艦隊 真・恋姫無双 136話目 《北郷 回想編 その1》
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【 絶望 の件 】

 

? 南方海域 前面 にて ?

 

───今、北郷一刀は……絶望の淵に突き落とされていた。

 

雲が晴れない暗く曇った空を頭上にして、周囲は山や内陸の姿どころか島影さえも見えない大海原。

 

何時もは明るく笑い、本気とも戯れなのか解らない親愛の情で迫る『金剛型 1番艦 戦艦 金剛』が、ボロい漁船に乗る一刀から距離を置き、哀しそうな表情で顧みていたからだ。

 

ーー

 

『………ゴメンな……さい、提督。 最後まで……護れなかった………ヨ』

 

『───待てっ、金剛!!』

 

ーー

 

海面に浮かぶ金剛は、少しずつ前へと進み、最初の位置から離れて行く。 上官であり、愛しい提督『北郷一刀』が心より叫ぶ制止命令を、まるで聞こえていないかのように。

 

無論、金剛が一刀を見放した訳ではない。 

 

逆に、こうしなければ──共倒れになる未来を回避するため起こした、金剛が今できる最後の献身。

 

一刀からの叫びを聞きながら俯き涙を流すが、瞬時に両頬を叩くと毅然とした態度を取り、半ば壊れ掛けた艤装を展開。

 

射るような視線を前方に向ければ、既に前方の海原を埋め尽くし、黒光りする背を天に向けた深海棲艦が居た。

 

一刀と金剛の最後の別れを、まるで喜劇を見たかのように嘲笑い、攻撃命令を今か今かと待ち受ける、駆逐ロ級達の姿があったのだ。

 

 

◆◇◆

 

【 疑念 の件 】

 

? □□鎮守府内の港 にて ?

 

 

事の発端は、数日前。

 

大本営が、○○鎮守府に出撃するよう厳命を下す。

 

『連合艦隊を結成し南方海域への進出を図れ! 敵艦隊を出来る限り壊滅せよ!』

 

 

一刀は、この命令にある違和感を感じながら、赤城や加賀を留守に置き、旗艦を金剛、他に長門、天龍、龍田、雷、電の古参六隻で編成、集合場所へと向かった。

 

ただ、場所が場所だけに心配した一刀が、皆の装備を一新しようと宣言し、秘書艦である加賀から経費が足りませんと冷ややかに怒られ、駄目押しを食らったのは内緒である。

 

更に内緒にしたいのは、その後に、赤城の食費を減らし、オヤツのボーキサイトの質を落とし、一部の装備だけでも、と融通したのは…………加賀である。 

 

特に赤城には、厳にして密で、お願いしたい。

 

───ゴホン、閑話休題

 

 

この南方海域行きの命令を、一刀が疑問視したのは、理由がある。

 

南方海域とは、本来、比較的に難易度が高い攻略地域であり、それなりの訓練を繰り返し、ある一定の練度に達した艦隊だけが行ける別世界。 

 

それなのに、その基準に達していない弱小艦隊の一刀へと、どうして声が掛かったのか、不思議に思っていた。 

 

だが、その疑問も……この集合場所である□□鎮守府に訪れてからは考える余裕もなく、気分は最悪であった。

 

指定された□□鎮守府に、ほぼ全員の提督が集まり、一刀達は集合時刻こそ遅れなかったものの、殆どギリギリでの駆け込みで入り、白い目で見られ陰口を囁かれる有り様だ。

 

悪口を言われるのは仕方ない。 余裕もなく集合時間に来る奴では職務怠慢であり、悪口を言われても、非は自分にある。 間際で入ってしまった自分の責だと思い耐えていた。

 

だが、そんな一刀を侮ったのか、その提督達は、後ろで従う金剛達を見ると、睥睨しながら悪態をついてきたのだ。

 

『随分、張りぼて装備の艦娘を持ってきて、なに考えていやがるんだ? 自分の身の丈も知らない、馬鹿な奴だぜ』

 

『…………大方、あの人に覚えめでたくされたいのさ。 いや、もしかして、着せ替え人形にして遊んでいたかも……』

 

『おっ、へへへ………コイツ、可愛いな。 どうだ、俺んとこのカスどもと、お前のコレ……交換しないか? こいつらじゃ、弱すぎて面白くないんだ。 精神の壊れ方が、よ』

 

 

始めは何の冗談かと……思った。 

 

だが、どうも本気で言っていると分かると、一刀は思わず日本語で喋るのを止め、肉体言語で熱く語ろうと、両拳を強く強く握りしめる。 そして、視線に殺意を込めながら、一歩、また一歩と、提督達の直前へ踏み出そうとした。 

 

 

『────司令官、大変よ! 大変! 大変! たい………えーと、なんだっけ?』

 

『かず……司令官さん、大変なのですっ! 天龍さんが、天龍さんが、鼻からうどんを食べて、頭をぶつけて………えーと、それから、それから……と、ともかく大変なのですっ!!』

 

 

殺意の波動に目覚めそうだった一刀だが、左右より雷、電にしがみつかれ、お陰で意識が覚醒し呑み込まれずに済む。

 

どうやら、天龍に大変な事象が起きているから来て欲しいと、判断した一刀は相手を睨み付けて、やむを得ず……本当にやむを得ず、この腹立たしい提督達より離れた。

 

因みに、慌てて出向いた先には、怪訝な表情で一刀を見る天龍と、何時もと同じニッコリと笑いつつ、目が全然笑ってない龍田が、そこに佇んでいたという。

 

 

◆◇◆

 

【 要望 の件 】

 

? □□鎮守府内の港 にて ?

 

『ありのまま、今、起きている事を説明しよう。

 

大本営の命令により、連合艦隊を結成すべしとの事で、集まった其々の鎮守府の提督が、合計七名、此処に集合した。

 

皆、何も支障はなく、何時でも艦隊を組み合わせ、目的地へ向かう事ができる。

 

ここまでは、大本営の計画通り。

 

だが、連合艦隊を率いる、連合艦隊司令官(慣例により第一艦隊がなる)が……未だに集合場所に姿を見せていない。

 

もう、早くも30分は経過しようとしているのに。

 

何を言っているかのか分からないと思うが、待っている俺や提督達さえも、どうなっているのか分からなかった』

 

あれから、龍田に散々嫌みを言われ頭が冷えた一刀は、誰に説明するでもなく今の状況を、態々お気に入り漫画の名台詞で呟きながら、一人寂しく体育座りで座っていた。

 

『私達のために怒ってくれるのは分かるけど〜、何も考え無しで立ち向かえなんて、海軍学校で教わったのかしら? そんなに手痛い目に合いたいなら、私の魚雷でも……どう?』

 

その申し出に対し首を横にブンブンと振り、何度も土下座して謝り倒し、ようやく許しを得た一刀だったが、彼には既に……次の行動を起こす精神力がなかった。

 

そんな一刀の少し先には、否応なしで目に付く駄弁る提督達、そして、目の前の□□鎮守府。

 

一刀が受け持つ鎮守府より、敷地が二倍以上も広く、設備も色々充実、更に甘味の間宮さん、酒保が入っていて、住む者は快適さを約束されている。

 

元々、大本営より信頼が厚く、数々の海域を解放した武勲ある鎮守府だが、独自に編み出した艦娘強化方法により、短期間で練度が上がると、近年有名になった場所でもあった。

 

たが、その強化方法は極秘研究中という事で、未だに大本営さえも知らされていない。 これが、研究の末に世へ出れば、海軍は深海棲艦相手にしても有利に戦えるだろう。

 

そんな事を考えていると、長門が颯爽と近寄り、一刀へ声を掛けた。 勿論、甘ったるい会話では無い。

 

『提督、忙しい……ようには見えないな。 すまないが、顔を借りたい。 はぁ!? べ、別に、変な事ではないっ! ただ、見て聞いて貰いたいモノがあるだけだ!!』

 

何時もより何だか暗い感じがする様子に、不審を感じながら一刀が長門の後に付いて行くと、艦娘達が集まっていた。

 

長門の話によると、この艦娘達は今回集まった提督達に従い付いて来た者達だといい、偶々歩いていたら、ビック7の長門だと呼び止められ、話をせがまれた次第だと。

 

話した感じでは、とても素直で初々しい反応を示し、また知識に貪欲で好感が持てる。 質問は誠実に、答えれば丁寧に礼まで返す、実に胸が熱くなったと興奮気味で語る。

 

だが、気にかかった件もあり、話の中で訓練に関した話題をしても口数が少ない。 どうやら基本的な戦闘訓練さえ実行していない、もしくは訓練自体を知らないらしい。

 

また、どの艦娘も絶えず周囲を警戒し、終始落ち着きがなく、中には、遠く離れている自分達の提督の顔色、声音に反応し、何やら怖れている様子が窺えるという。

 

一刀も実際に話掛けて聞けば、その印象は長門と同じ。

 

まるで《 建造された直後、直ぐに過酷な戦場へと連れて来られたと言わんばかりの練度が低い艦娘達 》としか思えない。

 

頭に浮かぶは───『捨て艦』の三文字。

 

…………ギリッ

 

思わず、怒りのあまり奥歯を噛み締める一刀。 

 

それを見た長門は、申し訳なさげに頭を深々と下げる。 この事を頼めるのは、長門の知る限りは一刀しか居ない。

 

『提督、無理にとは言わない。 だが、何とかならないものか? 私は……あの娘達が不憫で仕方ないのだよ。 今の私が恵まれ過ぎているのかも……知れないが』

 

一刀は黙って長門を背にして翻し、提督達が集まる鎮守府方面へ向かう。 どうらやら、第一艦隊の司令官が来たらしく、騒がしくなったからだ。 

 

だが、長門は知っている。

 

何も言わなかったのは、確約できなかったから。 

 

直ぐに翻って向かったのは、あの艦娘達に対する境遇に、苛立ち憤怒する形相を見られたくなかったから。

 

長門は、遠くなる一刀の背を、信頼の籠った視線で、暫く眺めるのであった。

 

長門に断言こそはしなかったが、折を見て提督達に話そうと誓う一刀ではあった。

 

 

◆◇◆

 

【 説明 の件 】

 

? □□鎮守府内の港 にて ?

 

 

《捨て艦とは 》

 

鎮守府で艦娘を増やすには《建造》を繰り返すか、海域戦闘で敵艦撃破で《ドロップ》するの二種類の方法がある。

 

詳しい説明はめんど……コホン、歴戦の提督、司令官諸兄におかれて、既に御存知だと思われるし、体験も数多くされているので、ここでは省かせて頂く。

 

ただ、その《増やす》行為はランダム要素が多く、必ずしもお目当ての艦娘を迎える事が出来ない。 厳格にレシピ通りに行っても、何故か那○ちゃんばかり……とか。

 

だから、既に居る艦娘が重なって出現する、つまり〈ダブる〉という事象が発生する。

 

その場合、鎮守府の裁可として委ねられ、大方、判断されるのは、主に……二つの提案。

 

@ 大本営にダブった艦娘を送り、建造より少ない資材を受け取る──解体。 

 

A 大本営にダブった艦娘と別の艦娘を送り、強化を申請する──フュー○ョンじゃなく、近代化改修。 

 

どちらも、ダブった艦娘の最後が解らないため、憶測が色々と流れているが、どれも確証が掴めていない。

 

勿論、中には孟子の《来者不拒懐》と考えて、何名ものダブった艦娘を快く迎え、共に活躍する豪気な提督もいる。

 

たが、このような提督は殆ど例外。 余程の資材豊富な鎮守府でなければ、成り立たないモノなのだ。

 

そして、中には………逆の考えを実行する提督が居るのも、また事実。 

 

それが、捨て艦と呼ばれ、不要な艦娘を違法に近い行為で使い捨てにするという、非常に許しがたい行為。 

 

例えば、強敵から逃げ出すときに、囮として置く。 敵の目を眩ます為の陽動、または……危険な場所への斥候役。

 

 

《 暁の水平線に勝利を求めた、彼女達の意思は? 》

 

《 提督や司令官に捨てられた、彼女達の想いは? 》

 

《 ─────どこに行くのだろうか? 》

 

 

あの戦いの後、更なる苦難に飛び込もうと顕現した艦娘に対し、愚劣にも侮辱にも等しい行為ゆえに。 

 

だから、一刀は艦娘を蔑ろにする者へ怒る。

 

 

一刀の鎮守府は裕福とは到底言えないけど、笑顔にする事なら、どこの鎮守府にも負けない自負がある。 長門達と話し合い、不備を解消するように努めているから。

 

一刀の鎮守府は大本営から覚えは悪いが、鎮守府周辺の者達からは慕われている。 鎮守府だけではなく、民間人ともよく接し、意見を取り上げているから。

 

一刀の鎮守府は艦娘の轟沈が無い。 轟沈をさせないために厳格な訓練を行わせ、もし、一刀の身に何かあれば、自分達で考えて行動できるように指導しているから。

 

艦娘は、意志ある兵器ではなく、深海棲艦を相手取る……戦乙女。 その補助するのが、戦えない自分の役目なのだと。 

 

だから、一刀は艦娘を大切に慈しむ。

 

 

因みに、一刀自身には、ダブったという事象は起きていない。 

 

だが、もし起これば───喜びながら皆で受け入れて、最初に名乗り上げて笑顔で挨拶するだろう。

 

『俺の名前は、北郷一刀。 君の名前は───』と。

 

 

 

 

 

一刀は────知らない。

 

自分の魂に刻まれた、同じ同姓同名の男が過ごした、生涯の軌跡。

 

遥か昔に体験した、国主、警備隊長、軍師としての経験。

何度も三國を統一する原動力になった、男の自負。

三國の将達と共に駆け抜けた、戦場の日々。

愛する彼女達と過ごした、貴重な日常。

 

それらが、艦娘を率いる北郷一刀の意志に、多大な影響を与えている事を。

 

 

 

一刀は────知らない。

 

その男が残したモノが、その男が成し遂げたモノが……

 

今世の北郷一刀に定められた、最悪の運命を………

 

根底より覆す一助にならんとしていた事を。

 

 

◆◇◆

 

【 麗人 の件 】

 

? □□鎮守府内の港 にて ?

 

 

そんな長門のやり取りをしている時に、要である第一艦隊の司令官が顔を見せる。 

 

かなり遅刻した筈なのに、罪悪感を感じない笑顔を浮かべ、白い海軍制服の上着を両肩に掛け、前を止めずに開けたまま、足取りも軽い。

 

まだ二十代前半に見える若さ、すらりとした長身。 黒髪を背中まで流しつつ、歩く度に上下へと揺れる双丘を見せつける軍装の麗人が、後ろに十名の艦娘を連れて現れた。 

 

こんな第一艦隊司令官に向け、左右に列を作り敬礼をする提督達。 だが、彼女は遅れて到着した事を詫びもせず、挨拶代わりと口を開き毒舌を披露した。

 

 

『相変わらずシケた顔をしてるねぇ、君たち。 だから、ボクみたいな優秀な奴に扱き使われるんだよ』

 

『『『『『『 ……………… 』』』』』』

 

 

彼女の辛辣な言葉に苦笑しつつも、何人かの提督が軽く受け流しながら、反感を隠さない言葉を返す。

 

 

『これは、日頃より成果を挙げんと、励んで疲れた影響です。 何より鎮守府には異性など居ませんからな。 身嗜みも忘れて、馬車馬のように働いていますので』

 

『そうですぞ。 しかし、今回はやけに遅うございましたな? 確か、三本橋中将は……ここの鎮守府の司令官じゃありませんか。 直ぐに来て頂ければ、待たせる事など……』

 

『はっ、直ぐに行って、毎度見なきゃならないムサい君らの顔を見るなんて、どんな罰ゲームなんだよ、ったく。 それよりも、多少困らせて慌てさせる方が面白いじゃないか』

 

『『『『『『 ……………… 』』』』』』

 

 

だが、果敢なる反撃は、更なる彼女からの鋭い舌鋒により、瞬く間に提督側は大破し、あえなく轟沈するのであった。

 

 

彼女の名は───《三本橋 美貴》

 

階級は中将。 ここ、□□鎮守府の司令官であり、近年目覚ましい成果を挙げたと、話題になっている人物でもある。

 

花顔柳腰の容姿、父親が大本営に勤務する身となれば、正に高嶺の花よと言われる彼女。 

 

だが、生来からの野心家ゆえに、そのような窮屈な環境を煩(わずら)い、対深海棲艦の攻略に心血を注いでいる。

 

 

そんな彼女を娘として、そして研究者として、高く評価しているのが大本営に君臨する元帥。 

 

今までは、娘の研究を生暖かい目で見守っていたが、近年、その研究の成果が現れた為、陰で支援する事を彼女に伝え、実際に実行して、更なる成果を高めていた。

 

南海海域へ進出するよう発せられた大本営の《 指令 》も、その一つ。 これを隠れ蓑とし、新たな人脈と素材確保ができるようにと、彼女へ手を回していた結果だった。

 

 

そんな事で、ここに集まる提督達は、表向きは大本営命令、裏では三本橋専用の公僕で集まった仲間である。  

 

大本営命令で急遽集まり、三本橋より話を持ち込まれると、まず驚く所は誰でも一緒。 

 

後は──@ 儲けになると知る

    A 疑う

    B 大本営から連絡

    C 仲間に加わる

 

このプロセスを経て、三本橋の配下も同然な扱いに身を置く事になる。 中には、ABを省いてCに行くという者も居たが、これは流石に提督としての資質を疑われるだろう。

 

これだけの鎮守府の長を集めるのも、やはり理由がある。

 

ダブった艦娘や精鋭を集めるに、彼女一人で必要数を準備するには、単純に足りなかったからだ。 

 

如何に、鎮守府で建造を行えると言えど、確実に狙った艦娘が出る訳もない。 しかも、資材は有限であり、用途は建造の他に修理や遠征にも必須。

 

だから、複数の鎮守府より協力を得たかった訳であり、逆に鎮守府側にも見返りと《 公認 》という伝家の宝刀があるので、こうして協力している次第であった。

 

まあ、そんな彼女にとって、この鎮守府の長達は、自分の研究に素材を差し出し結果を受け取り、その成果を我が物顔で利用し、相手を見下す有象無象。 

 

毒ぐらい吐かなければ、やっていられないようである。

 

 

『まぁ、いいさ。 全員揃っているようだから、早速行こ──ん? 新たなニューフェイスが居るようだね。 しかも、アレは…………あはははっ、面白いじゃない!』

 

『お、お待ち下さい。 今回はイレギュラーで異物が紛れ混んでおります。 元帥の指示とは言え、あのような得体の知れない者を艦隊に組み込むなど……』

 

『あぁ……かまわないよ。 どのみち、ボクの可愛いい《木偶》達の練度が頭打ちだったんだ。 梃入れ(てこいれ)するには、丁度いいタイミングだっただよ、うん!』 

 

『し、しかし───』

 

『これ、決定ね。 もし、反対するんだったら………父上の元帥に伝えて、提督の首、すげ替えようかな。 さぞかし、風通しが良くなると思わない? ねぇ、そう思うでしょ?』

 

『………………失礼しました』

 

一人の提督は一刀の存在を伝えると、予想通り三本橋は興味を持ち、一刀達を遠征に連れて行く事を宣言。 この後、もう少し時間が経つが、大本営の命令を実行した訳である。

 

 

『おい……今、何回目の遠征だったけ? 三回、四回……まだ続いてたか?』

 

『ばぁーか、お前は後から入ったから行ってないが、既に九回目だよ! へへへ……アイツらの助けを呼ぶ絶叫、今でも快く耳の底から奏でてくれるぜぇ………へへへ……』

 

『…………しかし、あのような兵器を、人と同じ扱いをする惰弱な奴が……』

 

『心配なんていらないよ。 どこの鎮守府でも練度の低さは悩みのタネ。 それが、ボクらの仲間に加入すれば即座に解決するって分かれば、快く説得を受け入れる筈だよ』 

 

『成る程。 もし、駄目なら……さっさと退場……と』

 

『そう言うこと! ────おっと、早く準備しないと、予定の時間に着かないよ?』

 

 

三本橋は自分のした事を棚上げ、提督達を急かし準備させた。 南方海域に行くには、様々な準備が必要。 

 

特に気をつけなければならないのが、あの海域に存在する───特異の深海棲艦。

 

 

『まあ、ボクは………大丈夫だけど、ね』

 

 

三本橋は、後ろに佇む艦娘達を見て微笑む。 自分を護る最高の盾にして、最強の攻撃力たる矛。 

 

そして………自分達の研究の成果。

 

気分の高揚を感じた三本橋は、人目を気にせず堪える事なく高笑いを何度も何度も、繰り返し続けるのであった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 勧誘 の件 】

 

? 南方海域 船上 にて ?

 

 

やっと連合艦隊が編成でき、いざ南方海域へとなる。

 

航海中に深海棲艦の襲撃が幾つかあったが、この辺の海域なら、長門達や他の艦娘達の働きで、難なく撃退できた。

 

今、先頭には、二隻の艦娘が警戒しながらも、戦いの余韻に浸っていた。

 

 

『へへへっ、いやぁ〜久しぶりの戦いは楽しいぜ!』

 

『た、戦いは……終わったんですよね? だ、だったら、もう………下がっていいですか……?』

 

『馬鹿な事いってんなよ、まだ警戒水域だ。 油断すると、どっかから深海棲艦が出てきて、轟沈の憂き目に遭うぜ』

 

『ご、轟沈……ひっ、あああああ!!』

 

『フフフ、怖いだろう? だからこそ、オレやお前が見張りをしなきゃ不安で仕方ないのさ。 仲間を、オレを信じる奴を、心底まで安心させてやらないと、な?』 

 

『……………………』

 

『まっ、心配すんな。 この世界水準超えた装備を持つオレが居るんだ。 轟沈なんてありえ───』

 

『ご、轟沈、轟沈って……二度も言わないで下さいっ! こ、怖いですぅ! ううっ……も、もう……やめてください……!』

 

『お、おいっ! こんな所で泣くなよ!? オレはそんなつもりじゃなく……た、龍田!? 話せば分かる、話せば──』

 

 

一刀達は、三本橋が用意していた軍艦に乗り合わせ、皆の戦い振りを見ている。 

 

流石に長門達は、日頃の訓練や一刀の薫陶もあり、全く危なげに深海棲艦を倒せていた。 一刀は長門達の働きに満足しながらも、天龍の様子に顔をしかめる。

 

 

『………天龍も調子に乗らなければ、世話好きの実力者なんだけど。 もう少し、回りも見渡すよう言い聞かせなきゃ……』

 

『─────ふぅ〜ん、言い聞かせるかぁ……』

 

『!?』 

 

『確かに、《木偶》を完全に自立させ、その機能を余す事なく使い切るやり方は……理に適っているよ。 多数の木偶を平均的に育ってたって、操り手が無能なら役に立たない』

 

『………………』

 

『流石、大本営が定め布告した、艦娘育成計画に異を唱えるだけの男だけあるね。 ボクとも違う艦娘育成方法を持つ、○○鎮守府の北郷一刀……君、だったけ?』 

 

 

一刀が呟いた後に、誰かからの感嘆とした声がする。

 

慌てて振り返れば、この軍艦の持ち主である三本橋が、一刀を見て笑い掛けていた。

 

 

『心配しなくても、取って食う訳じゃないよ? まあ、よく人を食った奴とか言われるけど……まあ、言葉の綾ってやつだから、勘違いしないでよねぇ?』

 

『………は、はぁ……』

 

『そんな戯れ言はどうでもいいや。 拠点に着いたら相談したい事があるんだよ。 君やボク、それどころか人類全体に益がある、ものすご〜く大事なオ・ハ・ナ・シ』

 

 

三本橋は、一刀から強引に約束を得ると満足そうに笑い、拠点の場所を書いた簡易的な地図を渡された。 見れば、カラー刷りされ、ご丁寧に建物の写真まで入っている。

 

何故、ここまで丁寧にされるのか、全く見当が付かない一刀であった。

 

 

★☆★

 

? 南方海域 拠点 にて ?

 

南方海域の諸島の一つに拠点がある。

 

拠点と言っても砦のような建物………ではなく、強いて言えば役所のような箱形。 何の変哲も無いコンクリート製の白い建物は、一見すれば病院のように見えなくもない。

 

地上二階立の何の変哲も無い白亜の建物。

 

普通に見れば間違えそうだが、明らかに違う事が二つある。

 

一つは、ここが南方海域内である事。 深海棲艦と戦う最前線地に、大きな建物など一つあれば十分。 

 

もう一つは、出入り口に門番が二名、他に数名が周囲を回って警戒している。 実に厳重な警戒態勢だが、警備しているのが、何故か艤装を装備したままの、艦娘………である。

 

そんな建物に、あれから一刀は訪れていた。

 

長門達は他の艦娘達と集団行動していたので、此処には居ない。 いや、何処に行くとさえも伝えなかったのだから、付いてくる訳がないのだが。

 

 

『失礼する。 俺は○○鎮守府提督、北郷一刀。 この拠点に三本橋中将は在席か? もし、在席ならば──』

 

『…………司令官が、お待ち、です』

 

 

門番の艦娘に声を掛けると、虚ろな目で一刀の顔を捉え、抑揚のない声で返答し、門を開けた。

 

一声、礼を述べて通過し再度振り返ると、その艦娘は既に先程と同じ前へ向き直っている。 

 

職務に忠実と言えば、正にその通りの行動だ。 だが、一刀は、対応してくれた艦娘の態度に首を捻る。 

 

 

『(確か、あの艦娘は駆逐艦の………だけど、もっと明るくて、表情も豊かだと聞いていたが………)』

 

 

一刀が聞いていた艦娘の性格は、陽気、天真爛漫。 それが、魂が抜けたような対応をされると、自分のとこの艦娘でなくても心配してしまう。

 

そんな違和感を感じ、その駆逐艦の様子に疑念を覚えるが、自分の階級より高い三本橋の要件が大事。 しかも、直に声を掛けられた故、早々に向かうしかなかったのだ。

 

そんな建物内に入ると、また別の艦娘が待機。 やはり、虚ろな目をして、緩慢な動きで一刀を案内する。

 

歴戦の軍人を思わせる隙のない佇まい。

同種の艦娘より完全な上位互換された艤装。

 

難易度が比較的高いと言われる南方海域でも、この艦娘なら十分活躍できると、この場に集まった提督達なら誰でも感心する事だろうと思われた。

 

だが、一刀だけは………思わず眉をひそめる。

 

素晴らしいと称えらる彼女達の表情は、全ての感情を失った、まるで能面のように無表情だったからである。

 

その建物の一階にある、会議室と書かれた重厚な鉄製の扉を開けられると、三本橋と愉快な仲間達(他の鎮守府の提督)の顔か見えた。

 

 

『────待っていたよ、北郷一刀君』

 

『…………………』

 

 

三本橋は座って足を組み、両手を指で絡ませ自分の前に持ってきながら、笑顔で迎える。 そして、目の前にある高級そうな革張りの椅子へ腰掛けるように指示した。

 

一刀は、三本橋の妖艶な微笑みで、一瞬気が緩みそうになるが、そこは気合いを入れて持ち直す。 

 

 

『うふふふ、提督、物欲しそうな顔ですね〜。 その伸びた鼻の下、物凄く見苦しいから切っちゃいましょうか?』

 

 

一刀の頭の中で、微笑みながら嫌みを喋る龍田の映像が、頭の中から離れないからだ。

 

三本橋の後ろには、付き従う提督六名が妬み、冷静、無視、嘲笑と様々な反応を見せながら佇んでいたが、三本橋に反論する者は誰も居ない。

 

彼らは、三本橋に協力を惜しまなかった者達だからこそ、三本橋の機嫌を損ね、愛想を尽かされるのを恐れた。 

 

そうなれば、今までの地位や名声など一気に衰えるのは当たり前。 更迭されるぐらいなら運がいい方で、悪ければ犯罪者として身柄を確保されるだろう。

 

特に、南方海域の死神と恐れられる、かの憲兵に見つかれば………全て、終わりである。

 

 

そんな中、笑みをたたえた三本橋が、一刀へ声を掛ける。 

 

何の前置きも、軽い世間話も、どうして呼び出したかの説明さえも無し、要件だけを語る。 まるで、既に決まった案件を唐突に命令するかの如く。

 

 

『ボクはねぇ……一刀君が欲しいんだ。 だから、君を仲間に迎えたい。 報酬は歩合制、もちろん大本営より高く見積もるよ。 何なら、ボクの身体を自由にしても──』

 

『ちょ、ちょっと、何を───!?』

 

『ナニって……一刀君は、ボクの口から言わせたい? こ〜んな美女の口から、如何わしい事を一言一語、ゆっくりねっとり語らせるなんて、一刀君……意外と変態だよねぇ』

 

『何と浅ましい事!?』

『ほぉ………』

『─────ケッ、羨まけしからん奴だっ!』

 

 

流石、人を食うと言われるだけあると、ある意味感心してしまう一刀たが、どうやら本題は……此処かららしい。

 

何故なら、三本橋の表情が急に真面目な顔となり、冷淡な口調で説明を始めるのだった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 野望 の件 】

 

? 南方海域 拠点 にて ?

 

 

『ちょっと君に興味があって、少し調査したらさ。 色々と面白い事が分かったんだ』

 

 

そう言って、三本橋は話を始める。

 

 

『大本営の頭でっかち達はさぁ、君の事、艦娘を大切にし過ぎる惰弱な提督なんて、寝言同然の世迷い言ほざいているけど、何処をどう見れば……そんな話を言える口があるのかな』

 

『何かにつけて文句を言う木偶、いや、艦娘達を自主的に働かせる運用法。 鎮守府内外で民間人にさえ慕われる人望。 そして、君が立案し数々の成果を挙げた作戦履歴』

 

『これは、決して小さな活躍じゃない。 何事も大きな出来事を起こすのなら、雛型になる実績が必要だよ? 一刀君の活躍は、既に完成されているとの証明さ!』

 

 

かの大本営を貶(おとし)めながら、一刀の表立っていない活躍、評判等を肯定した後、三本橋は自分の研究を暴露する。

 

 

『ボクの艦娘育成方法は、至極……シンプルだよ』

 

『鎮守府内で不要な艦娘達を買い取り、捨て艦として調整し、一つを捨て艦の第一艦隊、もう一つは成長堅調な第二艦隊と編成して出撃させるんだ』

 

『この海域に囮として第一艦隊を出撃。 双方が戦っている時に、第二艦隊に包囲させ、全部まとめて殲滅、だよ』 

 

『当然だけど、こんな簡単な事で一気に第二艦隊の練度が上がるんだ。 これって、漁夫之利って言う、やつさ』

 

『どちらも中破以上は確実だから轟沈しやすいし、こっちも処理が楽。 それに、近代化改修や解体と同じ有効的な活用方法だから、倫理的に何も問題なんか無いんだよ』

 

 

その方法とは、一刀には絶対思い付かない物であり、通常の指揮官ならば忌諱する方法。

 

本来なら、練度を無視した海域への侵入は、戦力低下と人材不足を招く愚かな行動と、慎むものだと理解できる。 

 

だが、高レベルな海域で、上手く生きて帰れば、練度は飛躍的に向上すると言う事例も、また事実。

 

ならば、如何に安全であり、短期間で、高練度を上げれる方法を考えるのは、当然の結末。

 

 

それが───

 

高難易度な海域に未熟な艦娘達を囮とし深海棲艦を集め、艦隊で待ち伏せ包囲の上、囮共々……纏めて壊滅させる

 

───強制的なレベリング。

 

 

大本営の元帥を父に持ち、鎮守府と言う要職を得て、貪欲な三本橋の知識が合わさり、編み出された方法。 

 

通常より短期で高練度になれ、尚且つ、其々の鎮守府で頭を抱えるダブる問題も、これで一応の解決ができよう。

 

 

『はっきりと言おうか。 君とボクが力を合わせれば、深海棲艦なんか敵じゃない。 もちろん、今は無理だよ。 幾らボクでも、そこまで機を読めない奴じゃないからね』

 

『だけど………将来的に五年以内には大本営を乗っ取り、十年以内には深海棲艦どもを駆逐できる。 確実に……さ』

 

『だから、一刀君。 君さえ首を縦に振れば、それで世界は平和になるんだよ。 世界の皆が皆、シーラインを回復させたボク達を讃えるだろうね』 

 

 

『────英雄、革命児、それから……』

 

 

『────天の御遣い、と』

 

 

 

 

□□□□□□□□

 

あとがき

 

長々と筆を置いてしまい、申し訳ありません。

作者の《いた》です。

 

続きをさっさと書いて、次の話に行きたいんですが、ハッキリ言って続きが浮かばず、スマホの画面見ながら、悩んで終わってしまう状態です。

 

そんな状態ですので、書きやすい『何か』から話を進めようと考え、何かと一刀が言っています金剛達の轟沈した話を手につける事になりました。

 

まだ、完結している作品もないのに、こんな物書きやがって……と思われるのは重々承知しております。 

 

しかし、この作品を待ってくれている方達に、何かしらの形にして続きを出さないと申し訳ないので、あえて投稿させて頂く所存です。

 

因みに、後……この文字数で三話ぐらい続く予定。 最後まで書けるように粗筋程度で書いてみましたら、二万文字を越えたので、それ以上にはなると予測しています。

 

相変わらず、我が儘な作者のやり方ですが、それでも付き合ってくれるという方がいらっしゃれば、どうぞ気長にお付き合いのほどを。

 

追伸

 

未だに作者は《艦これ》未プレイ状態です。 ここがゲームと違うと言われても何も言えません。 こんな設定なんだなと、思って頂ければ幸いです。

 

 

説明
前の世界で、艦娘の轟沈を経験した一刀君の話です。
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コメント
mokiti1976-2010提督 いつも応援ありがとうございます。 長い話を作る程、最初の路線から狂いを生じ、話が進まなくなるようで。 ゆっくりですが、自分のペースで頑張ります。(いた)
一度つまずくとなかなか話が浮かんでこないですよね…私も人の事をどうこう言える状況ではないですし。あくまでも自分のペースを保つ事こそ重要です。(mokiti1976-2010)
未奈兎提督 励ましの言葉ありがとうございます。 とりあえず、この話はきちんと終わらせてから、続きを書きたいと思います。(いた)
ご自分のペースでゆっくりとですよ、頑張りすぎると自分を追い詰めすぎるだけですからね(未奈兎)
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