真剣に私に恋しなさい! 外伝『川神の永い夜』 第二幕 
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 いつものことといえば、いつものことといえるんだ。

「んっふっふ〜。いいんだぞ大和、抵抗しても。できるものならな……」

 夕方、秘密基地でまったりしていた俺に姉さんが絡んできて、やけにべったりだなぁと思っている内に押し倒されてのしかかられる。後は姉さんの欲求不満が解消されるまでいいように弄ばれてしまうワケなのだが…

 誓って言うけど、嫌とかそういのじゃない。むしろこの『スキンシップ』は嬉しい部類に入ってる。だがしかし、今日は少し勝手が違った。

「大和、今更言うほどのことでもないんだが… 私は今、欲求不満がかなり溜まっている」

「あ、うん… それはまあ、この状況からみてもすぐにわかるけど…?」

「ほーう。姉がこんな状態だというのがわかっていながら、お前はそんなことをいうのか……」

 いまいち姉さんの言いたいことが掴めない。普段からあやしい言動が少なくないけど、今日のそれはちょっと意味合いが違うみたいだ。

「お前、私に何か隠し事をしてないか?」

「か、隠し事っていわれても…」

 伊達や酔狂でファミリー内の『軍師』を名乗っているワケじゃない。当人が知らなくてもいいことはそれなりに耳に入ってくるし、薄々感づいてはいてもシラを切っていた方がいいこともある。

 要するに、心当たりがありすぎる。ありすぎて逆に何のことやらという話なのだ。

「葵冬馬が私に会いに来た。これだけ言えばわかるな?」

「あいつが?!」

「ほーら、やっぱり何か知っていたな」

 一瞬だけ変わった表情を姉さんが当然見逃すはずも無く。

 俺は姉さんにまたがられたままの格好で素早く昼休みの一件を思い出す事にした……

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「これはこれは大和君。このようなところでお会いできるとは… これはもう運命としか」

「いや、ないから。単なる偶然だから」

 天気もいいし気分転換とばかりに屋上で昼飯をと思っていたらこの展開。声をかけてきたのは2-Sきっての切れ者にして病院の跡取り息子、葵冬馬。

「いえいえ、私がここへ来る直前、準にはF組の教室にいるであろう大和君に屋上へ来てもらうよう言伝を頼んでいたのですよ。それを先読みしていたかのごとく私をここで待っていてくれた。最早これは愛の為せるワザと呼んでもいいでしょう」

「いやあの… マジで勘弁してください。俺は男に愛されても嬉しくないんですよ」

 シャレでもキツいっていうのに、相手は本気らしいからまた手に負えない。なんで俺こいつに気に入られちゃったんだろうなぁ、ホント。

「ふふ、相変わらずつれない返事をしますね。ですが前にも言いました通り、私は本気で大和君と深い仲になりたいと思っています。まあ、この話はいずれまたということで、それほど時間もないでしょうから本題に入るとしましょう… 食事は続けてもらって構いませんよ」

 ちょっ、いずれまたって次もあるのかよ! 

 とはいえ、本題というのも気になるところだ。個人的なことでなければ、おおよその察しはつくけれども、今は俺から何か言うべきところではないな。

「既に気づいてはいると思いますが、最近になって特に私たちS組と大和君のいるF組との間にかなりまずい空気が流れています。無論みんながみんな互いを嫌っているわけではありませんが、もう誰もが無視できないレベルまで来ています」

「ああ、このまま放っておいたら何かとんでもないことが起きるんじゃないかってくらい、俺のクラスでもやばい雰囲気になる事があるよ」

 思いのほかまじめな話題でちょっと拍子抜けだな… まあ、これはこれで何とかしなきゃならないことだけども。

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「教師達の間でもかなり大きな問題として取り上げられているらしく、学長も状況次第では何らかの処分まで考えている、という噂まで流れている始末です」

「噂話にしては随分だな。少し規模が大きいとはいえ、生徒同士のケンカの範疇にいきなり学校側が干渉してくるとは思えない。ただあの学長ならなにか企んでいても不思議じゃないけど…」

「ええ、噂はあくまで噂。ですが体育祭の一件もありますし、全くのデタラメとも言い切れないところがあります」

 確かにあの体育祭は酷かった。学園中とまではいかなくとも、同軍団にいた連中には両クラスの不仲をまざまざと見せ付ける結果に終わったのは苦い思い出だ。

 教師サイドの動きはともかく、俺にそんな話を振ってくるからには何かをさせようとしているんだろうが… 

「そこで提案なのですが」

「断る」

 それまで余裕たっぷりの表情で親しげに話してきた冬馬だったが、俺のひとことに予想通り驚きの表情を見せた。

 …が、それも一瞬のこと。すぐにまた柔らかでどこかつかみ所のないような笑みを浮かべて言葉を続けてきた。

「大和君ならそういうと思っていましたよ。もしあのまま話を続けて、それにいきなりOKをだすようでしたら私も考えを改めるつもりでしたが… さすがです。私の想い人の聡明さには快感すら覚えてしまいそうですよ」

「いいから目を細めて見つめるのはやめてくれ。お前がその気でも俺はノーマルだからな!」

「やれやれ… 早く大和君にもデレ期が来て欲しいものです」

 こんな手合いは京だけでおなかいっぱいだというのに… あー、なんか食欲すらなくなってきた

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「?!」

「どーしたの京?」

 いつものごとく宿題をやってこず、京に泣きついてノートを写している一子が彼女の変化に気づく。

「今… 何か大和に呼ばれた気がした。きっと私の愛に応えてくれる気になったに違いない!」

「あー、うん… だと、いいね」

 なんかツッこむとロクなことにならないと本能的に察知した一子は宿題(写し)に集中することにした。

 

 

「うぉう?!」

 急な悪寒に思わず身震いする。

「? どうかされましたか?」

「いや、何でもない。何でも…」

 まさかどこかで京の奴が覗き見でもしてるんじゃないだろうな… 余計な事を考えるのはやめよう、うん。

「ともかく、俺はまだ何かするつもりも、お前の提案に乗るつもりもないよ。考えてる事はあるけどそれは俺だけじゃないし、動かないことがうまくいくことだってある」

「ふむ… 話しさえ聞く気になってくれるのなら、私と大和君の考えている事は近いと思っていたのですけどね…… こうなっては確かめる術もありません」

「俺を口説くのは諦める気になった?」

「私の愛を受け止めてもらう事についてはこれからも積極的に行くつもりですが… まあこの件については、今は諦めるとしましょう」

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 ん、随分あっさりと引いてきたな… というか今サラっとキツいこと言わなかったか?! 

「昼休みももうすぐ終わりです。ここは時間切れという形にしておきましょう。ですが大和君、私の大切な人として伝えておきたいことがあります」

「愛の告白だけは勘弁だぞ?」

「おや、心の準備がまだだとでもいいたげですね。それはまた日を改めて、ということにしましょうか」

 ヤブヘビだった。

「事態は大和君が思っているよりもおそらく深刻ですよ。貴方が『軍師』と呼ばれているのなら、打てる手は先に打っておくべきだと思いませんか?」

「どーかな。俺には『先手必勝』よりも『後の先』が性にあっているかもしれないんでね」

「この話はいずれまた、ということにしましょう。そう遠くない先とは思ってますけどね」

「これっきりにしたいんですが…」

 爽やかな笑顔を残して先に屋上から姿を消す冬馬。扉の向こうに完全に姿が消えるのと同時にどっと疲れが押し寄せてきた。弁当は半分近く残っているが、どうにも食欲がわかない。

 

 

 思えばあの時にもっと色々なことを考えておかなければならなかったんだ。あいつの毒気に当てられて少し調子が狂っていたのかもしれない。そうでなければ今こうして姉さんに弄ばれながら尋問めいた事をされずに済んでいたかもしれない。

 いや、どちらにしろされたのかもしれないけどさ。

「……で、姉さんは何を聞いたのさ?」

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 何の目的で冬馬が姉さんに近づいたのかについては、あいつの言っていた『提案』がらみなのはほぼ間違いない。何らかの形でS組とF組を仲裁させようとしていることは想像がつくが、その方法までは推測しかできない。聞けば巻き込まれるのはほぼ確実だったろうし、他人の思惑で動かされるのは正直面白くないからな。

 どうせやるなら、俺の描いた絵図でやりたいに決まっている。

 それにしてもわからないのは、部外者といえる姉さんにその話をして、何故こうして動いているのか、なんだよな。

「お前、あの葵冬馬との『決闘』から尻尾巻いて逃げたらしいじゃないか」

「へっ?」

 思わず気の抜けた声が漏れる。

「しかもだ。聞けば一騎当千の猛者を何人も用意しての団体戦、外部からの助っ人もアリだというじゃないか。こんな面白イベントを私になんの相談もなく断るというのは、姉不幸以外の何者でもないぞ。姉さんは大和をそんな弟に育てた覚えはないというのに… よよよ」

「よよよって、育てられた覚えも嘘泣きされる言われもないし、何よりあいつから決闘なんて申し込まれた事すらないってば」

「いけないなぁ大和。お前はそうやって大事なコトをぎりぎりまで自分の中に抱え込んで皆に隠す悪いクセがある。姉としてそれは許せないことだ……」

 いつの間にかはだけていたシャツから覗く鎖骨や胸板に指を這わせ、すうっと細めた目でこちらを見つめてくる。どうみても戦闘欲求が高い時の姉さんである。偶然だろうけど、姉さんがこんなときにそんな話を吹き込んだ冬馬にはちょっぴりだがしてやられたという感じだ。

「で、受けるんだろ?」

「いや、だから冬馬と話はしたけど、決闘とか初耳だから。大体そんな話聞いていたら真っ先に姉さんをメンバーに選んでいるよ」

「ほう、つまり聞いて知ったからには受けるという事だな」

 あー、しまった。というかこの状況じゃ何いってももう手遅れっぽいな… となれば。

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「その代わり、ちゃんと事が決まるまでは絶対に誰にも話したらダメだからね。ファミリーの皆にもだよ。俺にも色々とやっておかなきゃいけないことがあるんだから、それだけは約束してよ?」

 冬馬が姉さんに言った言葉通り、あの時の提案が助っ人アリの決闘だっていうなら、相手が誰だろうと姉さんがいる限りこっちの勝ちは決まったようなもの。まさかそんな条件をわざわざ出してくるとは思えない。多分姉さんを通して俺を無理矢理動かそうとしている策だってのはわかっているけど… なんだか釈然としないな。手の内の見えない相手はこれだから厄介だ。

 ここはとりあえずでも姉さんから話が広がらないようにしないとな。ファミリーの皆に知れ渡ったら完全に手遅れになるから、それは今の段階では絶対に避けたい。

「しょうがないなー。可愛い弟の頼みだ。メシ1回おごられるだけで我慢しよう」

「……近所のファミレスまでだよ」

「よーしよし、それでこそ私の弟だ。だが、この昂ぶった気はお前を弄んで鎮めないワケにはいかないからなー。恒例の姉タイムだ〜♪」

 後はもうお察しの通り、姉さんが飽きるまでいたぶられるわけだが、ここでキャップやモロあたりが来てくれると早めに切り上げてくれるんだが、こういうツイてない時に最初に来るのは……

「お、大和とモモ先輩がじゃれあっている。嫁として堂々すぎる不倫行為は私の愛を試す行為とみた」

 そう、京をおいて他にはいないわけだ。

「(そしていつものごとくモモ先輩にさんざんいたぶられた後の大和を優しく介抱してポイントを稼ぐ堅実な作戦を実行。待てば海路の日和あり… ククク)」

 何考えてるか丸わかりな京の表情。もうやだこの娘。いつまでもお友達でいいです…

 それにしても、冬馬は本気で『決闘』なんて考えているのだろうか? 俺は姉さんにいたずらされながら何度も何度も悩まずにはいられなかった。

 

 

 -続-

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『川神の永い夜』第三幕 予告

 

「Zzz… んー…… ん?  あー… あれ? もう予告始まってる? だーいじょうぶだって〜。私だって予告くらいちゃんとできるからさ〜。天ちゃんは心配しすぎだよ〜」

 

「えーと、次回。大和君がいきなり私の弟になって、二人は幸せに暮らしました〜」

「タツ姉、そりゃ自分の妄想じゃんかよ?! ここにカンペあるんだからそれ読まなきゃ!」

「んお? おー… Zzz…」

「ダメだこりゃ。まーいいや。アタシが代わりに読んでやっからお前ら耳の穴よーくかっぽじってききやがれよ」

 

「直江大和、ついに夕暮れの校舎で葵冬馬に……」

 

「…って、これじゃ前回の予告とほとんど何もかわってねーじゃんかよ! 読んで損した。アホくさ。ほらタツ姉、寝てないでさっさと帰ろーぜ」

説明
大和と冬馬の絡み(肉体的な意味じゃないですよ?)よりはやはり姉さんと大和の掛け合いの方が精神的に書いていて楽です。

今回の大和は一つもいいところがなかった気がします…
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コメント
大和君先手を取られましたね。ここからどう動くか楽しみです。(EOS)
コメントありがとです。期待に沿えるよう頑張ります(きささげ)
続きが大変気になります!!(キラ・リョウ)
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まじこい 真剣で私に恋しなさい みなとそふと 

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