温度差カップル |
私の名前は冷子(れいこ)、彼の名前は高志(たかし)。
名は体を表わすとはよく言ったもので、私と彼には温度差がある。
私は割と大人しい事が好きで、高志はわいわい騒ぐような事が好きだ。
それでも付き合ってから9ヶ月も経っている。
……が、今は倦怠期まっしぐら。
最近になって、些細な考え方の違いで不快感をよく感じる。
今もケンカしてから一週間、全く会っていない。
元々バイトで知り合った間柄、大学が一緒でも学部が違えば会う事はない。
バイトは辞めているので、そっちでも仲直りの糸口はない。
「ケホッ! ゴホゴホッ!!……うー」
更には風邪をひくだなんて。
最悪だ。
はぁ……。
私みたいな静かでつまんない女、高志には合ってないのよ。きっと。
ベッドに横になって鬱々とそんな事を考えていると、携帯が鳴った。
ピロリロリンロン♪ ピロリロリンロン♪
高志からの電話だ。
着信音を変えているから分かる。
ピロリロリンロン♪ ピロリロリ――ピッ。
ためらいながらも私は電話に出る事にした。
「……もしもし」
「あ、冷子……まだ、怒ってるのか?」
そんな気は無かったが不機嫌に聞こえたらしい。
「いや。そんな事はないけど、何か用?」
風邪のせいで頭痛もする。
謝ってくれるなら仲直りしたいけど、早めに電話を終わらせて寝たい。
「うん、先週はごめん! 俺、自分の事しか考えてなかった! だから明日デートに行かない? ううん、土曜だし、まだ昼だし、冷子が良ければ今日、今からでも良いよ! 冷子に喜んで貰えるデートコースを考えたんだ!!」
相変わらずテンションが高い。高すぎる。
そして頭痛にガンガン響く。
謝ってるけど、何で私が怒ったのか分かってないみたいだし。
結局『私のため』と言いながら、自分のやりたい事を押しつけてるだけじゃない。
「ごめん、頭痛いから切るね」
「ちょっ、ちょっと待った!! 頭が痛い!? 声もちょっと鼻声っぽいし! 風邪ひいたんじゃないの!?」
頭痛いって言ってるんだから、もう少し落ち着いて話してくれればいいのに。
「……かもね」
「熱とかは? 咳とか鼻水とかのどの痛みとかある? あと、ちゃんと食べてる!?」
いつもそうだ。高志は私がして欲しい事と逆の行動をする。
早く電話を切って寝たいっていうのに、これだ。
「体温計は持ってない。……あーもう頭痛いから切るね」
「ちょっと待った! それじゃ――」
ピッ。
通話終了のボタンを押す。
そのまま押しっぱなしで電源を落とした。
「はあー」
寝る。
……ん。
目が覚めた。
暑い。汗だくだ。
暑かったためか、布団を抱き枕のようにしていた。
寝るときはちゃんと仰向きに寝て布団を掛けていたはずなのに、今は横向きの状態だ。
頭はまだぐわんぐわんしてる。
寝る前より悪化している気もする……。
外は暗い。一体何時間くらい寝てたんだろ?
時間を確認しようと、寝返りをうった。
「!!」
「あ、起きた?」
高志の顔が目の前に現れた。
「た、高志、どうしたのよ?」
「合い鍵で入らせてもらったよ、一人暮らしって普段は楽だけど、こういう時はキツイからさ。あ、おかゆ食べる?」
と優しくほほえむ高志。
「あ、うん……」
私の聞きたかった事とは違ったが、なんだかあっけにとられてしまってしまった。
「それじゃ、作っといたの温め直してくるから、熱測ってて――はい」
と言って、高志はパッケージに入ったままの体温計を私に差し出した。
わざわざ買ってきてくれたんだ。
「あ……うん」
私が体温計を受け取ると、高志は台所へ行った。
早速開け、スイッチを押して脇に挟む。
検温中、じっとしていると色んな音が聞こえてきた。
台所の方からは換気扇の音、鍋におたまがあたる音、棚から食器を取り出している音。
私のための、音。
何だか今まで高志に対して思ってた不満が、全部飛んでいくような気分だ。
頭は痛くて重いけど、これとは違う、もっと深いところの重さが消えていくような気がした。
バカだ、私はバカだった。
私のためにと高志がやってくれてた事に、私は勝手に不満を募らせ、後から文句を言ってたんだ。
ピピピピッ、ピピピピッ、ピピピピッ。
検温完了の音が鳴った。
「お、ナイスタイミング!」
カチャ。
ドアを開け、台所から高志がおかゆを持って戻ってきた。
高志はおかゆを机に置くと、ベッドのすぐ横に座り、私の出した体温計をのぞき込んだ。
36.7℃。
「よかった、熱はないみたいだね」
「……は? 私、平熱35.7℃だから普通にキツイんですけど」
高志は「ええっ!?」と驚いたかと思うと、私にとって衝撃の事実を口にした。
「俺、平熱36.7℃……」
なんと私たちは、気持ち面だけではなく、体温も1℃の差がある本当の意味での『温度差カップル』だったのだ。
「……あ、はははケホッ! ゴッホゴッホ!」
「だ、大丈夫か!?」
心配そうに私の顔をのぞき込む高志。
ギュッ。
と、私は思わず高志に抱きついた。
「お、おいっ」
高志は何で抱きつかれたのか分からないようで、あわてた声を出す。
今までごめん。
私のために色々行動してくれてたのに、私は何にも言わないで。
ケンカしちゃったのも、高志が私を気遣ってくれてないせいだ、って考えちゃってたけど、……違った。
高志はいつも高志なりに気遣ってくれてたんだ。
ただそれが少し私に合ってなかっただけ。なのに私はそれを受け止めようとせず、ただ拒否してたんだ。
ごめん、これからは私も思った事をちゃんと言うよ。
二人のちょうど良い温度を探そうね。
思っても、なかなか言葉にはできないもので。
だから私は、言葉の代わりに高志をぎゅーっと抱きしめた。
――二人の体温が一致した、この瞬間を大切に感じながら。
説明 | ||
久しぶりの投稿です。 これからは、もうちょっとこまめに投稿できるように頑張ります。^^; このお話は倦怠期を迎えた、とあるカップルの話です。 二人はどうやって仲直りするのでしょうか? この話を読んで、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。 |
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コメント | ||
意識の差を認め受け入る、それが恋愛の醍醐味ですかね。それにしても素敵なカップルです、よろしければもう少し彼女らの話を見てみたいです。(華詩) | ||
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