呂北伝〜真紅の旗に集う者〜 第018話 |
呂北伝〜真紅の旗に集う者〜 第018話「((歩闇暗|ファンアン)) 参 〜闇の執行者〜」
とある少女の生きていた中で一番古い記憶には、人間の累々とした死体が横たわっており、自身の右手に持つ物は刃こぼれした刃物。身に降りかかった血飛沫の後。眼球がとびだしてくるかの様に見開かれて絶望したいくつもの顔。それが彼女の記憶の始まりである。何処で生まれ何処で育ち、どの様に生きてきたか。その様な記憶など持ち合わせていなかった。事実としてあるのは、とある組織に引き取られ、組織内で育てられ、組織内で仕事を叩き込まれたということだ。
聞こえを良くしたらこうなる。悪く言えば、出生不詳の赤子を奴隷商人が拾い、闇組織にはした金で売られ、満足な食事も与えられない環境で、課題という下働きなノルマを与えられ、ノルマを達成出来なかったり、炊事班の機嫌が悪ければ食事も与えられなかった。無理に言葉も覚えた。コミュニケーションがなければ、上の怒りを買い、生き残れなかったからだ。物心をついた時には、人の殺し方について叩き込まれた。覚えが悪ければまたぶたれる為、ぶたれないようにする為に必死に覚えた。例え指や腕の骨が折れようと、教育係は容赦なくぶってくる。そんな骨や肉体の再形成の繰り返しで、体は必要以上に頑丈となった。そんな環境下で、幾人もの子供たちが命を落としていった。効率の良い者、生きる為の執念が強い者は生き残っていったが、特に生き残ったのは狡猾な者である。狡猾な者は、大人の前では泣かない。大人の前では気丈に振る舞い、気の弱そうな者、心根が良さそうな者には少しの涙を見せて同情を誘い、相手の与えられる少しの食料を細かく集めて、死ぬ寸前の者がいればその者を何処かへ連れていき、鼠の餌として、餌に狩られた鼠を捕食して飢えをしのいだ。食(喰)人。所謂『カニバリズム』を行うと、クールー病にかかる。この病気を発症すると自律神経に異常をきたし、筋肉のコントロールができなくなる。歩行困難や、腕や足などが硬直、筋肉の震えが止まらなくなることもある。また、筋肉の異常だけでなく、脳にも症状が現れ、痴呆、記憶力の減退や感情が激しく乱れるなどする。この時代にこの様な言葉があったかは知らないが、多くの仲間達がこの様に死んでいく様を見てきた((先の子供|センパイ))達の言葉で食人は控えている。
仕事の覚えが悪い者は、男子も女子も関係なく、幼き娼婦にされる。幼児愛玩趣味を持つ者でも、身体が育っていない為、男子であれば陰茎を切り落として肛門で性行為を行なう者や、そもそもの身なりが悪い子供は、薬物実験の材料にしていたりもした。
この様な環境下で生き残っていたとある少女は、全てにおいて他の子供より群を抜いていた。自らより弱者の食料を奪い、用が済めば食料を得る為の餌とした。人の殺し方などは特に積極的に覚えた。肉が裂け、骨が折れようとも覚え続けた。覚えることによって、何も知らない後輩達から食料を奪い、暗殺術など覚えれば、食糧庫より食料を盗んで、バレそうになれば、他の者の責任で言い逃れた。無論、とある少女の良心が痛むことはなかった。寧ろ、良心という物は存在せず、生き残るために当たり前のことをやっているという自認すら芽生えていた。
大人達と共に初めて仕事を行ないに行った際、いつもと同じように効率よく((仕事|ころし))を終えれば、大人たちは褒めてくれた。初めて人に褒めてもらえたとき、何とも言えない幸福と優越感に浸れた。だがそれだけだ。少女は大人達に初めて強請った。次はもっと上手く行う為に食料を要求した。殴られるかもという恐怖もあったが、大人たちは快く了承した。上手く出来ればその分相手の優位に立てる。この時彼女は狩りや殺しの他に”交渉”ということを覚えた。
やがて少女は独り立ちをし、組織の人間として扱われ、裏の仕事をこなすようになっていった。要人の暗殺・拉致・拷問などと、与えられた任務を淡々とこなしていく。少女が独り立ちを許されたのにも理由がある。ただ標的者を闇に葬るだけであれば、技術を持った者にただ命を下して放置すればよい。いうなれば殺しをする機械。本当の意味でただの((殺人機械|キリングマシーン))なのだ。
しかし少女の在籍する組織は常に金で動いている。依頼を受ければ必ず((殺|や))り((斬|き))ることが、組織の売りだ。そして依頼の内容によって、要求される値段と価格は変動する。そんな時に必要となって来る((交渉人|ネゴシエーター))。これは教える教えないというよりは、本当の意味で個人の才能に偏る場合もある。寧ろ組織にとっては余計なことを考えられるより、組織の意のままに操る消耗品の殺人機械を製造するほうが効率も良かった。だが少女は自ら交渉術を覚えた。日々を生きる為と、自らの食欲為に。やがて依頼の際に、彼女は交渉を任された。
日々の暮らしの中で、自分たちを手足のように使い、依頼者と交渉をし続けた大人達と交渉をしていたのだ、初めての依頼者との交渉も上手く話を進めた。相手の唇・視線・呼吸・体調・機嫌など、あらゆることに気を配り、吊り上げるとこは吊り上げ、組織の顧客者とする為に一歩引いて条件を負ける姿勢にて常に行なった。いつしか少女は大人の一員となり、使われる側から使う側へとなった。
そんな環境下の中少女は成長し、12・3ぐらいになったある日、扶風群のとある要人の養子を暗殺する命を受けた。現在その者は勉学の為に都・洛陽に滞在しており、少女は手先が器用なことから、手品専門の大道芸人として標的者に接近する。
洛陽の街は荒廃しきっていた。まず皇帝が住む宮中の周りは、金持ちが住まう土地であり、貴族の住まい、大陸の有力豪族の別荘などがある。その周りにはそれらの金持ちが贔屓とする商店があり、やがて中央から外に進むにつれて民の住処は徐々に廃れていき、今日を生きる為に街で体を売る女郎や少女、火事場泥棒の様な野党、時に奴隷商人が徘徊する。そして人通りが殆どなくなるような場所に来れば、女性として旬を過ぎた娼婦や老婆が体を売り始め、物乞いが道端で座っており、野党まがいの少年が溢れ出す。街の入り口まで来れば、放置された死体がそこら中に広がり、((烏|カラス))が死体を啄ばんでいる。光景がそこら中に溢れる。
少女は名を((麓|ろく))と名乗った。野党や娼婦を締め上げ、比較的奇麗そうな少年少女を攫い、奴隷商人に売って情報を買い、裏商人から紹介状を手に入れ、中央貴族が頻繁に利用する娼館にて、大道芸人として働くこととなった。鳥を出したり、火を噴いたり、その場に存在するかのように身振り手振りをする、所謂パントマイムダンスなどで客を沸かせた。
普段はピエロの様な白化粧に、瞼に強大な目を彷彿させる赤いアイシャドウに、鮮血の様な口紅を付け、派手な衣装に身を包んだ。時には客に気に入られ、娼館の二階にある個室や、貴族の家に招かれ、閨の相手をさせられた。そうして客より情報を仕入れているうちに、標的の情報を仕入れていった。
標的の姓は呂、名は北、字を((戯郷|ぎごう))といった。先の記憶にあった丁原の養子であり、現在洛陽の私塾にて勉学に励んでいる。巷では文武両道の麒麟児と称賛されであり、その反面女遊びも盛んで、王宮に使える、宦官「十常侍」の一人である((夏ツ|かうん))の甥である((夏宣|かせん))と好き放題しており、夏宣という男は悪知恵がよく働いた男であり「種馬の呂北と悪知恵の夏宣」の傍若無人コンビとして名を馳せた。
他にも呂北の女性趣味や、住まいなどの情報も仕入れた。麓(仮名)がこの情報をどの様にして手に入れたか、それはたまたま夏宣の相手をした時に、相手は考えも無しに勝手に色々喋ったからだ。呂北は幼女趣味があり、少女に服を着せては眺めて愛で、欲情してくれば適当な娼婦を抱いて発散させるというものだ。本人曰く「幼女は傷つける物ではなく、見守る物」っという考えらしい。とすると、麓ぐらいの歳のであれば、呂北の好みではないだろうかという夏宣の勧めもあり、そのうち呂北を連れて店を訪ねてくるとのこと。
麓としては、呂北と二人だけの空間さえ作ることが出来れば、何処で標的を殺害しようとも問題はない。足跡は残さず、自らの犯行と思わせずに洛陽を去る自信があった。自分が洛陽を去っているときには、標的は自宅の寝室で冷たくなっているからだ。
何時ものように娼館の舞台にて、演技や手品を披露していると、その日はいつもより従業員や娼婦の様子がおかしい。普段裏で控えている娼館の責任者が店に出てきて、料理を運ぶ給仕の様な役割をしている珍しい光景も伺える。
そしてある客が来店して来たとき、普段裏で従業員に怒鳴り散らしている責任者が、従業員に見せないようなにこやかな表情でゴマをすり”ある客”の接待をする。最近店で一番の人気艶美な女性と入りたてであり、幼さを残した少女をその客にあてがう。客を奥の店全体が見える二階の解放感漂うVIP席に案内して、責任者は機嫌を取る。何故この客に対してこれ程の待遇で迎えるかは、それは客が娼館の寄付者だからである。その客からの多額なる寄付のおかげで、この店は他とは引けを取らない娼館となりえ、多くの貴族や豪族が利用している。条件としては店内を清潔に保たせ、従業員には教育を与えることを条件としている。荒廃している洛陽にその様な働き手があれば、無論応募者は殺到してもおかしくは無い。麓がすんなり紹介状のみで店で働くことが出来たのも、大道芸人の真似事という他の者が出来ないことを出来たからである。
「((彦|ゲン))、店の景気はどうだ?」
「へ、へぇ。そりゃあもう、呂北様のお目溢しのお陰で繁盛させてもらっています」
舞台で芸を披露する麓にも確かに聞こえてくる。彦と呼ばれた責任者は、確かに客の事を呂北といった。遂に標的を仕留める一歩手前まで近づいたのだ。だが今ではない。もし標的が自らに興味を持ち、部屋に案内することがあればその時に仕留めればよいし、帰ろうとすれば、適当なところで芸を切り上げ、帰り道で暗殺すればよい。
「そうか。((恵|けい))よ、久しいな。励んでいるか」
「ふふふ。はい。呂北様のお陰で毎日食べるものに困らず勤めさせて戴いていますわ」
「そうか。......ところで、こちらの娘は......?」
シナを作り、呂北の体に密着させる紫ランジェリー姿の様な娼婦を抱きながら、反対側に控える少女に視点を向ける。
「は、はい。先日から勤めさせて((婪|ラン))と言います。恵お姉さまと一緒に、呂北様に可愛がっていただきたきゅ......あうぅ、噛んじゃった......」
少女の服装も、赤く下着が透ける程の薄いワンピースであり、噛む失態を犯した少女の頭を呂北は撫でてあやし、少女も自らの胸元に引き込む。
恵と呼ばれた娼婦と、婪と呼ばれた少女は、呂北と談笑をはさみながら交互に彼の盃に酒を注いでいき、彦はあたかも給仕の様な役割で呂北をもてなす。
やがて呂北は舞台に視線を向け、三人に質問を投げかける。
「見ない顔だが、あの娘は一体?」
「おぉ、流石呂北様お目が高い。あの娘は麓といいまして、最近入った大道芸人でございます」
「ほう、大道芸人ね。見たことのない演技をするが、何処の出身だ?」
「さぁ、それについては何とも。聞けば物心ついた時より生きる為に必死だった為に、自分が何者で、出身地すらもわからないだとか」
その言葉に呂北は「そうか」と呟くと、何を勘違いしたか、婪が助け舟を出す。
「で、でも呂北様。麓ちゃんはいい子ですよ。破れた服も前に直してくれましたし、女の子なのに重い荷物も積極的に運んでくれますし、それから......」
未だ少女のあどけなさの抜けない婪は必死に弁明を語る。おそらく彼女にとって呂北の呟いた「そうか」を、呆れているという意味で捉えたのか定かではないが、呂北事態別に何とも思っていなく、ただ一つ気になったことがあっただけなのだ。
彼は婪の頭を撫でると、部屋で休むと伝え、恵と婪を連れて上の一室へと向かった。この時麓は、呂北を仕留める算段をしていたが、部屋にいるのは呂北の他に女2人で計3人。基本的に部屋に自分を引いた3人以上いる場合、暗殺はしないようにしている。たとえ2人屠ったとしても、最後の1人が悲鳴でも上げて衛生兵でも来られれば脱出は難しくなるためである。なので、今回は実行を諦めて次回に持ち越しとなった。
説明 | ||
どうも皆さんこんにち"は"。 二日と置かずの投稿で、スピードがあからさまにおかしいことになっております。 何故か書いていれば、だんだん楽しくなって来て、そして完成したという。という感じでございます。 さて、今回から歩闇暗の過去回でございます。 現在取りだめで作成しておりますが、凄く長くなっております。 物語的には、歩闇暗が登場人物の中で、闇の部分が深いという設定ですので、それを考慮していると、つい書き過ぎてしまうという。 今までの流れで一部の人からは、「誰この人(笑)?」っと思うかもしれませんが、それでも個人的にはガッツリ考えたキャラクターですので、是非楽しんで下さい。 そして以前宣言したように、今回は状況・表現主体の文となっております。 セリフは少ないです。 それではでは。 P.S. 働く皆さんにファイトの気持ちを届けます!! |
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