英雄伝説〜灰の軌跡〜 閃V篇
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その後、校内や町の見回りを終えたリィンが宿舎に戻ろうとすると、ある人物達が声をかけた。

 

〜リーヴス〜

 

「あ、リィン君。」

 

「なんだ、アンタも帰りなの。」

 

「今日もお疲れ様です、お兄様。」

宿舎に入ろうとしたリィンは自分に声をかける人物達の声を聞いて振り向くとトワとセリーヌ、セレーネがいた。

 

「トワ先輩、セリーヌとセレーネも。はは、3人が連れ立ってるのも何だか珍しい光景ですね。」

 

「あはは、言われてみればそうかもねぇ。」

 

「わたくしはともかく、トワさんはセリーヌさんとはあまり接点がありませんでしたものね。」

 

「ま、たまにはね。喋るアタシが滞在するのもフォローしてくれたみたいだし。」

 

「そうだったんですか……すみません、お手数をかけて。」

トワが自分の知らない所でセリーヌの件についてのフォローを行っていた事を知ったリィンはトワに感謝した。

 

「た、大したことはしてないよ〜。分校と町の人くらいだし。ただセリーヌちゃん。外から来たお客さんとかには一応、内緒にしておいてね?」

 

「はいはい、わかってるって。エマと長年一緒にいるんだからそのくらいの要領は――――」

 

「ああっ、ネコが言葉を……!?」

 

「にゃああっ……!?」

トワの念押しに軽い気持ちで頷いていたセリーヌだったが、自分に対して驚いている様子の青年の言葉を聞くと慌ててネコの鳴き声に変えて声が聞こえた方向へと視線を向けた。

 

「こ、これは……」

 

「その―――」

 

「えっと――――」

一方トワ達も言い訳を説明しようとしたが

「ふふっ……すみません、お兄様。トワさんにセレーネさん、それにセリーヌさんも。」

リーゼアリアがリィン達にとって見覚えのある太った青年と共にリィン達に近づいてきて苦笑しながらリィン達を驚かせた事を謝罪した。

 

「あ…………」

 

「リーゼアリア……!?って、そこにいるのは――――」

 

「ハハ、ゴメンゴメン。驚かせちゃったみたいだね。」

 

「ジョ、ジョルジュ君――――!?」

太った青年――――トワの同期生であったジョルジュ・ノームの登場にリィン達は驚いた。

 

「久しぶりだね、トワ。リィン君にセレーネ君、セリーヌ君も。従妹さんとは偶然、帝都からの列車で知り会ってね。」

その後ジョルジュはシュミット博士達に挨拶をしに行き、その間にリィン達はエリゼを交えてリーゼアリアに突然の訪問の事情を聞いていた。

 

〜宿酒場”バーニーズ”〜

 

「そうか…………父さんから預かった老師の手紙を届けに。」

 

「ええ、昼過ぎに届いて一刻も早くお渡ししたくて……帰りの列車もありそうですし思い切って来てしまったんです。本当だったらお渡ししたらすぐ帰るつもりだったんですけど………」

 

「ダメだよ、そんな!帝都行きの最終は10時だっけ?そんな遅くに女の子が帰っちゃ!宿舎には客室もあるし今夜は泊って行って!」

 

「――――既にアルフィンに客室の準備も頼んでいるから、客室の用意も既にできているわ。」

 

「ええっ!?皇女殿下にそこまでして頂くなんて、恐れ多いですし……」

深夜で帰ろうとする自身を引き留めようとするトワとエリゼの話を聞いたリーゼアリアは驚いた後申し訳なさそうな表情をしたが

「ああ、二人の言う通り是非そうしてくれ。明日は日曜日……予定が入っていなければだが。」

 

「そ、それはその、問題はないんですけど………」

 

「フフ、せっかくの絶たれていたお兄様達との交流の再開を逃す手はないと思いますよ。」

 

「セレーネさん…………わかりました。お言葉に甘えさせて頂きます。どのみち、第U分校の方々に改めてご挨拶もしたかったですし。よろしくお願いしますね。」

リィンとセレーネの説得を受けて第U分校の宿舎に泊まる事を決めた。

 

 

「ふふっ、うん!後で分校長に許可も貰うから。」

 

「すみません、よろしくお願いします。」

 

「しかしアンタが来たのも驚きだったけど。あの太った技術屋まで訪ねて来るなんてね。」

 

「ああ…………俺達も1年ぶりくらいだな。博士にご挨拶したらこちらに来るんですよね?」

 

「うん、料理とかは適当に頼んじゃっていいって。ジョルジュ君、いっぱい食べるからメニュー片っ端でもいいかなぁ。」

 

「はは、いいかもしれませんね。」

 

「さすがにやりすぎでしょ………」

 

「そ、そうですわね。それにそんなに頼んだ所で、テーブルに頼んだ料理が全て乗らないと思いますし……」

トワの推測を聞いたリィン達はそれぞれ冷や汗をかいて苦笑したり呆れたりしていた。

 

 

「しかし、どうして父さんは老師の手紙を俺に渡すためにわざわざアストライアに通っているリーゼアリアを経由したんだ?エレボニア帝国政府の検問を警戒して、そんな渡し方をしたことは想像できるけど、それなら他にももっと手間がかからないやり方があったと思うんだが……」

 

「言われてみれば、そうですわよね?例えばエリゼお姉様やアルフィンさんに導力通信でお二人に手紙が来ているからユミルまで取りに来て欲しいと伝えた後、お二人がベルフェゴールさん達の転移魔術でユミルへと移動してお兄様への手紙を受け取った後にリーヴスに帰還してお兄様に直接渡すという方法もありますのに。」

 

「そもそも、手紙を渡すくらいで転移魔術を使う事自体を思いつかないんじゃないかしら?……というか、そんな事の為に魔術の中でも高度な転移魔術を使うなんて、魔女の眷属(ヘクセンブリード)の身としては、いろいろとツッコミたい事があるけどね。」

 

「アハハ………えっと、エリゼちゃんは心当たりとかはない?」

リィンの疑問を聞いたセレーネはリィンの疑問に頷き、ジト目で呟いたセリーヌの言葉を聞いて苦笑したトワはエリゼに訊ねた。

 

「……恐らくですが、リーアと私達を交流させる”切っ掛け”の為に、敢えてリーアに兄様へのお使いを頼んだのではないかと。私が14年前の件と半年前の件でのリーアに対するわだかまりがなくなった事は、この間の特別演習の後に手紙で知らせていますし……」

 

「あ…………」

 

「ハハ、本当に父さん達には気を遣わせてばかりで申し訳ないな。」

エリゼの推測を聞いたリーゼアリアは呆けた声を出し、リィンは苦笑していた。

 

「もしくは、リィンの正妻予定になるエリゼがリーゼアリアの事を許したから、これ幸いとリーゼアリアの両親がリーゼアリアとリィンをくっつける為の協力をリィン達の両親に頼んでいるのじゃないかしら?」

 

「セ、セリーヌちゃん。」

 

「そうですね………私にも黙って、お兄様と私を婚約させようとしたお父様たちでしたらありえそうです……」

 

「リーゼアリアさん…………」

セリーヌの推測を聞いたトワが冷や汗をかいている中辛そうな表情で同意したリーゼアリアをセレーネは心配そうな表情で見つめた。

 

「フウ………そんな辛そうな顔をする必要はないわ、リーア。例え叔父様達の思惑があろうとも、貴女が”誰に想いを寄せている”かは別の話だから、”姉”として”妹”である貴女の恋が叶う事を応援しているし、貴女が望むのなら協力もしてあげるつもりよ。」

 

「お姉様……………………」

 

(というか、今までの話の流れからしてリーゼアリアが恋をしている相手は”誰なのか明白”で、その本人を目の前にしてあんな話をしているけど、その本人であるアンタは何だかんだ言ってどうせ最終的には受け入れてあげるのでしょう?特に義理とは言え妹とまで結婚する上、その妹を正妻に決める双界一と言ってもいいほどの”シスコン”のアンタならエリゼのように妹扱いしているあの娘の事もエリゼと似た扱いをしていると思うし。)

 

(そ、それは…………というか、俺は”シスコン”じゃないぞ!?)

 

(ほ、本気で言っているんですか、お兄様………?)

 

(ま、まさか”そっち”に関しても自覚していなかったなんて………)

溜息を吐いた後自分に微笑んで答えたエリゼの意思を知ったリーゼアリアが驚いている中、呆れた表情をしたセリーヌに小声で話を振られたリィンは唸り声を上げた後反論し、リィンの反論が聞こえていたセレーネとトワは冷や汗をかいて表情を引き攣らせていた。するとその時ジョルジュがレンと共に酒場に入ってリィン達に近づいてきた。

 

 

「やあ、待たせちゃったかな?」

 

「あ、ジョルジュ君!それにレン教官も。もしかしてレン教官もわたし達とご一緒する為に……?」

 

「ええ。さっき宿舎への帰りで偶々鉢合わせしたから、せっかくの機会だし、ご一緒させてもらおうと思ったけど、お邪魔かしら?」

 

「ハハ、誰もそんな事は思いませんよ。二人とも座ってください。せっかくだから乾杯しましょう。」

 

「はは、そっか。リィン君とセレーネ君も飲める歳なんだよね。」

 

「フフ、お互い成人した証拠ですわね。」

 

「わ、わたしだって飲めるもん!」

 

「では、私はジンジャーエールで。」

 

「アタシはミルクね。」

 

「では私はリーアと同じもので。レン教官はどうされますか?」

 

「そうねぇ………レンはこの『カルーアミルク』っていう飲み物にしておくわ♪名前からして『ミルク』の類でしょうから、問題ないでしょう?」

周りの人物達がそれぞれが頼む飲み物の希望を口にした後にレンが小悪魔な笑みを浮かべて自身の希望する飲み物の名前を口にすると、未成年であるレンが酒を飲もうとしている事にリィン達は冷や汗をかいた。

 

「いやいや、問題ありまくりですから!『カルーアミルク』も思いっきりアルコールの欄に入っているじゃないですか!」

 

「いくら教官とは言え、レン教官も未成年なのですからお酒を飲む事は止めて下さい。生徒達が真似をしたらどうするんですか………」

 

「あら、残念♪だったら”子供らしく”、カルピスソーダあたりにしておくわ♪―――それよりも、リーゼアリアお姉さん、”さり気なく”リィンお兄さんが頼んだ飲み物を”間違って飲んで”、リィンお兄さんに介抱してもらうか、運が良ければそのまま客室まで送ってもらって、リィンお兄さんに”食べてもらって”リィンお兄さんのハーレムメンバーに入る大チャンスよ♪」

疲れた表情で指摘したリィンとセレーネの言葉に悪びれもない様子で答えたレンはアルコールではない飲み物の名前を頼むことを決めた後リーゼアリアに話を振り

 

「え、えっと………」

 

「さり気なくリーゼアリアを悪の道に誘わないでください。」

 

「今更だけど、アンタ………よく、あんな無茶苦茶な皇女の補佐が務められているわよね?あの皇女の事だから、アンタが日々頭痛やストレスによる腹痛に悩まされるような事をしているんじゃないかしら?」

 

「アハハ、そんな事はないよ。副担任なのに、むしろわたしがレン教官に助けられる事もあるし、それに………ランドロス教官や分校長と比べたら、レン教官の方がよっぽど常識的な人に見えてくるよ?」

 

「ハハ、話には聞いていたけど分校でも、改革前の本校のような賑やかな日々を過ごしているようだね、トワ達は…………」

リーゼアリアが困った表情で答えを濁している中リィンは顔に青筋を立てて若干威圧を纏わせた笑顔でレンに指摘し、ジト目のセリーヌに話を振られたトワは苦笑しながら答えた後疲れた表情をし、その様子を見たジョルジュは冷や汗をかいて苦笑していた。その後食事を終えたリィン達はジョルジュとの情報交換を始めた。

 

 

「そうか…………噂は聞いていたけどクロスベルでそんな事があったなんて。再び動き始めた”結社”の残党……それに”地精”を名乗る勢力か。」

 

「はい………」

 

「…………うん………」

 

「お兄様、トワさん…………」

 

「…………ま、確かにあれはアタシも驚きだったわね。」

ジョルジュの言葉にリィン達がそれぞれ重々しい様子を纏っている中セリーヌは先月での出来事―――蒼のジークフリードとの出会いを思い返していた。

 

「……俺も”星見の塔”で”彼”に会ったときは本当に驚きました。内戦直後俺達特務部隊とZ組、そして先輩達は”彼”の埋葬に立ち会ったのですから。」

 

「うん……安からな顔をしてたよね。クロウ君らしくもなく……満足したような顔をして………」

 

「トワさん…………」

 

「…………トワ……」

辛そうな表情で肩を落とすトワの様子をセレーネとジョルジュは心配そうな表情で見つめた。

 

「あはは………なんでだろ。ついこの前みたいに思えちゃった。――でもそうだね。わたし達は確かに知っている。”あの仮面の人が絶対にクロウ君じゃないってことを。”」

 

「………ええ。その意味で、あの機体も騎神に良く似た別物だったかもしれません。」

 

(果たしてそれはどうかしらねぇ?)

トワとリィンの話を聞いていたレンは一瞬意味ありげな笑みを浮かべてジョルジュに視線を向けた後表情をすぐに戻した。

 

「そういえば”蒼の騎神”は軍に回収されたのよね?貴族勢力に使われないよう厳重に封印したって聞いたけど……」

 

「ああ、新築したトリスタ要塞の最深部に保管されたみたいだね。起動者だったクロウがいない以上、転位とかもできないと思うし……やっぱり別物なんじゃないかな?」

 

「そう……だよね。星見の塔で現れた機体は破壊された後クロスベル帝国軍に回収されたけど…………もしかしたらランドルフ教官やランドロス教官はあの機体の事について何か知らされているのかな?」

 

「ランディさんはわかりませんが、少なくてもランドロス教官は知らされているでしょうね……」

 

「まあ、ランドロスおじさんの”正体”を考えたらねぇ?」

トワの疑問を聞いたセレーネは複雑そうな表情をし、レンは呆れ半分の様子で答えた。

 

 

「…………その仮面の男はともかく”地精”というのは気になるな。エマ君達”魔女”と対になる歴史の闇に消えた一族……各地の精霊窟を造り、旧校舎地下も造ったんだっけ。」

 

「ええ、最後に魔女と接触したのは800年前と聞いたわね。それを最後に両者の交流は断たれ、以後、地精を見た者はいないらしいけど………」

 

「…………それがこの時代、このタイミングで現れたという事か。しかも”結社”と対立し、”西風の旅団”すら雇う形で……」

 

「ええ、正直アタシにも何がなんだかサッパリわからないわ。長やヴィータならもう少し”謎”に迫ってそうだけど……」

 

「”長”って人に尋ねてもはぐらかされちゃったんだよね?」

 

「んー、彼女は彼女で頑固なところがあるというか……まったく、あんなナリしてそのへんは頑固ババアらしいというか。」

 

「あんなナリ?」

セリーヌがふと呟いた言葉を聞いたリィンは不思議そうな表情をした。

 

 

「ああ、こっちの話よ。」

 

「…………なあ、リィン君。”地精”についてなんだが―――少し見当は付いてるんじゃないかい?」

 

「それは…………どうしてそんな風に?」

 

「一応、Z組もそうだけど君達特務部隊の戦いをバックアップさせてもらった身だ。あの内戦で、君達が得た情報を一通り聞かせてもらっている。――――すると、やっぱり一つの”仮説”が浮かび上がってくるんだ。かつて”地精”と呼ばれた存在―――それが今は別の名前で呼ばれてるんじゃないかって。」

 

「あ…………」

 

「それって……」

 

「わ、私も断片的にしか聞いていませんが……」

 

「―――ええ、以前からぼんやりとした疑いはあったんです。ですが、ここ2ヵ月ほどでその疑いは確信にまで強まりました。”地精”が名乗る別の名前、それは―――――黒の工房。ミリアムやアルティナの”戦術殻”を造った謎の工房――――同時に、超一流の猟兵団などに常識外れの性能の武器を流しているとも聞いています。」

ジョルジュの問いかけを聞いて周りの者達がある程度察しがついている中、リィンが答えを口にした。

 

「…………やっぱり……」

 

「――――恐らくそうだろう。”C”を名乗ったクロウが使った超長距離ライフルを手掛けたのも同じだ。」

 

「アルティナさんの”クラウ=ソラス”もそうですわよね?」

 

「ああ、だがミリアムもアルティナも工房の記憶は消去されてるらしい……誰も知らないんだ、その実態を。”身喰らう蛇”とメンフィル・クロスベル連合の極一部の人達と――――オズボーン宰相を除いて。」

 

「あ………」

 

「…………なるほど、そう繋がるわけね。ヴィータによると、”黒の工房”ってのは元々結社の”十三工房”とかいう集まりに参加してたらしいけど―――」

 

「ああ―――これは各地を回っていろいろと掴んだ情報なんだが………どうやらその”十三工房”というのは大陸各地の異能の技術集団をまとめる”ネットワーク”のようなものらしい。しかし内戦で、宰相側について結社の”計画”を奪う手伝いをした………」

 

「うん、そんな構図が見えてくるね。………そうなると鍵を握るのはオズボーン宰相か”黒の工房”の殲滅作戦を考えているメンフィル・クロスベル連合の極一部の人達なんだろうけど………」

 

「…………おいそれと詳しい話をお聞きできる方々ではありませんね。」

ジョルジュの推測に頷いたトワは複雑そうな表情でレンに視線を向け、リーゼアリアは不安そうな表情で呟いた。

 

 

「――――先に言っておくけど、レンは”黒の工房”の件については何も知らされていないわよ。”その件については全く関わる事ができない”のだし。」

 

「ハ?メンフィルの皇女で、しかも内戦の状況をコントロールして、勝利へと導いた参謀であるアンタすらも知らされていないっていうの?」

 

「エフラム殿下達の話によりますと、相当機密なやり取りで行われる作戦だそうですから、どこから情報が漏洩するかわからない以上、作戦に関われないレン教官にも知らされていない事はおかしくはありませんが………」

 

「…………少なくても、セシリア教官やサフィナ閣下は詳細について知っているだろうな。先月の”三帝国交流会”に教官達がクロスベルを来訪した理由の一つは”黒の工房”の件だとの事だし。」

 

「リィン君………」

レンの答えを聞いたセリーヌが眉を顰めている中、セレーネがセリーヌの疑問に答え、リィンは静かな表情で心当たりのある人物を答え、リィンにとって恩師である人物(セシリア)もリィン達に何も教えずに”事を進めよう”としている事についてリィンがどう思っているかを想像したトワは心配そうな表情でリィンを見つめた。

 

「――――ありがとうございます、ジョルジュさん。錯綜していた情報の幾つかがかなり整理されてきた気がします。」

 

「はは、どういたしまして。―――”黒の工房”………僕自身もずっと気になってたんだ。ひょっとしたら博士も何かを知っているかもしれない。」

 

「それは…………」

 

「メチャクチャありそうね。」

 

「エレボニア一と言われる天才技術者ですものね。」

 

「今夜は博士の研究室に泊まっていろいろと手伝いをするつもりなんだ。明日にはルーレ方面に発つけどそれとなく聞いてみようと思ってる。何かわかったらリィン君にも教えるよ。」

 

「すみません、助かります。」

その後店を後にしたリィン達は宿舎前で分校に向かうジョルジュを見送ると、聞き覚えのある女子の声が聞こえてきた。

 

〜リーヴス〜

 

「あーっ、ここにいた!」

 

「ユウナにアルティナ、ゲルドとミュゼも………」

 

「ティータちゃんまで。」

 

「そういえばミル―――ミュゼ以外にはご挨拶もしていませんでしたね。お久しぶりです、ユウナさん。アルティナさんにゲルドさん、ティータさんも。」

 

「あはは………うん!」

 

「といっても19日ぶりくらいですが。」

 

「こんばんわ、リーゼアリア。」

 

「ふふ、ジョルジュさんから聞いてわたしもビックリしちゃって……」

 

「うーん、先程は気を利かせて外したんですけど……ユウナさん達にお話したら是非ご挨拶したいと仰られて。」

 

「当たり前じゃない!前に会う約束もしてるんだし!―――教官達も教官達です!なんで呼んでくれなかったんですか?」

 

「ああ、そうだな……折角の機会だっただろうし。」

 

「アハハ………いろいろと話が盛り上がっていまして……」

責めるような視線のユウナの言葉にリィンとセレーネはそれぞれ苦笑しながら答えた。

 

 

「す、すみません。ちょっと考えが至りませんでした。」

 

「いいのいいの、リーゼアリアさんは。でも帝都だったよね?最終列車とかそろそろ厳しそう?」

 

「ふふ、それなんだけど……今日はリーゼアリアさんに宿舎に泊まってもらう事になって。」

 

「ええっ、ホント!?」

 

「わぁ……っ!」

 

「ふふっ、そうなるとちょっと思っていました。もしかしてリィン教官のお部屋にお泊りするんですか?」

 

「そ、そんな訳ないでしょう!」

 

「うふふ、と言いつつ本音はリィンお兄さんと同じベッドで寝て、あわよくばリィンお兄さんに食べてもらいたいのでしょう♪」

 

「そ、そんなふしだらな事、考えていません!」

リーゼアリアが宿舎に泊まる事にユウナ達が嬉しがっている中ミュゼとレンはそれぞれ小悪魔な笑みを浮かべてリーゼアリアをからかい、からかわれたリーゼアリアは必死の様子で答え

「レン教官?貴女の”悪戯(じょうだん)”に慣れていないこの娘をあまりからかわないでやってくれませんか?」

 

「それと俺の事を何だと思っているんですか、レン教官は…………」

エリゼは威圧を纏った笑顔を浮かべてレンを見つめ、リィンは疲れた表情でレンに指摘し

「うふふ、怖い怖い♪リフィアお姉様の二の舞にならないためにも、悪戯はこのくらいにしておくわ♪」

 

「フフ、すっかり元通りの関係に戻れて何よりですわ♪」

レンとミュゼは笑顔で答え、二人のマイペースさにリィン達は冷や汗をかいて脱力した。

 

 

「あはは……客室に泊まってもらうつもりだよ。さっき分校長に連絡したら『1日といわず数日でも泊まってもらって構いません』とか言ってたし。」

 

「フフ、相変わらずとても優しいわよね、分校長は。」

 

「ゲルドさんの分校長に対するイメージはわたし達が持つ分校長のイメージと若干かけ離れている気がするのですが。」

 

「あはは……」

トワの話を聞いて微笑みながら答えたゲルドにジト目で指摘したアルティナの言葉を聞いたティータは苦笑していた。

 

「あ、それならリーゼアリアさん!客室よりあたし達の部屋に泊まるのはどうですか!?」

 

「え………」

 

「アル、ゲルド、どうかな!?」

 

「異存はありませんが……所謂『パジャマパーティー』もしくは『女子会』ですね。」

 

「フフ、私はそういった集まりを経験するのは初めてだから、今から楽しみだわ。」

 

「いえいえ、それでしたら元後輩の私とティータさんの部屋に……」

 

「うんうん、わたしも大歓迎です!」

ユウナ達の姦しさにリィン達はそれぞれ冷や汗をかいた。

 

 

「姦しすぎでしょ……」

 

「うふふ、女三人寄れば何とやらって諺もあるじゃない♪」

 

「アハハ………三人どころかの話ではありませんが……」

 

「えっと………」

 

「はは、折角の機会だしたまにはいいんじゃないか?」

 

「ふふ、そうだね。夜更かしは勧められないけど。」

 

「これを機会に交友関係を広げる事も貴女の将来の為になるわ。」

 

「そういう事でしたら……―――それでは今夜一晩、よろしくお願いいたします。」

リィンとトワ、エリゼにも勧められたリーゼアリアはユウナ達に恭しく礼をした後微笑みを浮かべた。

 

その後リィンは自分の部屋を見る事を希望したリーゼアリアに部屋を案内した後リーゼアリアから”八葉一刀流”を教わった師匠であるユン・カーファイからの手紙を受け取ると、ユウナ達がリーゼアリアを迎えに現れ、リーゼアリアはユウナ達とパジャマパーティーを始める為にユウナ達と共にその場から去り、リーゼアリア達を見送ったリィンは手紙を読み始めた。

 

〜宿舎・リィンの私室〜

 

前略 リィン・シュバルツァー殿

 

―――久しいな、リィン。最後に会ったのはメンフィル本国の軍に入る直前じゃからもう4年は顔を合わせておらぬことになるか。テオ殿から最近の写真を見せてもらったが随分と大人びて、男前になったもんじゃ。

 

おぬしのモテっぷりはエレボニアから遠く離れた地にいるワシにも聞こえてくる程じゃ。朴念仁のおぬしがいつの間にか将来を共にする多くの女子(おなご)達を決めた上、伴侶まで迎えた話を知った時は天変地異が起こる事を一瞬警戒した程じゃぞ。

 

――実は、この後すぐにでも大陸東部に向かわなくてはならなくてな。……あちらは酷いものじゃ。龍脈の枯渇と、徐々に広がる不毛の地。西部とは最早違う世界と言ってもよい。恐らく半年は帰ってこれぬだろう。その前におぬしに会っておきたかったがこれもまあ、女神達の巡り合わせじゃろう。

 

伝え聞くエレボニアの内戦とメンフィル・エレボニア戦争に、”灰色の騎士”なるおぬしの異名。そもそもワシに弟子入りするきっかけでもあった”鬼”の力に、おぬし自身の過去や出生の謎――――さぞや迷い、翻弄されているだろうが恐れることはない。

 

おぬしに授けたのは”七の型”――――無明の闇に刹那の閃きをもたらす剣。その極みは他の型よりも遠く、おぬしが”理”に至れるかはわからぬが……それでもワシは10年前、”最後の弟子”としておぬしを選んだ。カシウスでも、アリオスでもなく……”八葉”を真の意味で完成させる一刀としておぬしをな。

 

―――激動の時代において刹那であっても闇を照らす一刀たれ。おぬしと魂を共有する同志たち、魂を継ぎし者達ならばできるはずじゃ。それでは達者でな。――――東より戻りて再会できたら奥伝を授けるのでそのつもりでおれ。

 

草々、ユン・カーファイ

 

「ハハ、相変わらずと言うべきか………まrで見てきたように俺の状況を把握していらっしゃるな……(大陸東部……近年、土地が荒れて、住む人が激減している不毛の地か………老師の事だから心配はないと思うが……―――いや、俺が心配するのは烏滸がましいな。)」

ユン・カーファイからの手紙を読み終えたリィンは考え込んだ後集中を始め

(”七の型”は”無”……無明の闇に刹那の閃きをもたらす剣。昔から老師が言っていた言葉だがようやく掴めてきたような気もする。奥伝……”八葉”を完成させる最後の弟子など畏れ多いだけだが―――せめて教え子や仲間の力になれるよう、俺も”壁”を乗り越えるしかなさそうだ。)

そして集中を終えて新たなる決意をしたリィンは明日に備えて休み始めた。

 

 

〜同時刻・ユウナ、アルティナ、ゲルドの私室〜

 

同じ頃、ユウナ達は第U分校の女子生徒達とエリゼ、アルフィンを交えてリーゼアリアと談笑しているとミュゼがある提案をした。

「フフッ、話の場が温まってきた所でそろそろアリア先輩を含めたここにいるほとんどの女性達が気になっているである事を、姫様やエリゼさんに代表して答えてもらいましょうか♪」

 

「ミュゼ?一体何を……?」

 

「それに私達が気になっている事が、どうしてアルフィン皇女殿下とエリゼさんが答えることに繋がるのかしら?」

 

「ミュゼ、まさか貴女………」

 

「…………」

ミュゼの提案にその場にいる多くの者達が首を傾げている中リーゼアリアとゼシカは不思議そうな表情をし、察しがついたアルフィンは表情を引き攣らせ、エリゼはジト目でミュゼを見つめた。

 

「うふふ、それは勿論姫様とエリゼさん達―――――リィン教官の伴侶として既にリィン教官の奥方となった姫様や教官の婚約者の方々の”夜の生活”―――――つまり、新しい命を作る為や互いの愛を確認する為の行為である”男女の営み”に決まっているではありませんか♪」

 

「な、なななななななななっ!?」

 

「そ、そそそそそ、それって、どう考えても”アレ”の事だよね……!?」

 

「は、はわわわわわわっ!?」

ミュゼの答えにその場にいる多くの者達が表情を引き攣らせている中ユウナとサンディ、ティータはそれぞれ顔を真っ赤にして混乱していた。

 

 

「やっぱり、そういう類の質問でしたか……」

 

「もう、この娘ったら………」

 

「ミル―――ミュゼ!いくらこの場には女性達しかいないとはいえ、お姉様と皇女殿下にそんなことを聞くなんて失礼よ!」

一方エリゼとアルフィンはそれぞれ呆れた表情で溜息を吐き、リーゼアリアは頬を赤らめてミュゼに注意した。

 

「そうでしょうか?もしお二人もそうですが、セレーネ教官達のお腹に教官との”愛の証”が宿っていたら、姫様達は今の仕事に支障が出るのですから、いつも姫様達にお世話をしてもらっている私達にとっても他人事ではないのですから、それを聞く権利くらいはあるかと思うのですが♪」

 

「いや、それとこれとは別問題じゃないか………」

 

「全くですわ……第一わたくしを含めたエリゼ達との結婚式もまだだし、今のわたくし達はお兄様の頼みとメンフィル帝国の指示によって今の仕事に就いているのだから、その仕事に支障が出ないためにも第U分校に来てからも避妊処置はいつもしている―――――あ。」

 

「アルフィン………」

 

「盛大な自爆発言ですね。というかやはり、第U分校に来てからも”していた”のですか。」

 

「そ、それよりも今の皇女殿下の発言から判断すると、リィン教官と皇女殿下達は私達が生活しているこの宿舎でも、だ、だだだだ、”男女の営み”を……!」

 

「その割には教官達に割り当てられている部屋から、そういった”行為”の声が聞こえてきたという話や教官達に用があって、教官達の部屋を訊ねた人達がその場面を偶然見てしまったという話を聞いたことがないわよね……?」

 

「きっと、私達が寝静まった頃にしているんじゃないかな〜?」

 

「例えそうだとしても、今まで誰にも気づかれていない事には違和感を感じますね。特に分校長もそうですが私達と違い、同じ階層で住んでいる教官陣が誰も気づいていないなんて事はないと思いますし。」

 

「3人とも気にする所が間違っているわよ……」

ミュゼの暴論にレオノーラが呆れている中、呆れた表情で溜息を吐きながら答えたアルフィンだったがすぐに自分がとんでもない発言をしたことに気づくと呆けた声を出し、アルフィンの発言を聞いたエリゼは疲れた表情で頭を抱え、アルティナはジト目で呟き、タチアナは顔を真っ赤にしながらも興味津々な様子でアルフィンとエリゼを見つめ、首を傾げて呟いたゲルドとルイゼ、冷静な様子で呟いたマヤの疑問を聞いたヴァレリーは呆れた表情で指摘した。

 

 

「わたくしとした事がこの娘の誘導尋問に引っかかってしまうなんて………そういう役割はリーゼアリアなのに。」

 

「何故そこで私が出てくるのですか………そ、それよりも………薄々察してはいましたけど、お兄様の奥方となった皇女殿下は当然として、お姉様もやはりお兄様と………」

疲れた表情で溜息を吐いたアルフィンにジト目で指摘したリーゼアリアは頬を赤らめてエリゼを見つめた。

 

「フウ………この状況で”違う”と言っても信じられないでしょうね。ええ、そうよ――――私達と兄様との”関係”は2年前からよ。勿論、妊娠しないようにいつも避妊魔術を使っているけどね。そうでなければ、今頃私達全員”母親”になっているわ。」

 

「旦那様は普段は穏やかな殿方ですけど、性行為をする時になれば豹変してとても性欲旺盛な方になって、何度もわたくし達を求めて”達する時”はいつも中に出しますものね。この間した時なんて、”危険日”で”奉仕”と”お掃除”でそれぞれ1回出したにも関わらずに6回くらい中に出されましたから、避妊魔術を使っていなかったら確実に妊娠していたと思いますわ。」

言い訳をすることを諦めてリィンとの情事を赤裸々に語ったエリゼとアルフィンの話を聞いたその場にいる多くの者達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせたり、混乱したりしていた。

 

「フフ、なるほど♪リィン教官は”絶倫”の上”男女の営み”になれば、野獣のように何度も求めてくださる上、しかも避妊魔術を使えば例え危険日に何度も中に出されても妊娠しないのですね♪良い事を聞きましたわ♪後でレン教官あたりに避妊魔術の習得方法を教わった方がよさそう―――――いえ、いっそ”愛の証”を理由に教官の伴侶の一人にする為にも避妊魔術は習得しない方がいいかもしれませんわね♪」

 

「この世界に避妊する為の魔術が存在する事にも驚いたけど、それよりもアルフィンが今言った”お掃除”と”奉仕”って、何の事かしら……?”奉仕”って、確か利害を考えずに誰かにつくすって意味よね?部屋を掃除したり、誰かにつくすことが性行為とどう関係してくるのかしら……?」

 

「私も意味はわかりませんが、話の流れからして不埒な行為である事は確実かと。」

 

「ふふふ、どうやらそろそろ我々の出番のようですね。」

 

「そうみたいね♪ちょうどいい機会だから、ご主人様が好む奉仕とかも含めて二人にも教えてあげるわ――――」

 

「だからアンタはやめい!それとリザイラさんとベルフェゴールさんも学生のあたし達どころか、純真無垢なゲルドやまだ子供のアルを汚すような知識を教えないでください!」

ミュゼが小悪魔な笑みを浮かべ、首を傾げているとゲルドとジト目になったアルティナの疑問を聞いてアルフィンの傍に現れたリザイラとベルフェゴールは二人にある知識を伝えようとし、ユウナは顔を真っ赤にしてミュゼを睨んだ後リザイラとベルフェゴールに睨んで指摘した。

 

その後もベルフェゴールとリザイラはリィンの性癖等を含めたリィンと自分達の”営み”を赤裸々に語り……翌日、リィンは女子生徒達が自分とすれ違ったり目が合うと様々な感情で自分を見つめたり、それが気になって声をかけると何らかの理由を作ってその場から急いで立ち去る事に首を傾げていたという………

 

 

 

 

-2ページ-

 

原作にあったテオからの手紙イベントですが、灰の軌跡でリィンが実の父親を知ったタイミングは七日戦役の間に、ルーファスの遺体の記憶を読み取ったレンからリウイ達にリィンの父親が知らされ、その後リィンに教えられ、特務部隊の総大将の任をリィンが受けた後ユミルにテオ達に報告した後、テオ達から真相を聞かされたことにしていますので、原作と違い、テオからの手紙イベントはスキップしました。それと今更ですがユン老師は一体いつになったら、登場するんでしょうね(汗)主人公が八葉一刀流のリィンを出した以上、多分次の軌跡シリーズの主人公はリィンとダブらせないためにも八葉一刀流ではないと思いますし……

 

 

 

説明
第70話
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コメント
十三工房よりも話題性が大きくなる主人公ェ… 軌跡シリーズの主人公は何かしら八葉一刀流に関わってる(空:主人公の父親・同僚、零・碧:主人公の兄の元同僚、閃:主人公)ので、今度は舞台次第でユン・カーファイ老師自体出てきそうな気がします(kelvin)
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