英雄伝説〜灰と菫の軌跡〜 試作版その3 |
〜エリンの里・ロゼのアトリエ〜
「あ、改めて聞くと、本当に並行世界は僕達の世界とは似ても似つかない世界のようだな………」
「異世界と繋がっている事もそうですが、何よりもクロスベルの状況があまりにも違いますものね………」
「ん。クロスベルが自治州どころか、”帝国”になって、エレボニアよりも”格上”の国家になっているとの事だものね。」
「その”クロスベル帝国”を建国した”六銃士”だったか?その内の一人がクロスベル警察の局長に就任した後”特務支援課”にリィン達と一緒に所属していたとか、無茶苦茶過ぎんだろ………しかも、俺と同じ声でナンパ野郎な所も同じなのに19人も皇妃がいるとか、何なんだよ、そのリア充皇帝は!何で声も一緒で、ナンパ野郎な所も俺と同じなのに俺とそんなにも違うんだよ!?」
並行世界のリィン達の事を知って信じられない表情で呟いたマキアスの言葉にエマは苦笑しながら同意し、フィーの言葉に続くようにランディは疲れた表情で溜息を吐いた後悔しそうな表情で叫んだ。
「フフ、私達の世界のランディさんも今のランディさんのような反応をしていましたね。」
「まあ、私達からすればヴァイスハイト皇帝陛下はまだ”マシ”な方なんですよね………」
「アハハ、なんせもう一人のクロスベル皇帝――――――ギュランドロス皇帝陛下なんか、第U分校の[組の担任教官に自ら立候補して副担任のランディさんを散々振り回しているらしいもんね〜。」
ランディの反応を見たセティとエリナ、シャマーラはそれぞれ苦笑しながら答え、シャマーラの説明を聞いたアリサ達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「い、一国の皇帝――――――それも、エレボニアから敵視されている皇帝が第U分校の教官に立候補するって………」
「あらゆる意味で非常識な皇帝のようだな………」
「つーか、そんなとんでもない皇帝に加えて小嬢にまで振り回されているとか、そっちの俺にはマジで同情するぜ………」
「失礼ね〜。レンはランドロスおじさんと違ってランディお兄さんを困らせたりなんてしていないわよ?」
「いや、特別演習での時とかあたし達どころか、教官達の虚をつくような行動をして、ランディ先輩が思わず『目が離せない』って言うくらいランドロス教官やエルンストさんと一緒に好き放題に暴れていたじゃないですか。」
「最初の特別演習で”紅の戦鬼”とデュバリィ教官に”逆奇襲”した時の件ですね。」
「ぐっ………思い出すだけでもあの時の事は腹が立ってきますから、その話は止めてください!」
アリサはジト目で呟き、ユーシスは呆れた表情で呟き、疲れた表情で溜息を吐いたランディにレンは呆れ半分の様子で指摘し、レンの指摘を聞いたサフィーとルディはそれぞれジト目でレンに指摘し、デュバリィは唸り声を上げた後話を止めるように指示した。
「アハハ………それにしても異世界からわざわざ並行世界のリィン達を手伝う為にこの世界にまで来てくれた人達も、色々と凄いよね。」
「”神殺し”に加えて様々な突出した存在や能力を持つ”神殺し”の眷属達にソロモンの1柱に”魔王”クラスの”魔人”が1柱、”竜王”クラスと思われる力を持つ竜族が三人、”英雄王”と称えられし異世界の覇王と聖女、竜騎士の娘達に”神”自らに力を与えられた神官戦士に異世界の女神、そして”ディル=リフィーナ”とやらとは別の異世界から来た”未来を視る”能力―――”予知能力”という異能持ちの”魔女”………正直”戦力過剰”という言葉でも足りないくらいのとんでもないメンツじゃの。」
「特にセリカさんとロカさんはあの”劫焔のマクバーン”を葬っているという話には驚いたな。」
「うむ。それと”神速”――――いや、デュバリィ殿に加えてアガット殿の話にあった”剣帝”殿まで協力してくださるとは、心強い話だ。」
「あたしとしては”剣帝”と共同戦線を張るなんて、あのメイドの時よりもいろいろと複雑だけどね………―――――それよりも、そっちの世界のエステルの状況には今でも信じられないわね………」
苦笑しながら呟いたエリオットの話に続くように呟いたローゼリアは呆れた表情で溜息を吐き、静かな表情で呟いたガイウスの感想に頷いたラウラはレーヴェを見つめ、サラは疲れた表情で溜息を吐いてジト目でレーヴェを見つめた後苦笑した。
「リィンと同じ”ロード”の称号に加えて、”侯爵”の爵位まで授けられ、遊撃士協会史上初の”SSランク”の遊撃士として認定された”剣聖”カシウス・ブライトの娘か………」
「しかも様々な異種族の方達と使い魔契約のような契約を交わしていて、その中には天使族や竜族に加えてフェミリンスさん―――――”女神”までいるとの事ですし………」
「おまけに”空の女神”の血族にして”正義の女神”の魂が宿った事で”正義の女神”専用の神剣を扱える事に加えて、”空の女神”から受け継いだ”神術”や”神技”をも扱えるとはの。………というか、本当にその娘は”人”なのかどうか、疑ってしまうぞ。」
真剣な表情で考え込んでいるユーシスに続くように静かな表情で呟いたエマはフェミリンスに視線を向け、ローゼリアは疲れた表情で溜息を吐き、ローゼリアの発言を聞いたその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「数百年も生き続けているアンタだけはそれを言う資格はないと思うけどね………ま、使い魔のメンツがとんでもないという意味ではこっちのリィンも同じだけどね。」
「ふふ、確かに教官の使い魔の方々はエマさんのような”人間”の使い魔の方々を除けば、どの方々も凄まじい存在ですものね。」
「クク、しかも全員シュバルツァーに食われている女達でもあるしな。」
「ちょっ、二人とも!?」
「ア、アハハ………(ベルフェゴールさん達の場合、むしろお兄様が”食べられた側”だと思うのですが………)」
ジト目でローゼリアに指摘した後に呟いたセリーヌの言葉にそれぞれ同意したミューズとヨハンの話を聞いたその場にいる多くの者達が驚いている中リィンは慌て、セレーネは苦笑していた。
「という事はリィンにもそのエステルさんという人みたいに、エマ以外の使い魔が………」
「………それも、そっちのエマやシャロンみたいに”関係”を持った事で使い魔にした女の人達みたいね。」
「う”っ。」
気まずそうな表情をしているエリオットとジト目のアリサに見つめられたリィンは疲れた表情で唸り声を上げ
「フフ、2年前の旧Z組の方々と協力関係を結んだ時のようにベルフェゴール殿達の事を紹介すべきだと思うわよ。」
「そうですね。どの道今後の戦いでは、彼女たちの力も借りることになるのですから、今の内に紹介すべきでしょうね。」
「ううっ、わかりました。――――それじゃあ、今回は使い魔にした順番で呼んでいきます………―――――ベルフェゴール!」
苦笑しているセシリアとサフィナの指摘を聞いて疲れた表情で頭を抱えたリィンは気を取り直してベルフェゴールを召喚した。
「ええっ!?お、女の人がいきなりリィンの身体の中から……!」
「というか、何なんだその破廉恥な格好は!?」
「し、下着姿じゃない!」
「もしかして痴女?」
「おおっ!?顔も当然だが、スタイルも完璧すぎる!セシルさん―――――いや、ひょっとしたらリーシャちゃんクラスか………?クソ〜、こんな超セクシーで美女なお姉様とまでうらやまけしからん事をやっている並行世界のリィンにはマジで嫉妬するぜ………!」
ベルフェゴールの登場に仲間達と共に驚いたエリオットは思わず声を上げ、マキアスとアリサはベルフェゴールの姿を見て顔を赤らめ、フィーはジト目で呟き、ランディは興奮した様子でベルフェゴールを見つめたがすぐにある事実に気づくと悔しそうな表情でリィンを睨んだ。
「うふふ、並行世界の貴方達も似たような反応をしていたけど、新鮮ね♪―――それじゃあ、改めて自己紹介ね♪私の名前はベルフェゴール。睡魔族の女王種―――――――”リリエール”にして”七大罪”の”怠惰”を司る”魔神”で、ご主人様―――リィン・シュバルツァーの婚約者で妻の序列は4位よ。よろしくね、並行世界の皆さん♪」
「”七大罪”の一柱じゃと!?」
「な、”七大罪”の”怠惰”を司る悪魔―――い、いえ”魔王”の一柱が並行世界のリィンさんの使い魔だなんて………!?」
「二人は彼女の事を知っているのか?」
「”魔王”って言っていたけど、あの痴女ってそんなにヤバイ存在なのかしら?」
ベルフェゴールの正体を知ってそれぞれ血相を変えたローゼリアとエマの反応を見たガイウスは二人に訊ね、サラは呆れた表情で訊ねた。
「……”七大罪”とはその名の通り、遥か昔に”人”を罪に導く可能性があると神から見做されてきた欲望や感情のことを指す”大罪”の事で、そしてそんな欲望や感情が具現化し、”人”を堕落させる為に”人”の世界に降臨したと言われている存在が古の魔王――――”七大罪の魔王”達じゃ。」
「ちなみに”七大罪”を示す”大罪”とは”傲慢”、”憤怒”、”嫉妬”、”強欲”、”暴食”、”色欲”、そして”怠惰”で、彼女―――ベルフェゴールさんは”怠惰”の欲望や感情が具現化した”魔王”という事になります。」
「それと”七大罪”の魔王達は他の伝承等で出てくる”魔王”達と比べると”格”が圧倒的に上のはずよ。何せ、”大罪”が具現化した存在と伝えられているのだからね。」
「ええっ!?ま、”魔王”!?」
「しかも”魔王”という凄まじい存在の中でも”格”が圧倒的に上とはな………」
ローゼリアとエマ、セリーヌの説明を聞いて仲間達と共に驚いたエリオットは声を上げ、ラウラは真剣な表情でベルフェゴールを見つめて呟いた。
「うふふ、次はメサイアの番よ♪」
アリサ達の様子を面白そうに見ていたベルフェゴールはリィンの身体の中に戻るとベルフェゴールと入れ替わりにメサイアがリィンの傍に現れた。
「えっと………―――――初めまして。私の名はメサイア・シリオス。クロスベル皇帝ヴァイスハイト・ツェリンダーとその側妃、マルギレッタ・シリオスの養女にしてリィン様の婚約者の一人ですわ。なお、妻の序列は三位です。以後、お見知りおきを。」
「並行世界のクロスベルの………」
「それも先ほどの”七大罪”とやらよりも序列が上である理由は恐らくクロスベルの皇族である事が関係しているのであろうな。」
「つー事は、そっちのリィンは二人もの皇女さんとうらやまけしからん関係になっているって事か………この草食動物の皮を被った超肉食動物の兄貴族が!まさかロイドよりも上のリア充野郎がいるとは思いもしなかったぜ!」
「しかもリィンは貴族でもあってエリゼの兄でもあるから、まさに二重の意味で”兄貴族”だね。」
メサイアの事を知ったラウラとユーシスは真剣な表情をし、悔しそうな表情でリィンを睨むランディの言葉に同意したフィーはジト目でリィンを見つめ
「いや、ヴァイスハイト陛下と比べればまだマシだとは思うんだが………」
「教官もヴァイスハイト陛下と比べても遜色ないレベルだと思うのですが………」
「うふふ、ですが今の調子ならヴァイスハイト陛下に迫る勢いですから、ひょっとしたら将来はヴァイスハイト陛下を超えるかもしれませんわね♪」
「アルフィン………兄様の場合、冗談ではすまなくなるから、そんな洒落にならない事を言わないで。」
「アハハ………確かに今の時点でも、既にヴァイスハイト陛下が娶った女性たちの数に迫ってきていますものね………」
疲れた表情で反論するリィンにザムザは呆れた表情で指摘し、からかいの表情で呟いたアルフィンにエリゼはジト目で指摘し、セレーネは苦笑しながら答え、アルフィン達の会話を聞いていたアリサ達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「ア、アハハ………えっと、次はリザイラ様に変わりますわね。」
「ふふふ、次は私ですか。私は”精霊女王”リザイラ。精霊領域”リスレドネー”の長して、ご主人様と将来共にする事を決めた女性の一人でもあります。なお、私のご主人様の妻としての序列は五位です。」
「ええっ!?」
「伝承で出てくる”精霊”の”女王”………」
「ほう…………まさか”精霊王”とはの。」
(アハハ………やっぱりこちらの世界の私達もベルフェゴールさん達の事を知る度に驚くわね。)
(当り前よ。リィンの使い魔連中は全員常識外の存在なんだから。)
メサイアと入れ替わりに現れたリザイラが自己紹介をするとエマは驚き、ガイウスとローゼリアは興味ありげな表情でリザイラを見つめ、並行世界のエマとセリーヌはそれぞれ驚いている様子のアリサ達を見つめて昔を思い返していた。
「ふふふ………さて、次が”真打ち登場”と言った所ですか。貴女の番ですよ、アイドス。」
そしてリザイラがリィンの身体の中に戻ると、リィンの神剣からアイドスが現れ
「綺麗な人………」
「………ハッ!?あまりにも美女過ぎて、一瞬アッチの世界に行っていたぜ………」
「フフ、ランディ殿の気持ちも理解できる。女性である私達ですらも、彼女の容姿に見惚れていたからな………」
「アハハ………えっと………よく見てみるとそちらの女性の容姿はセリカさんと非常に似ていますけど………」
「――――まさかとは思うが、ヌシは”正義の女神”の姉妹神のどちらかか?」
アイドスの容姿に仲間達と共に見惚れていたアリサは呆けた表情で呟き、ランディは我に返ると疲れた表情で呟き、ラウラと共に苦笑していたエマはセリカを気にしながらアイドスに視線を向け、ローゼリアは真剣な表情でアイドスに確認した。
「ええ。――――私の名はアイドス。アストライアお姉様の妹神である”慈悲の大女神”にして、リィンの婚約者の一人よ。ちなみに妻としての序列はアルフィンより一つ上の6位ね。」
「ま、まだ異世界の女神様がいたなんて………」
「フフ、しかもリィンの婚約者の一人とはな。」
「というか、今の自己紹介を聞いて気になっていたが………そこの”神殺し”とやらが殺した女神がそちらの女神にとっての”姉”であるのに、何故双方平然としていられるのだ?」
アイドスの自己紹介を聞いて仲間達と共に冷や汗をかいて表情を引き攣らせた後エリオットは信じられない表情で呟き、ガイウスは苦笑し、ユーシスは疲れた表情でセリカに視線を向けた。
「フフ、セリカとは”色々あった”けど、今は和解して普通の”義理の兄妹”の関係よ。」
「様々な時代で何度も”殺し合い”をしたことを”色々あった”という一言でよく片づけられるな。」
「セ、セリカ様!」
「ふえ〜?セリカ様とアイドス様は今は仲良しなのに、どうしてシュリ姉様は慌てているのですか〜?」
アイドスの答えを聞いて呆れた表情で答えたセリカのとんでもない答えにその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中慌てた様子で声を上げたシュリの様子を見たサリアは不思議そうな表情で首を傾げた。
「ハハ………アイドスも言っているように、セリカ殿とアイドスの昔の関係は様々な理由で複雑な関係だったらしいけど、今は良好な関係を結んでいるから気にしないでくれ。」
「き、”気にしないでくれ”って、言われても………」
「今の話を聞けば、余計に気になってくるぞ。」
「”神殺し”とオリンポスの女神の一柱の殺し合いなぞ、間違いなく”神話”になって当然の話じゃしの。」
「お、おばあちゃん。」
苦笑しながら答えたリィンの指摘にマキアスは困った表情を浮かべ、ユーシスは呆れた表情で呟き、疲れた表情で呟いたローゼリアの言葉を聞いたエマは冷や汗をかいてセリカとアイドスを気にしていた。
「アハハ………ちなみにアイドス様はお兄様と協力契約を結んで力を貸している異種族――――ベルフェゴールさん達の中でも”最強”と言っても過言ではない方ですわ。」
「アイドス様は魔術は当然として”慈悲の大女神”や”オリンポスの神”専用の”神術”が扱える事に加えて剣術も相当な腕前です。」
「うふふ、なんせデュバリィお姉さんどころか”光の剣匠”を剣術だけで無傷で制圧した事があるものね♪」
「な―――――父上を!?」
セレーネとエリゼ、レンの説明を聞いて仲間達と共に血相を変えたラウラは驚きの声を上げ
「こら、マーシルン!そこで何故、私まで引き合いに出すのですの!?というかそもそも私の時は魔術も使ってきましたわよ!?………まあ、例え剣術だけでも敵わないのは事実ですから否定はできませんし、彼女は最低でもマスター、いえ下手をすればそれ以上の使い手ですから、あの時圧勝されたことは仕方ないと言えば仕方ないですが………ブツブツ………」
デュバリィはレンを睨んで反論した後ジト目になってブツブツと呟きだし、それを見たその場にいる全員は冷や汗をかいた。
「えっと………アイドスさんは子爵閣下相手に無傷で制圧したと仰っていましたが、一体何があってそのような事に?」
「その………”七日戦役”で私達Z組がユーシスさんを救出する為にリィンさん達と戦ったことを軽く説明しましたが、実は私達の協力者の中に子爵閣下もいて、その時子爵閣下の相手を務めたのがアイドスさんで、アイドスさんが子爵閣下を制圧したのです。」
エマの質問に対して並行世界のエマは気まずそうな表情でアイドスとラウラを気にしながら答え
「そうか…………並行世界の父上は正体を知らなかったとは言え、”女神”に挑んだ事があるのか………フフ、さすがは世界は違えど父上だな。」
「ラウラ………」
静かな表情で呟いた後亡き父を思い出しているラウラの様子をフィーは心配そうな表情で見つめた。
「フフ、そういう訳だから私も並行世界の貴方達の”仲間”の一人として協力するからよろしくね。」
そしてアリサ達に微笑んだアイドスは光となり、リィンの神剣の中に戻り、それを見たアリサ達はそれぞれ驚いた。
「ええっ!?アイドスさんがリィンの太刀に………!」
「アイドスさんだけ他と違うのはもしかしてアイドスさんが”女神”であることが関係しているのか?」
「ああ、例えベルフェゴール達との契約によって霊力も強化されたとはいえさすがに”人”の身である俺の霊力に同化する事は俺に凄い負担がかかるとの事だから、アイドスは普段はこの太刀―――――”神剣アイドス”に宿っているんだ。」
アリサは驚きの声を上げ、ガイウスの推測に頷いたリィンは”神剣アイドス”を鞘から抜いて刀身をアリサ達に見せた。
「何て神々しい霊力(マナ)………」
「オリンポスの女神が宿っているのじゃから、まさに神剣――――いや、”神刀”と呼ぶべき業物じゃが………まさか並行世界のリィンは”神刀”を自分の得物にしていたとはの。その業物だけでも、”黒き聖獣”を”巨イナル黄昏”ごと滅する事ができたのではないか?」
「………教官は実際その”太刀”で”黒き聖獣”の足を一本斬り落としているのですから、ローゼリアさんの推測も当たっているかもしれませんね。」
”神剣アイドス”から感じられる霊力にエマが驚いている一方納得した様子で呟いた後に口にしたローゼリアの推測にクルトは同意し
「ヴァリマール用のゼムリアストーン製の太刀でも傷つかなかった”黒き聖獣”を………」
「………”剣に宿りし女神”か。”剣”になってしまったミリアムも、命があれば先程の女神のような芸当ができたかもしれないな………」
「あ…………」
「ミリアムさん…………」
クルトの説明を聞いたガイウスが呆けている中、複雑そうな表情で呟いたユーシスの言葉を聞いたエリオットは呆けた声を出し、アルティナは悲しそうな表情をした。
「――――その件についてですが、ミントさんも私達と一緒にこの世界に来たお陰でミリアムさんを蘇生させられる可能性がありますわよ?」
「え………」
「ミュ、ミューズ!?突然何を………」
ミューズの話を聞いたアリサ達がそれぞれ血相を変えている中ユーシスは呆けた声を出し、サフィーは驚いた様子でミューズに視線を向けた。
「フフ、並行世界の新Z組のお陰で私達の世界の”巨イナル黄昏”の阻止した事によってミリアムさんも命を失わなかったのですから、このくらいの”希望の可能性”を教えるのはアリかなと♪」
「つーか、このタイミングでそんな爆弾発言をするなんて、相変わらず何考えているのかわかんねぇな、このエセふわは。」
「それよりも、ミントさんがミリアムを生き返らせることができるって本当なのですか!?」
微笑みながら答えたミューズの話にヨハンが不敵な笑みを浮かべている中、アリサは血相を変えてミントに訊ねた。
「え、え〜っと………ミントは治癒魔術は扱えるけど、ティナさん達みたいに蘇生魔術は扱えないよ?蘇生魔術を頼むのだったら蘇生魔術が扱えるシュリさんやフェミリンスさん、後はアイドスさんに頼むべきだと思うんだけど………」
一方訊ねられたミントはミューズが何を言いたいのか察していた為冷や汗をかいて答えを誤魔化そうとし
「またまた御冗談を♪ミントさんは”時間を操る魔術”―――――つまり、人の時間も進ませたり巻き戻せたりすることも可能ではありませんか♪」
「”人の時間も進ませたり巻き戻せたりすることも可能”………あっ!」
「”剣”になったミリアムを巻き戻せる―――――つまり、”剣になったミリアムを生きたミリアムに巻き戻すことができる”………そういう事か!」
ミューズの指摘を聞いて考え込んだ後ある事に気づいたエリオットは声を上げ、マキアスは答えを口にした。
「ま、待って待って!確かにミントは生きた存在――――”人”の時間を巻き戻したりすることもできるけど、だからと言ってそれで”命を失った存在に再び命を与える事”は多分無理だと思うから、そんなに都合良くはいかないと思うよ!?」
「それってどういう事?」
「………恐らくミントさんはミリアムちゃんの”魂”の有無の事を言っているのだと思います。」
「”魂”………オレ達”命”を持った存在の肉体に宿りし精神的実体だな。」
慌てた様子で忠告したミントの話を聞いたフィーが首を傾げている中、ミントが何を言いたいのか察したエマは複雑そうな表情で答え、ガイウスは静かな表情で呟いた。
「うむ。そしてそれが生きた存在それぞれの個人の精神・人格等の原動力でもある存在じゃ。魂が既に肉体から離れて冥界へと旅立っているのならば、例え”剣”になってしまった人造人間(ホムンクルス)を人の姿に戻せたとしても、戻るのは肉体だけで魂までは戻らんじゃろう。」
「先に言っておきますが私達が扱える蘇生魔術も”魂”があってこそ蘇生ができる魔術であって、例え”神”であろうとも冥界から魂まで呼び寄せる”奇蹟”までは起こせませんわ。」
「はい………ましてやミリアムさんが命を失ってから既に2週間は経っているとの事ですから、そこまで時間が経ってしまえば、既に”剣”となったミリアムさんの肉体に”魂”が残っているとはとても思えませんし………」
「それは………」
ローゼリアとフェミリンスはそれぞれ説明し、シュリは辛そうな表情でアリサ達を見回してフェミリンスの説明を捕捉し、3人の説明を聞いたラウラは複雑そうな表情をし
「なるほどね………一度命を失っていながら、再び蘇ったという前例はクロウや猟兵王、それに鋼の聖女がいるけど、多分連中は死後それ程経っていない状況で何らかの方法によって蘇ったのでしょうね。」
「ん。団長はいつ蘇生させられたのかわからないけどクロウは前と比べると身長とか成長していたことを考えると、多分内戦終結からそれ程経っていない状況で蘇生させられたと思うから、ミリアムは………」
重々しい様子を纏って呟いたサラに続くようにフィーは辛そうな表情で呟いた。
「それでも………例え可能性が非常に低かったとしても、ミリアムさんが………お姉ちゃんの魂がまだあの”剣”に居続けている可能性はあるのですから、わたしは最後の最後まで諦めたくありません………!」
「アル………」
「……………………」
「そうだな…………試す前から諦める等、あいつに”俺達らしくない”と笑われてしまうな。」
決意の表情になって叫んだアルティナの様子をユウナは驚いた様子で見守り、ルディは複雑そうな表情でもう一人の”自分”を見つめ、ユーシスは静かな表情で呟いた後決意の表情になってミントを見つめ
「――――頼む。リィンと共にミリアムを取り戻した時、ミリアムの時間を”あの時”――――”星杯”で黒き聖獣に命を奪われる前に戻してやってくれ………!」
「ダメ元は承知の上よ。あの娘の時間を戻してやって………!」
「お願いします!」
頭を深く下げてミントに嘆願し、サラも続くようにミントを見つめて頭を深く下げるとアリサ達もそれぞれ頭を深く下げてミントに嘆願した。
「ううっ………本当はよほどの事がない限り”人”の時間を操りたくはないんだけど………並行世界の人達のお陰で、ミント達の世界の”巨イナル黄昏”を阻止できた訳だし………例えそれでミリアムちゃんが生き返らなかっても、ミントに文句を言わないでよ………」
「そ、それじゃあ………!」
疲れた表情で肩を落とした後に呟いたミントの言葉を聞いてミントが自分達の嘆願に応える事を察したエリオットは明るい表情をし
「うん。”剣”になったミリアムちゃんを取り戻した後、落ち着いた場所でミリアムちゃんの”時間”を戻してあげるよ。」
「あ、ありがとうございます………!」
「やれやれ、”対価”も無しでそんな奇蹟クラスの秘術を使う事を決めるなんて、さすがはあの”空の女神”の末裔の娘だけあって、相当なお人好しね。」
「もう、セリーヌったら………」
「まあ、魔女の眷属(ヘクセンブリード)としてはセリーヌの意見は間違ってはいないがな。――――それで、話は戻すが並行世界のリィンの使い魔達は先程の”慈悲の女神”で終わりか?」
ミントの答えを聞いて仲間達と共に明るい表情をしたエリオットは感謝の言葉を述べ、ミントのお人好しさに呆れているセリーヌに並行世界のエマは呆れ、ローゼリアは苦笑した後リィンに訊ねた。
「えっと………実はまだ一人だけ残っているのですが………」
(――――私の事はお気になさらず、この場に召喚してもらって構いません。)
ローゼリアの問いかけにリィンが答えを濁しているとベルフェゴール達同様リィンの魔力と同化している”まだ紹介していないリィンの使い魔”がリィンに念話を送り
(………本当にいいんですか?)
(はい。並行世界のZ組の皆さんの力になる事は、私にとってせめてもの”罪滅ぼし”であり、そして並行世界の私が犯し続けている”罪”を償う為でもあります。)
「(………わかりました。)――――お願いします、”クレアさん”。」
使い魔の決意を聞いて、紹介する事を決めたリィンが使い魔の名を呼ぶと、リィンの傍にアリサ達にとって信じられない存在―――――”鉄道憲兵隊”の少佐にして”黒キ星杯”でも刃を交えた”鉄血の子供達(アイアンブリード)”の一人――――私服姿のクレア・リーヴェルトが現れた―――――!
という訳で前話で予告した残っていたリィンの人間の使い魔はまさかのクレアです(冷や汗)なお、使い魔になった順番はシャロン、クレア、エマということにしています。次回の話は閃W発売前から考えていた黄昏阻止後のエレボニアの話(要するに閃Vの時点でオズボーンが抹殺された後のエレボニアの結末)になると思いますのでその時に、何故クレアがリィンの使い魔になったのかを含めた壮大なネタバレになると思います(ガタガタブルブル)ちなみにクレアはリィンの婚約者の中には含まれていません(ぇ)
説明 | ||
お、おかしい………今回の話で灰側の話は終わりにして、菫側の勢力も含めた他の勢力が出る話をして試作版は終わるつもりだったのに、灰側の話が今回で終われなかった(汗) | ||
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