Shining star[BL]
[全1ページ]

幾年もを越えて

それでも

足りない想いがある

 

 

 

―― Shining star

 

 

 

初雪はまだ来ない。

けれど締め付けるような寒さが首裏をなでて、ルルーシュは思わず身を竦めた。

まったく、どうしてこんなに寒いのに、夜中にっ、わざわざ、誕生日にっ。

一歩地を踏みしめるたびに心の中でぼやいてみても、白い息が立ち昇るだけで慰めてはくれない。

せめてと巻いたマフラーも、外気に冷やされ保温どころかむしろ体温を奪ってしまいそうな勢いで。

 

 

 

なぜルルーシュが自分の誕生日に外に出向いているのか。

その答えは彼の恋人(とルルーシュが呼ぶことは決してないが)であるスザクにある。

2・3日ほど前、突然電話をかけてきたかと思えばさっさと約束を取り付けて、それで用は済んだとばかりに通信を断った。

そこに口を挟む隙は一切なく、いやむしろそうさせないためだったのかもしれないが、こうしてルルーシュは嫌々歩いているのだ。

誕生日を祝われることはやぶさかではない。

けれど寒がりのルルーシュにとって、冬の、しかも夜中に、外に出て行くなんて狂気の沙汰としか思えず、その憤懣は募るばかり。

会って第一声は罵倒に違いないと彼の頭の片隅にある冷静な部分が、この先の予定を組み立てていた。

 

 

 

「ルルーシュ」

 

なのに。

きんと冷えて張り詰めた空気の中、それに合わないふわふわとした栗色の髪。

ゆれて新緑が覗いて、それが瞬いて。

冷やされて白くなった吐息がぼかす、その輪郭がやけにやわらかい気がして。

事前に狂いなくたてられていた予定がはらはらと崩れていく。

音を立てない崩落で、ルルーシュの思考をとめてしまう。

 

「たんじょうび、おめでとう」

 

寒さで赤くなった頬と同じく、舌も上手く動かせなくなったのか、やや舌っ足らずな音が鳴る。

ふんわりと舞う雪のような軽さと甘さでスザクが笑ってみせるから、ルルーシュは一度大きく息を吐いた。

 

「ありがとう」

 

なぜ許してしまうのか。

さっきまで用意していたはずのセリフはどこに消えたのか。

忙しいルルーシュの思考が警報をならし喚起させるけれど、その別のどこかで、仕方ないスザクだから、という声がする。

スザクが笑うたびに警報はその音を小さくしていき、代わりに言いようのない笑いがこみ上げる。

おかしい。

まったくもっておかしい。

完璧だったはずの計画を崩し、思考を塗り替える。

そんなことができるのはきっと、スザクだけだろう。

ああ、おかしい。

この気持ちは少し、うれしい、に似ている。

 

「ルルーシュ、こっち」

 

「ん?」

 

「見せたいものがあるんだ」

 

そう言って、スザクはくるりと背を向けた。

さすが軍人というべきか、意外にもある肩幅は茶色のコートを嫌味なほどに着こなしている。

ルルーシュが今着ている黒いコートは咲夜子がくれたもので、これあったかいんですよと言われ受け取ったものであるが、女物なのは誰にも言っていない事実だ。

男物を着ると肩幅が合わず、仕方ないといえば仕方ないのだが、意味なく悔しい。

息が白く浮かび、まるで気持ちを表すようにもやもやと漂い消えていった。

 

 

 

「ルルーシュ、見て」

 

突然ぴたりと足を止めたスザクは、寒いというのに手袋もはめていない手をコートのポケットから取り出し、人差し指を静かに伸ばす。

ゆっくりとその先を追えば、目の前に広がったのは。

 

「ほし」

 

「きれいでしょ? たまに軍の帰りに見るんだけどね」

 

ルルーシュに見せたかったんだ。

そう言って微笑まれて、なんだか居たたまれなくなったルルーシュは、顔をそらして空を見上げる。

天の川さえ見えそうなほどにクリアな空。

冬の冷えた空気のせいか、まじりのないその輝きを伝えてくれる。

その光は、何億光年を超えて。

 

「ね、ルルーシュ、誕生日プレゼントに魔法を1つだけかけてあげる」

 

スザクの声がやけに楽しそうでうれしそうで、だからきっとルルーシュにもそれがうつったのだ。

だから、いつもはいなして終わるはずの言葉に乗ってしまったのは、きっと仕方のないこと。

 

「お前、いつから魔法使いになったんだ?」

 

少し睨み付けるように問えば、栗色の髪がふわふわ跳ねて茶色のコートを羽織った肩が揺れた。

 

「ずっと黙ってたんだけど、せっかくの誕生日だからね」

 

「ふーん? で、俺は見返りに何をすれば?」

 

「そんなのいらないよ。誕生日プレゼントだからね」

 

「じゃあ12時になったら溶けるとかか?」

 

「シンデレラ? でももう日付は変わっちゃったよ」

 

「別に次の12時でもかまわないだろ」

 

「疑り深いなあ。まあいいや。とにかく。お願い事は、」

 

なあに?と首をかしげてみせられて。

その背景には目もくらむような星空が広がって。

だから、もう少し見ていたいとルルーシュは思った。

ただ、それだけのこと。

 

「制限は?」

 

「制限?」

 

「いろいろあるだろ? 願い事を増やすのは無理だとか」

 

「うーん、確かにそれはずるいから駄目だ」

 

「他には?」

 

「じゃあ先にお願い事を言ってよ、それで判断するから」

 

「残念だったな。思いつかない」

 

「ええ! 台無し!」

 

「みたいだな」

 

ルルーシュはひどくおかしくなって、それに似て、うれしくなったのでくすりと笑いを零した。

今がおかしくてうれしいから、願い事が思いつかない。

でもそんなことを口に出すほど、ルルーシュは羞恥心を捨ててはいなかった。

 

「じゃあルルーシュ、

 

 

 

 溶けない魔法をかけてあげる」

 

そうだというのに、スザクの目はすべてを見透かすように瞬いている。

何億光年を経て輝く星がかすんでしまう程に、きらきらと。

だから、耳元で小さく囁かれた言葉を理解するのに、普段では考えられないぐらいの時間を要したこともまた、仕方のないことだ。

 

「――――――」

 

スザクの喉の震えが、ルルーシュの鼓膜を揺らし、音になって、言葉になって、ようやく意味に成る。

何億光年もかかってしまうのではないかという時間を経て。

 

「っば、ばかだろう、お前!!」

 

「そう?」

 

「ばかだ!」

 

「そうかも、ねっ」

 

突如としてひっぱられた腕にバランスが取れなくなったルルーシュはそのままスザクの胸へと倒れこむ。

スザクから見えるルルーシュの耳が赤いのは、寒さか興奮か羞恥か。

どれでもいいから今すぐ穴を掘って入り込んでしまいたい。

そう思ったルルーシュは、腕をスザクに廻してぐっと力を込め、もう一度ばかだと、吐息だけで呟いた。

説明
似非くさいスザク。
ルルーシュの誕生日に合わせて書いたブツです。
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小説 コードギアス スザク ルルーシュ スザルル 女性向け ShiningStar 

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