フレームアームズ・ガール外伝〜その大きな手で私を抱いて〜 ep5 |
「御見舞いですか」
真夏の空の下、街中のバス亭で轟雷が声を上げた。まだ午前中だが炎天下の中、屋根が備え付けられたバス停の日陰は心地よい。そこにいた人間とFAGはどちらもベンチに座ってバスを待っていた。
「そうよ。この間はお母様の出産でお世話になったもの。そのお礼とお見舞いの両方よ」
マスターと同行していないマテリアが答える。今いるのはスティレットとヒカル。轟雷と黄一。そしてマテリアのマリの合計五人である。マリはマスターの母親の出産の際に、フレズがタクシーを呼んでくれたという恩義があった。
「イノセンティア達も来れればよかったんですけど」
あいにく今日はイノセンティアとレティシアは用事があって来れなかった。特にイノセンティアは、フレズヴェルクとマリと仲良くなっていたので今日の事は非常に残念がっていた。
「御見舞いって、そのフレズヴェルクのマスター、入院してるの?」
問いかけたのはスティレットだ。フレズとはこの間、病院で少し会った程度だが同行することに。
「この間会った時は元気に見えたんですけどね。ねぇマスター」
轟雷がマスターの黄一に同意を仰いだ。「そうだな」と黄一も轟雷に同意。フレズのマスターは小学生の少年だった。
「まぁあなた達とは活動してるお店が違うから知らないでしょうね。あのフレズのマスター、華山タケル君は元々体が弱くてね。長期入院でいつもは山奥の診療所で暮らしてるらしいの」
マテリアはバス停のベンチの上に置かれた、フルーツの山盛りのバスケットに寄り添いながら言った。これを見舞いとして持っていくつもりらしく、丁寧にリボンがかけてある。
「しかし山奥だろ?こっからどんぐらい離れてんだ?」
「山奥と言ってもそんなに離れてはいないわ。フレズの話じゃせいぜい15kmらしいわよ」
ヒカル達の暮らすこの街からも山は見える。ここが街中でも山に入れば風景はガラッと変化を見せる。
「それ位の距離で療養にいい環境になるんかねー」
「まぁここも特別都会ってわけじゃないからね」とヒカルに対してスティレットが付け加えた。と、そうこうしてる内にバスが来る。
「じゃ、俺がそのバスケット持つぜ」
「お願いします」と荷物持ちを請け負うヒカルに対して、マリが頭を下げる。本来なら自分のマスターの家族で行きたかったのだが、まだ家族間で都合が落ち着かなかった。FAG全員がマスターの肩に乗ったりカバンに入りながらバスへと乗り込んだ。
一時間近くかけて、目的の村のバス停についた。バス亭はトタン屋根の古びた物になり、道は舗装されてはいる物の、周りは森と青々とした田んぼだらけである。自分達の住む街の近くとは実感がわかない。
「んー。空気が美味しいですねー」
「轟雷、お前呼吸しないだろ……」
と、そうこうしてる内に診療所へと付いた。庭の備え付いた木造の二階建ての建物だ。古い建物ではあるが庭を含めて手入れが行き届いていた。
「有難うございました」
木造の引き戸を開けて、腰のまがったお年寄りが出てくるのが見えた。齢80以上であろうお婆さんだ。ヒカル達にすれ違うなり挨拶をする。
「こんにちは」
『あ、こんにちは』
それぞれが挨拶を返す。そのお婆さんはFAGが気になったようだ。
「まぁ可愛いお人形さん達。タケルちゃんのお友達かしら」
「タケル君はここで入院してるんですか?……あ、すいません。ここへ来るのは初めてで」とマリが聞く。
「そうよ。この集落だと子供がほとんどいなくてね、タケルちゃんもお人形とよく遊んでるわ。それにしても今時のお人形は凄いわねー。ほとんど人間と変わりないわ」
そう簡単な話をしながら別れる。そして病院内に皆入ると窓口で手続き、タケルの病室へと案内された。
「この辺だと室内でクーラーなしでも涼しいですね」
そんな他愛も無い事を話してると二階の一室へと通される。ノックをすると「どうぞ」という声が聞こえた。入ると少年とFAG、一人ずつがベッドの上にて、携帯ゲームで勝負してるのが見えた。タケルと、フレズヴェルクだ。
「あ、あなたは確か轟雷の……」
黄一達に気が付くと、パジャマ姿の少年、タケルが答えた。黄一以上に線が細く儚げな印象の少年だった。タケルが面識があるのは轟雷と黄一、マリだけだ。
「お礼も兼ねて、お見舞いに来ましたわ。といっても初対面の人もいるみたいだけど……」
「まぁこっちは付き添いみたいなもんだ。気にしないでくれ」と初対面のタケルに対してヒカルは笑って見せた。
「タケル君、これ」
そう言ってマリはヒカルに持たせたフルーツの盛り合わせをタケルに渡した。
「わ!いいんですか?!」
「いいのよ。本当は私達の家族でお礼に来るべきだったんでしょうけど……」
「いえいえ。有難うございます」
と、直後に二人の携帯ゲームから『YOUWIN!』『YOULOSE』という音声が聞こえた。フレズはお構いなしに対戦を進めていたらしい。
「あ!フレズ!お前僕が相手してるからって勝手に進めるなよ!」
「いーじゃん!普段ボクが相手しても勝てないんだからこれ位のハンデあってもいいでしょー?」
客前だというのにマイペースさを崩さないフレズヴェルク。ゲームに集中していたせいかストレッチをしながらマスターに対して声をあげた。
「セコいですね。フレズ」
呆れる様に言う轟雷。フレズに対して彼女はどうにも好きになれない。
「あ!轟雷!今度はバトルで負けないからな!マスター!セッションだよ!轟雷とバトルしようよ!」
リベンジだと血気はやるフレズに対してタケルは彼女を諌める。
「病院内だからよしなよ。それより丁度、日課の散歩の時間だから、皆で爺ちゃんの家に行こうよ。折角のお土産も出来たしさ」
さっき貰ったフルーツを見ながらタケルは言う。自分一人では到底食べきれない量だ。
「散歩?外出許可があるのかい?」と黄一。
「まぁね。人も少ない集落ですからね。先生にいえば割と自由ですよ」
で、どうします?と聞くタケル。別に断る理由も無い。と、全員は快く承諾する。
「本当に綺麗な空ね。こんな空を思いっきり飛んでみたいわ」
「この辺、鷹とかが普通に飛んでるからね。ボク達の大きさじゃ迂闊に飛んだら攫われちゃうよ」
「っ!怖い事言わないでよ!」
舗装された田舎道を歩きながら会話を続けた。FAGに詳しい人と会話するのはタケルにとっても新鮮だったのだろう。割とタケルの方から話しかけてくる。
「で、面白いカスタマイズですよね。黄一さんの轟雷の追加武装。あぁいう追加武装が僕にもできたらなぁ。フレズの場合元々派手な上にギミックも多いから、却って弄り辛くて」
「元々フレズ系列は燃費が悪いから、あえてもっと軽装にしてみるのはどうだろう」
黄一としてもそういう後輩が出来たようでノリノリで会話に応じていた。
「アイツ重武装じゃないとヤダってごねるんですよ。性格上ゴリ押しになりがちだし」
「俺にはカスタマイズの事はイマイチ解んねーが、そういうペース配分はマスターの腕次第って所かい?」
カスタマイズに詳しくないヒカルも、彼らが言わんとしていた事は理解できた。
「そうですね。ヒカルさんのスティレットみたいに実弾で固めるのも良さそうだなぁ」
「あれ?この間私とバトルした時にタケルさん、指示全然出してなかったじゃないですか」
その轟雷の質問にフレズは勝ち誇ったように答える。
「ふふん。その時はマスター、ボクの好きにやらせてくれるって約束だったからね。つまりあの時のバトルでは、ボクは完全じゃなかったって事さ」
「あなたのマスターの実力は凄いの?」とスティレット。
「そう!マスターの先読みは凄いよ!ゲーム対戦はボクなんか適わないんだから!マスターの力が備わればもうボク達はもう無敵なんだからね!」
エアバイクに乗りながらフレズは自慢げに話す。
「入院生活で長い事ゲームのオンライン対戦やってただけだよ。それに……お店でFAGの対戦できるのは調子いい時だけだからね」
「でもさっきも見て思ったけど、病院内でもゲームとかやってて良かったの?そういうのって注意されるんじゃ……」
「子供が僕だけですからねあそこ。皆甘やかしてくれます」とスティレットに対してタケルは苦笑しながら言った。
そうこうしてる内に目的地の祖父の家に付いた。古い日本家屋の家と言った場所だった。
「じいちゃーん!!来たよー!!」
「おぉ!来たか―!!」
タケルが庭の入口で大声で叫ぶと、長身の老人が出てきた。口髭は蓄えているが背筋はピンとしており、頭髪はまだ豊かに残っている。それほど老いた印象はない。
「今日はお客さんもいるんだけど」
「あぁウメさんから聞いてるわ。今日友達もつれてくるかもって待ってたよ」
ウメさん、というのはさっき病院で会ったお婆さんの事だ。
「皆上がっていきなよ。この辺じゃ若い人が少なくていけねぇ。しかもFAG仲間は唯一と言っていい。歓迎するよ」
「あ、すいません。お邪魔します」
無下に断るのも失礼と思い、ヒカル達は上がる事にした。
「ゆっくりしていってくれ」
居間に通されるヒカル達、入るなり轟雷は部屋の内装に興味深々だ。中央にテーブルの備え付けられた畳張りのレトロな部屋。縁側のガラス戸は開いており、入る風は心地よい。
「なんだか、不思議な雰囲気ですね」
「フフン!ここでなら邪魔は入らない!さぁ轟雷!ボクと改めて勝負だよ!」
と、入って早々に、フレズは轟雷にバトルをけしかけようとする。しかしタケルの身の上を知ってるとあまり乗り気にはなれない。今の自分は客の身分なのだ。
「待って下さいフレズ、今はあなたのマスターは療養中なんですから、あまりマスターに負担をかけない方が」
「僕はいいけどね」
そうタケルは言ったが、タケルの身の上を一番知ってるのはフレズの方だ。
「うーん……」
少し悩んだ。タケルの負担は出来るだけ減らしたい。と、その時に外を飛ぶオオムラサキが見えた。
「そうだ轟雷!外の昆虫採集で勝負しようよ!これならマスターの負担にはならないでしょ?!」
「へ?!昆虫採集!?」
「どっちが大きい昆虫を見つけてくるか勝負だよ!じゃあ行くよ!」
そう言ってフル武装で、縁側から飛び出していくフレズ、
「どうしましょう。マスター」と困惑する轟雷。
「まぁ折角だから付き合ってやれよ」
「別にいいですよ。アイツに無理に合わせなくても」とタケル。しかし轟雷的にはここで付き合わないと、後でフレズにグチグチ言われるかもしれないと判断。フレズ系とはソリが合わない。
「……仕方ありませんね。今回だけですよ」と轟雷は付き合う形で武装を展開、後を追う様に出ていった。
「すいません。アイツ人の話聞かなくて……」
そう言うタケルに気にしないでと返す黄一。
「はい皆。リンゴ剥けたわよー」
と、程無くしてマリとスティレットが、一口サイズに切ったリンゴを皿に盛りつけて持ってきた。台所を借りてきたのだ。
「お!来た来た!」とヒカルは飛びつく。
「ちょっとマスター!これタケル君に持ってきた奴なんだから少しは遠慮してよ!」
スティレットの指摘に「しまった」といった顔になるヒカル。つい反射的にやってしまったらしい。
「ハハハ!気にすんな!タケルもあまり食わない方でな、君らみたいな元気な奴が来てくれると丁度いいさ」
「あ、じゃあそういう事なら」
再び手を出すヒカル。スティレットはその様子に相変わらず不服そうだった。
「ヒカル……。そういう適応力はお前の三番目にいい所だよなぁ」
皮肉と賞賛のどっちも込めて黄一は呟いた。と、ある問いが浮かぶ。というか聞きたかった事が黄一にはあった。
「……あの、タケル君はいつからフレズと生活を?」
一番とっつきやすそうなフレズとの出会いだ。
「フレズとは……もう二年になりますよ。爺ちゃんが僕にプレゼントって事でくれたんです」
「タケルはな、ご覧の通り色々と不便でな。元気な時は街の自宅から学校に通ってはいるが、そこに友達が出来ても、会いたい時に会えるってもんでもなくてね。いつでも一緒にいてくれる友達がいて欲しいって思ったんだよ」
「こんな病身だからね……臨海学校もいけそうだったけど、入院でいけなくなっちゃって……」
残念そうに言うタケル。楽しみにしていたであろう事は容易に想像できた。それに慣れてる様な諦めも、ヒカル達には感じられた。
「そう……だったんですか」
マリが共感の声を上げる。彼女の方も似たような経緯で買われたのだ。その考え方には大いに理解できる。
「でもフレズが来てからは楽しいよ。病院でもゲームで対戦相手が出来たし、僕と違ってグイグイ行くタイプだからさ」
「そっか……いいよな。FAGって、心がある友達ってさ」
「うん」
タケルのそんなに深刻そうでない表情に、黄一はとりあえずの安心をする。と、そんな空気をぶち壊す様に轟雷が縁側から飛び込んできた。サブアームを精いっぱい掲げて八センチはあろうバッタを掲げていた。
「ふはは!見て下さいマスター!このビッグなショウリョウバッタを!これならフレズには負けるはずがありません!!」
バッタを追いかけたであろう轟雷の身体には土と草が所々こびり付いていた。
「うわぁ!籠にも入れないで持ってくるな轟雷!」
と、黄一が注意すると同時にバッタは轟雷の頭を蹴って脱出。「むぎゅ!!」と奇声を上げて吹っ飛ぶ轟雷。そしてバッタはスティレットの方に飛んできた。
「へ?!何で私の方に来るのよぉ!!」
逃げようとするが転ぶスティレット。うつ伏せの彼女にバッタが覆いかぶさるような体勢でしがみついた。
「ひぃぃっ!!取って!取ってよマスター!!」
悲鳴を上げるスティレット、「はいはい」とヒカルがバッタをつまみ上げようとすると、フレズヴェルクが轟雷と同じく縁側から入ってきた。直後、全員が凍り付いた。
「中々のサイズを見つけたね轟雷!でも負けないよ!見よ!この長さ!十センチオーバーのトビズムカデを!!」
両手でデカいムカデの頭附近を捕まえたフレズはドヤ顔だった。ちなみに脱出せんとムカデはウネウネと足の全てを動かす、ムカデの身体はフレズに巻き付いていた。当然祖父以外の全員がドン引きして部屋の隅に逃げた。当然である。中には奇声を上げる者も。
「あれ?どしたの皆?僕の勝ちだよ。マスターほめてー!」
『そんなもん採ってくるなぁぁぁっ!!!!!!』
――益虫で、縁起良いんだけどなぁ――とただ一人祖父は冷静だった。
ノーマルのフレズはアニメではあんまりいい所なかったので、ラブラブにするつもりです。
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ep5『タケルと量産型フレズヴェルク』(前編) フレズ作ってて遅くなりました。今回はフレズヴェルクの話です。 |
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