英雄伝説〜灰の軌跡〜 閃V篇
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7月1日、HR―――

 

〜特務科Z組〜

 

数日後、ユウナ達がいつものように朝のHRの為にリィンとセレーネを待っていると二人が教室に入ってきた。

「おはよう、みんな。いきなりになるが、今日から君達Z組の新たな仲間が増える。」

 

「へ…………っ!?」

 

「ゲルド、ミュゼ、アッシュに続いて更に編入生ですか…………?」

 

(………ねえ、アル。リィン教官が言っている”新たな仲間”ってもしかして数日前にレン教官とリアンヌ分校長から教えてもらった…………)

 

(ええ…………間違いなく”彼女達”の内の誰かがZ組の副担任を担当する事になったかと。)

 

(ふふ…………)

リィンの知らせにユウナとクルトが驚いている中既に察しがついていたゲルドとアルティナは小声で会話をし、二人同様事情を知っているミュゼは静かな笑みを浮かべていた。

「(あん…………?)クク、その”仲間”とやらは白髪魔女みたいな新顔か、もしくは俺とエセふわみたいな別のクラスから飛ばされた奴なのかは知らねぇが、今度はどんな”問題児”が増えるんだ?どうせこの分校には問題児しか来ねぇんだろう?」

 

「新しいクラスメイトもそうだけど、あたし達も分校の中でも特に問題児のあんたにだけは”問題児呼ばわり”される筋合いはないわよ…………」

アルティナ達の様子を不思議に思ったアッシュは鼻を鳴らして嘲笑しながら訊ね、アッシュの問いかけにクルト達と共に冷や汗をかいたユウナはジト目でアッシュに指摘した。

「アハハ…………それ以前に、お兄様はその”新しい仲間が生徒だと言ってはいませんわよ?”」

 

「へ。」

 

「まさか新しい仲間という方は”生徒”ではなく、”教官”なのですか…………?」

 

「―――それじゃあ、入ってきてくれ。」

 

「―――失礼しますわ。」

苦笑しながら答えたセレーネの答えにユウナは呆けた声を出し、クルトが目を丸くして訊ねるとリィンは廊下に視線を向けて声をかけた。すると何と”第U分校の教官服を身に纏ったデュバリィ”が教室に入ってきた!

 

 

「な――――」

 

「……………………」

 

「ハア〜〜〜〜〜〜ッ!?何でテメェがそんな珍妙な格好でここにいるんだ!?まさかシュバルツァー達が言っていた”Z組の新しい仲間”とやらは、テメェなのかよ!?」

 

「…………元からわかっていたとはいえ、”教官”に向かって”テメェ”、それも人を指で刺すとは随分と口や態度が悪い生徒ですわね。どうやら私直々による”教育指導”が最初に必要なのは貴方になりそうですわね。」

 

「お、落ち着いてください、デュバリィさん。まずは自己紹介をお願いしますわ。」

デュバリィの登場にクルトは驚きのあまり絶句し、ユウナは口をパクパクし、アッシュは信じられない表情でデュバリィを指刺して声を上げ、デュバリィは顔に青筋をたてて口元をピクピクさせ、デュバリィの様子を見たセレーネはデュバリィを宥めながら自己紹介を促した。

「コホン、失礼しましたわ。―――改めて自己紹介を致しますわ。この度(たび)、トールズ第U分校の新たな臨時教官としてメンフィル帝国より派遣され、特務科Z組の副担任を務める事になったデュバリィですわ。担当する科目は座学は文学、それと新たに追加された科目である実戦技術・応用を担当しますわ。この私直々から指導を受けられる事、ありがたく思いやがりなさい!」

自己紹介をした後最後に自慢げに胸を張って答えたデュバリィの自己紹介の仕方にリィンとセレーネは冷や汗をかき

「あ、ありがたく思いやがりなさいって…………それ以前に何でアンタが第U分校の教官―――それも、Z組(あたし達)の副担任として赴任できるのよ!?元結社の一味としてエレボニアで悪さをしまくって、最後はメンフィル帝国に投降してメンフィル帝国の捕虜になったアンタが!」

 

「アルティナとゲルドはあまり驚いていない様子だったが…………もしかして、メンフィル帝国から前もって知らされていたのか?」

 

「ええ、まあ。…………最も、彼女がわたし達の副担任になる事までは知らされていませんでしたが。」

 

「リアンヌ分校長達からデュバリィさん達の赴任は第U分校に混乱が起こらないように、当日まで秘密にして欲しいって言い含められていたから、今まで黙っていてごめんね?」

ユウナはジト目で呟いた後疲れた表情でデュバリィに指摘し、クルトに訊ねられたアルティナは静かな表情で答えた後ジト目でデュバリィを見つめ、ゲルドは苦笑しながら答えた。

「クスクス、なるほど。ゲルドさんが以前仰っていた”予知能力”で視えた私達が近い内彼女達とまた再会する事になる未来はこの事だったのですね♪」

 

「そ、そういえばそんな事を言っていたわね…………―――リィン教官、セレーネ教官?メンフィル帝国は何を考えて、捕虜として扱っていた人物を教官として派遣させるなんて普通に考えたら無茶苦茶な事をするなんて、一体どういう事なんですか?」

微笑みながら答えたミュゼの指摘に海上要塞での激闘の後デュバリィ達と別れ際に答えたゲルドの予言を思い出したユウナはジト目でリィンとセレーネに追及した。

「ハハ、リウイ陛下も仰っていたじゃないか。デュバリィさん達”鉄機隊”による罪の償い方はユウナ達の目でもわかる方法にするって。」

 

「そしてその方法が最低限の賃金で結社時代に培った経験を活かして、まだまだ伸びしろがある皆さんを鍛え上げる事をデュバリィさん達”鉄機隊”の罪の償い方と決めた陛下達がデュバリィさん達の派遣を決めたとの事ですわ。」

 

「いや、確かにそんな事を言っていたけど、よりにもよってあたし達の”教官”って………」

 

「つーか、”最低限の賃金”って言っていたが、そこのポンコツ剣士の給料はシュバルツァー達よりも安月給なのかよ?」

 

「誰がポンコツ剣士ですか、この金茶頭!」

リィンとセレーネの説明を聞いたユウナはジト目でデュバリィを見つめ、アッシュの問いかけにデュバリィは顔に青筋を立てて反論した。

「アハハ…………詳細な金額は教えられませんが、第U分校に派遣している間のデュバリィさん達が受け取る給与の金額はメンフィル帝国の新人の兵士の方々と同じとの事ですわ。」

 

「勿論給与を支払っているのはメンフィル帝国であって、エレボニア帝国は一銭も彼女達に給与を支払う必要はないとの事だから、第U分校にとっては彼女達は”無償奉仕”という償い方で教官を務めてくれているんだ。」

 

「なるほど…………―――そういえば、先程”神速”―――いえ、デュバリィ教官が担当する科目の内の一つで”実戦技術・応用”という科目がありましたが、それは一体どういう内容なのですか?」

 

「デュバリィ教官は新しく追加される事になった科目と仰っていましたが、ランドロス教官が担当する実戦技術とは別の科目なのでしょうか?」

セレーネとリィンの説明を聞いたクルトとアルティナは新たな疑問を訊ねた。

 

 

「ああ…………――”実戦技術・応用”とは今までのカリキュラムで培った経験を活かして結社や猟兵のような”裏”に属する勢力との実戦を想定し、対策する授業だ。」

 

「今までの特別演習で私達や”道化師”達との戦いで経験した貴方達ならわかるでしょうが、”裏”の勢力は正々堂々とした戦いをせず、時には卑劣と思うような手段をとってまで、”目的”を果します。奇襲や夜襲は当然ですが、人質や脅迫と言った私達”鉄機隊”は絶対に手段として使わない”外道”な手段を取りますわ。その内容や対策を貴方達に教え、更には”執行者”のような”裏”に属するエージェントの戦い方を実戦で教えるのが私達の役目ですわ。」

 

「確かに警察学校でもそういった犯罪者の心理や行動とかも習っていたわね…………――って、”私達”?そういえば、さっきから気になっていたけど、貴女がZ組(あたし達)の副担任として派遣されたって事は他の二人も…………」

リィンとデュバリィの説明を聞いて納得した様子で呟いたユウナはある事に気づき、デュバリィに視線を向け

「ええ、アイネスは[組に、エンネアは\組に、それぞれ副担任として派遣されて、私と共に貴女達に実戦技術・応用を教え、座学もそれぞれ政治経済、医学と今まで掛け持ちで担当していたハーシェルの担当科目を引き継いで、ハーシェルの負担を軽くする事になっていますわ。」

ユウナの疑問にデュバリィは静かな表情で答えた。

 

 

〜戦術科[組〜

 

「―――そういう訳で私は戦術科[組の副担任を担当する事となった。戦術科は実戦になれば、第U分校の”主力”であると聞いている。その”主力”となりうる雛鳥の其方達を指導する事を光栄に思っている。―――以後よろしくお願いする、[組の諸君。」

アイネスが自己紹介を終えた後かつての自分達にとっての敵が教官になるという青天の霹靂の出来事に[組の面々はそれぞれ表情を引き攣らせながらアイネスを見つめ

「クク、増々面白くなってきたじゃないか。だぁっはっはっはっ!」

 

「オッサンはいいよな、気楽で…………俺は2年前にもやり合ったから、色々複雑だっつーの…………ったく、上司が”鋼の聖女”に続いて同僚が”鉄機隊”とか、何で俺の周りの女の子は物騒な連中ばかり集まるんだよ…………」

ランドロスが呑気に笑っている中、ランディは疲れた表情で肩を落とした。

 

 

〜主計科\組〜

 

「フフ、そういう訳だから以前の事は水に流してこれからは改めて生徒と教官同士としてよろしくね、\組の皆さん。」

同じ頃エンネアが自己紹介を終えるとアイネスの時と同様\組の面々もそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせながら微笑みを浮かべて答えたエンネアを見つめ

「そうそう。そういえば、このクラスには4年前の”リベールの異変”を”ブレイサーオブブレイサー”達と共に”浮遊都市(リベル=アーク)”に乗り込んで、幼いながらも執行者や強化猟兵達ともやり合ったラッセル家の才女も所属していたわね。故郷(リベール)を混乱に陥らせた結社と何度も戦った事がある貴女にとっては複雑かもしれないけど、これからは心を入れ替えて”教官”として指導させてもらうから、よろしくね?」

 

「ア、アハハ…………あの件にはエンネア教官達は何の関りもありませんでしたし、最後の戦いではレーヴェさんも仲間になって一緒に戦っているんですから、わたしは特にエンネア教官達に思う所はないのですが、改めてよろしくお願いします。」

エンネアに名指しされたティータは苦笑しながら答え

「クスクス、それよりもティータ?”リベールの異変”の最終決戦地である”リベル=アーク”での最後の決戦まで参加した事をクラスメイト達がいる目の前で堂々と肯定しちゃったけど、よかったのかしら♪」

 

「あ”…………は、はわわわわ…………っ!?」

しかし小悪魔な笑みを浮かべたレンに指摘されて周囲を見回し、クラスメイト達がそれぞれ驚きや信じられない表情、興味ありげな表情で自分に注目している事に気づくと慌て始め

「ううっ、負担が減るのはありがたいけど、エンネア教官達の派遣が先月の要請(オーダー)の時みたいに突然過ぎるよ…………どうしてメンフィル帝国はこういった重要な事柄を前もって教えてくれないの…………」

トワは疲れた表情で肩を落としていた。

 

 

〜特務科Z組〜

 

 

「…………今頃戦術科と主計科でもカオスな事になっているでしょうね。」

 

「クスクス、生徒もそうですが教官の方々も内心混乱されているでしょうね♪」

 

「まあ、今までの特別演習で何度も戦った結社の幹部だった人が突然自分達の教官として派遣されてきたら、普通は混乱とかするでしょうね…………」

 

「つーか、どう考えてもZ組(俺達)は3人の中で”ハズレ”を引いたようなもんだろ。よりにもよってポンコツ剣士なんだからな。」

 

「ちょっと、アッシュ…………”一応”教官になるんだから、さすがにその言い方は失礼でしょ。…………まあ、あたしも正直な所デュバリィ教官よりも他の二人のどっちかの方がよかったとは思うけど。」

 

「君も何気に失礼な事を言っているぞ…………何だかんだ言って、デュバリィ教官は剣士としての腕前だけは”現代の鉄騎隊の筆頭隊士”の名に相応しい実力なんだから。」

ジト目で呟いたアルティナと微笑みながら答えたミュゼの意見にゲルドは苦笑しながら同意し、呆れた表情でデュバリィを見つめながら答えたアッシュの感想にユウナは困った表情で指摘し、クルトは疲れた表情でユウナに指摘した。

「誰が剣術しか取り柄のないポンコツ女ですか!?貴方も無意識で失礼な事を言っていますわよ、ヴァンダール!―――”少々力を付けてきた程度”で、生意気になってきた雛鳥達を躾けるちょうどいい機会ですわ!3人纏めて私の剣で”教育指導”をして差し上げますから、表に出やがりなさい!!」

 

「ハッ、上等だ…………!今度はシュバルツァー達や旧Z組のパイセン達抜きで返り討ちにしてやるぜ…………!」

 

「お、落ち着いてください、デュバリィさん!お気持ちはわかりますが、教室内で剣を抜くのは止めてください!」

 

「頼むから、”教官”になったんだから今後はもう少し冷静な態度で対応してくれ…………」

自分にとっての侮辱的な言葉を口にしたアッシュ達にデュバリィは顔に青筋を立てて声を上げた後剣をアッシュ達に突き付け、デュバリィの行動を見たアッシュがデュバリィの挑発に乗ろうとしている中セレーネはデュバリィを宥めようとし、リィンは疲れた表情で頭を抱えて呟いた。

 

 

〜分校長室〜

 

 

「フフ、今頃それぞれのクラスで”彼女達”の派遣に驚いているでしょうね。」

 

「フウ………教官陣である我々ですら青天の霹靂の出来事なのですから、生徒達が驚くのも当然かと。…………それよりも、本当に彼女達に一部の座学を任せてしまって大丈夫なのでしょうか?新たに追加されることになった”実戦技術・応用”の件に関しては彼女達の実力を考えれば不安はないのですが…………」

一方その頃、リアンヌ分校長と今後の方針を話し合っていたミハイル少佐は静かな笑みを浮かべて呟いたリアンヌ分校長の言葉に疲れた表情で溜息を吐いた後不安そうな表情を浮かべた。

「デュバリィはああ見えて、元貴族です。今は滅びた彼女の故郷は辺境ではありましたが、彼女自身両親から貴族の令嬢としての英才教育を受けていますから、意外に思えるかもしれませんがデュバリィは文学の他にも、歴史、数学、政治経済の知識も豊富です。」

 

「そ、そうだったのですか…………ちなみに他の二人はどのような経緯で、それぞれが担当する座学を教えられる程の知識があるのでしょうか?」

リアンヌ分校長から聞かされたデュバリィの意外な経歴に目を丸くしたミハイル少佐はアイネスとエンネアの事について訊ねた。

「アイネスはかつて遊撃士として活動していましたから、政治に不干渉を謳って言えるとはいえ、世の流れを知っておくことは遊撃士にとって必須ですから当然アイネスも政(まつりごと)についての知識も十分にあります。エンネアは”とある教団”によって洗脳と異能開発をされた経緯で、医学の分野に関して専門家も知らないような知識も一部知っていますから、主任教官殿の心配は無用ですよ。」

 

「……………………フウ………まさかこのような形で謎に包まれていた”鉄機隊”の過去を知る事ができるとは、想定していませんでしたが…………とりあえず、彼女達に座学を任せても不安はない事は理解しました。複数の座学を担当していた自分やハーシェル教官の負担が減る事は正直言って助かりますので、メンフィル帝国の思惑があると思われるとはいえ今は彼女達の派遣を素直にありがたく思っておきます。」

リアンヌ分校長から聞かされた鉄機隊の面々の驚愕の過去を知った事で冷や汗をかいて表情を引き攣らせたミハイル少佐は大きな溜息を吐いた後静かな表情で答えた。

 

 

こうして………デュバリィ達元鉄機隊が第U分校の教官としてリィン達の仲間になった。なお、後にデュバリィ達の件を知り、『第U分校ばかり本校には存在しない特別なカリキュラムが増える事は不公平』というセドリック皇太子の意見によって実戦技術・応用のカリキュラムは本校でも追加される事になり、デュバリィ達は本校の生徒達にも実戦技術・応用を教える為に分校と本校行き来するという普通に考えれば苦痛に思えるような負担を負う事になったデュバリィ達だったが、再び心からの忠誠を捧げたリアンヌの下で己の業を磨き、振るえる嬉しさの方が勝(まさ)っていた為、デュバリィ達にとっては何の負担にもならなかったという――――

 

 

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という訳で灰と菫の軌跡でネタバレをしていたように、デュバリィ達も第U分校の教官となり、デュバリィ自身は原作と違い、正式にリィン達の仲間かつ新Z組メンバーとしてパーティーインしました。なお、デュバリィ達の装備もメンフィルから依頼されたウィルの協力によって強化済みという事にしてあります(ぇ)

説明
外伝〜鉄機隊、再び〜
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コメント
八神 はやて様 お待たせして申し訳ありません。本日焔の方を久々に更新しました!!(sorano)
あぁ・・・早く菫(焔)の続きが読みたい……(八神 はやて)
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