フレームアームズ・ガール外伝〜その大きな手で私を抱いて〜 ep9 |
ヒカル達がロボット部に行った週の土曜日。いつもの模型店のFAG用コミュニケーションスペース。そこで轟雷がアーキテクトを皆に紹介する。
「……」
「というわけで来ていただいた大輔さんとアーキテクトです!」
今回のコミュニケーションスペースは日本の和室の再現である。部屋の中央に大型のコタツが用意されており、窓の外はしんしんと雪の降る庭。FAG達は下半身をコタツに入れながら談笑に望む。なおコタツの大きさは縦横それぞれにFAGが四人座れる程の長さの正方形型だ。
「よろしく頼む。これはほんの気持ち」
コタツの南側にて、正座しながら抑揚のない声、かつ無表情で返すアーキテクト。が、彼女は手に持った物をコタツの上に横に置いた。
「花束ですか。いい匂いですね」
アーキテクトが持ってきたのはブーケサイズのキンモクセイの花束だ。部屋の中を甘い匂いが包み込む。……確かに匂いはいいのだが、大きさが人間用サイズそのままなので、置いたテーブルの東西側は花束に占領される形になる。東西側のFAG達も寝ころんで回避という形になった。
「データ取得済み、キンモクセイ。モクセイ科モクセイ属の常緑小高木樹、主に庭木や街路樹の観賞用、実よりも花を食べるのが一般的。なお受粉させなくとも挿し木で容易に増やせるのでつける花の数の多い雄株が植えられる事がほとんど。花言葉は謙虚、又は気高い。シーズンは十月上旬が平均的」
「ネットの丸写しみたいな説明ですね」
「って大きすぎるわよ!場所を選びなさい!」
アーキテクトの反対側に座る北側のスティレットが叫んだ。南北側も寝かせた花束が視界を遮り前が見えない。ちなみに轟雷はスティレットの隣に座っている。
「想定内、ブーケサイズだから、縦にしてもこのスペースに入りきらないようなサイズではない」
「眼の前の状態を見てから言いなさい!」
「お、お店の人に頼んで花瓶に入れてもらいましょう……」
東側に座っていたレティシア達は寝そべりながら苦しそうに呟いた。でもって、花束はコミュニケーションスペースの外に移動、花瓶にいれてもらった。
「また変なのが増えたわね……」とアーキテクトに対してスティレットは言う。
「問題は無い。コミュニケーション能力はFAGとして及第点に達している」
「まぁFAGは厳密にはロボットですからこういうのも珍しくはないですよ」とレティシア。
「バリエーション機の二人はこんなに饒舌なのにね」
スティレットが左に一瞥で示したのは二人。東側のアント姉妹、レーフとライの二人。
「別に個体差の範疇だよスティレットお姉ちゃん」
「ま、彼女の様な静かさは少しはライに分けてあげたいけれどね」
姉のレーフがそう言うと「どーゆう意味!?」と妹のライが突っかかる。このアント姉妹、片目隠れと紫の髪以外は無口なアーキテクトと同じパーツで出来ている。というかこのアント姉妹も厳密にはアーキテクト型なのだ。
「別に問題はない。彼女の言った通り、FAGの性格及び個性には個体差がある。私の性格は前のマスターの時からこうだった」
「?あなた。今のマスターが初めてではないの?」
アーキテクトの発言にスティレットが食いついた。彼女も今のマスターは初めてではない。
「今のマスターは二人目、一人目のマスターは中古屋で私を売った。そして格安だったところを、今のマスターに買われた。売却原因はコミュニケーションによる感情の反応がほとんどない事の確立。95%」
――それしかないでしょ……――
――自分の性格に自覚はあるんですね……――
その場にいた全員がそう思った。が、失礼と解っているために、全員が口には出さなかった。表情も動かず、動作も最低限しか動かしてないアーキテクトだ。見てる側としては本当に感情があるかどうかすら解らなくなってくる。
「でもさー。アーキテクトお姉ちゃん、本当に感情あるの?私もここまで淡白なFAG初めてだyあいたっ!!!」
前言撤回、ただ一人ライの失礼な発言にレーフは無言でゲンコツをくれた。
「……私は別に感情が無いわけではない。表に出すのが不向きなだけ……。私だって少しは気にしてる。なお今ので精神的ダメージを確認」
要するに傷ついたという事だ。
「ぅーごめんなさい」
「ねぇ……。今のマスターとはうまくいってるの?」
アーキテクトの劣等感を刺激するわけにもいかない。そしてスティレットとしてはマスターとの関係が気になるところだ。アーキテクトはスティレットの問いにコクリと頷く。
「肯定する。今のマスターには感謝している。私の感情や表情も読み取ってくれる。好意に値する」
「マスターの事、好きなんだ」
勘で言うスティレット。
「……」
親近感を含ませたスティレットの言葉に対してアーキテクトは無表情だ。が、目を逸らす。その場にいたFAG達は思う。likeではなくloveの方か。と、
「そんな無表情でもなー」と懲りずにライはつまらなそうに言う。そういう感情があるのならもっと反応を見せてくれればいいのに、棒読みではないが、変化のない声で喋るアーキテクトに対してライはそう思った。
「やぁアーキテクト。コミュニケーションはうまくいってるかい?」
と、そのタイミングでマスターの大輔が来る。
「マスター」
「あ、どうも」「お世話になってまーす」
それぞれのFAGが大輔に挨拶をかわす中、ライの脳裏にある案が浮かぶ。この時にマスターに好きと伝えたら面白い反応を見せるかもしれない。と
「あなたがマスターですか?あのですね!あなたのアーキテクトちゃんがあなたの事が好k「ふんっ!!」
ライが言い終わらない内に、アーキテクトが渾身の声と力で、コタツをライの方に思いっきりの勢いでひっくり返す。ちゃぶ台返しされたコタツは、ライと、とばっちりでレーフとイノセンティアを巻き込んでひっくり返った。
『わぁぁっ!!』
三人揃って悲鳴を上げ、下敷きになった。
「マスター、問題はない。コミュニケーションは順調」
再び正座の姿勢でアーキテクトは返した。
「あんまりそうは見えないけど……」
「順調ったら順調」
「本当に表に出すのが苦手なだけなのね……」
荒っぽい手段で事を収めたアーキテクトに対して、スティレットはそう思った。
「全くライが余計な事するからこっちまでひどい目にあったじゃない……」
「ぅぅぅ、ちょっとした好奇心だよー」
ぼやくレーフとライ。と、今日の目的はもう一つある。ちょうど大輔や黄一とヒカルもいる事だ。アーキテクトは切り出す。
「マスター、全員揃ったから議題に入りたい」
「うん。そうだね」
FAG用のコミュニケーションスペースの前に備え付けられた座席に、大輔やヒカル達は座り、議題に入る。
「私とマスターのロボット部が存続の危機にある。マスターの部活を今度の文化祭で宣伝をしたい」
今回のアーキテクトと大輔が来た理由はそれだ。
「あれ?そもそも出し物ってクラスごとに変わるんじゃないの?部活で出すっていうのは?」
「物によるね。部活によっては裏方と兼業になる事もあるんだよ。資材運びとか駐車場の整理とか」
「裏方ね……そういえばロボット部の方は去年まで何かやっていたんですか?」
そう言いながら轟雷が大輔に問いかける。
「こっちも裏方、出し物の手伝いさ。FAGの力を借りてね」
「FAGを?」
「確か一昨年は、お化け屋敷やっていたクラスの演出の手伝いをしていた」
その言葉を聞いた黄一とヒカルは顔を強張らせる。ついこの間聞いたこの学校の怪談だ。
「まさか……、お化け屋敷で人形が並んでいた棚で、人形が浮かんで輪になって、童謡を歌っていたっていうのは……」
ヒカルの疑問に大輔はよく解ったねと言わんばかりに答える。
「?知ってるのかい?あれはロボット部のやった演出だよ。恐怖演出だから悪くいう人もいるだろうから、生徒会の一部以外に口外しない様に言われてるんだけどね」
「っ!それが原因だったのかよ!!」
初めて聞いた時に一番怖がっていた黄一が一際大きいリアクションで答えた。
「?何だかよく解らないけど、出し物にFAGを使って手伝っていたってわけですか?」とレティシア。
「肯定する。最も一昨年は私もマスターも入学前だったので参加はしていないが……」
「……そうだ!ひらめいたぜ!FAGだ!」
ヒカルが思いつきを提案する。
「確か橋本君のクラスの出し物はメイド喫茶だったよな!アーキテクト達に手伝ってもらってロボット部の宣伝をするんだよ!」
「洪庵君、実はそのアイディアは既に二人で出したんだよ」
「あれ?そうなの?」
「でもそれはロボット部での宣伝とは関係のない内容。機械の性能を披露出来る場ではない」
「実はその代案で、校内の清掃を全自動の掃除機でまかなって、それを宣伝に使おうと思っていたんだけどね。それも壊れてしまって」
それで修理と改良をしようと思っていた大輔だったが、間に合わないかもと不安になっていた所だったわけだ。
「そっか。うーん、確かに関係は無いかも知れないけどさ。案外技術と宣伝は無理に結びつけなくてもいいんじゃないか」
「ん?どういう事だい?」
「肩ひじ張らずにやるのが部活だろ?遊びの延長だ。新しい人を迎えるのにガチ過ぎても、とっつき辛いってのもあるんじゃないか?俺としてはFAGに接客させるだけでも宣伝にはなると思うんだよ」
そう言うヒカルに黄一がツッコミを入れる。
「そうかぁ?それで全くロボットに興味ない奴らばかりが入部して来たら逆効果にならないか?」
「あぁそっか……まぁそういうのも考えられるな……」
余り深く考えてなかったヒカルには痛いところでもあった。それに大輔が追加で案を加える。
「ひらめいた。だったら折衷案だ。FAGに僕の自作パーツを装着させて、それで接客を手伝わせたらどうだろう」
「そっか。自作パーツなら小さい大きさで済むな」
「時間もあまりないからね」と黄一。
「へへっ。それなら可愛いFAGのメイド服が見れるってわけだな」
「ちょっと待ってよ。FAGにパーツつけて接客って、誰がやるのよ」
それにスティレットが食いつく。まさか自分が?と言わんばかりのリアクションだ。
「言っちゃ悪いけど、アーキテクトのこの態度はとても接客に向いてるとは思えないわよ」
「君もそう思うかいスティレット?さっき言ったメイド喫茶の接客を諦めたのは、実はそう言った理由もあるんだよ」
「あ、そうなの……。ごめんなさい」
「メイド喫茶ね。……だったら私が立候補するわ」
と、一番に手伝うと名乗り出たのは意外な人物、いやFAGだった。
「レーフ?珍しいですね」
「同じアーキテクト型が困っているのよ。手を差し伸べるのはFAGとして当然じゃない。それで、当然FAG用のメイド服はあるんでしょうね?」
「お姉ちゃん、メイド服が着たいんだー」
ライの指摘。轟雷達は以前スティレットの愚痴を聞いた時にバーテンダーの衣装を着ていたのを思い出す。
「何を言ってるのよライ。そんなわけないでしょう」
「……メイド服だったら、お化け屋敷以前にロボット部が出し物で使った奴がある」
「で、FAGも一人だけで済ますつもりじゃないだろう橋本君」と黄一。
「そうだな。これ位のサイズなら披露するパーツを揃えるのも難しくないよ。もう何人か出てくれると有難いな」
「じゃあ私も出ますよ。メイド服って着てみたかったんですよね」
そう言って立候補したのはレティシアだ。
「それって……一応バイトになるわけですから、バイト代は出してくれるんですよね?」
轟雷が打算的な表情を見せながら大輔に問いかける。
「厚かましい事言ってんじゃない轟雷。橋本君、コイツでよかったら使ってくれ」
と言って黄一は首筋をつまんだ轟雷を大輔に差し出した。
「ちょっとマスター!正当な労働には正当な対価は必要ですよ!」
「自作パーツだってタダじゃないんだ。橋本君の苦労を考えてやれ。というわけで君さえよければ使ってくれ」
「そりゃもう、一人でもありがたいよ。バイト代だったらどうにか工面するから」
「いいよいいよタダ働きで。コイツお金とか物とかガ○プラが絡むとがめつくなっちゃってさ」
「私の意志は無視ですかー」と轟雷。
「ま、二人とも精々頑張るのね。当日は私もお客として来るから」
「あれ?スティレット達は出ないんですか?」
轟雷は意外そうな反応をする。当然スティレットの方も出ると思っていたからだ。
「すいません。私達はその日用事があって……」とイノセンティアは頭を下げた。ライの方は「私はそういうのは苦手だから」と逃げた。出たら姉のレーフがいびってくるだろうなという予想もあったが。と、スティレットの方は。
「自由参加なんでしょ?私みたいな性格は接客には向かないわよ」
それが彼女の言い分だ。が、彼女のマスターであるヒカルは残念そうな声をつい出してしまう。
「え?出ないのかお前」
「え?な、何よ。マスターも私に出て欲しいわけ?」
「そりゃな……いや、無理にとは言わないけど……」
「スティレット。ヒカルの奴、お前のメイド服姿が見たいんだってさ」
黄一が意地悪そうに言う。ヒカルが「言うなよ!」と慌てるが
「……ふーん。……マスターがそう言うんだったら、やってあげようかな……仕方ないから、そう、仕方ないからよ」
満更でもなさそうな顔をするスティレットにヒカルは安堵する。
「ぁ……そっか」
「……特別なんだから。感謝してよね……」
スティレットの方もヒカルが自分に興味を持ってくれてる事に嬉しくなる。
「そう。皆には感謝する。私も裏方で協力する」
アーキテクトが託すように頭を下げた。
「何言ってるんですかアーキテクト。あなたもでるんですよ」
「否定する。需要が解らない。私のこのコミュニケーション能力では接客には向いてない」
「いや、いいんじゃないか?」
そう言ったのはヒカルだ。
「その無口、無感情キャラだから受けるってのはあると思うんだ。それ独自の需要ってのはあると思うぜ。まさにアンドロイドって感じだしな」
「否定する。世間一般の接客用アンドロイドの性格はこれと関係ない」
「それに、ロボット部の看板娘だろ。一番紹介にはうってつけだと思うぜ」
「……そうだなぁ、やってみるか?アーキテクト」
「マスター……」
「お前は気遣いもちゃんと出来る奴だよ。いい機会だからやってみよう」
「……マスターがそう言うなら……。私は従う」
自分は人間の為の人形。そう言いたげにアーキテクトは答えた。結果としてその場にいた全員が出演を了承する事となったわけである。
そして翌日、大輔はこの事を担任に提案する。メイド喫茶の手伝いならと了承してくれた担任は、クラスメイトに提案と紹介。確認を取るべくFAGを学校に呼ぶ。そしてFAG達は大輔の手伝いとして紹介され、皆の了解を取る。
滞りなく済んだFAG達は衣装の確認を行う。前にロボット部がFAGに着せていたという衣装の流用だ。
「いやいや、着てみたけど綺麗に残ってるじゃない」
ロボット部の部室にて、レーフの感想はそれだった。箱の中身は数着のメイド服。ロングスカートの物が数着。他にも数種類の衣装が数点。
「ロボット部全盛期の時はFAGが普及する前の時代だった。だから部員全員がFAGにメイド服を着せて、ロボット部のみでメイド喫茶を出し物としてやっていた年がある」
「とはいえ、一般的なメイド服とはいえ、ちょっと地味ね。もっとミニスカタイプとかあっても良さそうなものだけど」
「スティレットはそういうのが好きですか?」
「やっぱりそれがヒカルさんに好みですか?」
「勝手な憶測をしないで!ていうかやっぱりって何よ!!」と轟雷とレティシアに対してスティレットは頬を染めながら返した。
「甘いわね。メイド服にミニスカートで露出過多なデザインなんて邪道よ」
レーフがその発言に割って入る。
「元々メイドという者はハウスキーパー、家政婦故に肌の露出は最低限でなければならないわ」
そう言ってレーフは一番目に着たロングスカートをひるがえした。
「まぁ確かに家政婦が露出多めじゃ不味いですかね」とレティシア。
「あらレティシア、あなたも解る?やはりメイド服は肌を見せないこそが至高という物よ。最近のメイド喫茶やアニメの媚びる事に特化し過ぎたデザインは、品も清潔感も劣るとしか言いようがないわ」
そう言ってレーフは私物であろうアクセサリーを数点つける。……が、その装飾に他のFAGは注目させざるを得なかった。
「レーフ……、髪型はともかく、なんで眼鏡なんですか」
「気合い入ってますね……」
レーフのメイド服姿は髪を一つのお団子状にまとめており、その上からシニヨンキャップで髪にカバーをかけている。いつもの片目隠れの前髪はヘアピンでサイドに寄せている。そして眼鏡をかけており、厳しい印象のあるメイド長と言った感じだ。
「レーフさんって、もしかしてコスプレ好きですか?」
「何よレティシア。ファッション好きと言いなさい。アマチュアとはいえ飲食店なんだから清潔感第一でしょ?」
他の皆も着終わった様だ。レーフが周りを見渡すと、それぞれ轟雷達もロングスカートのメイド服を着た。
「何だか新鮮ですね。パーツを接続する部位が全部隠れちゃいます」
轟雷が軽く笑いながら言う。轟雷のマスターは黄一だ。マスターが男性だと、こういった服を着る機会は少ない。
「でもやっぱ露出多い方がよかったかもね。この上からパーツを接続するんだからむしろ露出は多くても困らないんじゃない?」
そうスティレットが言う。FAGのパーツやコード接続部は背中、胸の中央、尾てい骨の部分と多い。それ以外にもアタッチメント式で追加が可能だ。
「まぁ当日は着方も変わるかもね。で、アーキテクトは?」
残るはアーキテクトその人だ。一番彼女が頑張らなくてはいけない立場。彼女が着なければ話にならない。
「着用は完了した」
そう言ってアーキテクトは衣装を全員に見せる。結果的に言ってベストチョイスと言っていい着こなしだった。トゥニカと呼ばれる黒いワンピース状の服、頭を覆うベール。ただ惜しむらくはそれが……
「ってなんでシスターの着る修道服なのよ!!」
メイド服でなくシスターの着る修道服だった事だ。
そしてtake2。気を取り直してアーキテクトが身に着けたクラシックメイド服を披露する。パールがかった銀髪にメイド服は非常に似合って見えた。
「あら、堂に入ってるわねー」
「皆、衣装は決まったかい?」
そう言って大輔が様子を見に部室に入ってくる。ヒカルと黄一も一緒だ。
「マスター」
「良く似合うよ。アーキテクト」
「マスター……感謝する」
「本当だな。このクールって感じがまさにプロのメイドさんって感じだ」
「ちょっとマスター!アーキテクトだけ!?私達はどうなのよ!」
ヒカルの言葉にスティレットが食って掛かる。スティレットにとっては彼に一番見せたいのだろう。
「お。お前も良く似合ってるぜスティレット」
「当然よ。もっと褒めなさい」
「ヒカル、毎度ながらノロケんなよ」
「っ!そんな事ねぇよ!」
「とりあえず僕の方もロボット部の宣伝用パーツを作ってみたよ。アーキテクト。つけてみてくれないか」
そう言ってアーキテクトは大輔に従いながらパーツを装着する。メカニカルな足と背中に装着された中継ユニットを経由して腕の外側にサブアームが取り付けられる。(装着の為に服の背中は開いてる)
「んっ」
アーキテクトは手足を動かして確認。純正のFAG用のパーツではないが、スムーズに動く事が出来た。
「問題ない。正常に稼働している」
「じゃあこれはうまく持てる?」
そう言って大きな重りをアーキテクトの前に置いた。持とうとしたアーキテクトだがうまく持ち上がらない。
「うまく持てない」
「パワーが足りないな。改良しないと……」
「これから更にいじるのかよ。もう十分に見えるけど」
見守っていたヒカルが言う。
「いやいや、色々な料理を乗せたトレイを掲げるからね。これ以上のパワーは必要さ。飛べるパーツも自作したいけど、流石に時間が足りないな……」
「こればっかりは市販パーツで代用するしかないだろう」
「そうだね。キラービークを使えば……」
ブツブツと改良点を呟き続ける大輔だ。分厚い眼鏡の所為で瞳は見えない。が、横側から覗くその眼は真剣そのもの。時間は無い上に。これを人数分揃える必要があるわけだ。
「バイト代とか言わなきゃよかったかも……」
轟雷は大輔の自作パーツにかかっているであろう費用を考えながら、若干自分の軽率な発言を後悔した。
「……」
そして悩む大輔、アーキテクトはそれをじっと見つめていた。
そして土曜日、いつもの模型店で轟雷達は接客の練習となる。丁度模型店に喫茶店型のコミュニケーションスペースがある為に練習にはうってつけだ。メイド服を着て練習となる。
「有難うございました。またお越しください」
アーキテクトは普段と変わらない表情と動作での接客の練習をしていた。しかしやはり淡々とした動作は温かみが感じにくい。
「あーん?なんや姉ちゃん。客に対してスマイルも満足にできひんのかぁ?あぁん?」
それをなじるのはグラサンを付けた呼んでも無いのに来た客役のライである。当然姉のレーフが黙ってはいない。
「お客様ぁ、当店は暴力追放店となっておりますぅ。……なんで呼んでもいないのに、来たのかしらあなたはぁ」
捕まえた猫の様に首筋をつまんで持ち上げるレーフ。
「にゃーん……。いや暇だったんで」
「そんなにメイドがやりたいのねライ。それとも口を瞬間接着剤でくっつけて欲しいのかしらぁ」
冷たいレーフの声。しかし怒りの感情だけはライも十分伝わった。「にゃんぱらり!!」と叫びながらライは暴れ脱出し、そそくさと逃げていった。
「全く……んーやっぱり動きと表情が硬すぎるわね」
と、切り替えてレーフはアーキテクトの動きをそう評した。
「問題は無いんじゃないですか?クレーマーが来ても動じないのは解りましたから。後ヒカルさんもこのキャラがウケるって言ってたじゃないですか」
「レティシア。マスターの言ってる事は無視していいから……」
スティレットは恥ずかしそうにそう言う。
「そうはいっても接客なのよ。礼儀作法はしっかり身につけておかないと、それに……いい接客をすればあなたのマスターの為にもなるという物よ」
「本当にメイド長って感じですねレーフ」
「……私は続ける」
コクリと頷きながらアーキテクトは言った。大輔の為、というのが決め手だ。
「それはそうとちょっと休憩いれましょうよ。バッテリーが持たないわ」
「んー……そうね。結構時間経ったし休みましょう」
そう言って全員、店内型スペースにて充電君を変形させた椅子に座り充電を開始。轟雷、スティレット、レティシア、レーフ、アーキテクトの計五人がメイド服を着ていた。
「ふぅ……、それにしてもアーキテクトの持ってきた花のおかげかしら、いい香りだわ」
そう言ってレーフはスペースの外を見る。前回と違い、鉢植えに植えられた赤い花が目に入った。細い花びらが目を引く。
「本当ですね。落ち着きます」
「あれはガーベラ。データ取得済み。キク科、ガーベラ属の総称。温帯地域に分布。フラワーアレンジメントやアロマでも使用されることが多い。花言葉は前進、希望……私が育てた」
「あなた、花が好きなのね」
「肯定する。花は好き。……会話しなくてもコミュニケーションが成立するから」
「えぇ、そういう理由ですか?もっと綺麗とか、いい香りとか単純な理由じゃないんですか?」
「当然それもある。それぞれの薬効は興味深い。花だけでなく、同じ植物から作られたお茶や紅茶にも興味がある」
「お茶ですか。飲食の出来ない私達にはどうにもピンと来ない話です」
「無言でも何が出来るかをしっかりアピールしている。植物は興味深い」
「そうなんだ。それはそうと……あなたはマスターの事をどう思ってるのかしら」
スティレットがそう問いかける。気になっていた。彼女がマスターに対してどう思っているかを。
「……前にも言った、好意に値する。と」
「恋愛感情があるんじゃないの?」
そう聞くスティレット。アーキテクトは黙りこむ。
「……意味がない。人間とFAGの立場は対等ではない」
「……って事は好きなんだ」
否定の返事ではない。スティレットがそう聞くと再び沈黙。
「私もね。マスターの事は好き。もっと一緒にいたいって思うわ」
「記憶している。あなたのマスターは、あなたに面倒を見てもらっているのでどちらが主人か解らないと」
「誰から聞いたのよそれ……」
まぁ当たってるけど、とスティレットは内心思う。
「私も……あなたに聞きたい。マスターは今パーツ製作で苦労している。……あなたのマスターが何か壁に当たった時に何かマスターにしてあげた事は無いか?私に出来る事があるのならそれをしてあげたい」
「あなた……」
無表情の裏、そこにあるマスターへの想い。それをスティレットは感じた。スティレットは考える。自分のマスター、ヒカルが何か壁に当たった時は、特にやる事は変わらない。家事をして、マスターと同じ部屋で寝て、傍にいてあげる位だ。
「私の場合は精々コーヒー淹れてあげた位よ。今回みたいに落ち着く花とか部屋に置いてあげたら?」
「既に実装している。部屋に空気清浄用の花を置き、お茶を淹れてあげる位しか出来ない……」
「十分じゃない。大丈夫。後は傍にいてあげるだけでその人の為になる物よ。むしろこっちが教えて欲しい位よ。アイツったら普段何も考えてないんだから悩みも何にもないもの」
「そう……」
「でもあれですよね。やっぱり笑顔とか見せた方がいいんじゃないでしょうか」
そこにいた全員が思っていた事がそれだった。接客に関しても、マスターに対してもそれが出来れば万時うまくいくと思っていた。
「いや、そうは言いますけどレティシア。人には得意不得意って物が……あぁうん」
言うべきではないと思っていた言葉、それを出してしまった轟雷は気まずそうになる。
「精神的ダメージを確認。だが撤回の要求はしない。……私もマスターに笑顔は見せたいから。実は私も気にはしている。こう見えて毎日鏡に向かって笑顔の練習は欠かさない」
「でも表面的な笑顔にはまだ至っていないのね……」
「普段使わない部位を使うのは負担も大きい」
「とりあえず見せて下さいよ。こんな可愛い女の子の笑顔なんですもの。変な顔になる筈がないですよ」
「了解した。では披露する」
アーキテクトは、精いっぱいの笑顔を見ている轟雷達に披露した。しかし見ていた轟雷達の表情は、苦虫でも噛み潰したかのように渋くなる。
「……うん。やっぱりいつものままでいて」
「精神的ダメージを再び確認。失礼な」
アプローチをほとんどしないアーキテクトの所為か、書きながらアーキテクトのキャラを組み立ててた為に遅くなりました。挿絵シスター服なのは、メイド服が手に入らなかったからですw
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ep9『大輔と量産型アーキテクト』(中編) | ||
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