英雄伝説〜灰の軌跡〜 閃V篇
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同日、深夜――――

 

 

リィン達が演習地から去ったその日の夜、リアンヌと共に鉄機達の取り調べを行ったリウイは取り調べを終えた後リアンヌと共にテラスに出て夜景を見つめていた。

 

〜メンフィル帝国領クロイツェン州・バリアハート・臨時統括領主城館〜

 

「―――これでようやく”アリアンロード”としてのやり残していた事を終える事ができたか?」

 

「はい。―――ですが、”リアンヌ”としてやり残した事はまだ残っていますが…………」

 

「何?それは一体どういう―――!!」

リアンヌの答えに眉を顰めたリウイだったが何かの気配に気づくと自身の得物である紅き魔剣―――”エドラム”に手をかけて警戒の表情で周囲を見回し始めた。

「ふふっ、魔術で完全に気配を断っていたはずの妾の気配に気づくとはさすがは異世界の”英雄王”と言った所かの。」

するとサザ―ラントやブリオニア島でリィンの前に現れた金髪の少女が転移魔術でリウイ達の前に現れた!

「―――何者だ。」

 

「お初にお目にかかる、ゼムリアの”理”の外の英雄王よ。魔女の眷属(ヘクセンブリード)が長、”緋(あか)”のローゼリア・ミルスティンじゃ。2年前の内戦では放蕩娘(ヴィータ)が”灰”の小僧の件で内戦とは無関係だった其方の国にまで迷惑をかけた挙句、孫まで世話になってしまい、すまなかったの。」

 

「孫……ミルスティン……魔女の眷属(ヘクセンブリード)…………―――旧Z組のエマ・ミルスティンの親族か。」

少女―――ローゼリアが名乗るとリウイは記憶の中にあるZ組に関する資料からエマを思い浮かべながらローゼリアを見つめた。

 

 

「…………20年ぶりですか。私が知る記憶と比べると随分と可愛いらしい姿になりましたね―――ローゼリア殿。」

 

「”眷属”を分けたのでな。ま、片方は散ってしまったが。ロリぃなのも悪くないじゃろ?」

リアンヌの問いかけに答えて一瞬だけ寂しげな笑みを浮かべたローゼリアは自慢げに自身の髪をかきあげた。

「ええ、元の貴女も素敵でしたがその姿も愛らしくて良いかと。ドライケルス殿が見れば何と仰るかちょっと気になりますけど。」

 

「ハン、あの朴念仁のことじゃ。気の利いたことは言わんかったじゃろ。―――単刀直入に問おう。お主、”何があった?”ドライケルスや妾への呼び方もそうじゃが、あれ程ドライケルス一筋であり、何を考えていたかは知らぬが”盟主”とやらに忠誠を誓って結社に入ったはずのヌシがその”盟主”をそこの異世界の”英雄王”達と共に抹殺し、結社を抜けて異世界の国たる”メンフィル”という国に所属した事も含めて、今までのヌシとは考えられない行動じゃぞ。」

リアンヌの言葉に鼻を鳴らして答えたローゼリアは目を細めてリアンヌを見つめて問いかけた。

「…………そうですね。ちょうどいい機会ですし、”私”の事をお話し致します―――」

そしてリアンヌは自身がリアンヌ・サンドロッドではなく、シルフィア・ルーハンスの転生者であることやその経緯を説明した。

 

 

「なん………じゃと……………それではリアンヌは…………既に逝ってしまったというのか……………!?」

 

「―――私(シルフィア)彼女(リアンヌ)が一つとなった事でリアンヌとしての記憶―――貴女(ロゼ)に関する記憶も勿論私にはありますが、自我は私(シルフィア)であることを考えるとそう捉えてもらって構わないと思います。」

リアンヌの事情を聞いて愕然とした様子のローゼリアにリアンヌは静かな表情で答えた。

「……………………ッ!!シルフィアと言ったか……………………あの馬鹿者は…………リアンヌは自分にヌシの魂が宿った事を自覚してなお、ヌシと一つになったのか…………?」

リアンヌの答えを聞いて唇をかみしめて顔を俯かせて一筋の涙を流したローゼリアは顔を上げてリアンヌを真剣な表情で見つめて問いかけた。

「ええ、信じられない事に彼女(リアンヌ)は自分自身に起こった異変―――異なる魂である私(シルフィア)の存在に気づき、自ら心の深層に潜って私と対峙し、私に後の事を託して私の魂と一体化しました。」

 

「エステルやプリネと違って自分自身で自分に宿った魂(シルフィア)の存在に気づいた挙句、自力で心の深層に潜るとは、信じられない程の傑物のようだったな、”槍の聖女”とやらは…………」

 

「…………何故じゃ。何故あやつはヌシに後の事を託して逝くことができたのじゃ………!?」

リアンヌの説明を聞いたリウイが驚いている中ローゼリアは悲痛そうな表情でリアンヌに問いかけた。

「…………私(シルフィア)の方が彼女(リアンヌ)よりも生への渇望があり、そして私(シルフィア)が紡いでいた”絆”であるリウイ陛下達の方が、”全ての元凶”を滅ぼせる確率が遥かに高かったからです。」

 

「”全ての元凶”じゃと……………………?よもや、エレボニア帝国に巣くう”呪い”の事を言っておるのか?」

 

「ええ、今ここで教えましょう。彼女(リアンヌ)が何を見て、何を決意したのかを―――」

そしてリアンヌはローゼリアに”槍の聖女”リアンヌ・サンドロッドがしか知らなかった事実を教えた。

 

 

「馬鹿者が―――なぜそれを言わんのじゃ!!どうしてじゃ―――リアンヌ!?どうして妾に少しでも相談してくれなかった…………!?ヌシも、ドライケルスも…………!呪いとなればまず魔女(わらわ)じゃろうが……………!?」

全てを聞き終えたローゼリアは声を上げて悲しそうな表情でリアンヌを見つめて問いかけた。

「―――彼は言っていました。『これはあくまで人の業なのだ。平穏を取り戻した人の世ですらロゼに泣きつくようでは”他の至宝”の二の舞、三の舞。生涯を終えようとする老いぼれがあまりに格好がつかぬだろう?』」

 

「………っ……………!!」

 

「クロスベルの至宝―――幻の至宝(デミウルゴス)か…………」

リアンヌを通しての今は亡き友の言葉を聞いたローゼリアは息を呑み、心当たりがあるリウイは重々しい口調で呟いた。

「―――”私”にとっても、これはただの個人的な”意地”でしかありません。大切な友人(あなた)に、そんなものを背負わせるわけにはいかないでしょう?」

 

「……………………ッ…………揃いも揃って……………………水臭くて、救いようのない阿呆どもが……………………いや…………一番の阿呆はそれに気づけもせなんだ妾か…………」

リアンヌ・サンドロッドの自分への心遣いを知ったローゼリアは寂しげな笑みを浮かべた。

「……………………それで、リアンヌはヌシに賭けた方が”元凶”を滅ぼせる確率が遥かに高いと言ったが、本当にアテはあるのか?」

 

「ええ、それは――――――」

そしてリアンヌはリウイと共にローゼリアに今後の事を伝え始めた。

 

 

〜同時刻・帝都近郊・ヒンメル霊園〜

 

一方その頃アンゼリカはバイクで一人、帝都近郊にある霊園の中のある墓に訪れていた。

 

クロウ・アームブラスト

 S1184〜S1204

 

「一年ぶりか…………」

クロウの墓を見つめて呟いたアンゼリカは寂しげな笑みを浮かべた後持ってきたシャベルを支えに立ち上がった。

「フフ…………違っていたら煉獄行きは確実だろうね。」

そしてアンゼリカは何と墓の下を掘り返し始めた!

「…………っ…………!やっぱりか。…………”土の匂いしかしない。”」

墓の下を掘り返したアンゼリカはクロウの遺体を見つめて呟いた後遺体に近づいて遺体の状態を確かめた。

「…………屍ではなく、ましてや仮死状態でもない。骨格や関節までも再現した精巧な”ダミー”というわけか。」

 

「―――気づいちゃったんだね?」

アンゼリカがクロウの遺体を調べていると突如青年がアンゼリカに声をかけた。

「!!…………ああ。あの時、あいつの葬儀を手配してくれたのは君だった。”蒼の騎神”を軍に引き渡した時も技術者として同行していた。そして大陸各地の工房巡りの最後にコネを利用してメンフィル帝国領となった旧共和国領のヴェルヌ社とハミルトン博士を訊ねたそうだが―――…………既に博士は旧共和国領から離れていて、君の訪問記録がない事もわかっている。」

自分にとって馴染み深い声を聞いて目を見開いたアンゼリカは青年に背を向けたまま呟いた。

「そういえば、君のお師匠様は旧”中央情報省(カルバードCID)”の室長だったか。迂闊だったな…………まさか直接、確認されるなんて。」

 

「この3ヵ月、何をしていたんだ、ジョルジュ・ノーム―――!?」

青年が溜息を吐いた様子で呟くとアンゼリカは立ち上がると共にすぐに振り向いて青年―――ジョルジュを睨んで叫んだ。

「……………………」

睨まれたジョルジュは何も答えず、冷徹な視線でアンゼリカを見つめ

「あ、貴方は…………!?」

更にジョルジュの背後にいた黒衣の男に気づいたアンゼリカは信じられない表情をした。

「フフ…………そうか。”この顔”に見覚えがあるのか。”確かに何度か顔を合せた事が”あったかもしれないね。―――始末しなさい、”ゲオルグ”。彼女は知りすぎてしまった。」

アンゼリカの反応に口元に笑みを浮かべて呟いた男はアンゼリカに背を向けてジョルジュ―――ゲオルグに指示をし、指示をされたゲオルグは手に持っていた銃をアンゼリカに向けた!

「ジョルジュ、君は―――」

ゲオルグの行動にアンゼリカが驚き、ゲオルグが無言でアンゼリカに発砲したその時、突如どこからか矢が飛んできて発砲した瞬間に飛び出した弾丸を破壊すると共にゲオルグが持つ銃を弾き飛ばした!

 

 

「ぐ…………っ…………一体何が…………?”矢”…………?」

 

「フーン…………話には聞いていたけど、本当にお前が”裏切り者”だったとはね。―――いや、”最初から敵”?ま、エヴリーヌ達の敵になった以上どっちでもいいけどね。」

銃を弾き飛ばされた衝撃を受けたゲオルグは呻いた後自分の近くに刺さっている矢に気づきて眉を顰めると、何とエヴリーヌが転移魔術でカーリアンと共にアンゼリカの傍に現れて冷徹な目でゲオルグを睨んでいた。

「エヴリーヌ君!?それにカーリアン様まで…………!?」

 

「は〜い、ラクウェルや要塞の時といい、貴女とは縁があるみたいね〜♪」

突如現れた乱入者である自分達に驚いているアンゼリカにウインクをしたカーリアンはエヴリーヌと共にゲオルグ達と対峙した。

「一人は特務部隊の”魔弓将”とやらか。…………もう一人の女は何者だ?」

 

「…………英雄王の側妃にして”空の覇者”と並ぶ英雄王に次ぐメンフィル帝国の実力者の一人―――”戦妃”カーリアンだ。まさか二人までここに来て、僕達の様子をどこかで見ていたとはね…………それにその口ぶりだと、アン以外にも僕の事を疑っていた人物がいたみたいだね?一体誰だい?」

 

「バカじゃないの?何でエヴリーヌ達の”敵”になったお前にわざわざエヴリーヌ達が何かを教えてやるなんて、ありえないでしょ。」

 

「短い間だったとはいえ、かつての仲間を躊躇なく”敵”扱いできるなんて随分と非情な性格だね…………―――まあ、そこまで割り切ってくれたらこちらとしてもやりやすいけど。」

自分の質問に対してにべもなく断って武器を構えたエヴリーヌに対して淡々とした様子で答えたゲオルグは背後に赤銅の戦術殻を現した!

「――――――」

 

「その赤銅の戦術殻はまさかミリアム君やアルティナ君のと同じ…………!?」

 

「”ナグルファル”―――それが僕の戦術殻の名前さ。性能も二人のと比べると若干上さ。―――最も、”彼”が扱う戦術殻と比べれば、どれも比較対象にならないだろうけどね。」

 

「フフ…………死者の眠る庭園で騒ぐような悪趣味は持っていないのだがね…………彼女同様知りすぎった上、忌々しき”イレギュラー”の一味である君達も始末する必要があるからね。」

突如現れた赤銅の戦術殻―――ナグルファルに驚いた後すぐに察しがついたアンゼリカに説明をしたゲオルグは加勢を求めるかのように黒衣の男に視線を向けると、黒衣の男は口元に笑みを浮かべた後指を鳴らすと男の背後にナグルファルよりも一回り大きい戦術殻が現れた!

「――――――」

 

「ゾア=バロール。―――久々の稼働テストに付き合ってもらおう。」

 

「へ〜…………私達相手に”稼働テスト”とは随分とその鉄屑に自信があるみたいね?あんたの纏っているその雰囲気が私やファーミが大っ嫌いなあの男(ケルヴァン)とよく似ている事もあって増々腹立つ男ね。――――――だったら、まずはそのご自慢の鉄屑をバラバラにして、その顔に恐怖を刻み込んであげるわ。」

男が新たに現れた戦術殻―――ゾア=バロールの説明をするとカーリアンは口元に笑みを浮かべていながらも目を笑っていない表情で男を睨んだ。

「で、アンゼリカはどうするの?」

 

「―――当然、君達と共にジョルジュ達を制圧するさ。ジョルジュもそうだが、ジョルジュの隣にいる”彼”にも聞きたい事が山ほどあるしね。」

エヴリーヌの問いかけに答えたアンゼリカは格闘の構えでゲオルグと男を睨んだ。

「こら―――!多くの死者達が眠る霊園で暴れようとするなんて、一体何を考えているんですか―――!?」

するとその時緊迫したその場の空気には似合わない可愛いらしい少女の声が辺りに響き渡った。

 

 

「…………?今の声は一体…………」

 

「あら、この声って確か…………」

突如聞こえてきた少女の声にアンゼリカが眉を顰めている中声に聞き覚えがあるカーリアンが目を丸くすると、神々しい白銀の槍に座った少女がカーリアン達とゲオルグ達のちょうど真ん中の上空に現れた――――!

 

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という訳で今回の話の最後でようやく光と闇の軌跡シリーズ、運命が改変された少年で唯一の皆勤賞である戦女神のあのキャラが登場しました!なお、次回の戦闘BGMはグラセスタの”あの日の誓いを胸に”、VERITAの”宿業”、ZEROの”鬼神降臨”のどれかだと思ってください♪

説明
外伝〜緋の魔女との邂逅〜
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