「改訂版」真・恋姫無双 〜新外史伝〜 第40話 |
官軍の皇甫嵩と盧植の二人は潼関で一刀たちの侵攻を防ぐべく出陣したが、その官軍の兵の士気や練度はお世辞にも高いとは言えない状況であった。
そして指揮官の二人も一刀と劉協が結託して兵を挙げたことに困惑しており、増しては劉協と劉弁の姉妹が戦で争うなど漢の臣としては到底見過ごすことが出来ないことであり、何としても流血を回避したい気持ちを持っていた。
しかしこのままでは戦いが避けられない状態であり、この戦いに負ければ漢の滅亡が現実味を帯びてくるが、そんな中どうしても二人が腑に落ちないのが白湯の存在である。
そして偵察に出た兵の話によると長安に入城した一刀の軍勢の中に白湯が同行していた事が判明したが二人はそれを聞いた時は驚きを隠せなかった。何故なら白湯は皇位に就く野心が無いことを白湯が洛陽に居た時から知っていたから、今回の行動は白湯の意志が含まれているのか若しくは一刀が白湯を利用しているのか判断が付かなかった。
二人が色々考えているうちに潼関に到着したが、幸いにもまだ維新軍は急激に拡大した占領地の慰撫に努めていたため、まだ軍勢は長安から出陣はされていなかったがこれも時間の問題であったが、まずは二人は潼関の守りに集中するのであった。
一方順調に長安まで占領した一刀たちであるが流石にこれ以上急激な領地拡大は更に戦いを続けていく上では不安となるので一旦軍勢の再編と治安慰撫のため軍勢を休止させた。
涼州での一刀の善政は風の噂や行商人の口コミ等で評判になっていたため、漢の圧政に苦しめられていた殆どの地域は一刀に協力的であったので治安回復にはそれほど時間が掛からず、官軍が潼関に到着した頃には部隊編成も終了しており再出陣が可能な態勢になっていた。
そして一刀たちは出陣前に偵察させた兵の報告により潼関は既に官軍に押さえられていることが分かっていた。
「やっぱり潼関は向こうが押さえていたか…」
渋い表情を悔しがるのは翠であった。
順調に長安まで進軍できたので翠は一気に潼関や函谷関を狙うことを一刀たちに具申したが性急な進軍は危険だとして皆から反対を受けて断念していたからだ。
そんな翠を置いて、真里は説明を進め
「それで潼関にいるのは漢の名将でもある皇甫嵩と盧植の両名よ」
「あの二人が来たか…これは厄介だな」
苦虫を食い潰したよう表情をしたのは碧であった。
「あの二人は個人的な武勇は無いが手堅い用兵で失敗は少ない。ここで時間が取られる董卓軍の援軍も来るかもしれん。どうする」
「潼関に居るのが皇甫嵩と盧植なのか、間違いないかそれは」
「ええ、白湯様。それは間違いありません」
「そうか……一刀、お願いあるのじゃ」
「何?白湯」
「わらわが潼関にいる楼杏と風鈴に降伏するように説得したいもん」
白湯の突然、皇甫嵩と盧植の真名を出して降伏交渉に行きたいと言い出す。
「そんなの危険だよ、白湯!!」
「そうだよ、説得に行くなら私が行くよ!!」
璃々や蒼たちは白湯の説得に反対の声を上げるが、
「いや、わらわは行く。皆が何進や何太后を恐れて誰もわらわに近付こうとしなかった中、わらわに親しく話し掛けてくれた数少ない者のじゃ。そんな二人を死なせたくなのじゃ」
そんな反対を他所に
「ふむ……やる価値はありそうだな」
白湯の説得に賛成の声を上げたのは碧であった。
「母様、何で賛成するんだよ!」
翠は反論するが、碧は翠たちを宥める様に賛成の理由を口にする。
「翠、まあ聞きな。私はあの二人は性格は知っているが、私と違い温厚な性格だ。仮に白湯様が使者に行ったとしても手荒な事はしないだろう。勿論護衛としてこの私が一緒に付いていくがな。それにだ、白湯様の説得だけじゃあの二人も勿論首を縦に振らないだろう。だから劉宏様のあの書状を二人に見せて降伏させる」
「ええ!?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ母様。それどういうことだよ!?」
翠は訳が分からないという表情をしているが、一緒に聞いていた真里は
「成程、それは面白いかもしれませんね。書状を見せて降伏すればそれで良し、もし降伏を拒めば劉宏様の意志に背く不忠者として相手を混乱させることができますね」
真里の説明である程度理解されたが、まだ白湯の身に何かあればという心配する者もいたので
「では私も同行しましょう」
使者に名乗り上げたのは紫苑であった。
「それに降伏するにはご主人様の書状も必要、正使には白湯ちゃん、副使兼護衛に私、護衛に碧さんで行けば問題ないでしょう」
紫苑の言う通りであった。確かに紫苑は一刀の名代としても適役で白湯の護衛としても全く問題は無いからだ。
「白湯…どうしても行きたい?」
「うん!わらわだけじゃ不安だが紫苑と碧が付いて来てくれるなら安心なのじゃ!!それに…亡き父上は自分は民の為に何も出来なくて悔やんでいた。わらわは父上のような後悔はしたくは無い。だから楼杏と風鈴を助けたいもん!」
白湯の強い意志を聞いて璃々や翠たちはこれ以上の反論は出来なかった。
だが当然ながら軍事行動を止める訳では無いため、紫苑たちがが出発した後一刀たちは軍勢を引き連れて長安を出陣することが決まった。
先行した紫苑たちは潼関付近まで着くと碧からある提案を受ける。それは戦への士気が低い潼関の兵を震撼させるため常人では届かない場所から紫苑が矢文にて交渉を望む旨の書状を打ちこんでみてはどうかという提案であった。
「それは面白いのじゃ。紫苑の射るところを見たい!」
白湯も賛成し紫苑も弓の名手をしてこの提案を断ることを考えていなかったので
「受けて立ちましょう。碧さん、この賭け私が勝てば…そうね私の酒代1週間分、貴女の奢りでどうかしら」
「良かろう、その賭け乗った!」
碧との賭けが成立すると紫苑は、微笑浮かべながら書状を矢に括りその矢をつがえて弓を引き絞る。すると紫苑が放つ気に押されてか碧や白湯は勿論、追随の兵たちも黙り込み、周りは静まり返り紫苑を見続ける。
そんな周りの状況など一顧だにもせず紫苑が放った矢は、綺麗な放物線を描いて潼関内に飛び込んでいった。
己の矢が放った軌跡を見届けると紫苑は安心した様に大きく息を吐き出す。そんな紫苑に対して碧が紫苑の肩に手を掛けながら
「流石は『今李広』と呼ばれるだけはあるな」
「碧さん。賭けは私の勝ちですね」
一見すると何でも無い様に話す紫苑と碧の周りでは、初めて紫苑のこれだけの距離を遠射するところを見た白湯達が呆気に取られていた。
後日、紫苑は碧の奢りで1週間飲み続けた事で二日酔いが続き、一刀と璃々から説教を受けたのは別の話である。
因み紫苑が撃ち込んだ矢文は潼関の壁に確りと刺さっていたので、そこに結びつけられた矢文を読んだ兵は、慌てて皇甫嵩のところへ駈け込んだのは勿論、敵には『今李広』と呼ばれている紫苑がいると察知した兵たちは、この事を聞いてますます士気が低下したのであった。
皇甫嵩らは書状を見るも降伏する意思は無かったが、使者に抗戦の決意を告げるつもりでいたので面会については承諾し、使者が来たら自分のところまで連れてくる様、兵に指示した。
紫苑たちが潼関に到着すると早速皇甫嵩のところまで案内される。
皇甫嵩らは使者に来た人物を見て驚きを隠せなかった。
「白湯様!どうしてこのような場所に!?」
「碧!何故白湯様を連れて来たの!?」
皇甫嵩と盧植の二人は使者の中に白湯が居たことに驚きを隠せず、自然と白湯と碧に対して攻める口調になる。
皇甫嵩は言葉を続け
「白湯様……亡き陛下は何太后様から白湯様を引き離す為に涼州に送り、そこで健やかに過される事を望んでいたはず、何故このような行為に……碧…貴女、何も知らない白湯を言葉巧みに操ってこの反乱に加えたんじゃ…」
「ちょっとそれは白湯ちゃんや碧さんに対し失礼な発言でしょう」
皇甫嵩の言葉を遮ったのは紫苑であった。
皇甫嵩は以前黄巾党の乱の際に面識があるので紫苑の言葉を聞いて罰の悪そうな表情を浮かべたが、紫苑と初対面の盧植は発言したのが紫苑と察知して
「失礼ですが…北郷紫苑様とお見受けします。失礼な発言と言っても貴女たちが漢に対して反乱を起こしたのは事実。私たちは漢の将であり、幾ら白湯様のお言葉とは言え降伏する訳には行きません。このままお引き取りを」
皇甫嵩と盧植は漢の将として降伏を拒むがそんな二人を碧は
「国の為に忠義を尽くすか…その決意は見事だが、二人に聞きたい。今の陛下は正式に亡き陛下様から譲位されたか?」
碧からこの言葉を聞くと二人は無言になる。
「やはりな。劉宏様が亡くなられて張譲や何進たちが劉弁様を無理やり皇位に就けたという話を聞いたからな」
「……確かに貴女が言うとおり劉宏様は遺言を残してないわ。だけど遺言を残していない以上、長子相続が世の習いよ。碧、貴女もそれは分かっているでしょう。だから周りは白湯様が自分が皇位に就きたいが為に反乱を起こしたと思うわ」
皇甫嵩が一刀たちの反乱は白湯の皇位簒奪が狙いで正当性が無いと反論するが紫苑が
「嘘はいけませんわ、皇甫嵩様、盧植様。劉宏様はある言葉を残されていたはず、確か…
『朕の遺命を記した書状を持った者が現れたら帝位をその者に譲位。若しくはその者の好きにさせよ』だったかしら」
「「…………」」
これを聞いた二人は顔色を変え迂闊な発言をすれば不味いと思い無言になるが、そんな二人に紫苑は更に畳み掛ける。
「無言は事実と言っていいかしら」
「……我ら残念ながら陛下の遺言に立ち会う身分では無いのでそれが事実かどうか分かりませんわ」
確かに二人は碧に劉宏崩御の知らせを送ったが書状には崩御したことと劉弁が即位したことしか記載しておらず、二人は劉宏の遺言の場自体には立ち会っていない為、劉弁即位後に先の話を噂として聞いているが誰も名乗り出る者が居なかったので遺言状が無い物と思っていたので、遺言状について紫苑が知っていることに驚いた。
そして盧植は話について真実かどうか判明しないということで話をはぐらかそうとするがその言葉は先程より迫力が無くなっている。
「そうですか…ではこれをお読み下さい」
紫苑は二人の前にある書状を差し出す(書状は破られないように巻物にしています)
二人は巻物を広げ書状を読み出すと
「こ、これは…」
「何故このような書状がここに……」
二人が書状を読み終えると愕然とする。二人が読んだ書状は亡き劉宏が一刀に託した遺言状であった。
「さて…楼杏(皇甫嵩の真名)に風鈴(盧植の真名)、これが偽物と言う議論は無しだ。ましては二人も劉宏様の書状を見たことがあるはずだ。これが本物かどうかは分かるな」
碧に言われるまでも無く二人は一刀に託された遺言状が本物だということ分かっていたが、衝撃的なことなので言葉が出ない状態であった。
しばらく沈黙の後、皇甫嵩が漸く言葉を振り絞り
「……陛下や董卓殿、それにこの国をどうするつもり」
「別に劉弁様の命が欲しい訳ではありません。ただけじめとして退位して頂く必要はあります。それは董卓殿についても同様です。これは『天の御遣い』として保証します。そして『新しい酒は新しい革袋に盛れ』と言えば分かるでしょう」
紫苑は劉弁や董卓の命を保証することを説明すると同時にある諺を引用して漢を滅ぼすという暗に告げる。
「頼む……楼杏、風鈴。亡き父上やわらわの願いを聞いて一刀たちに降伏してくれぬか」
「亡き陛下の願いですか…それは如何なるものか聞かせてくれますか」
「勿論じゃ」
白湯は一刀のところに行く前に劉宏との最期の会話の内容について二人に話した。漢という国が滅びても惜しくは無いが民の事を思うと死んでも死に切れぬ事と一刀たちが民の事を思う人物であれば遺言状を渡す事を包み隠さず話した。
「陛下がそのような事を考えていたとは……」
「私たちにもう少し力があれば……」
二人は白湯の話を聞いて劉宏の心情を理解出来なかった事を悔やんだ。
「二人とも自分を責めるのでは無い。父上も自暴自棄になったのは自分の心が弱かったと言っていた。だから気にしなくても良い。それよりも姉上やわらわを漢の呪縛から解放して欲しいのじゃ」
「…呪縛ですか?」
「それはどういう意味ですか?」
「父上は姉上やわらわは漢を継ぐ器では無いと言っていた。このままでは何れ漢は滅びるとな。幸いわらわ一刀のところに嫁いだお陰で魔の巣窟から逃げることが出来たが、だが姉上は世間の事を何一つ知らず権力者の道具となっておる。このままじゃ一生父上同様の運命を辿ってしまう。幾ら異姉とはいえ見ておれぬのじゃ。頼む、二人の力を貸して欲しいのじゃ」
白湯は皇甫嵩と盧植に頭を下げる。
これには紫苑や碧は勿論二人も驚き
「白湯様、どうか頭を上げて下さい!」
「私たちに頭を下げないでください!!」
「いや、今のわらわには頭を下げるしか出来ぬ。だから頼む、降伏してくれぬか」
「まずは白湯様、頭を上げて下さい。これでは話が出来ません」
皇甫嵩から言われると漸く白湯は頭を上げる。すると皇甫嵩と盧植はお互いに目を見合わせ紫苑に
「貴方たちが民の為に尽くすという言葉は維新軍を率いた時から聞いているわ。その言葉間違いは無いでしょうね」
「ええ、私たちはご主人様と共に貫き通すつもりですわ。例え神が相手でも私たちはご主人様と共に戦い抜きます」
紫苑の話を聞いて自分たちとは器の違いを感じ皇甫嵩と盧植は降伏を決断したのであった。
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久しぶりの投稿です。 今回は内容的には少々端折った感があるかもしれませんが、今回は若干話が長いです。 では第40話どうぞ。 |
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コメント | ||
今、久しぶりに読み返してるけど、紫苑が言った「新しき酒は新しき革袋に盛れ」って、聖書のマタイ伝にある言葉じゃないのw(緋縅力弥) 義理の娘とやってろよ変態クソ野郎が(鼻癒える) 陸奥守さん>それについては作者の力量不足ということで…(殴って退場) 皇甫嵩と盧植は民の為とはいえ漢を滅ぼす勢力に降伏するんだから、もう少し葛藤とかあって欲しかったかな。(陸奥守) mokiti1976-2010さん>この二人だからこそ信頼できて白湯も安心して説得に行けたということで。これを聞いて動揺する者は多数いるでしょうね…(殴って退場) 未奈兎さん>劉宏の想いは何とか繋げられたかと。後は姉にこの想いが届けば良いが…(殴って退場) 皇甫嵩と盧植だからこそ、白湯の存在と遺言状が功を奏したといった所ですかね。しかし、これで劉弁の疑心がますます高まりそうな気が…袁紹は袁紹で焦りが増しそうな気もします。(mokiti1976-2010) 老いた大樹に腐りが蝕む中大樹はたった一つの実を成った、そしてその実は腐り落ちる前に受け取られた、器じゃないとしても白湯は確かに民を思う皇帝だな(未奈兎) |
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