはあいつの可能性を信じてみたくもなった。
自分の過ち、そして弱さ・・・それと向かい合って立ち上がって、俺達と共に来て戦う・・・と。
そのときのハウは、今までよりずっと強いと思っている。
だからオレは、ハウのことも・・・このまま待つことにしている」
ハウを信じることを決めていたグラジオを見て、ヨウカは微笑みながら言った。
「・・・ハウくんは必ず来るよ、絶対に」
「・・・そうだよな・・・」
「グラジオくん?」
ヨウカが首を傾げると、グラジオは淡々と語り始めた。
「あいつは・・・面白い奴だよな。
しまキングという偉大な祖父を持ちながら、それでも明るく自分のペースで居続けている」
「・・・あなたもあなたなりに、ハウくんを結構気にかけてたんだね」
「・・・あいつは、才能がないわけじゃない。
ただ、しまキングである祖父と自分を、無意識に比べてしまっていただけだ。
たとえ比べてしまって劣っていると思ってしまっていても、大事に思う故に悪く言えない、それ故にスランプになり悩む。
あいつはまだ、全然いい・・・成長できる悩み方ができているんだ。
そして、それを乗り越えれば・・・オレより強くなれる」
「・・・そうだね・・・きっと、そうだよ」
そうやってハウのことで話していたヨウカだったが、そこでふとあることが気になった。
彼はスカル団と縁を切る覚悟を決めてまで、自分達に手を貸し頼み込んで信じて、リーリエとコスモッグを助けだそうとしている。
コスモッグだけならず、一緒にいたリーリエまで助けようとするのにはなにか、意味があるのだろうかと。
ヨウカはその疑問を直接、グラジオにぶつけた。
「でもグラジオくん、リーリエちゃんを助けるために動くなんて・・・どうして?
それも・・・スカル団のケジメなの?」
「・・・それは」
グラジオは言い辛そうにしながら、ゆっくり口を開こうとした。
だが。
「ちょっとゴメンよ」
「うぉわ、クチナシさん!?」
「!?」
突然割り込んできたクチナシに対しヨウカとグラジオは驚く。
「クチナシさん・・・どないしたんですか?」
「いい雰囲気をぶちこわすKYなおじさんだけどよぉ、やるべきことがあるのよ」
「そ、そんなんじゃ・・・!」
あわてているグラジオを横目に、クチナシはヨウカと向かい合う。
「嬢ちゃん、大試練のことを忘れちゃいねぇだろうな?」
「・・・もちろんです」
「そっちもそっちで用があるみたいだし、一対一の一発勝負でケリつけようや」
「はいっ!」
さらにセイルが姿を見せてきた。
「俺が審判をつとめます」
「セイルさん」
「おう、頼むぜ」
「これより、大試練をはじめる!
ルールは一対一、どちらかのポケモンが戦闘不能になった時点で終了と見なす!
それでは、試合開始!」
そうして始まった大試練のポケモンバトル。
「いけ、ペルシアン」
「おねがい、タツくんっ!」
クチナシはペルシアンを、ヨウカはコモルーのタツくんを出した。
先手をとって動いたのはペルシアンで、まっすぐにつじぎりで攻撃してきた。
その一撃を耐えたタツくんはりゅうのいぶきでペルシアンを攻撃しようとしたが、ペルシアンはめざめるパワーで相殺した。
「あくのはどう」
「まもるからのドラゴンクロー!」
防御しつつ攻撃するタツくんだったが、動きの鈍いコモルーがペルシアンのスピードに追いつけるわけもなく、そのままペルシアンのつじぎり攻撃を受けてしまった。
さらにおいうち、あくのはどうを連続で受けてタツくんの体力は一気に減ってしまう。
(やっぱりクチナシさん・・・強い・・・!
しまキングというのは、伊達じゃないんだ・・・!)
ヨウカはそう思いながらも、ただひたすらにタツくんに技を指示する。
「タツくん、りゅうのはどう!」
「かげぶんしんでかわせ」
ペルシアンはタツくんの技を、かげぶんしんで回避するときりさくでタツくんに攻撃しにかかる。
それにはドラゴンクローで迎え撃ち相殺、そこからかえんほうしゃを浴びせることはできたが倒すにはいたらず、みだれひっかきが炸裂してタツくんは一気に弱った。
「タツくん・・・!」
「俺に勝てなきゃ、お友達を助けるなんてできねぇぜ」
「・・・っ」
クチナシに言われて、ヨウカは歯を食いしばった。
彼の言うことはもっともだ、ここで負けたら決意を無駄にしてしまう、タツくんにも悔しい思いをさせてしまう。
どんな相手でも、決心したところで出鼻をくじかれた気持ちにはなりたくない。
その気持ちで、ヨウカは叫ぶ。
「あたし・・・あたしは・・・こんなところで、負けるわけにはいかない!
あなただって負けたくないよね、タツくん!」
「クォォモォォォ」
「・・・!?」
そのとき、タツくんの身体が輝きだした。
体は大きくなりその背には大きな翼が生え、その翼で大きく羽ばたきながら飛び上がり、タツくんは新たな姿をヨウカ達に見せた。
「タツくん・・・!」
「あれは・・・ボーマンダだロト!」
タツくんが、ボーマンダに進化したのだ。
目の前で進化したポケモンを見てヨウカはにっと口角をあげたあと、技の名前を叫ぶ。
「タツくん、ドラゴンクローッ!」
コモルーの頃は遅くて命中させにくくなっていたその技は、ボーマンダに進化したことですべての能力が上がったことでペルシアンに命中、そのまま戦闘不能にさせるまでになった。
この結果に、クチナシも驚きの感情が顔に現れていた。
「・・・!」
「・・・ペルシアン戦闘不能、ボーマンダの勝ち!
これにより、挑戦者ヨウカは、大試練を達成したものとする!」
「いいやったー!
タツくん、やったね!」
「グゥゥオオォゥ」
ヨウカはタツくんの顔にすり寄って、勝利を喜んだ。
すり寄られるボーマンダは目を細めており、ヨウカを受け止めていた。
「負けたみたいだな」
「・・・ああ、俺の完敗だ。
嬢ちゃんはつえぇよ」
そう言いクチナシはヨウカのトレーナーパスに、ウラウラ島のスタンプを押した。
それは、大試練を達成した証だった。
「ほい、大試練突破、おめでとさん」
「ありがとうございますっ!」
「っと、副賞もやらなきゃな・・・。
あくZのZクリスタル、そしてこれは俺からの選別だ」
クチナシがヨウカに手渡したのは黒いZクリスタルと、触ると少し冷たい、水色の透明な石だった。
「これは?」
「こおりのいし、ポケモンを進化させる道具だぜ。
たまたま見つけたモンだけどな・・・お前さんの持ってるポケモンになら使えるぜ」
「・・・」
ヨウカはその石を少し見つめてからバッグに入れると、グラジオはタツくんのダメージを回復させる。
そうしていると、遠くから少年の声が聞こえてきた。
「おーい!」
「あ、ハウくん!」
その少年の声の正体は、ハウだった。
彼の顔からはあのときの落ち込みや弱気なところは感じられない。
「ハウくん、きたんだ!」
「こーなったら、やけくそでもいいからー!
みんなを笑顔にするためにー・・・腹括ったのー!」
「・・・フッ」
ハウが全てを振り切って、駆けつけたことにグラジオは小さく笑ったようなリアクションをとりながら、ツキトに声をかけた。
「船を動かしてくれるか」
「ああ、もちろんだぜ。
さぁみんな、この船に乗ってけよ!」
ツキトがそう号令をかけると、ハウとグラジオはすぐに乗り込んだ。
「オレもいく」
「セイルさん!」
続けて、セイルもその船に乗り込んできた。
「グッドラック、だな」
「ん、行ってくるよっ!」
素っ気なくも感じるが、それはクチナシなりの激励だろう。
ヨウカは彼の言葉に対し元気よくそう返すと、彼らに続いて船に乗り込む。
全員が乗り込んだことを確認したツキトはグラジオとアイコンタクトをとった後で船を動かし始めた。
「よーし、このまま全力で、船を出発させるぜ!」
「おーっ!」
そう大きな声を響かせながら、船は出航する。
「・・・」
船が見えなくなるまで、クチナシはその船を見送っていたのだった。
その目は何か、深い闇を見ているかのようだった。
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