英雄伝説〜灰の軌跡〜 閃V篇
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午後5:10―――

 

リィン達が演習地に戻ると[組、\組ともに演習の後片づけ等をしていた。

 

〜演習地〜

 

「わあああ〜〜っ、まさかサラ教官にアンちゃんと会えるとは思わなかったよ〜!」

 

「御二方ともあれからまた、素敵になられましたわね♪」

サラ達と対面したトワは喜び、アルフィンは微笑んだ。

「ふふっ、トワや皇女殿下達も久しぶり。」

 

「その教官服も素敵じゃないか。フッ、さすが私のトワだね♪」

トワを誉めたアンゼリカがトワに抱きついた。

「も〜、アンちゃんってばぁ。」

 

「クスクス…………相変わらずねぇ。」

アンゼリカの行動にリィン達が冷や汗をかいている中トワとレンは苦笑していた。

「それと勿論、アルフィン皇女殿下やエリゼ君のメイド服姿、それにレン君の教官服も素敵だよ♪特にエリゼ君は普段とは違うメイド服だから、新鮮さが増してただでさえ魅力的なのが更に魅力的になっているね♪」

 

「フフ、お褒めに預かり光栄です。」

 

「むう…………レン教官は”君呼ばわり”するのに、わたくしは未だ”皇女殿下呼ばわり”なのは納得できませんわ。特にわたくしの場合、リィンさんに嫁いだ事でレン教官と違って”皇女”ではなくなっていますのに。」

 

「クスクス、もしかしてジェラシーかしら?リィンお兄さん、油断していたらアルフィン夫人に限らずリィンお兄さんの大切なレディ達がアンゼリカお姉さんに”寝取られている”かもしれないわよ♪」

 

「ハハ、肝に銘じます。」

アンゼリカの賛辞にエリゼは静かな笑みを浮かべて会釈をし、不満げな様子でいるアルフィンを見たレンは小悪魔な笑みを浮かべてリィンに指摘し、レンの指摘にユウナ達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中指摘されたリィンは苦笑しながら答えた。

 

 

「クク、しかし旧Z組の担任がまさかA級正遊撃士だったとはなぁ?」

 

「フフ、それはこちらの台詞でもあるけどね。それにしても…………野獣系のオジサマか…………今まで出会った素敵なオジサマ達の中にはいなかったから新鮮味もあって、より魅力的に見えるわね…………」

 

「え、えっと………サラさん?ご存じとは思いますけど、ランドロス教官は既婚者ですわよ?」

興味ありげな表情を浮かべているランドロスに苦笑しながら答えたサラは真剣な表情でランドロスを見つめ、それを見たセレーネは冷や汗をかいて苦笑しながらサラに指摘し

「ぐっ…………そういえばそうだったわね。」

セレーネの指摘を受けたサラは唸り声を上げたが

「フッ、ですが彼の”立場”を考えるとリィン君のように侍らすレディが一人増えてもおかしくない立場ですから、可能性はあるのでは?実際彼の”相方”はリィン君が侍らしているレディ達の数を超えるレディ達を侍らしているのですから。」

 

「ハッ!?その手があったわね…………しかも、”黄金の戦王”と違って確か側妃はまだ一人もいなかったわよね…………」

 

「ア、アンちゃん!?それにサラ教官も本気にしないでください!」

 

「いやいやいやいや!?ランドロス教官まであの女好きエロ皇帝みたいな人になるように仕向けないでくださいよ!?」

 

「というか何故そこで俺を引き合いに出すのですか…………」

アンゼリカの指摘を受けると再び真剣な表情で考え込んで小声で呟き、それを見たトワとユウナは慌てた様子で指摘し、リィンは疲れた表情で指摘し、その様子を見たセレーネ達は冷や汗をかいた。

 

 

「”紫電”のバレスタイン…………以前より高名は伺っています。」

 

「ふふ、あたしもヴァンダールの方々には何度かお世話になっているわ。―――うーん、それにしてもアンタがZ君に入ったなんてねぇ。その制服、結構似合ってるじゃない?」

 

「…………どうも。」

クルトの賛辞に苦笑しながら答えたサラに視線を向けられたアルティナは静かな表情で会釈した。

「で、ラクウェル一の悪童まで第U分校入りしてるなんてね。どういう風の吹き回しかしら?」

 

「ハッ、俺の勝手だろうが。ま、潰れかけのギルドに入るよりはマシだったからじゃねえか?」

 

「って、アンタねぇ…………」

ジト目のサラの問いかけに対して皮肉で返したアッシュをユウナは呆れた表情で見つめた。

「あはは、まあホントの事だしね。」

 

「…………でも、本当に驚きました。」

 

「二人がフォートガード州に来たのは偶然だったんですよね?」

 

「うん、私はちょうど先日、大陸一周から帰国したばかりでね。父上に連絡を取って話をするうちに領邦会議への出席を頼まれたのさ。」

 

「あたしはギルド方面の情報でエレボニア内の猟兵団を追ってたんだけど…………フォートガードとエレボニア側のクロイツェンでそれぞれ、怪しげな動きを察知してね。で、追いかけて調べてる時にこの娘とちょうど出くわしたわけ。フフ、第Uが来てるのは知ってたけどあんなタイミングに遭遇するなんてね。」

 

「ええ………本当に助かりました。しかし、これで状況はますますわからなくなりましたね。」

 

「そうだね、対立する猟兵団同士が何のために戦っているのか…………”結社”が本当に関わっているのかもまだわかっていないし。」

 

「ふむ、領邦会議についてもどう回るかわからないみたいだね。フォートガードとラクウェル…………どちらにも気を配る必要がありそうだ。」

 

「うーん、明日の特務活動もさらに忙しくなりそうな気が…………」

 

「だが、ここが僕達の踏ん張りどころでもあるだろう。」

 

「ええ………ミリアムさんに負けるつもりはありませんし。」

 

「ハッ、退屈しねぇんだったら俺はなんだっていいぜ。」

 

「ふふっ、少なくても刺激的ではありそうですね。」

 

「私は何も起こらずに演習を終える事が一番だと思うのだけど…………」

リィン達の会話を聞いて今後の活動が多忙であることに生徒達は様々な想いを口にした。

「うふふ、今までの演習の傾向を考えると少なくてもゲルドの希望通りにならない事は確実でしょうね♪」

 

「クク、どの演習も”初日”で”ハプニング”が起こったからなぁ?ひょっとしたら、今夜あたりにその紫の猟兵団とニーズヘッグとやらが手を組んで俺達を奇襲してくるかもしれねぇぜ?」

 

「ちょっ、縁起でもない事を言わないでくださいよ!?」

 

「しかも、”実例”がありますからお二人の推測が冗談になっていませんわよね…………」

レンとランドロスが口にした不穏な推測にユウナは表情を引き攣らせて指摘し、セレーネは疲れた表情で呟いた。

「…………あの、サラさん。先程エレボニア側のクロイツェンでも猟兵団が怪しい動きをしていると仰っていましたが、メンフィル側のクロイツェンは問題無かったのでしょうか?」

 

「ええ、メンフィルもそうだけどクロスベルだとギルドは大っぴらに動ける上、軍や警察も協力してくれるお陰で猟兵団の連中も両帝国での活動を控えて、活動はエレボニアに集中しているみたいだから大丈夫よ。」

 

「まあ、メンフィル・クロスベル共に過去”猟兵”による被害があるから”猟兵”は”犯罪者扱い”だから、領内に猟兵の存在を確認したら間違いなく検挙に動くから、元々猟兵の存在を許さないリベールでもそうだけど、2年前の件でメンフィル・クロスベル領でも猟兵は活動し辛い国になったから、メリットもなくわざわざ活動し辛い国で活動するような命知らずな猟兵団なんて皆無だと思うわよ。」

 

「そうですか…………今までの事を考えると、エレボニアでの猟兵団の活動が活発な理由は政府もそうですが、政府の意向に同意しているお父様の意向も関係している可能性は高いでしょうね…………」

 

「姫様…………」

 

「…………」

エリゼの質問に答えたサラとサラの説明を捕捉したレンの説明を聞いて辛そうな表情を浮かべたアルフィンをミュゼは心配そうな表情で見つめ、クルトは重々しい様子を纏って黙り込んでいた。

 

 

「そういえばサラさん。お礼が遅くなりましたが先月はユミルを守って頂き、ありがとうございました。」

 

「ユミルが再び国際問題になりかねない出来事に巻き込まれる事を未然に防いで頂き、本当にありがとうございました。」

 

「ああ、その件は別に気にしなくていいわよ。あたしとしては”かかし男”の連中に日頃の恨みをぶつける絶好の機会だったし、ユミルの温泉も久々に楽しめたから、そんな機会をくれたクロスベルに感謝しているくらいよ。」

 

「ふふ、話によれば何でもリィン君達がかつて所属していた例の支援課のリーダーに加えて”アルカンシェル”のあの”月の姫”とも共闘したとか?」

リィンとエリゼに感謝の言葉を述べられたサラは苦笑しながら答え、アンゼリカは興味ありげな様子でサラに訊ねた。

「ええ、二人ともさすがはクロスベルの修羅場を潜り抜けてきただけはあって、相当な使い手だったわ。」

 

「クク、特務支援課はオレサマやヴァイスハイトも一目置いている程の相当な使い手だぜぇ?なんせ連中は2年前のクロスベル動乱を解決する為に”紅の戦鬼”、”風の剣聖”、”赤の戦鬼(オーガロッソ)”、”鉄機隊”に加えてまだ結社に所属していた頃の分校長殿も退けた事があるんだからな!」

 

「まあ…………」

 

「ええっ!?あ、あの分校長まで…………!?」

 

「特務支援課の皆さんはそんなにも多くの強者達を退けてきたのですか…………」

 

「ハッ、あの化物分校長まで退けるとか見た目とは裏腹にとんでもない化物連中みたいだな。」

 

「ちょっと、アッシュ!”見た目とは裏腹”とか”化物”とかロイド先輩達に失礼でしょう!?」

サラの説明を捕捉したランドロスの説明にミュゼとトワ、クルトは驚き、アッシュの言葉を聞いたユウナはジト目で指摘し

「”赤の戦鬼(オーガロッソ)”って誰?」

 

「”赤の戦鬼(オーガロッソ)”シグムント・オルランドとは”赤い星座”の副団長にして”紅の戦鬼”の父親でもあります。―――最も彼は2年前の”碧の大樹”で”特務支援課”に敗北後、レン教官に”止め”を刺されて暗殺された為既に死亡していますが。」

 

「ふえええっ!?」

 

「クスクス、随分と懐かしい話ね♪」

ゲルドの疑問に答えたアルティナの答えにトワが驚きの声を上げている中レンは小悪魔な笑みを浮かべ、その様子を見たリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

 

 

「さてと…………あたしたちもそろそろ新海都に行きますか。今日の宿を取る必要もあるし。」

 

「既に連絡はしたが…………私も城館に顔を出さないとな。」

 

「あ、それじゃあ送るね。」

 

「俺も送ります。――――みんな、今日はお疲れだった。明日も早いだろう。夕食をとってレポートをまとめたら早めに休むといい。」

その後一端解散したリィンはセレーネやトワ、アンゼリカやサラと共に演習を終えた生徒や教官達に声をかけて演習地を回った後新海都へと向かうサラ達を途中まで同行する為に出入り口に停めている導力バイクに近づいた。

 

 

「それじゃあアンちゃん、サラ教官も帰りは気を付けてくださいね。」

 

「ああ、また会おう。」

 

「世話になったわね、トワ。」

 

「俺とセレーネも途中まで送っていきます。少しやる事があるので帰りが遅くなるかもしれませんが。」

 

「え、そうなんだ?」

 

「やれやれ、お姉さんは悲しいわ。可愛い教え子の友達がこ〜んな水臭い大人になっちゃうなんて。」

 

「え。」

 

「も、もしかしてお二人とも…………」

リィンとセレーネの今後の行動にトワが首を傾げている中既に察しがついてアンゼリカと共に呆れた表情で自分達を見つめるサラの言葉を聞いたリィンは呆け、セレーネは苦笑していた。

「フッ、君達の事はお見通しさ。これから夜のラクウェルにカップルで洒落込むつもりなんだろう?」

 

「それは…………」

 

「ど、どういうこと?カップル―――二人でラクウェルって………―――ま、まさかリィン君とセレーネちゃんッ!?そういう施設に行くつもりじゃ…………!」

アンゼリカの推測にリィンが困った表情で答えを濁している中トワは困惑した後真剣な表情でリィンとセレーネを見つめた。

「ち、違いますって。一応ミハイル少佐にも許可はもらっていますし。その、ああいう場所だと夜の方が情報収集には向いてるかと思いまして。」

 

「かといって夜の歓楽街は学生のユウナさん達の教育にはあまりよくない施設が営業している時間ですから、ユウナさん達は連れていけませんので…………」

 

「あ…………」

 

「要するに猟兵の調査の続きね。大方リィンの独断で、セレーネがリィンを一人にできないからついていくことにしたのでしょう?まったく、勝手に一人で決めて…………君のそういう所も君の恩師のセシリア将軍から聞いていたけど、あれから全然成長していないようねぇ?」

 

「アハハ…………わたくしには相談するようになっただけ、マシにはなっていると思いますが…………」

 

「いやはや、まったくだ。どうして私達を頼ってくれないんだい?」

 

「す、すみません…………―――って、え?」

サラと共に呆れた様子で指摘するアンゼリカの言葉を聞いて謝罪したリィンだったがすぐにある事に気づくと戸惑いの表情を浮かべた。

「フフ、ああいった歓楽街は君達よりも慣れてる自負がある。連れて行かない理由はないだろう?」

 

「ま、遊撃士の仕事で何度か訪れている街だし。夜のスポット巡りについてもそこそこ役に立てると思うわよ?」

 

「で、ですが―――」

 

「だーかーら、遠慮しなさんなっての!久々に会えたのよ?…………少しは力にならせなさい。」

 

「あ…………」

 

「サラさん…………」

サラの気づかいにリィンは呆け、セレーネは微笑んだ。

「フッ、そういうことさ。遠慮しないでくれたまえ。新海都の城館は、ユーシス君達に連絡を入れておけば大丈夫だろう。」

 

「アンちゃん、サラ教官…………」

 

「はは…………確かに水臭かったみたいです。よろしくお願いします、二人とも。」

 

「どうかお二人の力、わたくし達に貸してください。」

 

「ん、それでよし!」

 

「存分に頼ってくれたまえ。」

 

「ふふ、一応生徒のみんなには内緒にしておくから。あ、でも皇女殿下やエリゼちゃんはどうしよう?」

 

「お二人には既に前もって伝えてありますから大丈夫ですわ。…………というか、むしろわたくしはお二人からお兄様の”お目付け役”としてお兄様から目を離すなとまで言われているくらいですので…………」

 

「ハッハッハッ、さすがは妻と妹兼正妻予定の婚約者だけあって、リィン君の事を二人共よくわかっているみたいだね。」

 

「フフ、今でそうなんだから、将来はエリゼ達の尻にしかれる事が目に見えるわよね〜?」

 

「う”っ…………」

トワの確認の言葉に苦笑しながら答えたセレーネの答えに呑気に笑ったアンゼリカの指摘とからかいの表情を浮かべるサラの指摘にリィンは疲れた表情で唸り声を上げた。

 

「クスクス…………それじゃああまり遅くならないようにね?」

 

「ありがとうございます、先輩。」

 

「さあ、そうと決まれば出発だね。めくるめく夜の世界にいざ、旅立とうじゃないか♪」

 

「ア、アンちゃん…………ホントにそういうお店はダメだよ!?」

 

「はは…………とにかく生徒達にバレないように行きましょう。」

その後リィン達はトワに見送られて導力バイクでラクウェルへと向かい始め、道を塞いでいる魔獣の群れを協力して撃破した。

 

〜東フォートガード街道〜

 

「ふうっ、一丁上がりっと。」

 

「フフ、我が拳とバイクの前に立ちはだかったのが運のツキってね。」

 

「はは…………やっぱり来てもらったのは正解だったかもしれません。二人ともさらに腕に磨きがかかっているというか。」

 

「ま、ここ数ヶ月は厄介な連中ばかり相手してからねぇ。アンゼリカの方はクロスベルやメンフィル領になった旧共和国領で鍛え直してきたんだったっけ?」

 

「ええ、あちらにいる武術の師匠を最後に訊ねまして。…………旧共和国領は旧共和国領で色々と不穏な状況みたいですね。」

 

「ええ、エレボニアもそうだけど大陸中のギルドが大忙しなのよね。」

 

「え………旧共和国領が不穏とは一体どのような事が起こっているのでしょうか…………?」

アンゼリカとサラの会話が気になったセレーネは不安そうな表情で訊ねた。

「ま、簡単に説明すれば旧共和国人の中にはメンフィルやクロスベルに統合されているという事実が許せず、旧共和国領で非合法活動している集団――――つまり、かつての”帝国解放戦線”のような集団が旧共和国領で暗躍をしているみたいなんだ。」

 

「それは…………」

 

「どうして旧共和国領ではそのような事に…………バリアハートを含めた旧エレボニア領ではそのような話は聞きませんのに…………」

アンゼリカの説明を聞いたリィンは複雑そうな表情をし、セレーネは悲しそうな表情を浮かべた。

「…………そうか。旧共和国領には旧エレボニア領のように、元祖国の代表的な存在が両帝国に従う、もしくはヴァイスハイト陛下のようなVIPクラスの人物と縁戚関係を結んでいないからですね?」

 

「あ…………」

 

「ええ、そうよ。旧エレボニア領の内メンフィルは君も知っての通りアルフィン皇女殿下が、クロスベルはカイエン公爵家のユーディット皇妃陛下がそれぞれ両帝国の英雄や皇帝に嫁いだ影響で、それぞれの国に統合された事への反発も大した事がないそうなのよ。だけど、エレボニアと違って貴族や皇族が存在しない旧共和国は代表格クラスの人物はロックスミス大統領だったけど、そのロックスミス大統領は2年前の連合軍が首都に侵攻した時に責任を取って自害したからね…………」

 

「一応大統領には娘が二人いるとの事だけど、二人とも既に政治とは縁遠い職業に就いている上アルフィン皇女殿下達と違って旧共和国人達にとってはそんなに有名な存在じゃないから、例え二人がアルフィン皇女殿下やユーディット皇妃陛下のようにメンフィル・クロスベルのVIPクラスと結婚したとしても、効果はあまり見込まれていないのさ。まあ、それもあって両帝国はロックスミス大統領の家族の事はそれ程重要視していないみたいなんだ。―――むしろ彼女達がロックスミス大統領の仇を取るためという名目でテロリスト達に拉致されてテロリスト達にとっての”旗印”にされないように、両帝国は彼女達に警護をつけているくらいさ。」

リィンの推測にセレーネが呆けている中サラとアンゼリカはそれぞれリィンの推測に頷いて説明を続けた。

「そうだったのですか…………あら?でも、どうしてアンゼリカさんは旧共和国の事情についてそこまで詳しいのですか?」

 

「フフ、実は私の泰斗流の師匠が旧共和国の情報機関に所属していた人物で、今はクロスベル帝国の情報機関の人物として働いているのさ。」

 

「え………?旧共和国の情報機関に所属していた人物で、”泰斗流”、ですか?確かわたくし達がクロスベルで知り合った方にもそのような方がいらっしゃるのですが…………」

 

「まさかアンゼリカさんの”師匠”はキリカ・ロウランさんですか?」

自分の質問に答えたアンゼリカの答えを聞いて心当たりがあるセレーネは目を丸くし、リィンは僅かに驚きの表情を浮かべてアンゼリカに訊ねた。

 

 

「ふふっ、その通り。師匠からは君達のクロスベルでの活躍も聞いたよ。何でも”西ゼムリア通商会議”では、特務支援課と共にオルキスタワーの襲撃に失敗して撤退しようとした帝国解放戦線を処刑しようとした”赤い星座”を制圧したんだって?」

 

「ハハ、俺達は大したことはしていませんよ。厄介な人物達――――”赤の戦鬼(オーガロッソ)”と”紅の戦鬼”はカーリアン様達が相手してくれた上、ヴァイスハイト陛下達――――”六銃士”と共に”赤い星座”の猟兵達を制圧しただけですから。」

 

「それでも二大猟兵団の片翼であるあの”赤い星座”を制圧しただけでも大したものよ。――――そういう訳でテロリスト関連で旧共和国領のギルドもエレボニア(こっち)と同じくらい忙しいそうなのよ。まあ、あっちはあたし達と違ってメンフィル・クロスベルの軍や警察と協力体制を取っているらしいから、あたし達よりは楽でしょうけどね。ちなみに特務支援課のリーダーも旧共和国領でのテロリスト関連の捜査の応援の為に今は旧共和国領で活動しているとの事よ。」

アンゼリカの言葉に苦笑しながら答えたリィンに称賛の言葉を贈ったサラは意外な話を口にした。

「まあ、ロイドさんが…………」

 

「特務支援課のリーダーとして培ってきたロイドの捜査官としての実力を考えたら、ロイドも捜査に加わる事は当然だろうな。しかしそうなると、キーアは寂しい思いをしているだろうな…………」

 

「そうですわよね…………せっかくルーレの出張から帰ってきたばかりですのに…………それにエリィさん達も寂しいでしょうね…………」

セレーネはリィンと共にキーアの顔を思い浮かべた後ロイドと恋仲の関係であるエリィ達の顔を思い浮かべた。

「”寂しい”で思い出したけどリィン。君、アリサがトールズを去ってからは直接会う事はしなくてアリサに寂しい思いをさせて、その反動で先月の特別演習で再会した時にあのメイドや新Z組の生徒達の目の前で躊躇いもなくディープキスをさせたそうね〜?」

 

「う”っ…………何でサラさん達がその事を…………って、大方情報源はシャロンさんなんでしょうね………」

 

「シャロンさんが生き生きとしたご様子でサラさん達にお兄様とアリサさんのラブシーンを面白おかしく伝えている所が目に浮かびますわよね…………」

からかいの表情を浮かべるサラの指摘に唸り声を上げたリィンはサラにからかわれる原因となった情報を教えた人物について心当たりがあった為、その人物であるシャロンの顔を思い浮かべて疲れた表情で肩を落とし、セレーネは苦笑していた。

「ハッハッハッ、あのアリサ君にそこまでしてもらえたんだから、むしろ役得だと私は思うけどね♪」

 

「ハハ…………そうですね。アンゼリカさんは…………大陸一周のほうはどうでしたか?」

 

「ああ、正直色々あって語りつくせないくらいでね。特に東部は―――いや、日が暮れそうだから止めておこう。また別の機会にトワたちを交えて話させてもらうよ。」

 

「ふふっ、勿体ぶるじゃない。…………確かに色々聞くけど。」

 

「(大陸東部か…………老師の手紙にもあったな。)はは、でも確かに、トワ先輩やジョルジュさんとも一緒に聞きたい気がします。」

 

「ああ、そういえばジョルジュが分校を訪ねてきたそうだね。何か言っていたかい?―――”例の仮面の男”について。」

 

「あ…………」

アンゼリカのリィンへの質問にセレーネは蒼のジークフリードを思い出した。

 

 

「”蒼のジークフリード”…………話だけは他の子達から聞いたわ。地精―――黒の工房の関係者として君達の前に現れたそうだけど…………――――そんなに”似ているの?”」

 

「…………わかりません。そもそも俺とセレーネの”彼”との面識はサラさん達と違って数える程で、しかもお互い敵対関係のままでしたし…………」

 

「ですが、わたくし達もそれだけはあり得ないとは断言できますわ。」

 

「そうだね…………そうだった。」

 

「帝都近郊の霊園…………もう1年半になるのか。…………でもまあ、だからと言って気になるものは気になるんでしょう?」

 

「…………はい。黒の工房についてもジョルジュさんも調べてくれるそうですが…………」

 

「まあ、どのみちジョルジュとは会議が終わったらルーレに会いに行こうと思っているしね。そちらと合わせて、私の方でも何かわかったら連絡させてもらうよ。」

 

「すみません、助かります。」

 

「とと…………話し込んじゃったわね。」

 

「そろそろラクウェルに行きましょうか。」

その後リィン達は再びラクウェルへと向かい始めた。

 

 

〜同時刻・デアフリンガー号〜

 

一方その頃トワはユーシス達と通信をしていた。

「―――アンゼリカ先輩の件、了解した。明日の朝には来るように伝えてください。」

 

「うんっ、もちろんっ。戻ったらちゃんと言っておくね。」

 

「やれやれ、先輩もそうだがシュバルツァーも水臭いというか。猟兵が潜んでいるかもしれない夜の町に一人で向かおうとするとはな。」

 

「あはは、セレーネやエリゼ達に相談してセレーネと一緒に行こうとしただけ、マシかもしれないけどねー。ま、あの二人がついているならそこまで心配いらないかな?そもそもリィンには常に強力な”助っ人達”もいる訳だし。」

トワがユーシス達と通信をしている中、ユウナ達は扉の外から通信を聞いていた。

 

 

「…………ねえ、今のって。」

 

「ああ、おそらく。」

 

「…………ふう、またですか。」

 

「えっと………(教官達を追って演習地に戻った時にミハイル教官に凄く怒られる未来が視えた事は今言うべきかしら…………?」

トワ達の通信内容を聞いたユウナ達がそれぞれリィン達を追いかける決意をしている中予知能力で自分達の未来が視えたゲルドは困った表情をしていた。

 

〜演習地〜

 

「ハッ…………バレバレなんだっつーの。ま、居ないならかえって好都合ってモンだがな。」

一方その頃リィンのバイクがない事に気づいたアッシュは不敵な笑みを浮かべていた。

「――――あら、お一人で行ってしまうんですか?」

するとその時いつの間にかアッシュに近づいてきたミュゼが声をかけた。

「そろそろユウナさん達にも来る頃合いでしょうし…………折角なので旅は道連れの方が楽しめると思うんですけど♪」

 

「てめぇ…………クク、最近だんだん隠そうとしなくなってきたな?いや―――それすら計算のうちってか?」

ミュゼの提案を聞いたアッシュはミュゼを睨んだがすぐにミュゼの狙いを察して意味ありげな笑みを浮かべた。

「ふふっ、これでも新生Z組の一員ですから。つれない担任教官達への文句は分かち合うべきかと思いまして。さあ、それではみんなで作戦会議といきましょうか♪」

そしてミュゼとアッシュは列車から出てきたユウナ達に近づいて”作戦会議”を始めた――――

 

 

説明
第78話
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