痕 ちーちゃんのおもてなし |
「今日、また耕一さんが来るんだわ」
とある日、千鶴は朝から上機嫌だった。今日から耕一が春休みを利用してまた遊びに来るからだ。しかも、梓、楓、初音の三人はまだ春休みになっておらず、授業がある。そんななか千鶴は耕一を出迎えるためにわざわざ休みを取って出迎えの用意をしていた。
「早く来ないかしら、耕一さん」
知らず知らずのうちに千鶴は声に出していた。それほどまでに耕一が来るのが嬉しいのだろう。
ガラガラッ
勢いよく玄関の戸が開けられる。千鶴は待ってましたとばかりに玄関に向かう。
「いらっしゃい、耕一さ……ん」
そこには耕一の姿とともに楓の姿があった。千鶴の声のトーンが一句ごとに下がっていく。
「どうして楓が……」
千鶴は隠しきれないほどに落胆していた。自分が一番に耕一に会えると楽しみにしていたからだ。それが何の偶然か楓に取られてしまった。
「偶然そこで会ったんですよ」
そんな千鶴の想いを知ってか知らずか、耕一は玄関に腰掛け靴を脱ぎながら千鶴に話しかける。
耕一の言葉に楓がコクッと頷く。
「……おかえりなさい、楓」
冷静を装い、千鶴はにっこりと微笑み楓に話しかける。表面上はまったく変化無く、かわいい妹を出迎えているように見えるだろう。
「……偽善者」
楓はスタスタと千鶴の横を通り過ぎながらボソッとつぶやく。さすが姉妹だけあって千鶴の考えはお見通しのようだ。
ピクピクッと反応する千鶴。
一瞬だがものすごい緊迫感が姉妹の間に漂う。見る人が見ればそこに強力な重力場が見えたかもしれない。
「またお世話になります。千鶴さん」
靴を脱ぎ終わり玄関にあがって、千鶴に向かって微笑みかける耕一。
耕一は二人の間に漂う緊迫感に気づかなかったようだ。いや、変に反応してはいけないと気づかない振りをしていただけかもしれない。
「はいっ!」
元気に応える千鶴。
「そうよね、耕一さんが来てくれたんだもの。それだけでいいわよね」
千鶴は小声で自分にそう言い聞かせた。
「じゃ、お部屋に案内しま……」
「あっ、耕一お兄ちゃんいらっしゃい」
千鶴の言葉は途中で遮られた。初音が元気よく帰ってきたからだ。帰ってくるやいなや初音は後ろから抱きつくように耕一にしがみつく。
いきなりのことで耕一は一瞬バランスを崩すがどうにか持ち直した。
「こんにちは、初音ちゃん」
そっと初音の頭に手を置いて優しくなでる。抱きついたまま、初音はエヘヘと嬉しそうに笑う。
「初音、はしたないわよ」
千鶴がたしなめる。ただ、その言葉じりには多少に羨望が感じられた。
「ほら、千鶴姉が羨ましがってるからそのくらいで止めておきな」
入り口から声がする。その声を聞いて初音は名残惜しそうに手を離す。
「お帰りなさい、梓お姉ちゃん」
声の主、梓に向かって初音が挨拶をする。
「よっ、また邪魔させてもらうよ」
耕一も梓に向かって軽く手を挙げ挨拶をする。梓も答えるように元気よく手を挙げる。
「ちょ、ちょっと梓、初音。まだお昼なのよ。楓といい、なんでもう帰ってこれるの?」
千鶴が非難がましく声を上げる。千鶴にしてみれば梓、楓、初音の三人が帰ってくるまで耕一とふたりっきりの時間を過ごせるはずだったのが、あっという間に四姉妹が勢揃いしてしまったのだから。
「なんでって言われてもなぁ」
「うん」
梓と初音は困ったように顔を見合わせる。
「土曜だから」
ハモるように二人は答える。確かにカレンダー上では土曜なので、学校も半日で終わるのも当然である。ただ最近の千鶴は曜日に関係なく仕事をしていたし、土曜が半日という生活をしていたのがかなり前だったためにすっかり忘れていたのだ。
「耕一さんとふたりっきりの時間が……」
心の中でつぶやき、千鶴は頭を抱えて落ち込み始めてしまった。よほどのショックだったのだろう。今日の休みを取るためになんのために残業の日々を送ったのか、千鶴は自分の運の無さを恨みたいほどである。
「え〜〜と……」
耕一は困ったようにあたりを見渡す。だが梓も初音も救いの手は伸ばしてはくれなかった。
「大丈夫だよ、すぐに立ち直るから」
「そうそう」
初音の言葉に梓も頷くだけである。
「……だって、耕一お兄ちゃんが来てくれてるんだから」
初音はつぶやく。そのつぶやきは耕一には聞こえなかったが隣にいた梓にはどうにか聞き取れていた。梓も同じ考えだったのでうんうんと頷く。
「さ、とりあえず部屋に案内するよ」
梓が耕一の鞄を持とうとした瞬間、ひったくるように鞄を持つ手が現れた。言わずもがな千鶴の手である。どうやらふっきれたらしい。
「耕一さんは私が案内します、ささっ」
千鶴は半ば強引に耕一の手を引き奥へと連れて行ってしまった。その光景を微笑しながら見届ける梓と初音の姿があった。どうやら二人とも完全に予想していたようだ。
こうして柏木四姉妹は久しぶりに普段とは違った、耕一の居る生活が始まった。
「みんな、ご飯の用意が出来たわよ」
居間でくつろぎながら待っていた耕一、楓、初音の三人が瞬間的に3メートルほど後ずさる。料理を持って現れたのが千鶴だったからだ。
「大丈夫だよ、作ったのはあたしだから」
すぐに梓がエプロンを外しながら居間に入ってきた。
後ずさっていた三人はいつの間にか先ほどの定位置へと戻っている。
おいしそうな匂いが部屋に充満し始める。
「いやぁ、豪勢だね。いつもこんなに豪勢なの?」
鍋料理を見ながら耕一が言う。さきほどの行為は無かったかのように振る舞っている。
そんな耕一をジト目で見つめる千鶴。耕一の頬を冷や汗がツツーと流れる。鍋が来たから部屋の温度は上がっているはずなのに耕一の体感温度は二、三度下がったかもしれない。
「ボ、ボタン鍋だなんて初めてじゃないかな。ほんとおいしそうだね」
そんな耕一に助け船を出したのは初音であった。
その言葉にはかなりの白々しさが感じたが、耕一は心の中でおもいっきり初音に感謝した。
「……ほんと、おいしそうです」
楓も初音の後に続く。
「でもでも、そのイノシシを『かって』きたのは私なんですよ」
訴えるような目で耕一を見つめる千鶴。まるで捨てられた子猫のように訴えるような目をしている。
「あ、ありがとうございます」
気圧されたのか耕一の言葉には多少の狼狽えが感じられた。先ほどから生きた心地がしないのは気のせいだろうかと自問している。
「でも、イノシシ一頭丸ごとさばくなんてさすがに初めだったよ」
疲れたように梓が言う。多少わざとらしく肩をたたく。
「へぇ、こっちは一頭丸ごとなんて売ってるんだ……」
耕一が驚きの声が挙げる。
一瞬の沈黙の後に梓の笑い声が響く。
「……ははははっ、耕一勘違いしてるよ」
キョトンとする耕一。なんで梓が笑っているのか全然わからいない。
「耕一が考えているのは『買って』きただろうけど、千鶴姉が言っているのか『狩って』きたんだよ」
梓の笑いはまだ収まらない。
耕一は梓の言葉の意味が一瞬わからなかった。数秒おいてその意味が浸透してくる。
「……鬼の力使ったんですか」
納得したように耕一は千鶴を見る。
「花嫁修業の一環ですよ」
頬を赤らめて照れくさそうに千鶴は答える。
部屋の空気が一瞬凍りつく。
「どこの花嫁修行だ……」
千鶴を除く四人は同時に心の中でツッコミを入れていた。
「あっ、耕一お兄ちゃんお腹まだ大丈夫?」
晩御飯も食べ終わり、梓が煎れてくれたお茶を飲みながらの団欒の中、初音が話しかけてきた。
「えっ、お腹って……今回は梓の料理だから大丈夫でしょ?」
空になった鍋と初音を交互に見る耕一。その後ろでは千鶴が涙目で何かを訴えている。
「そういう意味じゃないよ」
慌ててパタパタと手を振る初音。
耕一はお腹がおかしくなっていないか聞かれていると思ったのだがどうやら違うようだ。
「今日家庭科の授業があってクッキー作ったんだ、よかったら耕一お兄ちゃんに食べて欲しいなって」
カバンから包み紙を取り出し耕一の前に静静と差し出す。うつむいているが顔はすでに真っ赤になっているのがわかる。
耕一は包み紙に包まれたクッキーを丁寧に受け取る。
「ありがと、それぐらいなら入るよ」
そう言いながら耕一は包み紙を開ける。そこには何種類かの動物の形をしたクッキーが入っていた。
耕一は初音に微笑みかける。
「おいしそうだね、初音ちゃん」
耕一の一言でさらに顔を赤くする初音。
耕一はクッキーの一つを手に取りおもむろに口の中に放り込む。
パリッポリッ
耕一がクッキーを食べる音が部屋に響く。その一挙動を初音はジーッと見つめる。耕一の反応を待っているようだ。
「うん、おいしいよ」
初音に向かってにっこりと微笑む耕一。その言葉を聞いて初音は満面の笑みを浮かべる。
「なぁなぁ、一つ貰っていいかな?」
梓が初音に尋ねる。楓も遠慮がちに初音を見る。
「うん、いいよ」
耕一に誉められて気を良くしたのか初音は一つ返事で答える。
許可が出たので梓と楓もクッキーに手を伸ばす。
「へぇ、ほんとにおいしいや」
梓の言葉に楓もうなずく。
「これでもうちょっと形が良ければなぁ」
梓が手に取ったクッキーを眺めながら言う。
「そんなことないだろ。これなんか鳩そっくりだし」
耕一がフォローする。
初音は耕一が指さしたクッキーを確認する。
「耕一お兄ちゃん、それ鳩じゃなくって鶴……」
初音が恥ずかしそうに言う。
「ご、ごめん…」
本当にすまなそうに耕一が謝る。どうやらフォローは完全に失敗に終わったようだ。耕一は気まずそうに下を向く。
「あ、そうだ」
会話に入り損ねた千鶴がスッと立ち上がり台所へと足を向ける。台所ではガサゴソと物を探す音がする。
「私も作ったんですよ。クッキー」
戻ってきた千鶴の手にはクッキーの山が存在していた。
静寂があたりを支配する。時が止まったと言ってもいいかもしれない。
耕一は手に持っていた初音のクッキーを一瞬落としそうになって慌てて掴みなおした。
戻ってきた千鶴はちゃっかりと耕一の隣に座る。他の三姉妹は千鶴の作ったクッキーと微妙な距離を取る。
「…耕一、胃薬は用意しておくから」
立ち上がりざま、ポンッと耕一の肩をたたく梓。それが耕一には死の宣告のように感じられた。耕一は目の前が暗くなるのを感じた。
「はいっ、あ〜ん」
千鶴はクッキーを耕一の口元に持っていく。
耕一を意を決して口を開く。目は力の限りつむっている。
しかしいつまでたっても耕一の口の中にクッキーが入ってくる気配は無かった。恐る恐るだが目を開こうとする耕一。そこには千鶴の手の中で暴れるクッキーの姿があった。
ポカーンとその光景を見つめる耕一、梓、楓、初音の四人。千鶴だけがクッキーと格闘していた。
「……逃げた」
死闘を繰り返すこと数分。とうとうクッキーが千鶴の手から逃げだした。
あまりの出来事に呆然とする四姉妹。耕一だけがクッキーを食べずにすんでホッとしている。
「…クッキーならまだあるんですから」
ハッと我に返る千鶴。耕一がまたもや一瞬で凍りつく。
「ちょ、どこ行くのぉ」
クッキーのほうに向き直った千鶴が悲鳴を上げる。他のクッキーも同様に逃げ出していたのだ。
千鶴は一生懸命捕まえようとするがクッキーのほうが一枚上手でなかなか捕まらない。
「クッキーって動き回るものだっけ…」
そんな光景を見ながら初音が自問するように声を出す。
他の三人は力いっぱい首を横に振る。
「…でも、まぁ千鶴姉の作ったものだから」
梓のつぶやきに妙に納得のいった三人であった。
「さて、耕一さんの布団も敷き終わったし……」
耕一が泊まる予定の部屋に引いた布団をじっと見つめる千鶴。その間に耕一には風呂に入ってもらっている。
「ふぅ、広いお風呂っていいよなぁ」
風呂から上がり、耕一は廊下で一息ついていた。
いかにも風呂から上がったところですとばかりに体から温かそうな湯気が出ている。
「あっ、耕一お兄ちゃんお風呂上がったんだ」
待ってましたとばかりに初音が声をかける。
「うん、いいお風呂でした」
「これからトランプでもしない?」
もじもじとしながら初音が言う。耕一はそんな初音の仕草をかわいらしく思う。
「いいよ、どこでする?」
「実は部屋で梓お姉ちゃんと楓お姉ちゃんが待ってるんだ」
恥ずかしそうに初音が言う。
一瞬置いて耕一が初音の頭をなでる。
「なんだ、待ち構えてたんだ」
「……うん」
初音は恥ずかしそうに返事する。
耕一は初音をなでる手にやさしくだが力を込めた。
「ちょ、耕一お兄ちゃん」
初音が上目がちに耕一を見つめる。恥ずかしそうな、それでいて嬉しそうな瞳をしている。
「なでられるのは嫌い?」
なでている手を止めて初音に問いかける。
「ううん、好き…」
「それじゃもっとなでてあげるよ」
微笑んでからなでるのを再開する耕一。だが、何か感触が違う。
「あれ、なんか感じが……って梓ぁ!」
いつのまにか初音の変わりに梓がそこにいた。
ずっと手を初音の頭の上に置いていたはずなのに初音と梓が入れ替わったことに耕一は全然気づかなかった。凄まじいまでの技である。
「初音ばっかりかまってないでさぁ」
「はいはい、梓もなでて欲しいのな」
先に言われて顔を赤くする梓。微動だにせずに耕一が頭をなでている感触を楽しんでいる。
「こうしてると梓もかわいいのにな」
耕一がそんな感想を述べる。ボッと梓の顔が一層赤くなる。
「……今はそんなこと言わないで欲しいな」
梓が非難の声を上げる。だがその声はやさしい響きを持っていた。
「わかったよ……んっ?」
耕一は服のすそをクッ、クッと引っ張られるのを感じた。
耕一が振り返るとそこには服のすそを掴む楓の姿があった
「楓ちゃん……楓ちゃんも?」
コクッとうなずく楓。
「とりあえずここじゃ冷えちゃうから部屋に行こうか」
三人はうなずき初音の部屋へと向かう。
楓はしっかりと耕一の腕にしがみついていた。
「…そんなに強くしちゃだめです」
楓のか細い声が聞こえる。
ゴクッと耕一が生唾を飲み込む音が聞こえる。耕一もかなり緊張しているようだ。
「もっとやさしくしてください」
今度は耕一に向かって初音が声をかける。
「うん、やさしくだね…」
耕一の手がゆっくりと、本当にゆっくりと動く。
「そう、うまいよ耕一」
梓が耕一をやさしく誉める。その瞬間、耕一の手が不意に動く。
「あぁっ、ダメ、おちちゃう」
初音の悲鳴が聞こえる。
「……なぁ、声だけ聞いてるとすごくエッチに聞こえるんだけど」
苦笑しながら梓が話しかけてくる。
「言わないでくれるか、考えないようにしてたんだから」
こちらも苦笑しながら答える耕一。
部屋ではトランプを積んでピラミッドを作ろうとしている一団の姿があった。
「もう少しだったのになぁ」
残念そうに耕一が言う。
トランプはかなりの高さまで積み上がっていたのだが、今は無残に散らばっている。
「こういうシンプルな遊びもたまにやると燃えるだろ」
散らばったトランプを集めながら梓が言う。
「とっても楽しかったよ、耕一お兄ちゃん」
うれしそうに初音が言う。
「…楽しかったです。耕一さん」
楓も頷く。
「そこまで言われると恥ずかしくなっちゃうよ」
赤面しながら耕一が答える。照れ隠しにポリポリと頬を掻く。
「耕一、顔が真っ赤になってるぞ。まぁこんな美人三人に囲まれたらしかたないだろうけど」
茶化すように梓が言う。他の二人が苦笑する。
「美人三人?楓ちゃんと初音ちゃんの二人はわかるけど、もう一人はどこにいるの?」
わざとらしいぐらいに辺りをキョロキョロと見渡す耕一。楓と初音がプッと噴出すのが見える。
「…耕一ぃ」
梓が片腕の袖をまくり上げ、その腕に力を込める。が、その表情には全くと言っていいほど怒気は感じられない。
「助けて、楓ちゃん初音ちゃん」
二人の後ろに隠れるように動く耕一、だがその顔は完全に笑ってる。梓が全然怒っていないことがわかっているからだろう。
四人は互いの顔を見比べる。
「あははははっ」
四人はその場に座り込み大声を上げて笑い始めた。
「それじゃそろそろお開きにしようか」
トランプを片付けながら耕一が言う。
「あ、あのね」
梓、楓、初音の三人が声をそろえる。三人とも顔を赤らめている。
何事かと耕一が思い始めた矢先、梓が後を続ける。
「今日は一緒に寝て欲しいな」
それが三人を代表しての言葉だった。三人は懇願するように耕一を見る。
「一緒にって……」
困ったように耕一が言う。
「別に変な意味じゃないよ。ただみんなで一緒に居たいだけだから。」
「でも、この時期まだ寒いから布団……」
見た限り初音の布団一組しかない。春も近いとはいえこの時期布団無しでは風邪を引いてしまうだろう。
そんな心配をしている耕一を見て梓はクスッと笑う。
「それなら大丈夫。ちゃんと用意してあるから」
そう言うと梓と楓の二人は廊下へと出ていく。
二人ともしっかりと自分の部屋から布団を持参していたようだ。廊下からそれぞれの布団を運んでくる。
「ふぅ、それならいいか」
観念したかのように耕一は提案を受け入れる。用意が良すぎるのを見て苦笑し始めてはいるが。
「で、俺はどこに入ってらいいのかな?」
布団を敷き始めた梓に向かって耕一は尋ねる。三組の布団は隙間の無いようにきっちりとそろえて敷かれようとしていた。
「話し合って決めたんだ。今日はみんなで川の字になって寝るって」
梓が答える。耕一に真中に入ってもらいたいようだ。しかし、いつの間に決めていたのか疑問が残るところだ。探せばどこかに『対耕一用マニュアル』というものが出てくるかもしれない。そう思いながらも耕一はこの姉妹を愛おしく思っていた。
「四人だと川にならないぜ」
耕一が言う。確かに四人だと川と言う字にはならない。
「大丈夫。初音は耕一の上に寝るから」
多少意地悪く梓が答える。どうやら既に決定事項らしい。
「ん〜〜、いくら初音ちゃんが軽いとはいえ、さすがにそれは夢見が悪そうだなぁ」
苦笑しながらも耕一は布団の中にもぐりこんでいった。この姉妹たちとの時間を大切にしたいと思ったのかもしれない。
「それじゃ電気消すよ」
電気を消した初音が布団にもぐりこんでくる。
耕一は三人温かさを感じながら眠りへと誘われていった。
「この時期はまだ寒いわよね」
耕一が妹たち三人と川の字になって寝ている頃、千鶴は一人耕一の部屋で待っていた。
千鶴はしばらく思案した後、おもむろに布団の中に潜り込む。
「寒いと思って暖めておきました……
『俺は千鶴さんの体で暖めて欲しいな』
いや、千鶴って呼んで……
『千鶴……』なぁんてことにならないかしら」
自分で言ったことに赤面しながらキャーキャー言う千鶴。どうやら完全に妄想モードに突入してしまったようだ。
「……それにしても耕一さん遅いですね」
ハッと我に返る千鶴。千鶴は一人寂しく布団の中で耕一の帰りを待ちわびていた。
こうして柏木家のいつもとは違う一日は終わっていった。
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リーフ「痕」の二次創作。 2000年に書いた物ですね。リニューアル版はやっていないので設定違うかもしれません。 |
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