Know No Limits
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「THE KING OF FIGHTERS」

世界トップレベルの格闘家たちが集うこの異種格闘技大会では、

毎回何らかのトラブルが発生している。

そしてそれは開催第11回目となる今大会も、例外ではなかった。

 

「なんなんや、コレ……訳がわからへんで」

拳崇は呟いた。

目の前には2mを超える人間と、それを貫いた槍が転がっている。

飛び散っているのは血液と思しき青い液体。

槍で2mの巨体を貫いたのは、その仲間と思われる者だった。

 

――いや、「人間」やないな。…多分。

 

とりあえず確実な部分だけ自分の思考を訂正した。

前大会に出場していない分、状況が飲み込めていない。

前回も出場したアテナなら何か知っているかもしれないが。

 

「なあアテナ、どないなって…だ、大丈夫か?」

事情を尋ねようとアテナを見やる。彼女の顔は真っ青になっていた。

「…ちょっと、めまいがしただけだから」

力ない返事。相当気分が悪いのだろう。

飛び散った血液の影響か、あたりは生臭く

雨が降る前兆なのか大気中には湿気が多く、むっとしている。

「大丈夫か?真っ青やで?はよ帰ろ。ももちゃんも大丈夫やったか?」

「うん!ももこは大丈夫だよ〜!」

前大会からの状況把握は後から。

拳崇はメンバーの状態を確認し、一刻も早く移動することに決めた。

 

アテナの肩を支え、拳崇が歩き出したその瞬間、

背後の空気が変わった。

 

――ももちゃん!?

「エスパー!!」

 

拳崇が振り向き、桃子の異変を感じとったのと

桃子がリーダー超必殺技で攻撃してきたのは、同時だった。

 

「ぅあああっ」

「きゃあっ け、ケンスウ!?」

桃子の攻撃が発生する直前、アテナは拳崇に突き飛ばされた。

一帯はまばゆい光に貫かれ、アテナが上体を起こすと

拳崇は十数メートル後方へ吹き飛ばされていた。

「ケンスウ、ケンスウ!!」

アテナは慌てて駆け寄り、抱き起こした。

試合の時以上のパワーで攻撃を受け

彼は血まみれになっている。

拳崇はアテナと目をあわせ、一瞬口元をゆるめた後

すぐに意識を手放した。

 

「あ〜あ、二人まとめてやっちゃおうと思ってたのに。

 ケンスウ兄ちゃんがアテナちゃん突き飛ばしちゃうんだもん。」

「…ももちゃん……!どうして?」

残念がる桃子に、アテナは問うた。

 

「龍の気を手に入れるには

 ケンスウ兄ちゃんを弱らせなきゃいけなくって、

 でもケンスウ兄ちゃんだけ弱らせても、アテナちゃんが居たら

 龍の気を手に入れるのをジャマされちゃうもん。

 だから二人まとめて倒れてもらおうと思って。」

 

「龍の気って…。ももちゃん、あなた何者なの?」

「…遥けし彼の地より出づるモノ達。

 そこに転がってるモノの仲間だよ。」

 

「えっ…」

――今、何て…

 

「ももこの役目は、アテナちゃんとケンスウ兄ちゃんに近づいて

 龍の気を手に入れること。気づかなかったでしょ?」

桃子はあどけなく笑ってみせた。

 

アテナの思考が停止した。

自分に懐いて、大会中も行動を共にしていた少女が

拳崇の能力を狙っていたというのは、受け入れがたい事実。

 

「あ、アテナちゃんがももこのこと、気づくわけないんだった。

 ももこ、アテナちゃんに暗示かけたんだもん。」

アテナの追いつかない思考をよそに、桃子は話を続ける。

「あ、暗示…?どういう…」

「えっと、アテナちゃんがももこをすっごーく可愛がって、

 まちがっても正体がバレませんようにって念じたの。」

 

――うそ…

驚きとショックで言葉にならない。

迂闊だった。

そのような気配は微塵も感じなかった。

 

「アテナちゃんサイコパワー強いから抵抗されるかと思ってたけど

 心にちょっとおおきな穴があいてたから、できちゃった。」

「穴?」

「うん!『心の隙』っていうのかな。

 アテナちゃん、さびしかったみたいだから

 ももこがそれを埋めるかんじにしてみたの。」

 

――さびしい?私が…?

一体何が原因でさびしかったというのだろうか。

アテナには心あたりがなかった。

桃子は話を続ける。

「アテナちゃんが可愛がってるももこのことを

 ケンスウ兄ちゃんは警戒するはずがないし。

 アテナちゃんにさえももこのことを気づかれなかったら

 いいんだから、カンタンだったよ。」

 

桃子はニコニコしながら語っている。

しかしその内容はアテナの心に重くのしかかった。

『アテナにさえ、桃子のことを気づかれなかったらいい』

というのは、逆手にとれば

『アテナさえ桃子のことを気づいていれば、この事態は免れた』

ということである。

 

アテナに心の隙さえなければ、そこへつけこまれることもなかったのだ。

 

「……っ。」

アテナは己のふがいなさに唇を噛んだ。

そもそも拳崇が桃子の攻撃を直に受け、重症を負っているのは

気分を悪くしたアテナを庇った結果なのだ。

彼はアテナを突き飛ばした一瞬のロスで、

ほぼノーガードの状態で攻撃を受けてしまっていた。

 

――もし、私も異変に気づいてケンスウと二人で攻撃を受けていたら

  ダメージを分散できたかもしれないのに…。

 

拳崇を抱きかかえている手に少し力がこもる。

いつの間にか小雨が降りはじめていた。

彼の血液と雨が混じり、アテナの指先を流れる。

その感覚に心の底から冷やりとした。

 

何とか今の状況を打開しなければ、と思考をめぐらせる。

しかしアテナにはひとつだけ不可解なことがあった。

「心の隙…私がさびしかったって、どういうこと?」

 

本来ならば己と向き合って答えを見つけるべきなのだろうが、

そんな悠長なことが許される状況ではない。

アテナは桃子に答えを求めた。

 

「アテナちゃんの心の奥深いところにぽっかり穴が空いてたの。

 自分の一部がなくなったってゆうか……

 大切な人がいなくなったみたいな。気づかなかった??」

 

――おかしいわ。私、大切な人を亡くしたりしてない筈なのに…。

考え込むアテナを見て、桃子はわずかに口元を緩めた。

 

「まぁいっか。アテナちゃん、ケンスウ兄ちゃんを離して。」

その口調はアテナに甘えていたときと全く変わりはない。

「龍の気、もらうよ。」

「そんなこと、させない…!」

アテナは絞り出すように言った。

この際自分の些細な疑問はあとまわしである。

アテナは頭を切り替え、攻撃に備えて体勢を少しずつ変えた。

腕の中にいる仲間をこれ以上傷つけずに戦えるよう。

 

「アテナちゃん、次は本気出すよ…」

先程のような不意打ちとは違う。

対峙している状況で相手を倒そうと思えば、本気で力を出すしかない。

桃子の攻撃を全力で受けるため、抱きかかえていた拳崇を

地面に降ろしたとき。

 

 

一瞬だった。

 

 

双眸を開き

上半身を起こし

もの凄い力を桃子に向かって解放する拳崇を見たのは。

 

 

青白い閃光。

耳をつんざく金属音。

あとには稲妻がおこすような空気の振動が残った。

桃子は数メートル先で倒れている。

拳崇は肩で息をしている。

アテナは拳崇の背中を呆然と眺めていた。

 

 

「龍の気…やっぱりすごいパワーだね。

 次は失敗しないから!」

二対一では圧倒的に不利と判断したのだろう。

身を起こし、そう言い残すと桃子は姿を消した。

 

拳崇はアテナに向き直り、顔から滴る血と雨をぬぐう。

そのままドサッ、と倒れた。

「大丈夫!?」

アテナが再び抱きかかえる。

「な?天才サイコソルジャーやって言うたやろ?」

「…バカ!」

いつもの笑顔。

大会前にたたいた大口を事実に変える。

心配や安堵がごちゃまぜになり、アテナはそれしか言えなかった。

 

「無事でよかった。おおきに…アテナ。」

「何が?」

「こっそりヒーリングで俺の傷、治してくれよったんやろ?」

 

拳崇の意識が戻るまで、アテナはヒーリングで少しずつ彼の怪我を

治していた。桃子に気づかれないように。

 

「か、完全にじゃないわ。

 気づかれないようにある程度、傷口は塞げたと思うけど…

 ちょっと待って。」

 

ほのかな光が拳崇を包む。

降り続いている小雨のせいで空気は冷たいが、

その光には温もりがあった。

 

「大丈夫?」

「ああ、痛みはとれたわ。おおきに。」

アテナは拳崇の体を改めて見た。

おびただしい量の血液が付着したままになっている。

ヒーリングでも、流れ出てしまった血液は元に戻せない。

体内の血液が不足しているのは明らかだった。

「…ごめんなさい……早く、病院に…」

「いや、まだ平気や。それにアテナが謝ることないで。」

アテナは首を横に振る。頬を雨粒とは別の光がつたっていた。

「心に隙が…、っ私が弱いから…」

彼女らしからぬ弱気な発言。

拳崇は少々動揺したが、諭すように紡ぎだした。

「アテナ、泣くなや。俺はアテナが弱いとは思わんで?

 なんちゅーか…俺なんか隙だらけやし、自分が弱いやなんて

 誰でも一度は思うもんや。」

 

彼を映すアテナの瞳から雫がぱたぱたと落ちる。

拳崇は自分の体を支える彼女の腕に、軽く手を添えた。

 

「大事なんは自分の弱さとどう戦うか、やで。

 アテナやったら、ちゃーんと戦える。

 心配せんでええ。」

 

アテナはうなずくのと同時にぎゅっと目を閉じた。

ボロボロと熱いものがあふれだす。

その唇は固く結ばれたまま。嗚咽をこらえている。

 

その様子を見守りながら拳崇は思う。

――ほんまに弱かったら『敵に気づかれんように仲間を回復させる』

  やなんて したたかなこと…できんのやけどな。

  それにしても素直なんか、強情なんか…。

 

涙を隠さないのは拳崇に気を許している証拠。

声をあげないのは拳崇に泣き縋ることなく己で立とうとする意思の表れ。

 

――アテナがあんまり強うなってもうたら…

  今度は俺が守ったる場面が無くなってまうんやけどなぁ。

  俺も負けられんわ。

心の中で苦笑いしつつ拳崇はアテナを見つめていた。

 

 

目を開けると拳崇の顔がゆがんだ視界に入る。

困ったような照れたような笑顔。

自然と涙がひいてゆく。

アテナはようやく理解した。心の隙を作ったのは何だったのか。

自分でも気がつかないほど心の奥に住みついていた存在。

そして今、胸を満たしている思いを口にする。

 

「ケンスウ、…ありがとう。」

 

アテナは笑った。

心に固い決意を秘めて。

まだ止まない雨の中に、光が見えてきた。

 

 

若年者の失敗は常。

足りないものは補えばいい。

胸をはっていればいい。

 

まだ何も失っていないのだから。

 

弱さがあるからこそ、それを克服しようとするならば。

ココがスタートライン。

これからいくらでも強くなれる。

 

 

説明
KOF XIサイコチーム。稼動直後に「分岐EDがある」と噂(?)になったモノを(勝手に)基にしました。
実際のEDとは関係ありません。
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タグ
拳崇 アテナ 桃子 KOF サイコソルジャーチーム 

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