英雄伝説〜灰の軌跡〜 閃V篇 |
午後10:30―――
その後リィン達が演習地に戻るとミハイル少佐が真っ先にユウナ達をしっせきしていた。
〜デアフリンガー号・2号車〜
「――――いい加減にしろ、貴様ら!前回、前々回に引き続き何度も何度も勝手なマネを…………!シュバルツァー教官とアルフヘイム教官を追いかける!?その必要がどこにある!?」
「そ、それは…………」
「…………弁解の余地もありません。」
「…………はい。」
「…………ごめんなさい。」
ミハイル少佐に怒鳴られたユウナは言葉を濁し、クルトやアルティナ、ゲルドは反省した様子で答えた。
「少佐、自分達の方からも既にきつく叱っています。できればそのくらいで―――」
その様子を見守っていたリィンはミハイル少佐をなだめようとしたが
「黙りたまえ!これは演習責任者としての権限だ!規律を破って抜け出すなど言語道断!就寝まで喝を入れさせてもらう!」
ミハイル少佐は聞く耳を持たず、ユウナ達を睨みつけた。
「うーん、あまりに遅くだとお肌にニキビが…………」
「あー、ボクら疲れてるんでお手柔らかにお願いするッス。」
更にミュゼとアッシュのマイペースさに更に顔に青筋を立てるとユウナ達への説教を続け始めた。
その後リィン達はその場を後にして演習地に出た。
〜演習地〜
「ふう………可哀そうだけど仕方ないかな。」
「ま、たまには絞られるくらいが丁度いいかもしれねぇな。」
「そうだな。教師に説教されることもまたガキ共の成長に必要な事だしな。」
「うふふ、士官学院とは言え、規律を三連続で破っているのに、罰は説教だけなのだからむしろ優しいほうだと思うわよ?」
最後に列車から出てきたトワの言葉に他の教官陣も同意した。
「…………でも、少し申し訳ないですね。猟兵王からの情報―――彼らに手伝ってもらいましたし。」
「ええ………ユウナさん達が来てくれなかったら、猟兵王から何も情報をもらえなかったでしょうし。」
「フフ…………それはそれ、これはこれでしょ。…………それよりも気になる情報が出てきたわね。」
自分達の為に規律を破った生徒達が怒られている事にそれぞれ申し訳なさそうな表情をしているリィンとセレーネに苦笑しながら指定したサラは表情を引き締めた。
「…………はい…………」
「”北の猟兵”の脱退組―――併合されたノーザンブリアの人間か。」
(ふふっ、レン達メンフィルやクロスベルも他人事ではないわね。)
(ああ…………”共和国解放戦線”とか名乗っているバカ共とはさっさと決着をつけねぇと、下手したらエレボニアの二の舞になるかもしれねぇしな。)
トワとランディがそれぞれ真剣な表情を浮かべている中苦笑しているレンに小声で話しかけられたランドロスは静かな表情で頷いた。
「北方戦役でノーザンブリアが併合されてから半年あまり―――既に”北の猟兵”の大部分はエレボニア軍の現地部隊に組み込まれた。でも、行方不明になった者も少なからずいるのよね…………」
「ええ、恐らく大陸中西部などに逃亡したかと思われていましたが…………まさかエレボニアの最西部であるフォートガード州に来ていたなんて。」
「新たな武装やプロテクターを纏っているということは…………資金源は”結社”でしょうか?」
「赤い星座と”同じ側”らしいからその可能性もありそうだね。」
「クソ…………面倒な話になって来やがったな。で、ニーズヘッグの雇い主が帝国政府だったのも驚きだよな。」
「…………鉄道警察隊には回されていない情報です。ですが、情報局は秘匿性の高い案件に猟兵を使うことはあると聞きます。レクターさんならば一通りの状況を知っている筈ですし、明日、何とか問い合わせれば――――」
ランディに続くように答えたクレア少佐が話を続けようとしたその時
「いい加減にするがいい、リーヴェルト。非番とはいえ、そんな恰好で勝手に情報収集しようとするとは…………少しは憲兵隊員の自覚を持ちたまえ。その中でも君はエリートなのだからな。」
列車から出たミハイル少佐がリィン達に近づいてクレア少佐に注意をした。
「…………っ…………はい…………」
ミハイル少佐の注意に辛そうな表情で唇をかみしめたクレア少佐は静かな表情で頷いた。
「司令部からの通達だ。明日早朝、帝都に帰投するがいい。――――それ以外の者も今日はもう遅いから仕方ないが明日の朝には発ってもらうぞ。」
クレア少佐に伝言を伝えた後サラやアンゼリカにも指摘したミハイル少佐はその場から去って行った。
「ふ〜っ、役目ではあるんだろうけど頭の固そうなヒトねぇ。」
「あはは…………あれで生徒達の面倒見はいいんですけどね。」
「ええ、難しい立場なのに配慮はしてくれていますし。」
「そういう意味では最初よりカドは取れてきた感じはするな。」
「…………そうですか…………」
(………?)
ミハイル少佐の近況を知って僅かに安堵の表情を浮かべたクレア少佐に気づいたリィンは不思議そうな顔を浮かべた。
「しっかし、あのリア充皇帝はマジで何考えていやがるんだ?幾ら密談をする為とは言えわざわざ他国の高級クラブを貸切にして女連れで遊びに来るとか…………おいコラ、オッサン!どうせあんたはあのリア充皇帝と英雄王達との会談内容も知っているんだろう!?せめてオッサンと同じ国所属の俺くらいには教えてもいいだろうが!?」
「おいおい、何言っているんだ?オレサマはヴァイスハイトのライバルにして”仮面の紳士”ことランドロス・サーキュリー!幾らライバルとはいえ、”皇”であるヴァイスハイトが国の事情をオレサマに教える訳がないだろう?」
「つーか、前々から疑問に思っていたがいつまでその無茶苦茶設定を無理矢理通し続けるつもりなんだよ、オイ…………」
呆れた表情で溜息を吐いてヴァイス達を思い浮かべたランディはランドロスを睨んで問いかけたが、ランドロスはいつもの調子で答えを誤魔化し、その様子を見たリィン達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中ランディは疲れた表情で肩を落とした。
「…………まあ、”黄金の戦王”達の意図を知っていると思われる人物は他にもいると思うのよね。」
「クスクス、そこでどうしてレンに視線を向けるのかしら?先に言っておくけどレンは”まだ子供だから”、大人の難しいお話はパパ達から聞かされていないわよ♪」
「既に”教官”を務めているのに今更ご自身が”子供”だと断言する事は色々と間違っていると思いますわよ…………」
ジト目のサラに視線を向けられたレンも小悪魔な笑みを浮かべて答えを誤魔化し、レンの答えにリィン達が再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中セレーネは呆れた表情で指摘した。
「アハハ…………あ、今日判明した情報は既に各方面に伝えておきました。それとサラ教官とクレア少佐は今夜は客室で休んでくださいねー?」
「わかりました。ありがとうございます。」
「ふふ、アンタは相変わらずの手際ねぇ。」
「うふふ、お陰でレンもいつも楽させてもらっているわ♪トワお姉さんさえよければ、レンの第U分校の赴任期間が終わった後レンの秘書として雇ってあげてもいいのよ?勿論給料や待遇は専属侍女長のエリゼお姉さん並みだし、何だったらシルヴァンお兄様に頼んで爵位をあげて貴族にしてあげてもいいわよ。トワお姉さんの実力や今までの功績だったら男爵―――いえ、子爵は固いと思うし。」
「いや、俺とセレーネはともかく第Uの教官のランディ達や鉄道警察隊のクレア少佐がいる目の前でヘッドハンティングは止めてくださいよ…………」
「まあ、厳密にいえばランディさん達もわたくし達同様”所属している国”はエレボニアではありませんけどね…………」」
トワの手際にクレア少佐が感謝し、サラが感心している中トワをヘッドハンティングしようとするレンの言動にその場にいる多くの者達が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中リィンは疲れた表情で指摘し、セレーネは苦笑しながら答えた。
「あはは…………アンちゃんはわたしと同室でお願いね?」
「フッ、もちろんさ。久々にイチャイチャしながら眠りに就こうじゃないか♪」
トワも苦笑した後アンゼリカの泊まる部屋を口にし、トワの言葉に対して笑顔で答えたアンゼリカの発言にリィン達は再び冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
その後生徒達や教官達が眠りについている中、まだ寝付けていなかったリィンは深夜のデアフリンガー号や演習地の徘徊を始めると、3号車で一人酒を飲んでいるサラが気になり、サラに近づいた。
〜デアフリンガー号・3号車〜
「あら、どうしたの?ひょっとして眠れないとか?」
「いや…………そこまでじゃないですけどね。何というか、いろいろありすぎて…………頭を整理しておきたいといいますか。」
「フフ…………そっか。―――ねえ、リィン。寝る前に少し付き合わない?」
「え………」
「お仕事の後の息抜きってことで。ちょっと強めだから舐める程度でいいと思うけど。」
サラの誘いに乗ったリィンはサラの隣に座ってサラが用意していたお酒を少しだけ飲んだ。
「っ………これ、恐ろしく強いですね。」
「スピリタスよ。ノーザンブリアのお酒ね。95%超えで、世界一度数が高いともいわれているわ。」
「って、舐めるくらいしかできないと思うんですが…………あ、でも舌を刺していたのが甘く感じてきたな…………」
サラの説明を聞いたリィンは冷や汗をかいて苦笑した後お酒の後味を味わっていた。
「ふふ、言うじゃない。まさか君とこんな話ができるようになるなんてね…………―――新Z組。いいクラスじゃない。」
「はは…………まだまだですよ。俺自身、セレーネと共に教官として手探りの状態で…………もう少し上手く導いてやれるといいんですが。」
「君達もそうだけど、アリサ達旧Z組に負けず劣らず個性的な子たちみたいだからね。でもまあ、何とかなるんじゃない?あんな風に君達に心配をして全員で乗り込んでくるくらいだし。」
「はは、唆したメンツがいるとは思うんですけどね…………」
リィンと共に少しずつお酒を飲みながら新Z組の生徒達について語り合っていたサラは話を変えてリィンに問いかけた。
「…………君、気づいてたでしょ?紫の猟兵達の正体を。」
「……………………ええ、俺とセレーネに対する複雑な感情を感じさせる言葉…………最初は何となくでしたがサラさんの反応を見て確信しました。」
サラの指摘に少しの間黙り込んだリィンは複雑そうな表情で答えた。
「そっか…………あたしもまだまだ修行不足ね。」
「あの時――――”北方戦役”で俺は何もできませんでした。市内に放たれた大型人形の群れをヴァリマールで叩くのに時間を取られ…………占領前に、結社の残党と結託していた”北の猟兵”の上層部を拘束し損ねてしまいました。あれが間に合っていたら自治州政府も停戦を呼び掛けて…………准将たちによる占領も食い止められたかもしれないのに…………」
「それは違うわ、リィン。ノーザンブリアの占領はエレボニア政府の規定路線だった。准将たちにしても領邦軍存続を条件に引き受けたと聞いてるし。――――既に詰んでいたのよ、状況は。」
”北方戦役”の事を思い出して責任を感じているリィンにサラは寂し気な笑みを浮かべて指摘した。
「…………それは…………」
「でも君は、そんな中、何千、何万もの市民を救った。人形兵器の掃討だけでなくエレボニアと祖国(メンフィル)との外交問題が発生する恐れがあっても、躊躇う事無く八つ当たりで市民達に襲い掛かろうとしたエレボニア軍の兵士達を斬ってでも市民達を守った。…………それは”彼ら”にもちゃんとわかってるんだと思う。」
「……………………」
サラのフォローにリィンは何も語ることなく目を伏せて黙り込んでいた。
「…………まあ、元々無理があったのかもしれないわね。猟兵稼業なんかで滅び行く国を何とかする…………あの人もそれはわかっていたのかもしれない…………」
「あの人…………?」
「っと、今のは―――………フフ、あたしの初恋の人よ。」
「ええっ!?」
サラが口にした驚愕の事実にリィンは驚きの声を上げた。
「あはは…………といっても父親なんだけどね。」
リィンの様子を見て苦笑したサラは自身の過去を離し始めた。
「28年前の”塩の杭”の異変…………国土の大半が塩で覆われた異変で親を失った赤ん坊を引き取った人…………元公国軍大佐で、”北の猟兵”を立ち上げた一人―――物心ついた時には故郷は荒れ果て、外貨を稼ぐ猟兵達はまさに”英雄”だったわ。育ててくれた養父は”北の猟兵”のリーダー格の一人…………あたしは父に憧れて10歳の時に『少年猟兵隊』に入った。
厳しい訓練を積んで本隊への参加を認められたのが13歳の時…………あたしは初めて実戦を経験した。…………そこは地獄だった。誰かの欲望のため、誰かの命を奪う戦場であたしは血と硝煙に塗れながら戦い続け…………いつしか”紫電”なんて渾名の少女猟兵として知られるようになった。―――その”無理”が限界に達する時まで。
18の時、あたしは中隊長として部隊を任されるようになっていた。そしてエレボニア辺境であった任務―――大貴族と大企業の代理戦争に参戦したの。相手はあのニーズヘッグ…………でも、あたしの部隊は彼らを撃破し続け、勝利も目前と思われたその時―――周辺民を巻き込むのを避けようとしてあたしの部隊は手痛い反撃を食らった。
絶対絶命かと思われたその時…………あたしを救ってくれたのは父だった。総指揮官を務めていたのにあたしの部隊の危機に駆けつけて致命傷を負ってしまって…………」
…………わかっただろう、これが猟兵だ。この道を進むかどうか、今一度、よく考えてみなさい…………
「…………元公国軍人だったからかな?丁寧な口調のダンディな人だった。思えば、あたしが猟兵をやることに最初から最後まで良い顔をしなくて…………最後にそんな言葉を遺してあたしの腕の中で逝ってしまった。
あたしは絶叫して意識を失い…………気がついたらエレボニア軍のキャンプで手当てを受けていた。」
「…………それがベアトリクス教官の医療大隊だったんですね?」
「ええ、辺境での猟兵同士の戦いの被害を確認するために来ていたみたい。少尉だった頃のナイトハルト中佐やヴァンダールのミュラー中佐もいたわね。
―――そして戦闘がとっくに終結し、仲間達が故郷に引き上げたと聞いて…………あたしはロクにお礼も言わずにキャンプから飛び出して故郷へ戻った。…………帰郷したあたしを迎えたのは戦友や街の人達の温かい言葉だった。父を失ったものの”戦争”には勝利し、大貴族から莫大なミラが支払われたの。―――これでこの冬は餓死者を出さずに済むだろう…………そんな話を聞いて、あたしは安堵しながら何故だか涙が止まらなかった。…………貧困に喘ぐ故郷のため、罪もない外国の人達や土地を血と硝煙に塗れさせる…………そんな欺瞞がどうしようもなく痛く、ただ哀しかった。そうしてあたしは猟兵を辞め、生まれ故郷を離れることにした。
…………戦闘技術を活かせて、A級になればそこそこ稼げるっていう遊撃士(ブレイサー)になって…………せめて血が付いていないミラをノーザンブリアに送るために。」
「…………やっとわかりました。本当の意味での、サラさんの強さと優しさの原点を。」
サラの過去を聞き終えたリィンは静かな表情で答えた。
「全然強くないし、優しくもないわ。でも少しずつだけど近づけているとは信じている。父で、上官で、初恋の人で…………あたしが大好きだったあの人にね。」
「サラさん…………はは…………でも納得です。それはサラさんの趣味が渋い男性になるわけですよね。」
「ふふ、ファザコンをこじらせてるのは自覚してるけどね。―――ま、最近じゃ若い子にときめかないわけじゃないけど。」
「え。」
ウインクをしたサラの言葉にリィンが呆けたその時サラはリィンを自分の方へと抱き寄せてリィンの頬にキスをした。
「…………ぁ…………」
(ええっ!?)
(あら。)
サラの行動にリィンが呆けている中メサイアとアイドスはそれぞれ驚いていた。
「喋りすぎちゃった…………君、タラシの素質があるから反省しなさい。それじゃあおやすみ。―――いい夢をね。」
そしてサラはその場から立ち去り
(………夢じゃない、よな。……………………はは、まあいいか。夏至祭前の夜……………妖精に化かされたと思っておこう。)
リィンはサラにキスをされた頬を手で押さえて呆けた後気を取り直してその場から立ち去った。その後リィンは外に誰かいることに気づくとそれを確かめるために列車から出ると意外な人物達が会話をしていた。
〜演習地〜
「…………いい加減にしろ、クレア。閣下に目をかけられてるとはいえ今日のような行動は首を絞めるだけだぞ?」
リィンが外に出ると何とミハイル少佐がクレア少佐に注意をしていた。
「…………兄さんにはわかりません。」
「…………っ…………!?」
ミハイル少佐の注意をクレア少佐が静かに否定すると、二人を見て部外者である自身が聞いて良い話では無い事を悟ったリィンはその場から下がろうとしたが、運悪く靴が砂利を踏んだ為、足音が二人に聞こえた。
「「誰だ(です)…………!?」」
足音を聞いた二人は血相を変えてリィンを睨み
「(迂闊だったな…………)―――すみません。聞くつもりでは…………」
二人に睨まれたリィンは気まずそうな表情で謝罪して二人に近づいた。
「リィンさん…………」
「シュバルツァー…………くっ、盗み聞きとは感心しないぞ。―――忠告はした。せめて自分で考えるがいい。これ以上、10年前に囚われ続けるべきかどうか。」
「…………っ…………」
クレア少佐への忠告をしたミハイル少佐はその場から去り、列車の中へと入って行った。
「……………………」
「…………すみません。夜風に当たろうとしたんですが。その、明日は早いですし俺も列車に戻って休みます。」
「…………リィンさん。少しだけ…………ほんの少し、付き合っていただけませんか?いつかリィンさんには知ってもらおうと思っていた話―――…………今なら、月明かりの力を借りてお話しできると思うので。」
「――――わかりました。ぜひ、聞かせてください。」
リィンもその場から去ろうとした自分を呼び止めたがクレア少佐のただならぬ雰囲気を見て、クレア少佐の話を聞くことにした。
「彼は…………アーヴィング少佐は私の親戚なんです。旧姓、ミハイル・リーヴェルト―――私の従兄になります。」
「従兄…………そうだったんですか。個人的に関係がありそうとは何となく思っていましたが…………」
「ふふ…………でも”兄さん”は10年前にリーヴェルトの名を捨てました。叔母様の―――母方の性に変えたんです。彼の父を、私の家族を奪った叔父を私が処刑台へと送り込んだ時から。」
「……………………え。」
クレア少佐の口から語られた驚愕の事実にリィンは一瞬呆けた後呆けた声を出した。そしてクレア少佐は自身の過去について話し始めた。
…………知っているかもしれませんが私の家は”リーヴェルト社”―――元々、セントアーク市にあった楽器メーカーとして知られている会社を営んでいました。私の父が社長で、叔父が副社長…………経営は堅実ながらも順調で…………親戚一同、とても仲が良かったんです。
―――当時まだ珍しかった導力車同士の衝突事故でした。相手の運搬車は、盗まれたもので現場から運転手は逃走しており…………結局、事件はそのまま未解決の扱いとなってしまいました。私の父と、母と、弟を奪ったまま―――
奇跡的に助かった私は…………叔父の一家に引き取られました。副社長だった叔父は、会社経営も引き継いでくれて…………そんな叔父たちに感謝しながらも私はずっと同じことを考えていました。…………どうして私だけが生き残ってしまったんだろう、と。
きっかけはそのすぐ後でした。―――父の遺品を整理しているうちにここ数年の帳簿を発見し…………それをぼんやりと眺めているうちに…………奇妙なことに気づいたんです。元々リーヴェルト社は、質の良い楽器を手頃な価格で提供していたメーカーでした。それが、あり得ない原価で巨額の売り上げを出していた箇所が随所に見られて…………その意味を解釈しながら他の帳簿もチェックするうちに”視えて”しまったんです。…………副社長だった叔父が父の知らぬ所でやっていたこと―――
外国で作らせた大量生産品をそれまでと同じ国内製と偽って莫大な利益を上げる一方…………名匠(マイストロ)の作品の贋作を作らせて、本物として富裕層に売りつけるといった詐欺以外の何物でもないやり方を。――そして父がそれに気づき、叔父を正すため動こうとした矢先に”事故”が起こっていたことを…………
…………問い詰めると叔父は驚きつつもあっさり認めました。『証拠などない、あったとしても有力貴族を味方につけている。騒いでも無駄だし、逆に一人だけ生き残ったことを疑われるぞ?』
悔しかったし、何よりも哀しかった…………そうして、途方にくれていた所にあの方が現れたんです。
…………君の父上とは士官学校時代の友人だった。気になっていたのだが公務に追われ、来るのが遅れたのが悔やまれるな…………
――何故だがあの方は事件の真相を全て知っていました。そして、私がそれに気づいたことに驚きつつもこう仰ったんです。
君のその『統合的感覚』というべきか…………全体と部分を瞬時に把握する能力は元々あった先天的なものが事故で顕れた、と考えるべきだろう。―――この件、私自身の手で裁こうと思ったが気が変わった。君のその能力を活かす形で両親と弟の仇を討つつもりはないか?
――私は畏れ、迷いました。でも、父と母の…………何よりも宝物のように大切だった弟の笑顔がどうしても離れなくて…………私は閣下のアドバイスに従いつつ、叔父の罪を立証するあらゆる証拠を集めていったんです。
背景、動機、隠蔽工作、実行犯、メンフィル帝国に帰属した貴族達も握りつぶせないありとあらゆる揺るぎない証拠を。最後に、セントアークを含めたメンフィル帝国側のサザ―ラントを統括している当時のメンフィル帝国政府の統括領主の耳にも入り、叔父と結託した貴族も手を引き…………厳正かつ厳格な裁きが行われ、叔父には極刑が下りました。
代償として―――私は”家族”と”故郷”を失いました。…………取り戻した会社の経営権を古株の社員の方に譲渡したんです。閣下に勧められた帝都(ヘイムダル)近郊にある皇族ゆかりの伝統的な士官学校…………”トールズ士官学院”に入学するために。」
「…………クレアさん…………―――やっとわかりました。貴女がどうしてオズボーン宰相を信頼して、従っているのか。そしてどうして時折、哀しそうな目をしていたのかを。」
クレア少佐の過去を聞き終えたリィンは複雑そうな表情でクレア少佐を見つめた。
「…………っ…………」
「ミハイル少佐も…………クレアさんが心配なんですね?厳しい言葉は多いですが…………貴女を間違いなく気遣っていた。」
「…………はい。お互い鉄道警察隊に入ったことは偶然でしたけど…………先輩として、同僚としていつも助けられています。…………ですが私にその価値があるとは思えないんです。憎悪に取り憑かれ、一切の慈悲もなく叔父を極刑に追いやった…………10年前、大好きだった叔母さんや兄さん、従妹の子は私を罵りました。それだけのことをしたし、…………今でも憎まれていると思います。」
「――――そんな事はないと思います。」
自分に対する自虐の言葉を口にしていたクレア少佐だったがリィンがふと呟いた言葉が気になり、振り向いてリィンを見つめた。
「少なくとも今のミハイル少佐は貴女のことを本気で心配していました。貴女をよく知る人は…………サラさんのように反発していたとしても感謝しているし、嫌うなんてできない。ミリアムや、レクター少佐も。リーゼアリアやリーゼロッテ殿下、そしてアルフィンも…………旧Z組や特務部隊のみんなや…………もちろん俺もです。」
「…………リィン、さん…………」
リィンの指摘に胸を打たれたクレア少佐は思わず涙を流した。
「ふふ、駄目ですね。…………白状すると貴方のことを弟と重ねることがありました。」
「…………弟さんの名前は?」
「”エミル”といいます。…………生きていたらちょうど貴方と同い歳だったんですよ?」
リィンの問いかけに答えたクレア少佐はリィンを抱き締めた後なんとリィンの頬にキスをした!
「…………ぁ…………」
(リ、リィン様…………一晩で二人もの女性からキスをしてもらうだなんて、エリゼ様達に知られたらとんでもない事になると思いますわよ…………?)
(というか私は少なくてもベルフェゴール達にはバレていると思うのだけど…………二人の事だから、多分隠れてリィン達の様子を見守っているでしょうし…………)
キスをされたリィンが呆けている中メサイアは表情を引き攣らせ、アイドスは困った表情をしていた。
「――――ありがとう。話を聞いてくださって。でも、今夜をもってリィンさんを弟と重ねるのは止める事にします。弟にも、貴方にも失礼でしょうから。おやすみなさい…………いい夢を。」
そしてクレア少佐はその場から去って行き列車へと入って行った。
「………なんて日だ、まったく。」
クレア少佐を見送った後ふとサラにキスをされた時の事を思い浮かべたリィンは溜息を吐いた後クレア少佐にキスをされた頬を手で押さえた。
(目が冴えてもおかしくないけど妙に心は晴れている…………ぐっすり眠れそうだし、俺もそろそろ部屋に戻るか。)
「うふふ、みーっちゃった、みーっちゃった♪」
「ふふふ、一晩に二人もとは剣術だけでなく”そういう所”も成長しましたね。」
「え”。」
気を取り直したリィンも列車に戻ろうとしたが聞き覚えのある二人の女性の声を聞くと表情を引き攣らせた。するとベルフェゴールとリザイラが転移魔術でリィンの前に現れた!
「ベ、ベルフェゴール…………それにリザイラも…………何で今はそれぞれ仮契約しているアルフィンとエリゼの中にいるはずなのに、二人がここに…………」
「うふふ、本契約している私達にはご主人様がまだ起きている事くらいはわかるわよ?で、エリゼ達が寝静まっている中こんな真夜中で徘徊する事が気になっていてね。」
「そして、それぞれ姿を消してご主人様の様子を見守らせて頂いたのですが…………ふふふ、私達の予想―――いえ、予想以上の結果を出すとはさすがはご主人様です。」
冷や汗をかいて表情を引き攣らせているリィンにベルフェゴールとリザイラはそれぞれリィンをからかうように口元に笑みを浮かべて答えた。
「う”っ…………あ、あれは不可抗力やその場での雰囲気のようなものだから、二人が邪推しているような事は起こらないぞ?」
「クスクス、果たしてそうかしら♪それにしても今度は私達を除けば年上お姉さんジャンルという新たな属性の女の子達に手を出すとは、さすがはご主人様ね♪」
「ふふふ、それよりも今の出来事をエリゼ達に聞かせれば、どのような反応をするでしょうね?」
「ちょっ、か、勘弁してくれ…………!」
その後リィンは今夜の出来事をベルフェゴール達がエリゼ達に密告しないようにベルフェゴール達が出した条件によって”説得させられた”後、列車の中へと入り、部屋に戻って明日に備えて休み始めた-----
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第81話 | ||
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他エウシュリーキャラも登場 他作品技あり 幻燐の姫将軍 空を仰ぎて雲高くキャラ特別出演 軌跡シリーズ 閃の軌跡V | ||
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