フレームアームズ・ガール外伝〜その大きな手で私を抱いて〜 ep7
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 翌日の日曜日、お互いの間にはずっと微妙な空気が流れていた。VRで遊ぶ事は当然ない。

 

「ねぇ……マスター?」

 

「ふぁぁ……何?」

 

 欠伸をしながらタケルは返す。彼の方は昨日悶々としっぱなしで寝不足になっていた。

 

「あ……なんでもない……」

 

 フレズもこんな感じだ。二人はずっと病室でテレビをボーッと見ていた。と、タケルは昨日の事以外に気になる事があった。

 

「……あのさ、フレズ」

 

 テーブルの上でうわのそらのフレズにタケルは聞く。

 

「何?」

 

「お前今日の恰好……」

 

 気になった事はフレズの恰好である。今の彼女は全身タオルでくるまっていた。

 

「!そういう気分なんだよ!いいでしょ!昨日のVR以来!……あ……」

 

 顔を真っ赤にしながらフレズは答えた。といってもタオルで隠れた表情はタケルには解らないだろう。フレズは反論する際に昨日の事を思い出し、また恥ずかしくなる。それはタケルも同様だった。

 

――解んないよ!急にマスターに肌見られるの、胸がザワザワするんだもん!――

 

 昨日の一件から恥ずかしさを感じるフレズ、マスターとの会話、今まで平気だった事が、まるで素体のまま空中から落ちた様な感覚だった。「これからどうしよう……」それが今のフレズの心境だ。マスターと正面から向き合えなくなってしまった。フレズは恥ずかしさに慣れていない。

 

――マスターのお爺さんに聞くべきかな。……でもボクが買われた理由って、ボクを通じて女の子に興味を持ってもらう事も含まれてるんだよね……――

 

 自分がこうなった経緯を祖父に話したら、自分が不要になってしまうのではないか、そうフレズは不安になる。恥ずかしさはある物の、マスターの事は変わらず好きだった。

 

――誰かいい人いないかな。相談できる人……――

 

 人じゃなくてもいい。とフレズは思い浮かべる。……ふと、ある少女が浮かんだ。

 

「あ、そうだ!」

 

「どうした?フレズ?」

 

「マスター!今日ボク達出かけようよ!」

 

「……え!」

 

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「っ!ぶはははは!!!!胸揉ませて恥ずかしくなったって!!!しかもあなたが買われた理由がそれですか!!」

 

「わ!笑わないでよ!ボクがどんな想いで相談したと思ってるの轟雷!!」

 

 場所は轟雷達の出入りする模型店、そのいつものドールハウスの様なFAG用のコミュニケーション用スペース。この時フレズにとって頼れるのは轟雷位だった。轟雷にフレズは相談するが、轟雷はタオルでくるまったフレズに対して馬鹿笑いで返した。

 外出許可を取ったタケルと祖父とで一緒にバスで降りていた。さすがにフレズ一人だけでここまで来るわけには行かなかったからだ。ちなみにタケルは工作室で黄一やヒカルと新しいパーツを作っている。

 今のフレズにとってこの相談は勇気を振り絞った物だった。笑われるのは心外もいいところだ。

 

「ていうか自分で揉ませて恥ずかしくなるなんて馬鹿ですか!」

 

「こうなるなんて自分でも思わなかったよ!」

 

「ちょっと轟雷!そんな風に笑うなんて失礼でしょうが!」

 

 笑う轟雷に対して、スティレットの方は真剣に話を聞いてくれた。

 

「異性への興味とか、性欲とか言われたけど解んないよ……。こんな気持ちになるなんて……」

 

 胸を揉ませたのはマスターの為だった。

 

「今までこの姿を見られるの、何とも思わなかったのに、いきなり視線が刺さる様になっちゃったんだよ……。これが恥ずかしいって奴なの?」

 

 くるまっているタオルを握った手に力を込めながらフレズは言う。

 

「まぁあなたは全裸でも平気でいそうな気がしますが」

 

「轟雷、馬鹿にしたいだけなら口開かないで」

 

「マスターもその時、なんだか必死になっちゃって、怖かった……」

 

 フレズにとってその時のタケルは豹変といっていい物だった。自分の知らないタケル。

 

「フレズ……」

 

「ボク、自信なくしちゃった……自分の役割を果たせるのかなって」

 

 いつも自信に満ちた少女の落ち込んだ姿だ。初めて故にどう対応していいか解らず、頼れるのは私達だけなのだろう。とスティレットは思った。

 

「まぁいきなり胸を揉ませてあげるのは不味いでしょう?FAGでも女の身体はおいそれと触っていい物ではないわ」

 

「そうかな?考えた事もないよ」

 

「手を握るとか、キスするとかでもいいんじゃない?」

 

「キス?キスって何さ」

 

きょとんとする。フレズにスティレットは言葉に詰まる。

 

「え?えーと……あれよ、男と女が唇を合わせるあれよ。試作型のFAGの間ではショック療法とか言われているわよね」

 

「あー映画とかドラマの再放送でよく見るよね。そういうシーンの時にボクが『あれ何ー』って聞くとマスター恥ずかしがって答えないんだもん」

 

「それは……あれよ、大切な人同士がやる行為だからよ」

 

「大切な人と?スティレットはマスターとした事あるの?」

 

「え……?」

 

 その答えに詰まるスティレット。ぶっちゃけ答えは『ある』だ。ヒカルが寝ている時にした。しかしスティレットにとっても話すのは正直恥ずかしい。

 

「……」

 

「ねぇ、何赤くなってんのさ」

 

「スティレット……あるんですか」

 

 付き合いの長い轟雷はスティレットの反応から答えは簡単に予測できた。

 

「仕方ありませんね……。あなたをタケル君に与えた理由は、友達としてっていう理由もあるじゃないですか。その点はよく役目を果たしていると思いますよ」

 

 スティレットが答えられないので轟雷が答える。轟雷としては不本意ではあるが、

 

「そうかなぁ」

 

 気を落ち着かせたスティレットが今度は答える。

 

「そうよ。きっとあなたと出会えてタケル君は嬉しいはずよ。タケル君言ってたわよ。あなたが来て楽しいって」

 

最初にお見舞いに行ってタケルが言った事だ。

 

「マスターが?本当?」

 

「この時点で既にあなたがいる意味はありますよ。彼の『生きたい』という感情へ繋がってるなら何も問題はありません」

 

「うん……ありがとう二人とも、ボク、もう一度マスターと向き合ってみる」

 

「その意気よ」とスティレット。

 

「じゃあそのタオル脱いでマスターの所へ行きましょう!確か工作室にいますよね」

 

 装備を付けるにはフレズのタオルはどうしても邪魔だ。(ここへ来るのは素体状態で乗れるエアバイク形態である)脱がそうとするが……

 

「う……それはやっぱり恥ずかしいよ……。マスターの前でタオルが脱げない……」

 

 ギュッとタオルの巻き付きを強くするフレズ、タケルの前で脱ぐ事への抵抗は解決してない。

 

「さっきのとは別問題ねそれは」

 

「トラウマって奴ですね。……そうだ!案外マスターとキスしたら元に戻るかもしれませんよ」と轟雷が冗談半分に続く。しかしフレズはそれを聞き逃さない。

 

「え?そうなの?!」

 

「確か私達FAGの間ではキスってショック療法って言われているじゃありませんか。なんでも試作型轟雷が昔それで数々のFAGの問題を解決したとか」

 

「そんなキス魔だっけ私達の基礎のFAGって……」

 

「タケル君は男の子ですからね。VRでしたら異性への興味ももっと強くなるはずです!」

 

「そっかー。キスかぁ、そんないい方法があるんだ」

 

 フレズにとっては救いの手の様な案だった。輝かせる表情に、轟雷は真に受けてると不安になった。

 

「って冗談ですからね。本気にしちゃ駄m「ねぇあなた!」

 

 と、轟雷が言い終わらない内に、フレズに対して話しかけてくるFAGがいた。レーフとライの姉妹二人だ。フレズはこの二人に馴染みはない。

 

「何?確か前に会った様な……」

 

 トモコの母親の出産辺りで会ったな。とフレズは思い出す。

 

「あなた別のお店では名を馳せたFAGらしいわね。どうかしら、今日私達とバトルしてくれないかしら」

 

「えー今?」

 

 いつもだったら喜んで飛びつくだろう。しかし今日はバトルに没頭できる気分ではない。

 

「お姉ちゃん。この人轟雷お姉ちゃんと渡り合ったFAGでしょ?私達で勝てるとは思えないよ」

 

「盛り下がる事言わないでよライ」とレーフはいつもの様に妹に突っ込みを入れる。それを見ていた轟雷達はある事を思いついた。

 

「そうだ!バトルですよフレズ!!あなたとマスターの連携でバトルをすればいいんです!」

 

 いきなりの轟雷の発言にフレズは首をかしげる。それにフォローするかの様に轟雷にスティレットが続く。

 

「そうね。私達の作られた理由の一つはバトルだもの。フレズ、あなたマスターとの連携が自慢と言ってたわね。案外バトルすればそう言ったギクシャクした関係も簡単に直るんじゃないの?」

 

 確かに変に考えるよりその方が解りやすい。今マスターに肌を見られるのはちょっと恥ずかしいが、バトルに集中すれば問題はないだろうとフレズは考える。

 

「いいよやろう。ちょっと待ってて、マスターを呼んでk「あらあら。誰かと思えば病弱マスターのフレズじゃありませんの!」

 

 マスターを呼ぼうとしたら別のFAGに呼び止められた。誰だと振り返ると、そこにいたのはフレズヴェルクの色違いのFAGがいた。

 

「その金髪白スク水、アーテル……」

 

 フレズヴェルク・アーテル、従来のフレズより接近戦に強く調整された機体。アックス、グレイブ、サイズと3変形可能な長柄状の大型武器、ベリルスマッシャーをランチャーの代わりに持つ。

 

「誰ですか?あの楽園追○に出てきそうなのは」と轟雷。

 

「元々ボクが活動していた店でボクと張り合っていた奴、ボクとマスターのコンビに勝った事は一度もないけどね」

 

 マスターの下りは自慢げに言うフレズ。

 

「ふん!所詮マスターありきの勝利ですのよ!」

 

「何!またボクとやろうっていうの?ボクとマスターの絆はお前には壊せないんだから!」

 

「ふーん。マスターと、ね。ふふっ」

 

 余裕のアーテルの含み笑いが、フレズは挑発の様に見えた。

 

「何がおかしい!」

 

「そのマスターに頼りっぱなしで、あなたは一人じゃ何もできない出来損ないと言うわけですのね」

 

「っ!!」

 

 プライドを傷つける発言だ。確かに自分の実力と勝利はマスターの指示あっての物だが、

 

「あなたはマスターがいなければただのFAG。私にも勝つ事は出来ないと」

 

「なっ!お前っ!」

 

 その挑発にフレズはアーテルに掴みかかろうとする。が、アーテルは余裕の態度を崩さない。

 

「あら悔しい?でしたらあなた一人で私と戦いません?私に勝てるのならさっきの事は撤回しますわ」

 

「いいよ!だったらお前にバトルを申し込む!やるのはボク一人!それで十分だ!」

 

 纏ったタオルを投げながらフレズは雄々しく応じた。見てる轟雷達は「それじゃ意味がない!」と止めようとするがフレズは耳に入らない。

 

「そうこなくては!よろしくお願いしますわ!」

 

 してやったりと笑みを浮かべながら、アーテルは応じた。これで勝てる。という意味にも笑みは受けて取れた。

 

「フレズヴェルク型はこれだから……」

 

 轟雷はフレズの様子を見ながらそう呟いた。

 

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『フレームアームズ・ガール!セッション!!』

 

 模型店の一室にてバトルステージを起動。お互いのセッションベースを通して二人は戦場へと降り立つ。

 

「っ!このステージ!!」

 

 バトルが始まってフレズは驚愕した。昨日の夜の海岸ステージだったからだ。決闘のごとく砂浜で相対する二人。フレズは連続的に昨日の事を思い出すと、またタオルにくるまりたい気分だった。

 

「そう!あなたが恥ずかしい思いをしたというステージですの!」

 

「お前!聞いてたな!」

 

 ベリルショット・ランチャーを撃ちながら叫ぶフレズ、さっきのタイミングの時点で気づくべきだったとフレズは後悔。

 

「聞いてませんの。胸を揉ませていたら恥ずかしくてマスターと一緒に居づらいなんて〜」

 

 とぼけつつ挑発で返すアーテル。しっかり聞いていた様だ。満面の笑みである。

 

「く!ぅぅぅ!!!」

 

 恥ずかしさで一杯になるフレズ、それをアーテルは見逃さない。アックス状の武器、ベリルスマッシャーを頭上でブンブンと回転させながら、アーテルは飛び上がる。

 

「ふふっ!バトル中に考え事とは愚かですわ!!」

 

 落ちながら切りかかる。後退してかわすフレズだが、アーテルはスマッシャーをグレイブに変形、フレズの胸に突きを見舞う。

 

「っ!」

 

 クロスさせたランチャーの銃身でグレイブを受けるフレズ、なおも歩を進みながら連続的に突きを仕掛けてくるアーテル。かわしつつ反撃に出たいが、アーテルは近距離を保ったままだ。

 

「あらあら!ベリルショットランチャーではグレイブの速さに対応できませんの?!」

 

「黙れ!」

 

 銃身部にエネルギーを纏わせて薙ぎ払おうと振るうフレズ、しかしアーテルは軽やかにバク宙で回避、空中でアーマーをサイドワインダーに変形させると再びフレズに突っ込んでいく。フレズヴェルク型の高速飛行形態だ。

 

「サイドワインダーならこっちだって!!」

 

 フレズも装備をサイドワインダーへ変形させ、対応しようとする。エアバイクとの違いは装備を装着したまま出来る形態だ。突っ込んできたアーテルをかわし、追いかけるフレズ。二人は海上スレスレを高速で追いかけながらのドッグファイトともつれ込んだ。

 暫くの間、満月をバックに空中戦が続く。お互いが後ろを取ろうと躍起になった。……そしてひねりこんだフレズがアーテルの後ろを取る。

 

「やった!アーテルは接近戦使用!ボクみたいなランチャーは持っていない!ボクの勝ちだね!」

 

 アーテルを追いかけながらランチャーを撃ちつづけるフレズ、しかし……トリガーを引くもランチャーが反応しなくなる。

 

「あ!」

 

 武器エネルギーが残ってない。それに気づくももう遅い。

 

「形勢逆転っですの!!」

 

 アーテルは見計らってか、跨っていたバズーカを一発撃った。フレズ型のサイドワインダーやエアバイク形態は、バズーカを後ろに向けてサドル部にする。故に後ろに撃てた。

 

「っ?!うわぁ!!!」

 

 その一撃はフレズの跨っていた槍上の機種ど真ん中を撃ち抜いた。そのまま飛行手段を失ったフレズは落ちそうになるも、その場で全スラスターを噴射。空中で踏んばる。

 

「ま!まだ落ちるな!!」

 

「あらしぶといですの!ねっ!!」

 

 人型へ変形したアーテルがモードグレイブで高速で突きを見舞う。必死に身をひるがえし突きをかわすフレズ、しかしアーテルはベリルスマッシャーのモードを槍状のグレイブから鎌状のモードサイズへ変形、引く動作で、フレズを背中から引き裂いた。

 

「がっ!わぁぁっ!!!」

 

 それが致命傷になる。悲鳴を上げながら海に落ちていくフレズ。

 

「マスターがいなければこんなものですのね。フレズ……ふふっ」

 

 満面の笑みを浮かべるアーテル。彼女はもう勝ちは確信していた。

 

「これで私の実力も拍がつくものですわ!あーっはっはっは!!!」

 

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――適わなかった……やっぱりマスターがいてくれなかったから……――

 

 海中に沈みながらフレズは自身の行動に後悔する。こうする間にもどんどん沈んでいく。

 

――マスター、怒るかな……、いや、「何やってるんだよフレズ」って笑いながら慰めてくれるよね……何はともあれ、これでマスターと話す機会は作れたかな……――

 

『何やってるんだよフレズ……』

 

――あー本当に聞こえてきた。たかが仮想空間のバトルなのに、なんか幻聴みたいでもう駄目な気分になってくるよー。そういえば昨日もこのステージで恥ずかしい思いしたし、なんか好きになれないなこのステージ……。呪われてるのかなー――

 

『聞いてよフレズ!!だから何やってんだってさぁ!!』

 

「わぁ!!あれマスターの声!?」

 

 突如フレズの耳にタケルの大声が響く。幻聴ではなく本当にタケルが言っていた。

 

『何沈みながら物思いにふけってんの!!』

 

「マスターこそ、どうして?黄一やヒカルと一緒だったんじゃ……」

 

『轟雷達に呼ばれてきたんだよ。全く、自分で勝手に行動して』

 

 フレズの行動に呆れるタケル。彼はステージ機材のすぐ傍にいた。

 

「悪かったよー。ってボクやられちゃったんだから、もうちょっと優しい言葉かけてよー」

 

 悔しさはある物の、マスターとまた気兼ねない会話が出来たというのがちょっと嬉しかったフレズ、しかしタケルの方はそんな事はお構いなしだった。今優先すべきはバトルである。

 

『何言ってるのさ。これ位で諦めていたら勝てる物も勝てないだろ?……損傷度と残りHPは……』

 

 素早くコンソールを動かして、データ画面のフレズのコンディションをチェックするタケル。エアバイクの機首部分は損失、ベリルショットランチャーは弾切れ、残りHPは残りわずか、薄皮一枚で生きてる様な物だ。だがタケルにとっては勝算は充分だ。

 

『アーテルが相手なら……この手だ。フレズ、ランチャーとホルダーを捨てて。ダガーも邪魔だ』

 

「え?それじゃ武器がなくなっちゃうよ!」

 

『いいから!撃てないランチャーに意味は無い!まずは海の中から上がらないと、そしたら武器を転送するからそれを使って戦って!』

 

「でもボク、マスターなしでやれるって……」

 

 そう証明したい。しかしタケルが一緒だとこうも心強いのかとフレズは改めて思う。

 

『嫌?』

 

「でも……マスターと一緒の方がずっと楽しい!だからお願い!マスター!」

 

 こういう時のタケルは自信に満ちている。この時のタケルは特に頼もしく感じる。だからフレズは彼に従いたくなる。

 

『最大出力だ!海から出たら陸へ!』

 

「うん!うぉぉおっ!!!」

 

 フレズは不要になった部分をパージする。切り離されたアーマーは海の暗闇へ沈んでいった。そして残りのブースターを最大で吹かして水面に向かう。少しして海中を抜けた。

 

「何?!まだ動けましたの!?」

 

 水しぶきを上げて飛び上がったフレズを見て、アーテルは驚く、

 

『アーテルの相手は今はいい!まずは陸へ!』

 

 タケルの言う通りに砂浜に着地するフレズ、所詮丸腰とサイズモードで切りかかるアーテル。武器がないと不安を晒し出すフレズ。

 

『行くぞフレズ!これを!!』

 

 そういってタケルはコンソールの武器を選択し転送、フレズの手元にパルチザンの様な槍が出現。

 

「これは?!」

 

 握られたそれは、アーテルの振り下ろされたベリルスマッシャーを受け止める。

 

「ガンブレードランス?!」

 

 フレズに合わせた碧色のクリアパーツ刀身の槍に、アーテルは驚きながら名を呼んだ。ガンブレードランス。分離と変形により近距離から遠距離まで距離を選ばない武器である。

 

『これ工作室で作ってて遅くなったんだよ。間に合ってよかった』

 

「今更そんな武器一つ!」

 

 アーテルは再びサイドワインダーに変形、今のフレズは翻弄してしまえばすぐに倒せると思うが、

 

『フレズ!森の中へ!』

 

「うん!」

 

 タケルの指示にフレズは森の中へ入っていく。これではサイドワインダーではすぐに衝突してしまう。

 

「こしゃくな!!」

 

 アーテルは人型に変形するとベリルスマッシャーを最大出力。衝撃波で薙ぎ払おうというのだ。

 

「いい加減に眠りなさいな!弱き者よ!!」

 

 最大出力で放たれた衝撃波は木々をなぎ倒していく。これでやったかとアーテルは警戒しながら様子を見るが……。

 

「おぉぉっ!!」

 

 アーテルの側面からフレズが突っ込んでくる。アーテルは気づくとベリルスマッシャーをサイズモードで受け止める。ガンブレードランスはブレードライフルモードになっていた。上下の刀身の間のスリットにベリルスマッシャーの刀身がすっぽりと入る。

 

『早くにかかったね……フレズ!!』

 

「OK!!」

 

 フレズはランスを下に力いっぱい向ける。刀身を巻き込んだベリルスマッシャーはつられて下に向く。これでは思う様に振り回せない。

 

「あっ!!」

 

『今だ!』

 

「おぉっ!!!」

 

 フレズはそのまま回し蹴りを思いっきり放った。ブレード付きの鋭利な爪先がアーテルの横腹を切り裂く、その拍子にベリルスマッシャーを手放してしまったアーテル。

 

『撃てぇっ!!』

 

 追い打ちとしてランスをそのままサーテルに向けて発射、光の奔流はアーテルを飲み込む。それが決定打となった。

 

「こんのぉぉっ!!!」

 

「そんな!あぁぁっ!!!」

 

 そのまま押し切られたアーテルは光の中で消滅。退場となった。結果この勝負はフレズの勝利である。

 

――

 

『フレズ!!』

 

 バトルが終わり、ステージが解除されるや否や、轟雷達がフレズに駆け寄ってくる。

 

「皆。へっへーん!どうだい轟雷!ボクの実力!」

 

「あれがタケルさんの実力ですか!凄いですね!」

 

「いやボクの実力だよ!」

 

 自分を褒めて欲しいフレズにとっては不服な反応だった。

 

「あなたこのバトルの趣旨忘れてない?」と呆れ顔のスティレット、

 

「あ……、まぁ確かにマスターいなかったら負けていた。かな」

 

 そもそもこのバトルがマスターとの距離を縮めるための物だと言うのを今になって思い出したフレズ。

 

「フレズ……ナイスファイト」

 

 タケルも笑いながらフレズに激励の言葉をかけた。

 

「マスター……マスターのおかげだよ」

 

 いつもの笑顔でフレズは返す。さっき自分の実力とは言ったが、この反応は素直な気持ちだ。

 

「その反応。少しはマスターからの視線も平気になったかしら?」

 

「あ、そういえば……」

 

 さっきまでその事実を忘れていたフレズだった。意識すると全く恥ずかしくないわけではないが、少しは楽になった感じだ。

 

「フレズのその恰好、僕好きだよ?」

 

「マスター……じゃあ、まだちょっと恥ずかしいけど、タオルやめようかな……」

 

「やっぱり、あなたはマスターと一緒が一番って事ね」

 

「うん。そうだよねマスター」

 

 そういうフレズにタケルは「うん」と返した。そしてそのバトルは他のFAGとマスターも触発させた。

 

「次は私とマスターの二人で戦いましょう!」

 

「いいなそれ!俺も君達のバトルを見ていたら火がついたよ!」

 

 轟雷と黄一はタケルとフレズのコンビに勝負を挑もうとするが……。

 

「あ!待って!ボクのマスター。結構無理しちゃったろうから今日の所は……」

 

 そう言ってフレズはタケルを見る。

 

「ちょっと……辛いんで……すいません……」

 

 気の抜けたタケルは少々辛そうだった。病弱の身な上、大急ぎでガンブレードランスを作り、バトルで指揮をしたのだ。常人よりその負担は強いのだろう。心配そうに駆け寄るフレズ。

 

「ちょっと!あなた達!勝ち誇る上にノロケはやめてほしいですわね!!」

 

 さっき倒したアーテルが納得しない風に食ってかかる。

 

「あなたは最初一人でやると言いましたわよ!それを結局マスターの力を借りて勝てた!こんな結果は認めませんわ!」

 

「アーテル……そうだね。ボクは一人じゃ負けていた」

 

 謙虚な反応にアーテルは肩すかしを食らう。

 

「あ、あら?案外素直ですのね」

 

「そして……ありがとう!」

 

「は?」

 

 そして全く予想してなかったフレズの礼にアーテルは面食らう。

 

「この一件がなかったらさ。ボクまだマスターとギクシャクしてたと思うからさ!やっぱりボク、マスターと一緒が一番楽しい!お前のおかげでそれが改めて解ったから!だから有難う!気づかせてくれて!」

 

 イヤミの無いフレズに、アーテルはそれ以上言う気にはならなかった。

 

「……フン。まぁ悪い気はしませんの。でも次こそは勝ちますの。精々マスターを大事にするんですのね」

 

 そう言ってアーテルは装備をエアバイクに変形、店を後にした。

 

「……ちょっとこれ以上は激しい運動は控えたいな。僕少し休むよ」

 

 そう言って室内に備え付けられた椅子に座るタケル。今日は少々体を動かし過ぎた。その上寝不足である。

 

「マスター、お爺さんに迎えに来てもらうね」

 

 こういう時は無理はさせられないとフレズは判断。自分にも責任があると、彼女は自分に出来る事をしようとした。

 

「うん……お願い……」

 

 フレズのそう言った想いを実感しながら、そう言ってタケルは目を閉じる。少しして、少年は眠りに落ちていく。

 

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 夢の中で、タケルはフレズと会った時の事を思い出していた。

 

「タケル。今日も一日中病室で閉じこもっていたのか……」

 

 病室、タケルのベッドの横に立った祖父が残念そうに言う。対するタケルはベッドから上半身を起こし、意にも介さずに携帯ゲーム機に没頭していた。祖父の顔は見ていない。

 

「別にいいでしょ。遊ぶ相手もいないんだし……。パパとママか、爺ちゃんかお年寄り位だよ。来るのは」

 

 その時のタケルの表情は虚無的、諦めてると言っていい様な覇気のない顔だった。

 

「そんなにゲームばっかりやっていたら、体はますます悪くなるばかりだぞ。もっと外の世界を見てみないか?」

 

「……外行ったって、何もないじゃないか。街の学校で友達が出来ても碌に来られない。この辺だって子供は全然いない。今オンラインで対戦してるんだから黙っててよ」

 

「タケル……」

 

「このゲームがね、僕にとっては外の世界なんだよ……」

 

 少年は、体の弱い自分を呪った。早く死ぬかもしれない自分を諦めていた。ゲームに没頭していた理由は『ゲームで記録を残せば、自分が生きてた記憶を残せるかもしれない』という理由もあった。……それから暫くして……

 

「タケル。お前に友達の代わりを連れて来たぞ」

 

「友達?誰だよ」

 

 そう言うと祖父はタケルに長方形の分厚い箱を渡した。開くと中に入っていたのはスクール水着を着た少女。FAGのフレズヴェルクだ。

 

「なんだこれ……美少女フィギュア?」

 

「……ん……ふぁぁ……」

 

 箱を開けたのを検知したのかフレズは起動、目の前のタケルを見るや、パァッと顔を輝かせる。

 

「わぁっ!お前がボクのマスターだね!ボクはフレズヴェルク!よろしく!」

 

「うわっ!人形が喋った!」

 

「最近流行りのフレームアームズ・ガールって奴だ。お年寄りよりは話をしていて楽しいはずだぞ」

 

「ガール?!男型ってなかったの!」

 

 なんでこんな女の姿をした人形と……そう思った故の発言だった。その質問にはフレズの方が応える。

 

「?ないよ。だってフレームアームズ・ガールだもん。それよりさ!バトルしようよ!フレームアームズ・ガール同士の!!」

 

 箱から出ると早速バトルの催促をするフレズ。FAGの事は全然知らないタケルにとっては理解が追い付かなかった。

 

「へ?バトル?」

 

 

「あーん!勝てないー!」

 

 タケルの横に座りながら、嘆いたフレズは目の前に置いたゲーム機のコントローラーに顔をつっぷした。

 

「お前ゴリ押しし過ぎ、技と高威力の動作に頼り過ぎなんだよ」

 

 初めてフレズがやったバトルはFAG同士のバトルではなく、タケルとのゲーム勝負だった。結果はフレズのボロ負け。

 

「いーじゃん。強いんだからー」

 

「当たんなきゃ、どうって事ないだろー。っていうかお前人工知能つんでるんだろ?もっと反応速度とか詰め方凄いと思ったんだけどな」

 

 これじゃヘタな奴と対戦してるのと変わらないな。とタケルは思う。

 

「いつの時代のAIだよー。ボクらが積んでるのはAS!ずっと高度で柔軟な人工自我だよ!」

 

「AS?」

 

 聞き慣れない単語にタケルはどう反応すべきか解らない。

 

「将棋やカードゲーム位しか出来ないあれと一緒にしないで!ニュースとか見てないの?!」

 

「興味ないよ。意味ないもん」

 

 

「マスター!今日は外で遊ぼうよ」

 

「嫌だよ。だるい」

 

 ゲームに集中しながらタケルは答える。

 

「そんな事言わないでさー。同じゲームばっかりやってても飽きるでしょー?」

 

「こうするのが好きなんだよ。放っておいてくれ」

 

「ダーメ!もう決めたの!早く着替えてよ!見せたいものがあるんだ!」

 

 そう言ってフレズは武装を装着するとタケルに早く着替える様に催促する。

 

「……ったく、しょうがないな」

 

 まぁ最近外へも出ていないからいいか。そう思いながらタケルはパジャマを脱ごうと手をかける。

 

「……フレズ、見てないで廊下で待ってろ」

 

 じっと見ているフレズにタケルは注意する。が、フレズは「なんで?」と意味を理解してなかった。

 

 

「マスター!見てよ!このトンボの大群!」

 

 外へ出ると飛びながらフレズは手を広げて周りを見せる。周囲はまだ黄色いアキアカネの大群が飛んでいた。

 

「うわぁ、こんなにトンボが……。あれ?今って秋だったっけ?」

 

 日付はゲームの表示で把握をしているつもりなのに、タケルは自分の感覚を疑った。病室にこもりがちなタケルにとって、季節はあまり意味がない。

 

「知らないの?赤トンボは夏は山に上がって秋になったらふもとに降りるんだよ」

 

「へー、お前詳しいんだな」

 

「マスターのお爺さんが来た時に聞いたの。バトルも出来ないからね。マスターと一緒にこの中を歩けたら楽しいだろうなって思ったんだー!」

 

「……僕なんかといたって楽しいとは思えないけどな」

 

「?そんな事ないよ?マスターゲームすっごいうまいじゃない」

 

「それは……」

 

 単に自分の為だ。そう言おうとするが、なんだか人に褒められたのも久しぶりだ。

 

「ねぇマスター!トンボってすっごい飛ぶの早いんだ。でもボクなら捕まえられる。見てて!」

 

 そう言ってフレズはトンボの大群の中に突っ込んでいく。タケルはそれを見ながら、自分を褒めてくれた少女を黙って見ていた。フレズが突っ込んでいくと進行方向のトンボは一目散に逃げていく。

 

「子供みたいに夢中になっちゃって……おいフレズ。余り遠くへ……ん?」

 

 と、タケルは辺り一面のトンボが一斉に逃げていくのが見えた。オンラインのチーム戦で慣れていたタケルはこういった変化によく気付く。

 

「なんだろう。フレズが捕まえに来た所為?いや……」

 

 と、上空の影にタケルは気づく。翼を広げた猛禽類が真上にいる。鷹だ。タケルは思った。「フレズが狙われる……!」と

 

「フレズ!戻れ!!」

 

「え?マスターなんで?っ!」

 

 直後「ピィーッ!」というホイッスルの様な鳴き声と共に、フレズより遥かに大きい猛禽類がフレズ目掛けて突っ込んでくる。鷹は反応の遅れたフレズを蹴り落とした。

 

「っ!わぁーっ!!」

 

 そのままアスファルトにフレズは落下、そのまま鷹はフレズの上に降り立とうとする。彼女を獲物と間違えてる。武器で対応しようとするが大きさのスケールが違う。「フレズを失うかもしれない」そう思ったタケルはとっさに身体が動いた。

 

「お前!来るなぁっ!!」

 

 傍に会った石を鷹に投げる。命中する筈はないが、近くを通り過ぎた石に鷹は一瞬怯む。そして普段からは想像もつかないような速さでタケルは落ちたフレズを守るべく、上に覆いかぶさる。

 

「っ?!マスター?!」

 

 絶対に守る。その想いでタケルの心は一杯だった。

 

「あっちへ行けよ!!僕の友達に手を出すなぁ!!!」

 

 普通だったら鷹の方は驚いて飛び去ったかもしれない。しかしその鷹は若い個体だったのだろうか。それともタケルを自分より弱いと本能的に察知したのだろうか、執拗にタケルを嘴でつつく。

 

「うぅっ!」

 

 それは庇われてるフレズ解っていた。このままではマスターも危険だ。何とかしなければ、と。

 

「マスター!身体を起こして!」

 

「っ何?!」

 

「いいから早く!」

 

 言われたとおりに身体を起こすタケル。鷹は驚いて飛び上がる。下にいたフレズはいつの間にかサイドワインダーに変形していた。鷹が飛び上がった瞬間に狙いをつけるフレズ、

 

「ボクのマスターに手を出すなぁっ!!」

 

 そう叫ぶと、最大出力でロケットの如く飛び上がるフレズ、その勢いは矢の如く鷹に真っ直ぐ突っ込んでいく。そして鷹の右眼にサイドワインダーの槍の部分は衝突。「ピィッ!」という鷹の悲鳴と共に、鷹は右眼から血を流しながら山の方に飛び去って行った。

 それをホバリングしながら見送るフレズ。

 

「フレズ!大丈夫!?」

 

 タケルは心配になってフレズに呼びかける。ふらっとフレズはゆっくり落ちてくる。それを両掌でタケルは受け止めた。

 

「マスター、こっちの台詞だよ。……ゴメンねマスター、ボクの所為で怪我を……」

 

 タケルの両掌の中で、フレズは自分の選択が間違っていたかもしれないと思った。

 

「気にするなよ。……友達なんだからさ」

 

「っ!うん!」

 

 友達と言ってくれたフレズは嬉しそうに頷いた。

 

「……今日の所は戻ろう。今度来るときは武器のレベルを害獣駆除用に上げておこう……」

 

 と、タケルの方も調子を崩してしまった様だ。さっき発揮したのはいわゆる火事場の馬鹿力。普段運動してない上に体の弱い少年がこうしたのだから、一気に負担と疲れが現れた。

 

「うぅ……」

 

 うまく立ち上がれないタケルにフレズは気遣うくらいしかできなかった。

 

「ゴメンね……マスター」

 

「いいんだよ……」

 

 最初のフレズとのお出かけはそんな結果だった。でもそれから、フレズと外に出る事が多くなった。それ以降、鷹に襲われることは無いが、警戒は怠らない。

 

「マスター!見てて!草笛だよ!ふーっ!ふーっ!」

 

 散歩中、歩幅を合わせながらエアバイクに乗ったフレズは草を口に当てて音を出そうとする。が、鳴らない。

 

「全然吹けてないじゃないか。こうやるんだよ」

 

 そういってタケルの方も草を口に当てて吹くも、彼の方もフレズ同様に音は出ず。

 

「もう!マスターだって音が出ないじゃん」

 

「あっれ?ゲームみたいにはうまくいかないな」

 

「ゲームから離れたらマスターもこんなもんだね」

 

「気にしてるんだから言わないでよ。お前に会う前に爺ちゃんから作り方教わったんだけどなぁ。また後で聞きに行こうかな」

 

「じゃあその時はボクも一緒に行くよ」

 

 そう言ってフレズとタケルの距離間はどんどん縮まって行った。そしてそれと同時に、タケルもまた、自覚の無い内に自分の殻を破っていく事が出来た。……そして今に至る。

 

-6ページ-

 

「ふー、今日は疲れたな」

 

 帰ってきて入浴を済ませたタケルは、病室のベッドに入りながら、今日の感想を一言で纏めた。もう時刻は完全に夜である。

 

「そう?ボクは楽しかったよ?」

 

「お前ね……元はと言えば誰の所為だと……でも僕も楽しかったよ。フレズ」

 

 と、もう休もうかと思ったが、枕元に置いていた昨日のVRが知らずにタケルの手に触れた。その際の「こんっ」という音に二人は気づく。

 

「あ……、あのさマスター、もう一回VRに入ろうよ……」

 

「……」

 

 昨日の事を思い出すタケル。少し期待してしまうが、フレズの心境を考えるとそれはいけないと気持ちを切り替えた。

 

「いいの?」

 

「ボク。マスターに今日のお礼がしたいの……」

 

 今まで見せた事の無い。恥じらいを含めた上目遣いの表情でフレズは言った。またフレズを傷つけないか心配だが、無下に断っても同じくフレズを傷つけるかもしれない。と判断するタケル。

 

「解った。入ろう」

 

 再びVRに入ると、昨日と、そして今日のバトルと同じステージに入る。昨日の様に素体状態のフレズが、両ひざをついたポーズで出迎える。昨日と違って憂いを帯びた表情だった。

 

「マスター……ボクの胸……揉んで良いよ」

 

 フレズは腕を組みながら、両胸を抱える様なポーズで言った。昨日と違うのは顔を赤らめ、タケルからそっぽを向いている事だ。その様子から、彼女がどんな気持ちなのかは解る。

 

「いいよフレズ。無理しなくても」

 

「ううん……して欲しいの」

 

「でも……」

 

「何度も言わせないでよ……ボク、マスターの事が大好きなんだから」

 

 大好き、昨日言ったのと同じ言葉なのに、今のフレズはその言葉に恥ずかしさを抱えていた。タケルを直視しながら言えない。その普段見せない少女の仕草に、何とも言えない愛おしさを感じるタケル。

 

――恥ずかしがるフレズ……なんだろう。ドキドキする……――

 

 正直言われたとおりにしたい。とはいえ、タケルの方はこのまま揉んだら昨日と同じ事になるんじゃないか。しかし拒絶するわけにはいかないと悩む。そして……

 

「出来ないよ」

 

「え?」

 

「お前が嫌がる姿なんて見たくない。僕だって……だから」

 

 恥ずかしい所為か、後半は小さい声でボソボソと喋るタケル。フレズはその部分が聞き取れなかった。

 

「え?もう一回言ってよ」

 

「いやだから……だって」

 

「え?だーかーら聞こえないって」

 

 催促するフレズにタケルは、フレズ以上に顔を赤くして叫んだ。

 

「っ!大好きなのは同じって言ったんだよ!お前の事、大好きなのは僕も変わらないの!」

 

「っ!マスター!!」

 

 その一言に大喜びだった。フレズはタケルに真正面から飛びつく。その勢いでバランスを崩したタケルは「うわっ」と叫びながらフレズごと転倒した。仰向けのタケルにフレズが跨る形になる。顔が近い。

と、フレズには思い出した事があった。ショック療法。キスの事だ。

 

「……マスター、これだったら大丈夫だと思う。ボクとキスして」

 

「っ?!おまえ何っんん!」

 

 タケルが反論しようとするも、フレズはお構いなしに少年の口を、自分の唇で塞いだ。お互いの唇が密着。タケルは瑞々しいフレズの唇を、人間と遜色ない初めての弾力を直に感じる。フレズの方も同様の感想だった。ソフトキスの範疇で、少ししてお互いの唇が離れる。

 

「……ハァ……」

 

――マスターの唇……不思議な感触……――

 

 吐息を吐きながら、確かに胸を揉まれるのとは違う感覚と考えるフレズ、もう一回しようかな……。そんな風に考えていると。

 

「フレズ……もう一回」

 

 タケルの方から言い出した。昨日の様な雰囲気を出す表情だ。また怖い想いをするかもしれないとフレズは不安になる……が、

 

「いいよ。マスター……来て」

 

 受け入れた。もう一回したいという気持ちがあったからだろうか。

 

「フレズが……悪いんだからな」

 

 そして再び唇を合わせる。……ふと昔、フレズは見ていた映画のキスシーンでタケルが赤くなっているのを思い出した。お互いが舌を絡めたディープキスのシーンだった。

 

――あれ、やってみようかな……――

 

 好奇心でそう思った。フレズはタケルの口に……舌を入れる。

 

「……ぁ」

 

 入ってきた暖かい舌に、タケルは目を白黒させる。暖かさと唾液にまみれたフレズの舌。……それが引き金だった。昨日からの悶々とした物を、まだ発散する術の無いタケルにとっては我慢の限界。タケルの方も、フレズの舌に自分の舌を絡ませた。

 

「ぁっ……んっ……」

 

 やはり恥ずかしさもあったが、その気になってくれた事に嬉しさを感じるフレズ、舌に一層力を込めて主の舌に絡めて行く。自分の唾液が主の唾液と混ざり合い。『くちゅくちゅ……』と卑猥な水音を立てていく。

 

『ハァ……ハァ……』

 

 それに伴いお互いの息も荒くなっていく。タケルは必死だった。昨日と同じ貪り食らう様な行為。タケルが止められない事をフレズは知らなかった。箍の外れた主人は舌の先端を尖らせ、フレズの舌の側面に這わせていく。フレズも同じ。出し入れを続ければ続けるほどに、粘度の増す唾液は舌同士を更に密着させた。

 

――……昨日と同じ、怖いよマスター、怖いのに……――

 

 正直、さっきのキスの方が良かったかもしれないとフレズは思う。ディープキス、これはあまりにも生々しい、少し気持ち悪さもあった。恐怖と恥辱、しかしそういったネガティブな気持ちだけではなかった……それは、

 

――なんでこんなに幸せなの……?――

 

 幸福感で一杯だった。大好きな人、信頼してる人とこんなに密着している。頭が、ASがとろけていく様な感覚。それがフレズを夢中にさせた。……暫くして唇が離れる。お互いの唇を糸が引いた。

 

「ふやぁ……」

 

 フレズの顔つきがとろんとした表情になっていた。慣れない酒に酔っぱらってしまったかの様だった。対するタケルは……徐々に顔が青ざめていく、

 

――……やばい……―ー

 

 自分で自分のした行動に信じられなかった。若気の至り、据え膳くわぬは男の恥、言い訳はいくらでもあるが不埒は不埒。

 

「マスター……」

 

 フレズからの呼びかけにタケルはビクッとなる。嫌われる。間違いなく嫌われる。なんでこんな事したか自分でも信じられない、と、しかしフレズからの言葉は意外な、そして嬉しい物だった。

 

「マスター……もっとぉ……しよぉ?」

 

 熱に浮かされた様に囁くフレズ、その一言でタケルの理性は崩壊。フレズを押し倒していく。フレズの方は完全にされるがままになっていた。いつもは快活で自分を引っ張っていた少女が、今は病弱な自分に服従を誓う犬の様だった。

 

――自分だけの物にしたい。独占したい……フレズを……一人占めしたい――

 

 少年にそんな欲が湧き上がる。それはタケルが少女の様な外見を持ってしても、男、雄である事の証明だった。

 

「変なの……恥ずかしいのに……怖いのに……幸せなのぉ……」

 

――

 

「ねぇマスター……綺麗だね。星空」

 

 キスの後、二人は手をつなぎ寝ころびながら空を見上げていた。夜の設定である今は満天の星空だ。

 

「……あ、うん……」

 

 力なく答えるタケル。終わってみると……もの凄く気まずい。それはフレズの方にも伝わったようだ。

 

「もう、もっと何かムードある事言ってよ。……ボクだって恥ずかしいんだからさ……」

 

 フレズの方も赤面しながら言った。タケルは思う。

 

――満天の星空、病院のベッドじゃ絶対見れないな……。でもこれは仮想空間、結局ベッドの上である事には変わりないな。と……病院のベッドの上……。ん?ベッドの上?――

 

「……ね、ねぇフレズ、結局僕ら病院のベッドの上にいるわけだから、今のリアルの僕らどうなってんだろう……」

 

「もう、マスターったら、今のVRは意識が落ちるから、外のマスターは眠ってるのと変わりないよ。催眠みたいなもんだよ」

 

 タケルの言わんとしてる事がフレズには理解できていた様だ。その言葉に安堵するタケル。それと同時に、本物の星空をフレズと見たい。そんな風にタケルは思う。

 

「そうか……ねぇフレズ。僕、絶対に自分の身体を直す」

 

 タケルは、隣で手をつなぐフレズに決意した表情で言った。

 

「そしてさ。いつかこれと同じ島で、二人で本物の星空を見ようよ」

 

「マスター……うん!」

 

 と言った時に「あ」と声をあげるフレズ。

 

「でもさマスター。その時はボクのサイズじゃ同じにはなれないね」

 

「あ、そうか」とタケル。と同時にある事が思いつく。

 

「じゃあこうする!」

 

――

 

 そして翌日

 

「タケル。学校の作文か?」

 

 見舞いに来た祖父がタケルを見ながら聞いた。タケルはいつもの様にベッドから上半身を起こし、ベッドサイドテーブルの上の原稿用紙に書き込みながら答えた。フレズの方は充電君で眠っている。

 

「爺ちゃん。まぁね。ようやく何を書けばいいのか決まったからさ」

 

「テーマは確か……将来の夢だっけか」

 

「うん。僕の将来の夢はね……」

 

『 将来の夢 華山健(タケル) 僕の将来の夢はたくさん勉強をして、ファクトリーアドバンス社に入社、今普及してる人形サイズのロボットから、等身大サイズのロボットの開発に携わる事です。人間とロボットの関係が今よりもずっと近い距離で、いつまでも仲良く暮らせる未来。夢と同時に、それが僕の来てほしい未来でもあります。

 

だから僕は、生きたい。

 

-7ページ-

 

 正直やりすぎたかも……。

 少年でも男を見せないといけないと思いこうなりました。……いけない。タケルとヒカルで名前の字面がちょっと被った。今後は漢字表記で区別つけるかな。次に恋愛関係キャラ作るなら、もうちょっと関係に変化をつけたいですね。

 

※モデルのレベル3で挿絵を改めて投稿しました。

説明
ep7『タケルと量産型フレズヴェルク』(後編)
エロを書けるようになりたい。その結果やった事ないシチュエーション書いたので時間かかりました。今回のキスが性行に含まれるなら、すぐに変更します。
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コメント
mokiti1976-2010さん 有難う御座います。ただ、挿絵の方は非表示になっていたのでやらかしたみたいですwとりあえず越えちゃいけないラインはある程度把握したので切り替えていくかな。表示されなかった挿絵はR15で改めて投稿しました。(コマネチ)
この位のエロなら大丈夫だと思いますけどね。もっと過激なのを過去に見た事はありますし…。遠い未来であってもタケル君の夢が叶う日が来ると良いですね。(mokiti1976-2010)
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