ガールズ&パンツァー〜三者三様の生き方〜 |
(1人目の転生者)
ここに1人、決意を固める少女がいる。
黒と赤が印象的な衣装に身を包み、その心を表すかのように硬い鋼鉄の車、戦車を駆る少女。
(……みほちゃん。あなたの心は、きっと私が守ってみせるから。絶対に、あなたを傷つけさせはしない)
その行為が、例え彼女の在り得た未来を潰してしまうことだとしても。
彼女が出会うはずだった仲間たち。
彼女が見出した、彼女なりの進むべき道。
その道に共感した仲間たちと共に作っていく、沢山の思い出。
今、自分の頭に鮮明に浮かんでくるその光景こそが、本来の彼女が進むはずの正しい未来の姿。
それらはキラキラと輝く宝石のように……いや、そんなものよりもずっと価値ある素晴らしいものだ。
だけどそんな未来よりも、これから彼女に降りかかる理不尽な不幸が、少女には許容できなかった。
傷つき、打ちひしがれ、涙を流す親友の姿を想像し、胸の奥から湧いてくる感情を抑え込むようにグッと奥歯を噛み締める。
土砂降りの雨が戦車に降り注ぐ。
まるで少女の行為を責め立てるかのように激しく、延々とその音を車内に響き渡らせる。
しかし、その戦車のように固い決意を胸に秘めた少女の瞳は、迷いなくまっすぐ前を見つめていた。
「皆さん、雨のせいで足場が崩れやすくなってますので、壁際ギリギリを移動します。それでも、万が一もあるかもしれません。その時は少し荒っぽくなると思いますが、精一杯対応に努めますので、皆さんもどうか慌てず冷静にお願いします」
「了解です!」
「大丈夫ですよ、貴方の操縦の腕は信頼してますから。だから、自信を持って進んでください!」
「……ありがとう、ございます」
同じ戦車に乗る仲間達から寄せられる信頼に、自然と操縦桿を握る手に力が込もる。
(皆さんの想いは知っているつもりです。それでも、私にだって譲れないものがある。だから、許しは請いません)
頭に浮かぶ、在り得たはずの未来。
そこには自分の親友とその仲間たちが、屈託のない笑顔を浮かべて映っている。
……それをこれからぶち壊すのだ。
『撃てば必中、守りは固く、進む姿は乱れ無し。鉄の掟、鋼の心。それが、西住流だ』
日頃から我らが隊長の放つ、その力のある言葉を思い出しながら覚悟を決める。
(もうすぐ、“あれ”が起きる予想地点。気を引き締めなさい、私)
元々、初めから迷いなど、あるはずがないのだ。
これは自分の大切な親友の笑顔を、その心を守る行為なのだから。
だから。
―――ズキッ
「……」
この鋼の心に少しだけ痛みが走ったように感じたのは、きっと気のせいなのだ。
そのように少女は断じ、一つ深呼吸をして操縦に集中する。
土砂降りの雨の中、少女達と戦車は進み続ける。
これがより良い未来への道であると信じて。
(2人目の転生者)
ここに1人、楽しい未来を思い描く少女がいる。
白と明るい緑色が印象的な制服を纏ったその少女は昼休みも半ばといった頃、教室で月間戦車道の雑誌を戦車好きな友達と一緒に眺めていた。
「もう少しで決勝戦かぁ」
「ですねぇ。いやぁ、今年の大会も白熱してて、どの試合も手に汗握るものばかりですよ!」
「……あー、えっとね? 見辛いから、もう少し顔を離してくれるかな? ゆかりん」
「おっと、これは失礼しました!」
机を合わせて一緒に見ている友達、秋山優花里が雑誌にこれでもかといわんばかりに顔を近づけているのをやんわりと諌める。
この県立大洗女子学園に入学し、周りがもう少しで夏休みだと浮かれ出しているころ。
戦車道の無い大洗では好きな人以外では噂に聞くことも珍しいが、世間ではそろそろ戦車道大会の決勝戦が行われようとしているころだ。
月間戦車道には、これまでの大会の戦績が細かく記されている。
その中で、少女が注目している学校の名前を見つけた。
(……うん、黒森峰は順調に決勝進出してるみたいね)
『決勝戦は黒森峰女学園vsプラウダ高校! 黒森峰女学園、10連覇なるか!?』
そんな見出しを見て、少女は自分が知っている未来と変わらずに進んでいることに、内心安堵する。
それと同時に、このまま進めばあの少し引っ込み思案なところもある心の優しい少女、西住みほが心に大きな傷を負ってしまう事に、言いようのない感情が湧いてくる。
大洗で生まれ、母や祖母も大洗を卒業したことから「どうせなら大洗に行ってみない?」と母に言われ、どこか期待の眼差しも向けられて断れずに大洗に入学してしまったことを今でもよく考えさせられる。
もし自分が大洗ではなく黒森峰に入っていれば、みほが嫌な思いをしないで済むのではないだろうか。
そんな考えが、入学してから時折少女の頭に浮かんでくる。
大洗に入学したことに後悔はない。
前世で大洗でのみほ達の活躍を見て、自分もここで皆と一緒に楽しく過ごしたいとはよく思っていたことだから。
……それでも、と思うのだ。
自分が皆と一緒に過ごしたいからという勝手な理由で、あの心優しい子が傷つくのを見過ごすのは、果たして正解だったのかと。
そんなこと、今更考えても仕方ないことはわかってはいる。
仮に黒森峰に行っても自分なんかが何を変えることが出来るのかという不安、それもあって母達の期待という都合のいい理由にも後押しされて、黒森峰ではなく大洗に来ることを少女は選んだ。
その時点で、もはや成り行きに任せるしかない。
(とにかく私は私で、戦車道が始まった時に備えていろいろ準備しておかないとね)
この学園艦に眠る使われてない戦車の場所、戦車の知識、戦車道のルール、仮に大会で優勝したとしてもその後に待つ更なる戦いについて等々。
考えなければいけないことは多々ある。
結局のところやはり自分にできることは少ないだろうが、せめてみほが大洗に来た時に少しで役にたてるように、そしてみほが負った心の傷を少しでも早く癒せるように努めよう。
そこには夢にまで見た憧れの西住みほと友達になりたいという思惑も多分に含まれてはいるが、西住みほと一緒に戦車道を頑張りたいという本気の想いも間違いなく在ったのだ。
(あぁ、早く来ないかなぁ、みほちゃん)
日が経つにつれ、原作が始まる時が近づくにつれ、少女はこれから訪れる楽しい未来を想像して胸を高鳴らせる。
翌月の月間戦車道で、大会の結果発表を見るまでは。
『祝・黒森峰10連覇!』
「うぉぉぉ! 黒森峰が決めました! 優勝、10連覇ですよ! 凄い、凄すぎる! 流石は黒森峰です!」
黒森峰の優勝が大々的に描かれる見出しに、周りを気にすることなく興奮のまま声を上げる優花里。
しかし。
「……黒森峰が……優勝?」
それを見た瞬間、少女の中で何かが崩れ落ちたような錯覚を覚えた。
(3人目の転生者)
時は遡って5年前、ここに1人の男がいて……。
「勘当です。本日この時より、西住を名乗ることを禁じます」
母、西住しほから告げられた言葉を振り返りながら、西住家の門の外でその男は立っていた。
「いやぁ、まいったねぇ、どうも。はははははっ」
事の重大さとは裏腹に、その男はどこか清々し気な表情で笑いを零していた。
正直、こうなるだろうとは内心予想はしていたのだ。
そもそもこの家は戦車道の大御所、日本最大にして最古の伝統ある流派である西住流の家元である。
男として生まれたこの男は家を継ぐことはないが、代々男も戦車道に関わる道へ進むのが西住家の習わしであった。
しかしそんな家に生まれながらも、男はその道を拒んだ。
自分にも他人にも同様に厳しく、西住流に、そして戦車道に対して強い誇りを持つ西住流の師範であり、近い将来には家元を襲名する予定となっている西住しほ。
そんなしほに、真っ向から堂々と戦車道に関わる道へ進むのを拒否すれば、最悪勘当されることだって予想できていた。
まぁ、百歩譲ってしほを含め家族が許可したとしても、西住流に関わる者達が黙ってはいないだろうと、男は思っていたけど。
“西住に生まれたからには、男であっても戦車道に人生を奉げるのは当然”
そんな認識が西住流に関わるものの常識として、いつからかわからないが浸透してしまっていたのだ。
そんなもの無視すればいい、親が子を勘当する理由にはならない、そう思う人もいるかもしれない。
しかし古い格式や伝統のある家に生まれるというのは、様々なしがらみがあるわけだ。
その家の仕来りにしても、それまで築いてきた人間関係にしても、流派の信用にしても……。
そういう少しずつ増えていったしがらみというのは、面倒な話ではあるが蔑ろにするわけにもいかない。
時には親子の情よりも、その面倒なしがらみを取らなければならないほどに重いものなのだ。
そのため、自分の勝手で戦車道と関係のない道を進もうとする男に対し、何らかの罰を与えないと周囲への示しにならない、ということになる。
だから“勘当”だ。
勘当してしまえば、もはや男は西住の人間ではない。
ならば0になるわけではないだろうが、西住家に対しても男に対しても必要以上に周りがあれこれ騒ぎ立てることも減るだろう。
そういうわけで母が認めようと認めなかろうと、どのみち男は勘当になりそうだということは、小学校に通っていた頃に思い至っていた。
そのため義務教育を終える中学を卒業して、様々な選択をしやすい年齢になる時期に話を切り出そうと男は決めていたのだ。
そして、ついに今日を迎えた。
話を切り出すまでに色々と考える時間はあり、覚悟する時間も十分にあった。
だから実際にしほから勘当の言葉を聞いても男に驚きはなかったし、思っていたよりもショックは受けなかった。
これでいい、これでこそ自分は夢に向かって進むことが出来るのだと、むしろ男は肩の荷が下りたかのように清々しい気持ちになっていた。
男には夢があった。
それは今生に芽生えたものではなく、かつて別の名前で生を得た時に持った夢だ。
それは子供がパイロットになる、野球選手になるというように子供心に思い描くような、そんなありふれた何気ない夢。
しかしそれは今生に置いてもなお、それこそ実の母から勘当を言い渡されても叶えたいと心にあり続けたもの。
男の夢、それは“世界一面白い漫画”を描くことだった。
「……そんじゃ、行きますか」
男は住み慣れた元我が家を一瞥すると、それから振り返ることなく歩き出した。
これは1人の男と2人の少女、三者三様の道を歩む転生者達の物語。
そして戦車に乗り地を駆ける乙女達の物語である。
(あとがき)
黒森峰ルート、大洗ルート、自分の夢に向かうルートという感じですかね。
そんな3つの道を歩む転生者達が、それぞれ悩みながらも進んでいく話しが読んでみたいなぁと思い短編として書いてみました。
ちなみにざっくりそれぞれのルートを説明すると
・黒森峰ルート
小さい頃にみほと友達になり、みほが傷つく姿を見たくないために原作ブレイクする。後の話を知ってるだけに、みほが大洗に行かなければどうなってしまうのか容易に予想できてしまうため、原作ブレイクすることへ大きく悩みながらも実行する決意を固める……つもりだったけど、結局は罪悪感を引きずっていくことに。
・大洗ルート
大洗を卒業した家族のススメで大洗に入学。本当は黒森峰でみほが傷つくのを阻止する道も考えたけど、そもそも自分の能力に自信が無く、変に拗れさせたらどうしようか延々と悩み、結局大洗に行くことに。
1年次に一人でポツンと月間戦車道を読んでいる優花里を見つけて話し掛けたことがきっかけで友達になる。
出来たらみほや優花里と一緒に戦車道がしたいと思い、将来に備えて優花里共々戦車道や戦車の勉強を始める。
・自分の夢ルート
ガルパン世界で戦車道の家元の家に生まれたけど、ガルパンは好きでも戦車道にそこまで興味はない。
前世からの夢を今生でもおうために、勘当となっても家を出ることに。
こんな所でしょうかね。
うん、それぞれのルートでそれぞれの転生者の考えを想像しながら書くの、すっごく大変(汗
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ガルパンのss読んでて、こんな話を読んでみたいなぁと思い浮かんだものです。 |
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