裏ビーストテイマー・ナタ40 |
しゃくり上げるように泣いているフラウの背中をさすりながらアークは諭すように言います。
「フラウ様に一つだけお願いがあります。どうか自殺だけはしないでください」
「あなたがいなくなったら、私もう生きて行けない…」
「私は今でもあなたを愛していますが、ナターシャ様を裏切る事は出来ないのです」
「あなたは優しい人よ。いえ、天使だから人ではないのかしら?私にとってゲイザー様は天使のような存在だった。だけど死んでしまって…どんなに恋い焦がれても、もう二度と抱かれる事はない…」
「あなたのその一途で美しい心が好きでした」
「過去形なのね。今はもう好きではないって事かしら?私の心の中からゲイザー様の事が少しずつ薄れて行くのが三年前からわかってたの」
「心眼でわかっていました。三年前から少し笑うようになっていたので…」
「私はそれが怖かった…。ゲイザー様が亡くなって七年しか経っていないのに、心の中で哀しみが風化してゆくのが…。そしてもしそれをあなたに知られたら、あなたは私に醒めてしまうんじゃないかって…。だって一途な女が好きだと言ってたでしょう?」
「私は一度、本気で好きになった相手には醒めません。最初から別に好みではなかった相手にはすぐに醒めますが…」
「本当に?今でも私の事…あなたは好きでいてくれるの?」
「初めて声をかけたあの日に私は既に恋に堕ちていました」
「あの時、私はなんちゃってシスターをしていてパンを配っていたと思うのだけど…。一体、私のどこに惹かれたの?可愛くない女だって、よく言われるから不思議だった」
「あなたの全てです。容姿端麗、才色兼備、夫であるゲイザー様に対して想いを貫いていて、誰に誘われても迷わず断れる意思の強さ」
「ゲイザー様を忘れてしまった、今の私でも愛してくれるの?」
「あなたの中にいるゲイザー様の影を消したくて、私は必死であなたの事を口説いていましたから、むしろ嬉しいと感じます」
「嫌われていないのに、私はフラれてしまうのね。ゲイザー様にフラれてしまった日の事を思い出すわ。嫌いじゃないけど別れようって…」
「好きだからと言って必ず付き合えるわけではないです。時と場合によっては好きでも諦めなければならない事もある…。私が好きになるのは既婚者が多かったのです。既婚女性の余裕と夫に献身的に尽くす姿が心を打たれて…」
「いつも不倫の関係だったの?」
「ええ、だから想いを秘めてご奉仕を続けていたんです。私にはそんな愛情表現しかできなかった…」
「不器用なのね。あなたを誤解してる人が多いけど、私は本当のあなたがどんな人なのか知っているわ。何も知らないアンチがあなたの悪口を言ってるのが許せなかった…」
「私もフラウ様を悪女だと罵るテオドールの恋人が大嫌いでした。今もあなたの反対派代表として街頭演説であなたを罵っているが、私の心眼ではあの女の心の醜さがよく見えます」
「ふふ、恨まれるのはわかっていたの。だからこそ敢えて私はこの手でテオドールを殺した」
「他人の手を借りて自分の手は汚さずに相手を傷付けようと考える、テオドールの恋人の方が遥かに卑劣で醜い悪魔だと、私は思いますけどね。あの女にだけは頼まれても夜のお相手はしたくありません」
「私が手を汚さなくてもフォン様がアラヴェスタ幹部は皆殺しにしたでしょうね。フォン様がテオドールを殺していたら、あの女は怒りをぶつける相手がいなくて、死を選んでいたと思うわ」
「そこまで考えておられたのですね。やはりあなたは聡明で心が優しい理想の女性です」
…つづく
説明 | ||
本編のパラレルワールドをシナリオにしてみました。ストーリー第40話。 | ||
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