真・恋姫無双〜魏・外史伝〜42 2.0ver.
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第十八章〜外史を喰らうもの・前編〜

 

 

 

  「ん・・・、んむ〜・・・。」

  「お目覚めですか、貂蝉?」

  「あらぁ・・・、一体何処のいい男かと思ったら・・・、干吉ちゃんじゃぁない。」

  「・・・随分と痛めつけられてしまったようですね。」

  「話には聞いていたけど、まさか左慈ちゃんがあそこまで使いこなしているなんて・・・。

  あ、あいたたた・・・ぁあ。もう〜自慢の『乙女』のお肌が台無しだわね〜・・・。」

  「ふむ、貴方ほどの人物が後れを取るとなると、これはいささか面倒な事になりますね・・・。

  今、北郷殿に倒れられては困ると言うのに・・・。」

  「ちょっと〜・・・、干吉ちゃん!少しは慰めの言葉の一つでもかけてあげるのが、紳士って

  もんでしょうよ〜!?」

  「・・・では、傷を見せて下さい。術で治します。『癒』!」

  「あ〜〜〜ん♪気持ちいい〜〜〜〜!!!」

  「・・・・・・。さて、傷も癒えた事ですし、もう一仕事をしてもらいますよ。」

  「もう〜っ!干吉ちゃんは本当に人使いが荒いわねぇ!」

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  「愛紗ぁ、生きとるかぁ?」

  「ああ、だが・・・、あまり生きた心地がしない。」

  「そうかぁ、まぁうちらも最初はそんな感じがしたで。連中と戦っていると、こっちがどうにかなり

  そうや。」

  「ようやく倒したとしても、次から次へと湧いて出て来る。これではきりがない。」

  「おまけにこの間戦った時より、手強くなっとるで。」

  「他の者達の方も気になるが・・・。」

  「この状況で他人の心配している余裕はないやろ?」

  「・・・そうだな。」

  「まぁ、それでもあのでかい奴がいないだけまだましかもな〜。」

  互いに背を向け合う愛紗と霞・・・。その時、彼女達の頭上を影が二つ、通り過ぎる。

  「ん?」

  二人はその影を確認すべく、頭上を見上げる。

 

  「あっはははははははははぁぁあぁあああ!!!」

  「・・・ッ!!」

  ブォウンッ!!!

  屋根から屋根へと飛び移る際、女渦に斬撃を放つ朱染めの剣士・・・。しかし、その斬撃は空を切る。

 空中にいながら、女渦は体をひねって紙一重で避けたのだ。

  「・・・っと!」

  屋根の上に降り立つ女渦。剣士はすかさずそこに剣を振り下ろすが、女渦は屋根を蹴って後ろへと飛び

 ずさる。振り下ろされた剣は屋根の瓦を砕き、破片が宙に舞い上がる。

  「っははぁ!ほらほら、こっちこっちぃ!」

  女渦は両手でこっちに来いと挑発する。朱染めの剣士はその挑発に乗るように、離れた間合いを縮めて行く。

  ブォウンッ!!!

  ブォウンッ!!!

  ブォウンッ!!!

  朱染めの剣士の流れる連続の斬撃を後ろに下がって避ける女渦。

  ブォウンッ!!!

  「おっと。」

  ガギィィッ!!!

  剣士の放った斬撃の軌道を読んだのか、女渦は彼の剣を踏みつけその斬撃を止めると、そこから後ろに

 宙返りする。降り立った先は屋根の下、そこは今戦場の中心・・・。人と人の中に紛れ込んでいく女渦。

 それを追いかけ、剣士も下に降りる。それに合わせるかのように、襲いかかって来る敵三人。

  「・・・ッ!」

  朱染めの剣士はその場にしゃがみ込む。敵三人は彼に刃の切っ先にて貫いた。

 が、その切っ先が貫いたのは彼が身に纏っていた赤く染まった外套。彼の姿は無かった。

  ザシュッ!!! 

  ザシュッ!!!

  ザシュッ!!!

  そして敵三人の体から血が吹き出し、その場に倒れる。

 外套を脱ぎ捨てた彼に容赦なく襲いかかる敵達。しかし、愛紗達が苦戦する相手を彼は難なく斬り捨てて

 行く。流れるような彼の動きに、それを見ていた兵士達は呆気にとられる・・・。

  「す、すごい・・・!」

  「連中をあんないとも容易く斬り捨てるやなんて・・・何者なん?」

  そしてそれは愛紗、霞とて例外では無かった。

 一人の敵が朱染めの剣士に襲いかかって来る。剣士は迎撃するべく動きを合わせる、その瞬間・・・、何の

 前触れもなく、敵の腹が裂け、大量の血と共にそこから女渦が飛び出し、右手を彼に伸ばす。

  「くぅ・・・ッ!?」

  朱染めの剣士は上半身を後ろに反らし、下半身で重心を左にずらす事で、女渦の右手を交わす。

 そしてすかさず、その体勢から体を回転させ、斬撃を放つ。

  ザシュゥゥウウウウウッ!!!

  その斬撃によって腹を引き裂かれた敵は腰の部分で一刀両断されるが、女渦の姿が無い・・・。

  ビュウンッ!!!

  ビュウンッ!!!

  何処からともなく、朱染めの剣士に向かって飛んでくる剣。彼は地面を蹴って、後ろへと下がって回避する。

 地面に突き刺さった剣の柄の上に降り立つ女渦。片足で器用に柄の上に立つと、そこから剣士を見下ろした。

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  「あ、あいつは・・・!」

  その女渦を戦いの中で見つけた鈴々。

  「どうした鈴々?」

  近くにいた翠が鈴々に声をかける。

  「あいつ・・・、おっちゃんを連れて来た男なのだ!」

  「はぁ・・・?」

  鈴々の言っている事が分からない翠。そこに桔梗がやって来る。

  「うむ。確かにあ奴はあの時の男・・・。しかし、何故あ奴がここに?」

  「いや、あの・・・桔梗?あたしには何が何だかさっぱしなんだが・・・。」

  頭に?を浮かべる翠。

  「つまり、あいつは敵なのだ!」

  「なら、先にそう言ってくれよ!」

  鈴々の説明にようやく納得する翠であった。

  

  「だが、そうなるとそいつと対峙しているあいつは誰なんだ?」

  別の所から見ていた白蓮は朱染めの剣士の方について、焔耶に聞く。

  「わ、私に聞くな・・・!」

  「・・・彼は、ひょっとしたら『朱染めの剣士』かもしれないわね・・・。」

  困惑する焔耶の傍で、代わりに答える紫苑。

  「朱染めの剣士って、あの噂の・・・?何でこんな所に?」

  蒲公英は疑問を浮かべる・・・。

  「それは私にも分からないけれど・・・、少なくとも私達に危害を加える様子は無いみたいね。」

  「じゃあ、味方なのかな〜?」

  「そうだと有り難いのだけど・・・。」

  「ふんっ!あんな男がいなくとも、我々だけで十分だ!」

  「・・・よくいうよね〜。」

  「何か言ったか?」

  「べっつに〜♪」

  

  「・・・・・・。」

  朱染めの剣士を睨みつける様に見る凪。

  「ねぇ、凪ちゃん。あの人・・・さ。」

  凪に声をかける沙和。

  「やっぱり、お前もそう思うか?」

  「何や、二人もうちと同じ事考えてんのか?」

  「真桜も・・・そう思うか?」

  「まぁな〜・・・、髪が少し長いのと、目が隠れているせいで何とも言い切れへんけど・・・。」

  「あれは・・・どう見ても・・・なの。」

  「あぁ・・・、隊長にそっくりだ。」

  「どういう事なの・・・?」

  「分からない・・・。他人の空似かもしれない。」

  「本当にそうなんやろうかな〜・・・。」

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  朱染めの剣士は腰に下げていたもう一本の剣を左手で鞘から抜き取った。それはまさに南海覇王。

 両手にそれぞれ剣を取り、二刀流の形になる・・・。地面を力の限り蹴り、一気に女渦との間合いを縮める。

  ガギイイインッ!!!

  女渦が立っていた剣を叩き折る。が、すでに女渦の姿は無かった。

  「こっちこっち♪」

  「ッ!?」

  背後から聞こえる女渦の声。朱染めの剣士は振り返りながら、横薙ぎの斬撃を放つ。

  ドゴォッ!!!

  が、その一撃は空を切り、彼の目下から蹴りを喰らう。女渦はしゃがんだ体勢から彼に蹴りを放った。

 女渦の蹴りは顎を捉え、体勢を崩す朱染めの剣士。そこにすかさず女渦は彼の首を掴むべく、右手を伸ばした。

  ドゴォオオッ!!!

  「ぶひょおッ!?!?」

  女渦は横から飛んできた影にぶつかり、右手が朱染めの剣士の首を掴む前に、吹き飛ばされる。

 派手に吹き飛ばされた女渦だったが、宙で身を翻し、まるで猫の様に地面に足から着地した。

  「大丈夫か?」

  そう言って片膝をつく朱染めの剣士に手を差し伸べる一刀。

  「・・・・・・。」

  差し伸べられたその手を黙ったまま見ていた朱染めの剣士だが、その手を取らずに立ちあがる。

 自分のさり気ない親切心を無視され、一刀は軽く溜息をつきながら、差し伸べた手を引いた。

  「・・・君は?ああ、そうかそうか。君はこの外史の!伏義を倒しちゃった一刀君じゃないかぁ!!」

  それを聞いた一刀は刃の切っ先を女渦に向ける。

  「お前、伏義の仲間か!?」

  「ふふふ・・・、そうだよ。その様子だと、彼から何も聞いていないようだね?」

  そう言いながら、女渦は服に着いた土を払い除ける・・・。

  「お前達の目的は何だ!?」

  「目的は何だって言われても・・・、そう簡単に教えると思っているのかな?」

  「だよな・・・。なら、実力行使で聞きだす!」

  「あっはははは!!大人しそうな顔して、随分好戦的だね〜!無双玉の副作用?のせいかな。」

  「くっそぉ〜・・・、外史だの、無双玉だのと・・・わけの分からない事を言いやがって!!」

  「わけの分からない?そりゃそうだ!だって分かる様に言ったつもりないもん!!あはあはははは

  はははははっはははは!!!」

  「こいつッ・・・!」

  「止めろ・・・!」

  血が頭の頂点に達しようとした時、朱染めの剣士はぎゅっと前のめり気味の彼の肩を掴み、

 今に女渦に飛びかかろうとするのを抑止する。

  「本当の事が知りたいのなら、干吉に聞け・・・。」

  「干吉・・・って、あんたは一体・・・?」

  「俺の詮索をしている暇が、あるなら・・・、奴を倒す事に集中しろ・・・!」

  そう言うと、朱染めの剣士は自身の剣を握り締め直すと、今度は何も言わず、一刀よりも先に前へと

 出ていく。一刀は内心納得半分ではあったが、この場はこの男に従うのが最善だろうと考え、

 自分の戸惑いを押し殺す事にした。

  「あれ?あれれれ!?もしかしてダブルですか!二人揃っての、ダブルですか!?

  いやっはははあはははははは!!いい!いいよ!最高だよ、この外史!!消滅させるのが勿体無い

  よーーー!!あーーーっはははあっはあはははははははははははは!!!」

  一方の一刀の心境を知ってか知らずか、女渦は発狂したかの様な声を出して笑っていた。

    

  「・・・・・・。」

  「あ、あの・・・、華琳さん?」

  仁王立ちで一刀達がいる方向をずっと見ている華琳に、おそろおそる声を掛ける桃香・・・。

 まるで、嵐の前の静けさの様に、異様に静かな華琳に周囲の人間は彼女から数歩離れた所にいた・・・。

  「・・・桃香。」

  「はいぃい!?」

  もの凄く低音の声で自分の名前を呼ばれ、思わず声が裏返る桃香。

  「・・・最近、分かった事があるの。」

  そんな桃香に目もくれず、言葉を続ける華琳・・・。

  「あいつ・・・、一刀は・・・、自分は私のものだと言いながら、その実、私のものになろうとしない。」

  「は、はい?」

  「あいつがこの世界に戻って来てからはその思いをさらに強くしたわ。私が待ちなさいと言っても、ここに

  いなさいと言っても、行かないでと言っても、一刀は私の元から離れていくの。」

  「は、はぁ・・・。」

  「ねぇ桃香・・・、どうすればいいのかしら?」

  「ふぇ!?な、何をですか?」

  「やっぱり、あいつの両足を切り落とすしかないのかしら?」

  「い・・・、いやいやいやいやいや!!何かとんでもない事を言っているようですけどぉ!!」

  一刀の勝手な行動に、若干病み始めているのか・・・。華琳は、愚痴をこぼすと同時に、どうしたら

 一刀が自分のものになるのかを詮索していた・・・。それを直感で察知した桃香は何とか思い止まらせよう

 と躍起になっていた・・・。

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  「ふんッ!!」

  「はあッ!!」

  ブォウンッ!!!

  ブォウンッ!!!

  「あっははははぁぁあああッ!!!」

  一刀と朱染めの剣士の同時の猛攻撃を相変わらずに紙一重で避ける女渦。

  「くっそ、ちょこまかと・・・はぁッ!」

  先程から女渦に攻撃が届かず、その上のこの男の挑発的な態度に焦りと苛立ちから、咄嗟に放った

 一刀の動作が大きくなる。

  ブォウンッ!!!

  「ふっ!」

  一刀が放った横薙ぎを上半身を後ろに反らして回避する女渦。

  「甘い!」

  ドガッ!!

  女渦の足にしゃがみ廻し蹴りを放つ朱染めの剣士。

  「ふぉッ!?」

  上半身を反らしていた女渦は体勢を崩し、後ろに背中から倒れる。

  「そこ!」

  「おりゃっ!!」

  その隙を逃すまいと一刀と朱染めの剣士は剣を仰向けに倒れた女渦に振り下ろす。

 

  ポンッ!!!

 

  瓶の栓が抜けた時の音が鳴る。二人の剣が地面を割る。そこに女渦の姿は無かった。

  「な!消えた・・・!?」

  目の前で起きた事に驚く一刀。伏義と同様、高速移動したのかとも思ったが、もしそうなら感覚的に

 知覚できるはず・・・。だが、そんな気配は全くなかった。

  「油断するな!」

  「え、なッ!?」

  朱染めの剣士に襟元を掴まれ、後ろに投げ飛ばされる。

 すると、突然上から大きなモノが落ちて来る。それを見た一刀は驚きのあまり、言葉を失くした。

  「い、家が・・・まるまる落ちてきた・・・。」

  上から落ちて来たのは大きめの一軒家だった。地面に落ちた衝撃で柱が折れ、家は屋根の重みに耐えられず

 潰れてしまった。一刀は慌てて立ち上がる。

  「何が起きたんだ!?」

  「これも奴の仕業だ・・・。」

  「仕業って・・・。」

  「奴の手に触れたモノは如何なものだろうと、別の場所へと瞬時に移動させる。どういう原理かは

  知らないが・・・。」

  「『瞬間移動』ってやつか・・・?伏義といい、何でもありだな。」

  「それは俺達とて同じ事だ。」

  「そうだな・・・って、待ってくれ。それってどういう・・・?」

  「あっはははははははははははははぁあああ!!!」

  何処からともなく、聞こえてくる女渦の笑い声・・・。周囲を見渡してもその姿が見えない。

  「やるねぇ、二人とも。でも・・・、これはどうかなぁあああ!!!」

  パチンッ!!!

  「・・・来るぞ!」

  「・・・えッ!?」

  ビュンッ!!!

  「うわ!?」

  ザシュッ!!!

  一本の矢が二人の間に入り込むように、地面に突き刺さる。それを合図といわんばかりに、四方八方から

 矢が飛んでくる。一刀と朱染めの剣士は互いをかばい合うように、矢を叩き落としていく。絶え間なく飛ん

 でくる矢に対応するべく、二人の動きはいつしか常人の目では捉えられなくなっていた・・・。

  「「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・!」」

  ようやく矢の雨が止むと、二人は息が上がっていた。矢を全て避けたとは言えず、一刀は右肩、左太腿を

 朱染めの剣士は右胸、背中、左腕に矢が刺さっていた・・・。

  ドガァッ!!!

  「ごはぁッ!?」

  「ッ!!」

  突然、一刀が後ろへと吹き飛ぶ。それを目で追いかける朱染めの剣士。

  「余所見は禁物だよ!」

  「ッ!?」

  ブォウンッ!!!

 声がした方向に反射的に剣を振るが、そこには誰もいない・・・。

  ザシュッ!!!

  「ぐあ・・・!!ああ・・・!」

  突然彼の右下の腹部から右腕が飛び出す。否、後ろから背中越しに貫かれたのだ。

  「あっははははぁあああ♪」

  彼の背後から耳もとに囁く女渦。

  「ぐ・・・、くぅ!」

 朱染めの剣士は両手から剣を落とすと、咄嗟にその腹部から飛び出した女渦右腕を右手で掴み取るとそのまま

 強引に引っ張る。

  「なにぃ?!」

  そして今度は女渦の左腕を左手で掴みとる。それによって、女渦の腹と朱染めの剣士の背中がは密着した

 状態になり、その上、女渦の両手が宙で遊ぶ形となった。

  「・・・お前もこれで終わり・・・、だな。」

  今度は朱染めの剣士が背後にいる女渦に向かって囁いた・・・。

  「な・・・!そんなまさか・・・!?」

  女渦は後ろを振り返る。

  「女渦ぁあああっ!」

  そこには高く飛び上がり、剣を振り上げた一刀の姿があった。

  「うおおおおおおおおッ!!!」

  そして女渦の背中に向かって、振り降ろした。

  ブオゥンッ・・・!!!

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  「北郷ぉおおおおおおおおおッッ!!!」

  ドガァアアアッ!!!

  「な、お前!!ぐわぁッ・・・!!」

  突然背後から左慈に蹴られる一刀。為す術もなく、一刀は朱染めの剣士と女渦の頭上を通り過ぎる形で

 吹き飛んで行った・・・。そして、その先には先程上空から落ちてきた一軒家が・・・、一刀はその屋根に

 激突し、その際に上がった粉じんの中に紛れる。

  「何・・・?!」

  思わぬ左慈の介入に、困惑する朱染めの剣士。彼が介入して来なければ、女渦を倒す事が出来たというのに。

  「くっふふふ・・・、どうやらまだ僕の命運って奴はつきていないようだ、ね!」

  そう言って、女渦は朱染めの剣士の右肩に噛みつく。

  「ぬぐ・・・ッ!?」

  彼が怯んだ隙を突く様に、女渦は密着していた体の間に右足を入れ、強引に彼から離れる。

  「が、は・・・ッ!!」

  貫かれた右下腹部にぽっかりと大きな穴が出来るが、そこから血が流れる事は無かった。

 朱染めの剣士は貫かれた腹部を庇うように、南海覇王を拾い上げる。

  「肉を切り骨を断つ、君の行動も彼のせいで無駄に終わったようだね〜!あっははははははははは、

  笑っちゃうようねぇえええッ!!!」

  「・・・・・・・・。」

  高笑いする女渦・・・、一方で顔を歪める朱染めの剣士・・・。形勢が逆転した事は誰が見ても分かる

 事だった。

  

  「ぐぐ・・・、あ、ぁああ・・・!」

  割れた瓦を下敷きにしてうつ伏せに倒れる一刀。受け身をとる事が出来ず、まともに衝撃を体に受けて

 しまい、呼吸がまともに出来ない・・・。何とか立ち上がろうとするが、体に力が入らない・・・。

  「貴様を殺せば・・・、俺は・・・、この無意味な運命から解放される!」

  そんな一刀の背後に立つ左慈。

  「な、何・・・だって?」

  「そしてそれは外史喰らいによってでなく、俺自身が成し遂げる!この手で!!」

  一刀は刃を探す。そして見つけたのは良かったが、刃は一刀の手の届く範囲の外側に横たわっていた。

  「これで終わりだ・・・。」

  そう言うと、左慈の右足が青白いオーラ状のものに包まれる・・・。

 そして左慈は一刀に止め刺すべく、飛びあがる。宙で勢いよく体を回転させるながら一刀の上に落ちる。

 青白く輝く右足が回転する度に残像として残る。

  「死ねよ!!北郷っっっ!!!」

  「ッ!!!」

  そして、左慈の右足から蹴りが放たれる・・・。

  「『防』!!」

  キィイイイインッ!!!

  「ぬぐ・・・!?」

  左慈の蹴りは一刀に届く事は無かった。左慈の右足は見えない何かによって、弾き返されると左慈は後ろへ

 と宙返りしながら着地する。

  「『縛』!!」

  「・・・!!」

  そして今度は、金縛りになったかの様に、その体勢のまま身動きが取れなくなる。

  「間一髪・・・、といった所ですかね。」

  左慈の目の前に、突如として現れたのは白装束を身に纏った眼鏡の男・・・。

  「大丈夫、一刀ちゃん?」

  「貂蝉・・・。」

  そして同時に一刀の側に駆け寄り、体を支えるのは貂蝉だった。

  「・・・干吉。貴様も・・・、俺に気がある様な事を散々吐きながら、結局そちらの側につくと言うのか!?」

  左慈は干吉に向かって怒りぶつける。干吉はその怒りを流すと口を開いた。

  「勘違いなさらないで下さい。これはあなたの事を思ってしている事なのですよ?」

  「ふん・・・!ほざいてろ!俺の事を思っているのなら・・・。」

  左慈の体から青白いオーラが発せられる。

  「ん・・・!?」

  それを見て、干吉は表情を一変させる。

  「そこをどけぇぇえええええええええッ!!!」

  何かが弾ける音がすると、同時に身動きが取れなかったはずの左慈が干吉に近づく。

  ドゴォッ!!

  「ぐ、は・・・っ!」

  左慈の直蹴りが干吉の腹部にまともに入り、干吉は後ろへ吹き飛ばされる。

 それと入れ替わるように、一刀が前へと走る。

  「お〜っと!」

  吹き飛ばされた干吉を貂蝉が受け止めた。

  「うおおおおおおっ!!」

  ドゴォオッ!!

  「ぐぅ・・・!?」

  一刀は左慈の顔に右スレートを叩き込む。思わぬ反撃に、左慈はまともに喰らってしまう。

  「はああああああっ!!」

  ドゴォオッ!!

  「ぐはぁ・・・っ!?」

  一刀はさらに左ストレートを叩き込む。顔に二発も拳を叩き込まれた左慈は、片膝をついた。

  「・・・はぁ、・・・はぁ。・・・はぁ。」

  一刀もまた肩で呼吸しながら、片足をつく・・・。すでに体力も限界に達し、体が悲鳴を上げていた。

  「ほ、北郷ぉぉぉおおお・・・!!」

  一刀を睨みつけながら、立ち上がろうとする左慈。しかし、足に力が入らないのか、また片膝をつく。

 先程の一刀に受けたダメージが頭に残っているのだろう。

  「・・・ぐ、ぐぁぁああああ!?・・・がぁあぁあっぁあああああああ・・・!!」

  「・・・!?」

  突然、苦しみ出す左慈。何が起きたのか分からない一刀。前のめりになりそうな体を片腕を地面に突く事で

 支える。

  「が、ごぼおううおうおおうお・・・ッ!!」

  今度は左慈の口から大量の血が吐き出される。

  「干吉ちゃん、あれって・・・!」

  「当然の結果です。一度にあれだけの力を使えば、体の方が先に限界に達する・・・。力の乱用は身の破滅

  を意味する。」

  「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・!」

  吐き出せるだけ血を吐き出した左慈、一刀同様、肩で息をする。

  「左慈!もう止めるのです!」

  「うるさい!貴様に指図される覚えなど無い!」

  左慈は裾で口を拭いながら、両足で立つともう一度一刀を睨みつける。

  「貴様さえ・・・、貴様さえいなければ!」

  「・・・・・・。」

  そう言い残して、左慈は一刀達の前から去って行ってしまった・・・。

  「左慈!待ちなさい・・・!!」

  「駄目よ、干吉ちゃん・・・。もう行ってしまったわ。」

  「・・・左慈!」

  干吉がいつになく冷静さを欠いていた・・・。それほどまでに左慈の行動は彼にとって、あり得ない事で

 あったのだ。

  「・・・それよりも干吉ちゃん、今、気に掛けるべきなのはもう一人の一刀ちゃんの方じゃないかしら?」

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  「ぐ・・・!」

  全身ボロボロになった朱染めの剣士・・・。彼の体は所々が抉られ、骨が見えている箇所もあったが、

 何故か出血が無い・・・。

  「死に体でも痛みはまだ健在のようだね?ふっふふふふ・・・、おかげで君の苦痛に悶える姿を拝める

  わけだけど、あはははは♪」

  「・・・・・・。」

  じりじりと近づいて来る女渦。朱染めの剣士は後ろへと下がっていく。

  「・・・・・・。」

  何を思ったのか、立ち止まり考え込む女渦。

  「・・・でも、どうしようか?このまま君を殺すのもいいけど、あえてそうしないで・・・。」

  そこで一旦区切ると、女渦は口の両端を引き上げる。

  「ここは一つ、孫権ちゃん達を殺してからの方がいいかな?」

  「なっ!?」

  「うん、それがいいなぁ!そうした方が君はもっと絶望する!そして絶望に打ちひしがれる君を僕が殺す!

  うんうん、いいね♪」

  一人納得する女渦。そして横目に朱染めの剣士を見る・・・。その目を見た彼は・・・。

 脳裏に焼きついたあの時の光景が、フラッシュバックする・・・。取り返す事の出来ない、あの過去の光景が。

  「・・・させない・・・。」

  「うん?」

  「・・・させるかぁぁあああっっ!」

  朱染めの剣士の全身から青白いオーラ状のものが炎の様な勢いで発せられる。

  「はぁぁああああああああああああああッ!!!」

  両手に握られた剣に力が込められる。

  ブオウンッ!!!

  ザシュゥゥゥウウウッ!!!

  「なぁっ!?」

  一瞬の出来事のように、朱染めの剣士が放った斬撃が初めて女渦の体を切り裂いた。

  ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!ザシュッ!!!

  そこに間髪入れない斬撃を次々と叩き込み、最後に南海覇王による下から上への切り上げを放つ。

 女渦の体は為す術もなく、宙へと舞い上がる。傷口から血が吹き出しながら、下に落ちて行く女渦。

 その血は朱染めの剣士にかかる・・・。

  ドサァッ!!!

  背中から地面に落ちた女渦・・・。女渦の体から大量の血が流れ、血だまりが出来る。

 普通ならば、これだけの血が体外に出れば、死ぬはずである・・・。だが、この男にその普通は通じなかった。

  「あっはははははは・・・。こりゃぁ、参った・・・。この展開はさすがに無いなぁ。」

  そう言うと、女渦は何事も無かったかのように体を起こす。傷口はすでに塞がり、出血も止まっていた。

  「でも、それでも僕は死なない・・・。だって、僕は普通じゃないから♪」

  「・・・知っている。」

  「あ、そう・・・。とは言ったものの、さすがにここまで痛めつられちゃあ、何事も無しというわけには

  いかないの。・・・だから、僕はこの辺で引き下がるよ。君の方も、もう体にガタがきているんでしょ?」

  「・・・・・・。」

  「あ、その様子だと、図星のようだね?なら、ここは痛み分けとしよう。それじゃあ、また会おう・・・。

  一刀君・・・♪あっはははははははははははは・・・!!」

  笑い声を残しながら、その姿を消す女渦。

  「・・・・・・、ぐふぅ・・!がは・・・ぁあああ!」

  突如として、苦痛に悶える朱染めの剣士。両手の剣を地面に落とすと、そのまま横に倒れる。

  「ぐ・・・、ぐぁああぁあぁぁああああっ、ゥウゥゥヴウウヴウウウゥウゥゥァァアアアッ・・・!!」

  地面をごろごろ転げまわる朱染めの剣士・・・。そんな彼の側に現れたのは、干吉であった。

 彼の姿を捉えた朱染めの剣士は、彼の足にしがみついた。

  「・・・ァッァアアア!!・・・、う、干吉!!時間が・・・、時間が短く、なっている・・・!」

  「・・・分かっています。やはり、玉に貯蓄されていた『外史の情報』がかなり消費されているようですね。」

  「う、干吉!た・・・、頼む・・・!早く・・・、はやく、俺を・・・!」

  「・・・分かりました。・・・『送』!!」

  干吉の口から放たれた言葉によって、朱染めの剣士はその場から消え、辺りは静けさに覆われる・・・。

  「う、干吉・・・。」

  干吉の後ろから、彼の名前を呼んだのは全身満身創痍の一刀であった。

  「あなたが言おうとしている事は分かっていますよ、北郷・・・一刀。」

  そう言って、後ろを振り返る干吉。

  「私は・・・、あなたに真実を伝えるべくここへ参ったのですからね。まぁ・・・、多少のイレギュラー

  はありましたがね・・・。」

  そう言いながら、眼鏡をかけ直す・・・。

  「あなたは知らなくてはならない・・・。あなた自身の事を、この世界の事を、奴等の事を・・・、

  そしてあなたに課せられた使命を・・・。」

  「・・・・・・。」

  「なら、私達も聞かせてもらいましょうか?」

  「・・・・・・。」

  「・・・華琳。」

  彼等の前に現れたのは、華琳と桃香だった。いつの間にか彼女達が戦っていた武装集団の姿はもうどこに

 もなかった。恐らく、女渦がこの場から姿を消したからだろう・・・。

  「・・・私達も聞かせて欲しいわね。」

  そしてそこに新たに現れたのは、ボロボロになった雪蓮だった。

  「雪蓮さん!」

  「あら雪蓮・・・。姿が見えないと思ったら、どうしたのかしらその格好?男でも欲しいの?」

  「あなたが言うと、嫌味にしか聞こえないわね・・・。」

  「・・・いいでしょう。あなた方にも聞く権利はあります。」

  「話が分かるようね。でもその前に少しこちらにも時間を頂こうかしら?話を聞く準備というものが

  あるから・・・。」

  「それは構いません。」

  「ありがとう・・・。さて、一刀?」

  一刀に向かって、にっこり笑顔を見せる華琳・・・。

  「は、はひ・・・?何ですか、華琳さん?」

  華琳の笑顔に一刀は反射的に畏まる・・・。

  「とりあえず・・・、その傷を治療しないといけないわね♪」

  「え、えぇと、いや・・・べ、べべべつに大したことない!うん、こんな唾付けておけば、治る治る!」

  「あら、何を言っているのかしら?そんな事したら、雑菌が入って化膿してしまうのよ?」

  そう言って、一刀の腕をがっしりと掴む華琳・・・。

  「え?あの・・・、ちょ、待って・・・!」

  「え?何か言った?」

  「ひぅ・・・!?だ、誰か・・・。」

  身の危険を本能的に察知した一刀は助けを求めるべく視線を配る。が、その場に居合わせた者達は揃いも

 そろって、彼から視線をずらした・・・。

  「さぁ、行きましょう。か・ず・と♪」

  為す術もなく華琳に連れて行かれる一刀。その場にいた者は両手で合掌しながらその二人の後ろ姿を

 見送った・・・。

説明
 こんばんわ、アンドレカンドレです。
真・恋姫無双〜魏・外史伝〜42に挿絵を加えた修正版です。
しかし、一度投稿した後では挿絵の追加。修正を入れられない・・・。
挿絵を描く僕としては、そこを何とかして欲しいかもしれない・・・。 
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真・恋姫無双 恋姫無双 二次創作 魏ルート 

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