異能あふれるこの世界で 第二十九話
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【阿知賀女子学院・監督室】

 

赤土「じゃあ約束通り、始めよっか。カウンセリング」

 

恭子「…………はい」

 

赤土「なんだよー硬いなあ。そんなんじゃ頼りの頭も固まっちゃうよ」

 

恭子「いうても無理あるでしょう。インハイ中、直に教えてもろたトッププロから否定されたんですよ? お前がプロになるのはあり得んって」

 

赤土「はあぁ? いつ戒能ちゃんがそんなこと言ったよ。あ、もしかしてはやりさんが?」

 

恭子「もしかしません。ちゃかさんといてください」

 

赤土「いやいや、おかしいのはお前だ恭子。人は見たいものしか見ないとは言うがな、お前のはちょっとひどすぎるぞ。お前の考える自分に適合する言葉しかまともに受け取れないのか?」

 

恭子「……えっと、どういうことでしょうか」

 

赤土「心底わからない。あれだけ戦えているのに、あんなにも認められているのに、どうして自分を凡人だと言い切れるんだ? お前の中の凡人様はどんだけレベル高いんだよ」

 

恭子「なんもおかしなことありませんて。私はリーチを追っかけたら毎回即でつかませることなんてできませんし、嶺上から毎回良い牌持ってくることもできません。どえらい集中力でわけわからんけど必ず成功する打ち方ができるとか、とんでもない防御力で負けない麻雀を打てるとか、そういう特別なことはなんにもできません。ほんまもんの凡人ですよ」

 

赤土「特別が、よかったのか?」

 

恭子「いいかどうかはわかりませんが、少なくともインハイで注目された選手はほぼ全員が特別でした。自分だけの強みを持っていることを、羨ましいと思う気持ちはあります」

 

赤土「羨ましい、ねえ。まあ、そう思う気持ちもわかるが……私は異能持ちを羨ましいなんて全くもって思えない」

 

恭子「えっ? その方が意外ですけど」

 

赤土「ちなみに聞くが、私のことはどう思ってる?」

 

恭子「そうですね。打った感じだと、特定の展開で何かの効果が出るようなことはありませんでした。常にやっている可能性はありますが、異能というよりは純粋な実力だと思っています」

 

赤土「正解。私には異能なんてない。だけどさ、今の私はきっとインハイを蹂躙できる。前にも言ったけどさ、一応プライベートでトッププロと遊べるレベルだからね。まあ高校時代の小鍛治さんや戒能ちゃんくらいのトンデモさんが隠れてたら、取りこぼしはあるかもだけど」

 

恭子「……そうですね。負けといて言うのも悲しいですが、手も足も出んかったネリーでさえ、赤土さんに比べれば対処法があるように思えます」

 

赤土「だろー? いらないって、異能なんて。それにさ、研究すればするほど悲しいものなんだよアレ」

 

恭子「悲しい、ですか?」

 

赤土「そ。ここだけの話にしてくれるのなら、少しだけ話してあげるよ」

 

恭子「……わかりました。お願いします」

 

赤土「バッテン一個。そこは即答しようね。まだ教えが染み付いてないかな?」

 

恭子「機会は逃すな。わかってはいるので、もう少しお時間をください。裏を考えてまう癖がなかなか抜けんのです」

 

赤土「呼吸をするように機会を手に入れろ。機会だと認識する前に、口が勝手に獲得するようになれ。反応で言質を奪うんだよ。言質を取られて困るのは、立場を手に入れてからだ。そっちは大学で学んでくれ」

 

恭子「はい」

 

赤土「んじゃ研究結果、ってほどでもないな。わかりやすい身内の話をしてあげるよ。うちのドラゴンロード、知ってるだろ? アレな、一種の呪いなんだわ」

 

恭子「は?」

 

赤土「私の師匠と言ってもいいお方。玄の母親で、露子さんってのがいたんだ。若くして亡くなったんだが、玄への最後の教えが『ドラをもっと大事にした方がいい』だったらしい。玄は本当に優しい子で、かなりの甘えん坊でもある。露子さんにそんな気はなかったのだろうが、大好きで大好きで仕方が無かった母による遺言に近いような教えになってしまった。玄にとってのドラは、母との絆そのものなんだよ」

 

恭子「……聞いてええんですかね、これ」

 

赤土「よくはない。だから黙っといてくれよ。ついでに宥だが、あいつは異常体質だ。寒くて寒くて仕方がないらしい。昔からその気はあったんだが、私は露子さんが早世したことで酷くなったんじゃないかと思っている。あの子とは付き合いがあまりなかったからよくわかんないんだけど、まあそういうのが牌の偏りにも影響しているって感じなんだ」

 

恭子「あの、聞いてるだけで辛いんですが」

 

赤土「そうだろ? 私の知る限り、強い異能持ちはほぼ必ず何らかの代償を払っている。永水や戒能ちゃんもわかりやすいな。幼いころから人生かけてガチで修行してんだもん。本物の姫様とか、血筋とか、私ら普通の人間には想像できない世界に生きちゃってる」

 

恭子「……まあ、そうですね。やばい異能には、おかしな経歴が付いてくるっちゅうのはわかる気がします。園城寺も、身体がおかしくなるにつれて能力が冴えていったとか」

 

赤土「それ、確実か? あいつ、よく喋るんだけど言うことがまちまちでな。発言の信憑性が薄いんだわ」

 

恭子「直接聞きました。ただ、本当のことを言うてるかどうかはわかりません」

 

赤土「確かめようがないもんな。しかし良い情報だった。そういうパターンもあるんだなあ」

 

恭子「いうても、なんとなく先がわかることは小学生の時からあったとも言うてましたけどね」

 

赤土「……絶対に理解できない感覚の話だから、伝えにくいのはわかるがなあ」

 

恭子「私は園城寺に関して、確実な先読みがあるってくらいにしています。聞いたらわりと答えてくれるんですけどね、なんちゅうか……」

 

赤土「もしかして、素か?」

 

恭子「全部ではないんですが、抜けたところはありますね。それに、普段のあいつは悪い意味で適当なところがあって、突拍子のない嘘とか平気で吐きよるんです。しかも大阪人ですから話を盛ることにも抵抗ありません」

 

赤土「色んな意味で、困った奴だ。私とは相性が悪い」

 

恭子「悪い奴やないんですけどね。千里山でも人気者ですし」

 

赤土「……」

 

恭子「……」

 

赤土「話を戻そう」

 

恭子「はい」

 

赤土「あー、今までの流れで察してくれると思うが、私はあまり異能を重要視していない。ふとしたことで能力が弱まることもよくあるしな。心に深く刻まれたものが異能の元って仮定で考えたらさ、かさぶたができれば弱まるってのも道理だろ?」

 

恭子「プロを見ればわかる、ということですか」

 

赤土「そ。で、有名な例外が戒能ちゃんなわけ。修行で得たものが元だからほぼ永続的な上に、出来ることが多すぎて把握されないってあたりが主な理由かな。誰にも実態をつかませないから、プロの世界でも高校時代とほぼ同じやり方で通用している」

 

恭子「だから赤土さんとしても評価しているというわけですか」

 

赤土「まあね。っと、トッププロを評価しているなんて烏滸がましいな。敬意を払っている、くらいにしとこうか」

 

恭子「いまさら過ぎませんか?」

 

赤土「やっぱり? まあ、あれだ。異常さと多様さを歳くっても発揮できる場合だけだな。異能を前面に出してもプロで通用するのは。一つでも欠ければ、そのうちただの一手段へと成り下がる。成り下がったからって異能へのこだわりを無くしてしまえば、連れて能力そのものも弱まってしまう」

 

恭子「……つまり、先々を考慮すればむしろ邪魔にすらなる、と?」

 

赤土「回転早いね」

 

恭子「打ち方の芯を捨てたら終わりだと教わりましたから」

 

赤土「時間をかけたら成功することもあるんだ。だけど、苦戦してこだわりを捨てる破目になった選手をさ、長い目で見てくれるほど甘くはないよ。模索している間も最低限の成績を残せるならいいけど、考え方の根になっているものを放棄したのに成績が向上するわけがない。チャンスはすでに与えている。失敗したのはそいつなんだ。クビだよ。間に合わない」

 

恭子「やけに実感こもってますね」

 

赤土「そりゃ見てきたからな。実業団で。プロの話も山ほど聞いた」

 

恭子「苦虫を?み潰したような顔してますよ」

 

赤土「人が潰れていく様なんて、みんな違ってみんな酷いってなもんさ。十人十色に沈んでいくんだよ。絶望の海に。時として道連れの袖を掴んだままね……」

 

恭子「……」

 

赤土「んじゃ、異能については以上だ」

 

恭子「あ、はい」

 

赤土「特別なんていらない、または異能なんてたいしたことない、ってのはそのうちわかってくる。わかるように教えるからな。じゃあなんで、そいつらに勝てないんだ?」

 

恭子「えっ?」

 

赤土「特に高校時代までは猛威を振るう。何故だ? 特殊な能力があるから、で済ませちゃいけないことだ」

 

恭子「理由が、あるんですか?」

 

赤土「今は私が聞いている。この問いに、答えられるか?」

 

 

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 麻雀 末原恭子 赤土晴絵 

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