模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第53話 |
「アイちゃん達は今どうしてるかなぁ……」
アーケード街内の模型店、『ガリア大陸』、その二階にあるガンプラバトルコーナーでベリーショートの陸上少女、ミヨ・ムツミ(弥代睦美)は呟いた。
「立ち直ってるといいけどね〜」
その隣でロングの髪と呑気そうな顔つきの少女、フジ・タカコ(藤鷹子)がさして気にもしないように答える。商店街特有の細長い店内。二人の目の前にはガンプラバトルの中継モニターが置かれており、その左右ではバトル用のカプセル型インターフェース、Gポッドが左右に三個ずつ置かれていた。
そのポッドにガンプラビルダーがローテーションで出入りしており自分が作った機体を仮想空間の戦場に参加させていた。
「しかし違法ビルダーが闊歩してるっていう状況だって言うけど……、こうやって見ると全然そんな実感が湧かないね……」
ムツミは辺りを見回す。周りのビルダー、つまり自分のガンプラで戦う人達は当然ながら自分のガンプラをそれぞれ手に持っていた。違法ビルダーというのは最近問題になっている、ガンプラを使用せず機体のデータだけで戦う連中の事だ。ガンプラバトルというコンテンツに矛盾している上に、公式の正規品ではない。とはいえ自分の周りにいるビルダーにはそれらしいビルダーは見えなかった。
「ここら辺トップのビルダーがアイちゃん達だからね〜。皆アイちゃんのお仕置きを恐れているって事かな〜」
と、その時だった。一人の少女が二人に話しかける。
「あれ?珍しいですね。タカコさんとムツミさんだけですか?」
二人が目をやると中学生くらいの眼鏡をかけたショートカットの少女がいた。二人には面識があった。
「君は……ブスジマ・ミドリちゃんだったかな……」
「久しぶり〜。珍しいのはお互い様だよ〜。ここで会うってのは無かったからね〜」
「そうですね。……アイさんの方は大丈夫ですか?」
アイ、先日友達と仲違いするのはミドリも知っていた。一方的にアイの幼馴染、ノドカがアイを拒絶するというのをガンプラ選手権会場で大声で見せつけられれば心配になるというものだ。
「今日別地区の予選突破ビルダーと出かけて行ったよ……。大丈夫と信じるしかない……」
「アイちゃん達次第としか言いようがないよ〜」
二人とも深刻そうでなく答える様にミドリは多少肩すかしを食らう。
「思ったより気にしてなさそうですね」
「そんな事ないよ……。アイちゃんにはナナや仲間達だっているし……」
「今までだってなんとかしてきたのがアイちゃんだもの〜。あたし達に今出来る事は何もないよ〜」
「そういうもんですかね?よく解りません」とミドリ。
「そういうミドリちゃんだってシンジさんは、お父さんの事は心配じゃないの?昨日ノドカにコテンパンにやられたじゃない……」
「娘の私に出来る事なんて何もありませんよ。仲間もいるし別に心配する要素なんて……あ、前言撤回。よく解ります。お二人の気持ち」
「お互い様その2だね〜」
しれっと言うタカコにムツミとミドリは苦笑。
「それでお二人はどうしてここに?」
「さっきはあぁは言ったけどさ……今日ボク達が来たのも落ち込んでるアイちゃんに何か買ってあげられないか考えたんだけど……」
「ガンプラやってないあたし達にはいまいち解んないんだよね〜」
「……ボク達も前言撤回。ここへ来ている時点で心配しているみたいだ……」
今度は三人揃って笑った。
その頃アイ達はどうしているかと言うと……模型店『ガリア大陸』から隣の県の模型店『ルジャーナ』にて
「だぁぁっ!」
仮想空間の中でガンダムSEEDに登場したストライクフリーダムとイージスの改造機、メテオイージスが宇宙空間でぶつかり合っていた。
「重武装なのにそんなにちょこまか動き回ってぇ!!」
ナナはストフリの全武装を展開、一斉発射、ハイマットフルバーストだ。しかし腹部大型ビーム砲のカリドゥスだけは撃たない。他の武装で誘導して腹部ビーム砲でトドメをさそうという魂胆だ。
「そんな散漫的な攻撃で!」
射線からナナのストフリの正面にイージスは回避しつつ移動、今だ!とナナは判断、カリドゥスを撃つ。が、イージスはこれを左腕のアブソーブシールドで予測してたように吸収。
「あっ!」
「ワタクシを陥れようとした様ですが!そう来ることはわかってましたわ!!」
そういうとイージスはライフルを通常のままストフリに数発撃つ。防ごうとビームシールドを展開するナナ、しかしライフルで狙ったのは防御していた部位ではなく、正面から見えていた背中の羽根だ。瞬く間に破壊されていく羽根。
「ストフリの動きは損傷次第で簡単に鈍るからもっと気を遣えと言ったでしょう!!」
そのままイージスはストフリに接近し両袖のビームサーベルで切り裂いた。「そんな事言ったってぇぇ!!」とストフリは爆散した。
――
「ナナちゃん。お疲れ様。だいぶ絞られたみたいだね」
「アイ、はは、ご覧の有様よ……」
楕円形のGポッドから安物のレーシングスーツに似たパイロットスーツを着た少女、ハジメ・ナナ(始菜々)が出てくる。彼女の親友であって凄腕のビルダー、アイはナナに労いつつ同情した。
「ハジメさん、不甲斐ないですわね。全然ストフリを物に出来てないじゃないですの」
同じ様に色違いのパイロットスーツを着た少女サツマがナナに声をかけた。すらっとした体躯、ハーフ故の銀髪はシニヨンで纏められてる。
「アンタね……、指摘すんのはいいんだけど注文多すぎなのよイモエ」
イモエという言葉にサツマは一瞬露骨に不機嫌そうな顔をする。サツマ・イモエ(薩摩妹江)……彼女の下の名前で気安くその名で呼ばれる事を彼女は好まない。
「そう無神経な事言えるって事はまだ余裕があるって事でしょうか?」
「もーだめだよーもっちゃん。ハジメさんが言ってた通りもっちゃんが言い過ぎだったのは事実なんだから」
イモエを太ったチームメイトの少女、ヒルガオ・チヨコ(昼顔千代子)がにこやかに止めに入る。
「チヨコ。でも……」
「チヨコの言う通りです……もっちゃん、言い出したら聞かないから……一人で突っ走りすぎだよ……」
チヨコの隣、小柄でおどおどした少女、ルコウ・スグリ(流紅直里)もそれに続く、サツマは「スグリまで」と面白くなさそうだ。
「ゴメンねーハジメさん、まぁもっちゃんてばハジメさんにかなり入れ込んでるみたいだからね。決して嫌ってるわけじゃないの。許してあげてね。ほらもっちゃんもゴメンしようね」
「なんですのよ。保護者みたいな事言わないでくださいまし」
「言い出したら聞かないけど根はいい子なの……」
「好きな子には意地悪したくなるとかそう言う事だから」
「あぁなぁたぁたぁちぃぃぃ!!!」
激昂したサツマはチヨコ達に飛びかかろうとするが、ひょいとかわすと「わー怒った怒った」「逃げろー」と一目散に逃げて行った。「待ちなさい!」と追いかけていくサツマをナナは茫然と見ていた。「何やってんのよ」とナナは呆れながら呟いた。
「とりあえず、特訓で何か掴めそうっスか?」
サツマ達を見送りながらナナに問いかける。蓮っ葉な敬語で話しかけるのは14歳の少年、アサダ・ソウイチだ。
「正直わかんない。ストフリを使いこなしたいんだけどさ。どうもフリーダム系は発展するごとになんていうか軽くなっていく感じ」
「ストライク系から乗り換えるたびにハジメさんと相性が悪くなっていくわけか」
チームメイトのハガネ・ヒロが分析する。ナナは最初はストライクガンダムという換装装備はあれど標準的な機体に乗っていた。しかし、フリーダム、ストライクフリーダムと乗り換えるたびに機体は軽量化、上級者向けとなっていきナナとの相性は悪くなるばかりだった。
「ウェイトがある方がいいならデスティニーに乗り換えた方がいいんじゃないかな?高機動、かつ重装備だけど正直ストフリよりはハジメさん向きだと思うよ」
それに続いて指摘するのはツチヤ・サブロウタ、アイとナナ、そしてこの三人を含めてチーム『I・B』だ。
「乗り換えた方がいいってのはアタシも解るんだけどさ」
ストライクフリーダムを手に取ってまじまじと見つめるナナ、
「フリーダムってアタシが小さい頃、ストライクと並んで見た初めてのガンダムだったからさ。どうしても思い出に突き刺さってるっていうか、使いたいって気持ちがあるのよね」
「じゃあまたストライクの方向性で言ってみる?」
「それはそれで、乗り換え無しじゃ個人的にパワーアップした実感湧かないし」
「何それ」とアイは苦笑。
「まぁまだ時間はあるし、暫くナナちゃんは休んでいてよ。次は私の方がひと暴れしたい感じかな」
「助かるわ。アタシの方はちょっとヘトヘトだから休ませてもらうね」
そういうとナナは近くのベンチに腰掛けた。さっきまでサツマとワンツーマンで何度も特訓していたからだ。
「あぁ……次は俺がやりたかったんスけどね。まぁいっか」
「でも相手はどうするんだい?サツマさんはさっきどっか行っちゃったし」
ヒロが周りを見渡しながら疑問を出した。さっきのサツマ、彼女は現在地区代表として、今は全国大会を待つ身。故に県内最強であり対戦相手としてもうってつけだったわけだ。しかしそのサツマがさっきどっか行ってしまった。
「あ、そうでした。どうしよう……」
誰か相手でもいないかな。と探そうとするアイ、そこへだ。
「姉ちゃん!だったらオレッチと戦ってくれよ!」
元気のいい声が響いた。少年の声だ。
「ぐ、その声は……」
アイが警戒心を見せながら声のした方へ振り向いた。そこにいたのは一纏めにした髪型、鼻に絆創膏、ズボンから一部はみ出したシャツ。悪ガキといった格好の少年の名は、
「ヒガサ・ヨウタ君……久しぶりだね……」
ひきつった顔で距離を取りつつ、アイは答えた。
「……彼がヨウタ君か」とヒロは呟く。
ヒガサ・ヨウタ。名のあるビルダーというわけではないが、アイに挑戦したビルダーの一人(第24話参照)だ。
そう、その時は巣組みのガンプラ対決でアイをセクハラで追い詰めたが、その際にアイの逆鱗に触れてしまい爆熱ゴッドフィンガーで股間を潰された男だ。セクハラという女の尊厳を踏みにじる行為によって男の尊厳を握りつぶされた男である。
「元気そうだね……」
拒絶する。という程ではないが、受け入れようとはしていないアイの態度はヨウタも解った。
「そう警戒しないでくれよ〜。今日はまた姉ちゃんに挑戦って意味もあって会いに来たんだぜ?」
「ね、ねぇヨウタ。やっぱりやめようよ……」
その後ろにいた男の娘と言っていい外見の少年がヨウタに問いかける。彼はカサハラ・リョウ、オドオドした態度だがその実力はヨウタを大きく上回るビルダーだ。「カサハラ君もいたんだ」とアイは気づいた。
「何言ってんだよリョウ!こちとら再戦の目途がたった所に、向こうから来てくれるたぁ又とないチャンスじゃねぇか!」
「ふぇぇ……そういう意味じゃないよぉ、アレを本人の前で使うなんてぇぇ」
「今日の所は再戦だ。俺達二人のタッグと戦ってもらうぜ!」
「ふぇぇ!僕も出るの?!」
「……セクハラ禁止ならいいよ」
「おっしゃ!イタズラだったらしないぜ!オレッチだって反省したんだ!へへっこの日の為の秘密兵器を見せる時が来たぜ!!」
ノリノリのヨウタに怯えながらのリョウ。リョウのその態度が単なる怯えでない事は、その場にいた誰も気づかなかった。
そしてバトルへと移行すべくアイはGポッドへと入る。Gポッド内部スペースの中の操縦席へパイロットスーツに着替えたアイは座る。パーソナルデータの入ったカードを目の前のスリットに入れ、ハロを模したスキャナーに自分のスタービルドストライクを入れた。
「ヨウタ君、随分自信ありげだったな……。警戒はしておいた方がいいよね」
スキャンすると共に目の前の映像がCGの格納庫内部に切り替わる。ノーマルスーツを着た整備員が発信を促すジェスチャーをしているのが目に入った。『今回のステージは火星から地球への航路です』と表示される。
『ゲームをスタートします。戦果を期待します』そのアナウンスと共にアイは出撃の声を上げる。
「ヤタテ・アイ!スタービルドストライク!出ます!」
その言葉と同時にストライクの乗ったカタパルトは勢いよく進む。それはGポッドを振動となってアイを襲った。そのまま投げ出された機体は風に乗った鳥の様に目的の戦場へと飛んでいく(宇宙ではあるが)。ガンダム作品における出撃の再現、これこそがガンプラバトルへの通過儀礼、自分で作ったプラモをわが身を預ける相棒とする儀式だった。
「オルフェンズのステージか……」
自分が発進した宇宙航行艦、イサリビを見ながらアイは呟く。このステージは『鉄血のオルフェンズ』登場したステージ、引き寄せられたデブリ、つまり宇宙ゴミが密集しており更に電波障害も発生しているという難所だ。視界のそこかしこに宇宙ゴミが見えた。
アイが出撃したのは観戦モニターを見ていたナナ達も確認できた。
「今回はまた視界の悪いステージね」
「こんな状況じゃ高機動なスタービルドでは分が悪いかな」
「はてさて、向こうは何乗ってくるかな?」
視点をアイに戻そう。程無くして突っ込んでくる機体が一機見えた。白と紫のカラーリング、背中の羽根型バインダーのガンダム、それは……。
「アイズガンダム!」
「待ってたぜぇ!アンタと戦えるこの時をよぉ!!」
『OO外伝』に登場した機体、アイズガンダムだ。赤い粒子をまき散らしながら右腕のGNバスターライフルを向け発射、真っ赤なビームの奔流がデブリを飲み込みながらストライクを襲う。
「その物言い!リョウ君だね!」
アイはストライクのアブソーブシールドでビームを吸収、そのまま前方にパワーゲートを生成。通過しプラフスキーウイングを発生させようとする。これによりスタービルドストライクは超高速での機動が可能となる。
「失態だね!ビームが多いアイズじゃ私とは相性が悪いよ!」
「だがゲートをくぐらなきゃウイングは生成できねぇ!」
ストライクにアイズがビームサーベルで邪魔する。とっさに回避するアイ、アイズガンダムもまたバインダーを後方に向けた高速移動形態となっていた。
「多機能だが手間も多いのがスタービルドの難点だぜ!」
「考えたね!でも!」
アイもストライクにビームサーベルを持たせて応戦する。待ってましたといわんばかりにGポッド内のリョウは闘争本能を嬉々としてむき出しにしていた。彼は普段はおとなしいが、ガンダム系の機体に乗ると攻撃的になる。この理由は彼が『ガンダムにのれば僕も強くなった気になれる』というのが理由だ。オールバックにした額には痛々しい傷跡があった。
両機は真っ向からぶつかり合う。そのまま二機はビームサーベルでぶつかり合い、斬り合う。進路上のデブリは器用に避けるか破壊するかのどっちかだった。
「ハッハッハ!友達に裏切られて調子が悪いって聞いたけどやるじゃねぇか!」
「さっきまではね!でも私にはうじうじ悩んでるより面と向かってそいつに会おうって決めただけ!」
「よく言ったぜオバサン!だがその気迫も俺にとっては血沸き肉躍る材料だ!」
一度離れるとリョウはアイズのバインダーを右に寄せる。バスターライフルの強化を行うアタックモードだ。そのまま砲撃を発射、これによりビームがある程度曲射が可能。ストライクの意表を突こうとする。
「君もヨウタ君同様に失礼じゃない?!」
難なくアイはかわすとビームサーベルでアイズガンダムに切りかかる。
「アイツと一緒にされんのは心外だぜ!」
今度はアイズはバインダーを左に寄せる。シールド強化のディフェンスモードだ。防御フィールド、GNフィールドが発生しビームサーベルを弾いた。
「っ!」
「ぉおりゃぁ!!」
その隙を付いてそのままビームサーベルで切り裂こうとするアイズガンダム。が、アイはバルカンをアイズの頭部目掛けて発射、とっさにリョウはアイズの頭部を手で防御。
「ぅおっ!何しやがる!」
そのままストライクは背中のユニバースブースターから吊り下げられたビームキャノンを撃ちながら後退、一際大きなデブリに隠れる。
「大したもんだね!思った以上にやる!」
「お互い様だぜ!」
そう言うとアイズのバインダーは肩越しに展開、これがアイズガンダム最強の武装、アルヴァアロンキャノンだ。
「ふっとべぇぇ!!」
リョウが叫ぶとアイズのライフルとは比較にならないビームの濁流がデブリを飲み込んだ。が、デブリから飛び出したストライクは発射中だったアイズの頭部にビームを一発撃ち込む。
「なっ!」
そのまま破壊されるアイズの頭部、アルヴァアロンキャノンを中断されたと同時にエネルギーはほぼ無くなった。
「リョウ君、うまくアイズを使いこなしてるけどそこまでだよ。ちょっとゴリ押しが過ぎたね」
「ひ!ひぃぃ!!やめて!やだ!やめてよぉ!」
ガンダムの頭部を失った事によりリョウは元の気弱な性格に戻っていた。こうなった彼はただ狼狽するだけだった。強気の秘密はガンダムの頭部だ。
「やった!アイったら完勝じゃん」
観戦モニターを見ていたナナは喜びの声を上げた。
「待て待て。バトルを吹っかけてきたヨウタ君がいないな。どういう事だ?」
「消耗を狙って隠れてるのか?しかし……」
「ん?ね!ねぇ!ちょっとあれ!!」
突然ナナが愕然とした声を上げた。信じられない物でも見たかのような顔だった。
アイの方でも異常は気づいた。Gポッドに警告音が鳴ったのだ。
「何?」
警告した方向を見ると一条の光がこちらへ突っ込んでくるのが見えた。ヨウタの機体だとアイは判断。
「ヨウタ君か。なら相手を」
そういった瞬間だった。スタービルドストライクのユニバースブースターが破壊された。何かに撃たれたのだ。
「な!」
「俺を前によそ見とは余裕だなぁ!」
撃たれた方を見ると、アイズガンダムが新しい頭部を取り付けていた。これによりリョウは再び強気に。
「予備の頭部?!」
「シールドの裏に隠しておいたんだよ。ヨウタの奴の提案だ」
「よくやったぜ!リョウ!」
ヨウタの声が響いた。同時に彼の乗った機体が武器を振り回す。恐竜の頭を模したレンチメイスだ。外見の通り挟み込みチェーンソーで切断する武器だ。
「バルバトスの!?」
捕まるまいとアイはレンチメイスを回避、その時アイはヨウタの機体を確認した。と、
「なぁ!!」
奇声を発すると同時にアイは完全に硬直。隙ありとヨウタは再びレンチメイスで挟み切ろうとする。今度はアイの回避が遅れた。ストライクの左足は捕まり、その隙をついてアイズガンダムは切りかかってくる。アイはストライクの左足を自分のビームサーベルで切り落とし脱出。
「な…な…な…」
アイは恥ずかしさで一杯だった。ヨウタの乗ったガンプラ、バルバトスのアーマーを着こんだエプロンドレスに猫背、藍色の髪と瞳、それは……。
「何で……何で!何で私そっくりのガンプラ作ったのぉぉっっ!!!!」
メイド服を着たアイそっくりだったからだ。
「すげぇだろ!プロの人に誕生日プレゼントで作ってもらった『邪神像あい』だぜ!」
ドヤ顔で自分の乗った邪神像あいを説明するヨウタ、反面リョウは関わりたくないとばかりに顔を逸らしていた。
「セクハラぁぁ!セクハラだよ!!何考えてんの!!てか何!邪神像って!!」
「まぁ待てよ姉ちゃん、これは違法ビルダーへの対策でもあるんだぜ?」
「何言ってんの?!」
「そうさ!以前姉ちゃんと戦った時の姉ちゃんのキレっぷりは凄かったぜ。あの時の怖さ!まさに邪神!これは違法連中に対しても有効に違いない!てなワケだ!」
そう言うとヨウタは外側のサブアーム、それに備え付けられたマシンガンを撃ってくる。背中のブースターを失ったアイだがビルドストライクは素でも高機動だ。難なく回避する。
「理由になってない!!」
「簡単には落とせないか!だが見てみな!お年玉貯金を注ぎ込んで作らせたこの邪神像あい!姉ちゃんの得意な戦法、かつて使った技!身長、肌と髪の色と質感は元より姉ちゃんのスリーサイズも完全再現!」
「なんで知ってるのぉぉ!!!」
アイは真っ赤になった顔で絶叫しながらスタービームライフルを連射。しかしこれらはディフェンスモードのアイズガンダムに防がれる。
「ある人から情報もらったんだよ!加えて俺はリョウの奴とのタッグだぜ!オレッチ達の親友コンビには勝てねぇぜ!」
「あんま近くに寄るんじゃねぇよヨウタ。友達だと思われるだろうが」
一秒でも自分そっくりのガンプラを見ていたくはない。アイはさっさと邪神像あいを倒そうとビームサーベルで切りかかる。しかし援護に入るのはアイズガンダム。向こうもビームサーベルでのぶつかり合いとなる。すぐさまヨウタの邪神像あいが両腕のマシンガンでストライクに撃ってくる。
どちらか一方は防御。もう一方は攻撃とポジションを徹底してる為、なかなか決定打にはならない。リョウの腕はフォローが上手い。
「くぅっ!連携が取れてる?!」
「姉ちゃんをキレさせるわけにはいかねぇんでな!!さっさとケリをつかせてもらうぜ!!」
そういうとヨウタは邪神像あいのポケットからキャンディを複数取り出すと掌に乗せて息を吹きかけて飛ばす。直後、キャンディはポンポンと音を立てて一瞬で人型に膨らむ。かく乱用のダミーバルーンだ。しかしその姿は自機を模した物ではなかった。
「あ…あ…あぁ…」
今度はナナの方が絶句していた。
「ハ…ハジメさんだ」
横で茫然としたツチヤが呟いた。ダミーバルーンはアイの友達や周辺の人物の物だった。しかも格好がエプロンドレスのアイに合わせたのか。
ナナ=メイド。タカコ=バニーガール。ムツミ=巫女。ノドカ=サキュバス。マコト=牛柄ビキニ。ユキ=幽霊(井戸から出てきたシーン)。と全員マニアックな格好で再現していた。所々どよめきと笑いが起こる店内。ネタにされたナナの顔はみるみるうちに真っ赤になっていた。
「なんつーもん作ってんのよあんたぁぁ!!」
ナナが悲痛な叫びを上げながら止めようとする。しかしその横で、
「うわぁぁーっ!!!見るな!見るなぁぁ!!!」
ソウイチがナナ以上の赤面と絶叫を上げていた。ダミーバルーンの中にはソウイチの母、カナコのバルーンも含まれていたからだ。……しかも衣装は魔法少女(もうすぐ33歳)。観戦モニターを体で遮り隠そうとするソウイチだが、当然彼の体よりモニターはずっと大きい。隠せるはずがない。バルーンながらも一番見たくない親の姿に完全にパニックになっていた。
――周り知らない人ばかりなんだから黙っていればいいのに――
ツチヤはそう心の中でソウイチに思っていた。なおその横で「レムさんのバルーンは無いのか……残念」とヒロが思っていたのは誰も知らない。
「ヨウタくん……あの時潰したのに君は全然反省してないのかなぁ?」
アイの言葉に怒気が含まれ始めいた。目も血走り始めていた。
「おいヨウタ。案の上キレ始めたじゃねぇか。知らねぇぞ俺」
リョウの声に若干の焦りが見え始めた
「解ってるさリョウ、でも俺はやらなきゃならねぇ!男である以上女の子が大好きだ!皆女の子のこういう格好は妄想すんだろ?!それを見たいのは皆の願いだ!それを伝えたいんだよ!」
「俺は警察にお前の身柄を伝えてぇよ」
「……二人とも、遺言はそれ?もういいよ。二人ともチリ一つ残さずに消してあげる」
二人の漫才を待ってられないとばかりにアイは破壊しようと身構えた。ストライクからエクトプラズムめいた妙なオーラが見え始めた。
「げぇ!おいヨウタ!!俺まで共犯者みてぇに思われたろうが!どうしてくれんだよ!」
「決まってるぜ!やりたい事はやったから潔くやられよう!」
「ふざけんな!」
と、その時だった。『挑戦者が乱入しました』という表示がディスプレイの前面に表示される。
「あん?……なんだ!!?」
直後、警告音と共に上空から雨の様にビームが降ってくる。それもアイやヨウタ達を狙った射撃だ。
「う!うぉお!!」
必死に回避する三機、しかしヨウタとリョウの二人は回避しきれなかった。リョウのアイズガンダムは再び頭部と各部を損傷。
「く、くそ。かわしきれなかった……」
「ひぃぃ!何?!何が起きたの?!」
「あーっはっはっは。あーいい悲鳴」
聞き覚えの無い女性の声が響く。直後、数機の巨大な機体が降臨する様に降りてくる。違法ビルダーの機体。ガンダムブリュンヒルデだ。以前戦っときより小型だ。しかしアイ達の機体の倍はある。撃ってきたのはこいつだ。
「違法ビルダー!?」
「有名だけど低俗な旧世代ビルダーが今日はいるって聞いたけど、いい具合に弱ってんじゃん。あんたら倒せば私がここの女王ね」
「様は私達を倒すって事!?」
「バトルに出たって事はそういう事じゃん。馬鹿じゃないの?」
鼻で笑うような相手の態度にムッと来るアイ。
「礼儀がなってないね。初対面で馬鹿呼ばわりとはね」
「あぁアタシどSだからさ。アンタらに嫌な思いさせるの楽しくて仕方ないの。個性だから気にしないで」
直後に複数のブリュンヒルデが「さすが姫!」「そこに痺れる憧れる!」と同意する。取り巻きなのだろう。
「噂じゃあんたもどSだって言うじゃん?でも今のバトル見てたけどアタシの方がずっと上位ね」
「?私がどS?何かの間違いじゃない?」
理解出来ないというアイの反応に
「あぁやっぱりそう思う?あんたみたいな地味な子がどSだなんておかしいと思ったわ。とにかくあんたを倒せばアタシの名も上がるわ!その為に生贄になりなさい!」
直後にブリュンヒルデ達が一斉にアイ達を仕留めるべく飛び立つ。
「気持ちよくさせてから潰してあげる!」
「丁重にお断りさせてもらうよ!」
射撃を仕掛けてくるブリュンヒルデ、アイはそれをかわしつつライフルで撃ち返す。しかしブリュンヒルデはフィールドを発生、ビーム兵器は吸収される。これは違法ビルダーの機体各部にifsユニットと呼ばれる強化パーツが取り付けられてるからだ。その効果はビームを吸収するバリアをはり、ビーム出力UP、更に機動力も上がるという装備だ。
「チッ!こりゃさすがに姉ちゃんとやってる場合じゃないぜ!」
「ふぇぇ!う!うん!さすがにあいつらは許せないよ!!」
ヨウタとリョウの二人もアイの側に加勢する。違法ビルダーは通常のビルダーにとっては共通の敵だ。
「といっても!射撃じゃさすがに勝負はつかないか!」
「なら俺に任せておけよ!!邪神像あいには鉄血のオルフェンズの実弾兵器で固めてあるんだぜ!!対違法ビルダーのこの力を見せてやるぜ!」
そう言うとヨウタの邪神像あいは先行。止めるアイとリョウを聞かずブリュンヒルデにマシンガンを撃つ。
「その表情!ガンプラでも恐怖の顔つきにはなるのかしら!」
「させるか!!」
ヨウタは邪神像あいの背中に取り付けられたメイスを振りかぶる。それを受け止めるブリュンヒルデ。が、邪神像あいのパワーはかなりの物だ。そのままブリュンヒルデを弾き飛ばす。
「うぁっ!?」
「このままゴリ押しでいけるぜ!!」
行けると確信するヨウタ。だが違法ビルダーは余裕の態度を崩さない。
「フッフフ。馬鹿ね。パワーだけでアタシに勝てると思ってるの?」
弾かれたブリュンヒルデは受け止めた部位。右腕のバスターソードを損傷していた。しかしすぐさま損傷個所は再生する。これが違法ビルダーの特徴、そして嫌われる原因だ。
「ゲッ!再生すんのかよ!」
「試作品をもらったのよ!それに新世代ビルダーの技術は日々向上してるのよ!さぁ好きなだけ悲鳴を上げなさい!」
そう言うと取り巻きのブリュンヒルデ二体が遠隔操作武器のファングを両肩から射出、邪神像あいに襲ってくる。本体の射撃も加えてヨウタを追い詰める算段だ。突出したヨウタは実質3対1の状況となる。
「ヨウタ君が!先行するから!」
アイがヨウタの所へ向かおうとするも、別のブリュンヒルデが五体遮る。
「邪魔しないでよ!」
「姫のやる事はなんでも正しいのだよ!!」
すぐ横でもリョウのアイズガンダムはもう一機のブリュンヒルデに襲われていた。頭部を破壊されて気弱に戻っていたリョウは悲鳴を上げるばかりだった。
暫くして邪神像あいは吹き飛ばされ後方のデブリに背中から衝突する。
「ぐあっ!!」
ガンプラとはいえダメージを負った邪神像あいは苦悶の表情を浮かべていた。
「たまんないわねぇ。相手が絶望でもがく様は」
対して違法ビルダーのブリュンヒルデ三体は無傷、再生システム『アインヘルヤルシステム』の所為だ。
「そんな卑怯な手で勝って嬉しいのかよ」
「当然、他人の不幸は蜜の味って言うでしょ?相手が必死なのにこっちは対戦していても高みの見物でいられる。最高じゃない」
後方で取り巻きの二人が「YES!姫の言う通りです!」と続いた。
「やっぱ最低だなあんた」
「どSだからさ。個性よアタシの」
「まずい!ヨウタ君が!」
「うわぁぁん!ヨウタ君んんん!!」
それを見ていたアイ達はどうにかブリュンヒルデの攻撃を裁いていた。が、リョウの方は怯えていてまともに動けない。アイはそれを庇いながらの為防戦一方になっていた。
「再生のコアを潰せばいいんだろうけど……これだけ大きいと今の装備じゃ!」
「……なら俺のGポッドと入れ替えてこの邪神像あいに乗れよ」
突如ヨウタのGポッドからの通信が入った。
「ヨウタ君?」
「このまま向こうがでかいツラのままやられるのはゴメンだぜ。姉ちゃん、オレッチだってビルダーの端くれなんだ!このまま終わってたまるか!!そして姉ちゃんの方がずっと俺達より強いのも事実なんだよ!」
「ヨウタ君、解った。と言いたいところだけど!ちょっと今は敵を裁くので精いっぱいだよ!」
「だったらあたしとアサダに任せてよ!アイ!」
「母さんのバルーン!!バルーンどこ!?!」
「?!ナナちゃんとソウイチ君?!」
口調はいつもと違うが聞き慣れた声、ソウイチのバイアラン・スパイダーとナナのストライクフリーダムだ。
「アタシ達だって違法ビルダーは許せないんだから!」
「黙ってみてられないんスよ!それに母さんのバルーン割られたらすっごい嫌っス!!!」
そういうと二体はブリュンヒルデにそれぞれ立ち向かっていく。アイはその二人の行為を無駄にしてはいけないと判断。ヨウタに通信を返す。ちなみにバルーンはどこかに流れてしまったらしい。
「解ったよヨウタ君!Gポッドの交換行くよ!」
「おうさ!」
そう言うと二人はお互いにGポッドから出る。そのまますれ違いながら相手のGポッドに入った。
「フン!何やってるか知らないけど!無駄!ぜーんぶ無駄!さぁアタシにひざまづけ!」
そのままとどめを刺そうとバスターソードを振り上げるブリュンヒルデ。しかし振り下ろされた次の瞬間。邪神像あいの表情が諦めの無い表情に、そして外側のサブアームでバスターソードを真剣白羽どりの体勢で受け止めた。
「何?!」
「でやぁっ!!」と声を上げるとそのままブリュンヒルデをブン投げる。ソードが右腕と一体化していた為本体ごと舞った。
「姫!貴様ぁ!」
取り巻きがファングを使いアイに襲う。アイは冷静にサブアームのマシンガンでファングを迎撃。
「何?!」
「小回りを効くために前より小型にしたんだろうけど、やっぱり性能に頼ってる所ってあるよね。違法ビルダーは」
この隙に落とした武器、宙に浮かんだメイスを回収し今度はブリュンヒルデに向かう。来させまいと撃ちまくるブリュンヒルデだがアイの方は意にも解さないようにかわしながら突っ込んでくる。
「くそっ!小さいからってちょこまかと!」
「今度はそっちが良い様にやられる番だよ……」
「ヒッ!!」
相当怒っていたのだろう。アイから発せられる声は妙な冷たさがあった。それと連動してか、取り巻きが見た邪神像あいの表情は、銃を付きつける殺人鬼の様だった。直後、邪神像あいのメイスがバットの要領でフルスイング。『ゴッ!』という音と共にブリュンヒルデの左腕がひしゃげる。勢いを加えたとはいえ明らかに行き過ぎた威力だ。
「何だよ!この威力は!!」
「結構な威力だね。……作った人はちゃんと心を籠めて作ってくれたみたい。後本当に私専用みたいな感触」
ガンプラバトルという物は、作った時の気持ちが、込めた魂が機体にブーストとなる事もある。それこそがガンプラバトルが単純な性能競争で留まらない魅力の理由だった。
「魂だと!?そんな超常現象なんかにぃ!!」
ビキビキと時間を巻き戻すようにブリュンヒルデは再生していく。このシステムはいわゆるコア部分があり、そこから広がる様に再生していくという特徴があった。コアの位置は一機一機違いがあるが、これにより場所の予想はつく。
「となると!」
今度は頭部目掛けて思いっきり振り下ろす。頭上をバスターソードでガードしようと覆う違法ビルダーだったが。受けたまま腕とソードはVの字状にひしゃげて頭部ごと損壊。そのまま今度は再生せずに沈黙。コアは頭だった。
「う!嘘だ!!旧世代ビルダーなんかに!!」
もう一機のブリュンヒルデがアイに対して撃ちまくる。自分達がやられるとは思っていなかったのだろう。
「焦りすぎ!!」
アイは撃墜したブリュンヒルデの裏側に隠れる。盾にされたブリュンヒルデはその身に射撃を受けて爆散。その爆炎の中からメイスが槍投げの要領で高速で突っ込んくる。
「なっ!」
予期せぬ攻撃にブリュンヒルデの腹部にメイスは深々と突き刺さる。そのままブリュンヒルデは後方のデブリに衝突。隕石でも受けたクレーターのようにブリュンヒルデはぺしゃんこになった。コアを巻き込んだのだろう。そのままブリュンヒルデは沈黙した。
「な!なんで!こんな事ありえない!絶対負けないから新世代ビルダーになったのに!!」
最初に名乗った女性ビルダーが信じられないとばかりに叫んだ。残った相手にアイはメイスで立ち向かう。
「最低の遊びはもう終わり!観念したらどうなの!」
火力で邪神像あいを圧倒しようとするも、ファングも射撃も意味を成さない。難なくアイはかわし、迎撃し突っ込んでいく。慌てた違法ビルダーは近くにあったデブリをブリュンヒルデで掴み投げる。
「最後のあがきがこれ?拍子抜け!」
「く!こんのぉ!!」
もう邪神像あいはメイスを大きく振りかぶっていた。もう駄目だと言わんばかりに違法ビルダーは周りの物を確認もせずに投げた。
「っ!?」
その時だった。メイスを振り下ろそうとしたアイの手が止まった。何故ならアイの眼の前にある物は
「ノドカのバルーン……!」
アイを拒絶したノドカのダミーバルーンだった。アイはバルーンの寸前でピタッとメイスを止めた。その様子は相手の違法ビルダーにも解った。
「?へぇ、バルーンでもあんたの友達は打てないって?」
違法ビルダーは周りを見回す。ヨウタのばら撒いたバルーンは全てこちら流れていた為無事だった。そしてこれが切り札になると違法ビルダーは判断。
「じゃあこうされたらどうかな?!」
そう言うとバルーンを手あたり次第アイに投げつける。攻撃するわけにはいかずその場で止まるアイ。違法ビルダーはかまわず射撃を仕掛けてくる。その内のバルーンの一つ、またノドカの物が邪神像あいの真正面に流れる。このままではバルーンに当たる。そう思うとアイはとっさにメイスを盾にバルーンを庇う。ブリュンヒルデは頭部からの高出力ビームを撃ってくる。怪獣の熱線の様なビームを必死にアイは防ぐ。
「アハハ!たかが風船にそんな必死になっちゃって!大体そいつもアンタを拒絶した奴じゃん!!そんな奴を庇うなんてバッカだねぇ!!」
「関係ない!!関係ないよ!!拒絶されたとしても!!私は違法ビルダーになったアイツを改心させたい!本心が知りたい!私はアイツが好きだから!だから偽物のバルーンでも守ってみせる!!」
「ふん!!じゃあ他のバルーンを狙っても庇うのかしら!」
「何!?」
「まずいわ!押していたのに!」
「母さんのバルーンまであるっスよ!まずい!!」
「だぁぁ!バルーン出さなきゃよかったぁぁ!!」
「ふぇぇ!もう駄目だぁ〜!」
アイが再び押されているのはナナの方からでも見えた。とはいえこちらも違法ビルダーに押されていた。
「フン!仲間の心配をしてる余裕があるのか?」
「よく言うわよ!再生に頼ってる様な奴が!」
そう。ナナ達が一体二体はどうにかできたが、最終的に数で押されてしまっていた。と、その時だった。『挑戦者が乱入しました!』というアナウンスが再び起きる。誰が?と困惑する。直後、ブリュンヒルデのGポッドに警告音が、直後に雨の様な量のミサイルが降り注ぐ。それによりとどめを刺そうとしていたブリュンヒルデの攻撃も中断。
「この攻撃!まさか!!」
「そのまさかですわ!」
サツマの乗ったメテオイージスガンダム達だ。戻ってきて乱入したのだろう。
「ワタクシ達のシマでよくもまぁ好き勝手してくれましたわね!」
「しかもお客さんのアイちゃん達相手にだよ!」
「ツケは払ってもらうよ」
身構えるチヨコのブリザ・ドーガとスグリのラビットジュアッグ。しかし遠くにいるアイとはまだ距離がある。
「チヨコ!プラフスキーウイングでヤタテさんの所へ飛びますわ!ビームを!」
すぐさまサツマのイージスにビームを数発撃つチヨコ、イージスはシールドで吸収すると変形、巡航形態でアイの所へ突っ込んでいった。
「待ってイモエ!アタシも!」
ナナのストフリもイージスを掴む。
「ハジメさん?!まぁいい!しっかり捕まってなさいな!!」
そういうとイージスは変形したまま青い翼を発生させ超高速でブリュンヒルデに突っ込んでいった。
「アッハッハッハ!一個ずつ風船を割って……何!」
こちらでもアナウンスは聞こえた。と、それからわずかな時間でサツマのイージスは弾丸の様にブリュンヒルデに突っ込んでくる。そのままイージスはブリュンヒルデを貫通。
「ぐぁあっ!」
そのまま腹部を分断されたブリュンヒルデは宙を舞う。と、ナナのストライクフリーダムが邪神像あいに駆け寄る。
「アイ!大丈夫?!」
「ナナちゃん!サツマさん!」
「改めてみると凄いナリしてるわねアンタ」
「それ言わないでナナちゃん」
「何安心してますの!!コアを逃しましたわ!」
「二人とも!バルーンの保護をお願い!それで私は思いっきり戦える!!」
「友達を模したバルーンでピンチになりますか。甘いですわね……」
「ちょっとイモエ!!」
「でも、だからこそ友達を大事に出来るんでしょうね。解りました。バルーンの保護はワタクシ達に任せて!」
そういうと二機はバルーンに向かう。
「つまらない展開だわ!どいつもこいつも生真面目にやりやがって!」
「ふぅ……セコイ手しか使えない人が何を言うの?」
上半身のみ、再生中のブリュンヒルデの中で違法ビルダーが声を荒げる。それに対してアイが冷たく、そして怒りを込めて言い放つ。
「っ!?」
ぞわっと違法ビルダーの背筋に悪寒が走った。アイから発せられる威圧感は拳銃でも突きつけられたかのようだった。アイの態度に呼応して邪神像あいの表情もどんどん怒りの表情になっていく。
「くっ!ムカつくからあんただけでも虐めるわ!」
震えた声でそう言うとブリュンヒルデは再びファングを飛ばす。しかしアイに同じ手は通用しない。サブアームのマシンガンで迎撃、あっという間に近づかれる。
「自分の性格が悪趣味なのを押し付けないでくれる?」
「何が!アタシはどSだ!!嫌がる相手に押し付けるのは当然でしょ!」
そう言うとバスターソードを横に薙ぎ払う。がそこに邪神像あいはいない。どこだと辺りを見回す違法ビルダー、直後頭上からアイの声が響く。
「それ、どSって言わないよ。よくわかんないけど」
「!?」
「相手が求めている時だけに相手を気持ちよくさせてこそどSでしょ」
ブリュンヒルデの頭部に邪神像あいは乗っかっていた。と、乗っていた両足が青く輝きだす。と、同時に表情が邪悪となる。相手にとっては死刑宣告と同様だった。
「ひっ!や!やめて!!」
「だーめ♪」
恐怖に歪んだ声を上げる違法ビルダー。瞬間、ブリュンヒルデが頭から一気に潰れていく。そしてひび割れ、崩壊。これはアイが踏み潰す様な発頸を以前使用していたからだ。コアごと潰されるブリュンヒルデ。
「あ!ぁああああ!!!」
断末魔を上げる違法ビルダー、アイはその声を聴きながら妙な興奮感を覚えていた。そして邪神像あいも連動するように同じ表情で震えていた。自覚のない。彼女こそが生まれついての真のどSだった。
「で、ヨウタ君、これもらっていいよね?」
バトルが終わった直後、アイの第一声はそれだった。表情は張り付いたような笑顔だが妙な凄みがある。
「えぇぇ?!そりゃねぇよ姉ちゃん!すっげぇ金かかったしそれで違法ビルダーと戦うつもりだったのに!」
「文句ある?」
一瞬だけ笑顔を解除、言い分は聞かないとばかりの暴君の様な表情だった。
「見てたぞ。おいチビ」
また別の声がするとヨウタの後ろから、ロリータファッションの少女がヨウタに組み付いた。彼女もビルダー、ゴウセツ・ユキだ。さっきのバルーンでは幽霊のコスプレだった。
「ウチを幽霊の恰好させるたぁどういうこったぁ!あぁ?!!」
「ギャー!!増えたぁぁ!!」
「で、貰うから」
突然の乱入者に困惑の声を上げるヨウタ。その隣でナナ達はまた別の話をしていた。
「いやいや。しかし一時はどうなるかと思ったわよ」
ナナが安堵したように呟いた。反面ソウイチは渋い顔のままだった。
「あれで自己採点はいい点数はとれたと思ってますの?ハジメさん」
皮肉る様にサツマが言う。ジョークか本気か解らない。
「むー解ってるわよ。まぁ違法ビルダーにだって皆で力を合わせれば負けはしないからいいじゃない」
「くっ!これで勝ったと思ってるわけ?!甘いわね!」
別のGポッドから違法ビルダーが出てきた。中学生位の少女だった。
「さっきの奴か。もっとまともな趣味をもったらどうなんだ」
「ほっとけ!!それはそうと!アタシらを倒したのは誰だ!ほとんどアイって奴じゃない!そして乱入してきたサツマ達だわ!そんな力が偏っていたって勝てるわけがないわ!」
「アンタ!それだって皆でカバーしあえば!」
「ハッ!劇甘!新世代ビルダーの機体の性能はまだまだ発展途上よ!いずれはアイの性能だって追い越す機体で倒してやるんだから!首洗って待ってなさい!」
そう言うと違法ビルダーは去って行った。取り巻きはオンライン参加だったらしい。彼女一人だった。だが先程の発言を負け惜しみと受け取れるのはほとんどいなかった。
「アイツの言う通りっスよ……」
ソウイチが口を開く。
「やっぱりこのままじゃ駄目なんだ。力を合わせようにも、それぞれの力を上げておくに越したことは無いっス。やっぱりまだまだ俺達も強くならなきゃ……」
悔しさと不安を混ぜた言葉だった。
「なら精進あるのみですわね。もっとワタクシが……」
サツマが言いかけた時だった。アイのスマホに着信が入る。電話だ。
「誰だろう?……ムツミちゃんだ」
ディスプレイの名前を見るとアイは何気なく電話に出る。
「もしもしムツミちゃん?」
「あ!アイちゃん!!大変だよ!!今ガリア大陸に違法ビルダーが集団で暴れてる!!」
「っ!!なんですって?!」
オンラインでどうにかガリア大陸の回線に入り込めないか確認するアイ達、しかし回線は閉じており、乱入は出来なかった。こうしてアイ達は急遽ガリア大陸にトンボ帰りとなる。……しかしこの後の事件が、アイ達チームI・Bにとってとてもい大きなターニングポイントになるとは、この時誰が思ったろうか……。
追伸、第34・35話、そして38・39話のガノタ関係の部分は修正しました。読み返してみて、名指しでガンダム作品の批判はものすごく気持ち悪かったので。
説明 | ||
第53話「邪神像あいちゃん」 二年間放置して申し訳ありません。どうしても作れず。書けずという状況になってしまいここまでズルズルと来てしまいました。 こうなってしまった以上、開き直ってまた図々しく書くつもりです。よろしくお願いします。 |
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mokiti1976-2010さん 読んでいただき有難う御座います!まぁこの辺はちょっと捻り加えてます。(コマネチ) そして、真のドSを発動させたアイが、ガリア大陸で暴れている違法ビルダー軍団を恍惚の表情を浮かべながら蹂躙する…なわけないか。(mokiti1976-2010) |
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