フレームアームズ・ガール外伝〜その大きな手で私を抱いて〜 ep13
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「あ、また轟雷達移動したみたいだ」

 

 GPSで轟雷達を追いかけてきた黄一達だが、目的地を転々としておりその都度人数が増えると言う事態になっていた。人間だけでも黄一、ヒカル、健、大輔、FAGの方はスティレット、フレズヴェルク、アーキテクトの大所帯だ。

 

「またぁ?!今度はどこよ!」

 

 スティレットはうんざりした様子で答えた。完全なたらい回しにその場にいた全員が同じ様な感想だった。

 

「追いかけて行ってもキリがないよ。何か予想して目的地に先回りしておいた方が……」

 

「肯定する。マスター、現在予想出来るポイントは……」

 

――……アーキテクト、ルシファーズウイングつけてる……いいなぁ――

 

 大輔の発言にうんうんと頷くアーキテクト。彼女は先程同様にルシファーズウイングを装備していた。スティレットが羨ましそうに見ている。

 

「日がそろそろ落ちて来るわけですから、そろそろ戻ると思いますよ黄一さん」

 

「轟雷一人だったらこのまま帰ってたんだろうけど。ライと迅雷型も一緒なんでしょ?ライだったらレーフ置いて帰るなんて出来ないだろうし」

 

 黄一のスマホのマップを見ながら、健とフレズが口を開いた。

 

「で、この方角……こりゃ目的地は恐らく……」

 

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 轟雷達の向かった先はいつもの模型店だった。帰って来たわけだ。

 

「結局帰ってきちゃいました……」

 

「で、轟雷……何か解った?」

 

「正直余計こんがらがった感じですよ。……FAGと人間が恋愛するって、間違ってるのかなぁ……」

 

「……なんだかスティレット達を否定された事に、余計に悩むようになってしまったって感じだね轟雷……」

 

「……」

 

 迅雷の指摘に轟雷は言い返せない。それ以前に、マリ姉妹に言われた事が轟雷に突き刺さる。スティレット達のしていた事を否定される言葉だった。しかし轟雷としてはそれを正しいと思う事はどうしても出来ない。スティレット達が恋愛してる様子はとても輝いて見えたからだ。

 

「ただいまレーフ……」

 

「あらおかえり三人とも」

 

 模型店のコミュニケーションスペースに降り立つ三人。カウンターに座るとまだバニーガールのコスプレをしたレーフが出迎えた。

 

「レーフ……恋愛をする事自体が正しいのか解らなくなりましたよ。間違ってると言うのなら……」

 

 レーフは黙ってカクテルを渡す。

 

「ってレーフ……私は飲めませんよ」

 

「ていうかまだコスプレしてたのお姉ちゃん」

 

「ライ、あなたねぇ……置いて帰れるわけないでしょうがぁ……!と、あちらのお客様からよ」

 

 ライの発言に怒りをにじませてレーフは答える。直後に彼女はカウンターに座った轟雷達の背後を示した。「あちら?」と轟雷達は後ろに目をやると、店の外側の席。中を覗き、FAG達とコミュニケーションをとる為に設けられた人間用の席、そこにいたのは……。怪しい人物だった。

 

「……初めまして!」

 

「っ!!!!」

 

 轟雷は、否、迅雷とライも含めて声を失った。その姿は、タイトスカートの女性用スーツを着込んでいるので、首から下は普通の人間の女性といった所である。肝心の首から上は……FAGの元ネタ、フレームアーキテクトの頭部だった。一言で纏めると某アーキテクトマンの女性タイプである。なお轟雷達の印象としては……。 

 

「へ!変態だぁぁっ!!!」

 

「うわぁぁっ!!!変質者!!!変質者です!!!誰か来てくださいぃぃ!!!!」

 

 変質者でしかなかった。思いっきり絶叫をあげる轟雷達三人。

 

「へ!変質者ではありません!!ワタクシ!ファクトリーアドバンス社の者です!!」

 

 そう言って怪しい女性は名刺を取り出すと店の中の轟雷達に手渡す。小さな厚紙は轟雷達にとっては新聞紙を広げた様な大きさだった。確かにファクトリーアドバンス社と書かれている。そして中央に書かれた彼女の名前は……。

 

「???……アーキテクトウーマン?」

 

 名前と眼の前の怪しい人物を交互に見る。

 

「はい!ワタクシFA社において宣伝やお客様のお悩み相談等を担当させていただいております!……ではちょっと失礼」

 

 アーキテクトウーマンと名乗った女性はそう言うと轟雷を両手で掴む。

 

「うわぁっ!なんですか!私の身体が目当てなんですか?!」

 

「違います!……ちょっと待って下さい!」

 

 そう言うとアーキテクトウーマンは頭部中央のアイガードの部分からサーチライトの様な光を轟雷に向けて放つ。

 

「ひぃぃっ!!やっぱり身体目当てなんですね!私が可愛いからって許しませんよ!」

 

「あぁ動かないで!ちょっと黙っててくださいってばぁ!」

 

 轟雷の行動に慌てる。どうも初々しい挙動のアーキテクトウーマンだ。暫くしてライトは停止。アーキテクトウーマンは何か解ったように口を開く。

 

「認証完了。登録ユーザー諭吉黄一さんの轟雷ですね!シリアルナンバー認証……はいご本人に間違いなさそうです!諭吉黄一様からの連絡でご相談に来ました!」

 

「あ……そういえばマスターがFA社に連絡入れたんだっけ」

 

 昨日黄一が本社に連絡を入れたのを思い出した轟雷。と、そんな人に自分は変質者と言ってしまったのかと轟雷は気まずくなる。

 

「じゃあ本当に本社からのスタッフって事かい……?」

 

「あ!すいません!変人扱いしてしまって!」

 

「いえいえ。誤解が解けたようで何よりですよ。それで轟雷さんの様子がおかしいと連絡を受けましたので、マスターである黄一様はいらっしゃいませんか?」

 

「あ……そういえばマスターは?」

 

「あなたを追いかけて出てったわよ。……多分カンカンに怒ってるでしょうね」

 

 怒らせた。という言葉に轟雷は頭を抱えた。スティレット達も行く先々で怒らせた事を思い出したからだ。

 

「あぁ〜どうしよう〜皆になんて謝れば……」

 

「あの……できればマスターご本人から症状を確認したいのですが……」

 

 状況が飲み込めず困惑するアーキテクトウーマン、と、轟雷はある事を思い出した。

 

「あ!あの……本社の方でしたら相談したい事が……」

 

「?何でしょうか?」

 

 相談したい事、というのは勿論マスターとFAGの恋愛についてだ。轟雷は話し始める。さっきマリ姉妹に言われて揺らいでいた事を含めて。

 

「……それで、言われたんです。私達は本質はホビーだって、人間と対等の立場にはなれないって……」

 

「そう、それであなたはお友達を見習ってマスターと恋愛をしたいと」

 

「はい……恋愛を否定した友達の言ってる事は解ります。でも、恋愛感情をマスターに抱いてる友達も間違ってるとは思えないんです。それじゃ何の為に私達のAS、心はあるんだろうって思って……」

 

「あなたのマスターが言っていた変になったって言うのは恋愛感情の事だったんですね……」

 

「残念ですが、私には恋愛感情は解らないままですよ。……私には解りません。本社のアーキテクトウーマンなら、どちらが正しいと思いますか?」

 

 迅雷たちにとっても気になる話題らしい。その場にいたFAG達の多くが聞き耳を立てていた。(ライはカラオケで熱唱していたので除く)

 

「そうね……。どちらも正しい。かな」

 

「え……それでは意味が……」

 

「その否定したお友達は当初のFAGの目的を果たそうとしている。そして恋愛感情を持ったFAG達も自分の限界を越えようとしています。私としてはどちらも正しいと思いますよ」

 

「……では、人間とFAGが結ばれることは、可能なんでしょうか?」

 

 マリとの話で生まれたもう一つの疑問はそれだった。人間と対等でいるには人間でなくてはならない。という言葉。

 

「それは……、そのFAGとマスター次第としか言いようがありませんね」

 

「……さっきから随分とのらりくらりとかわす言葉ばかりじゃないですか」

 

 どっちつかずの言葉ばかりだ。ハッキリさせようが無い答えに轟雷はどうもイラつく。不機嫌な表情でそう言う轟雷にアーキテクトウーマンは申し訳なさそうに言葉に詰まった。

 

「轟雷。よしなさい」

 

 心中を察したのかレーフが止めに入る。しかし轟雷は納得がいかない様だった。

 

「レーフの言う通りだよ轟雷……」

 

 迅雷もそれに続く。

 

「マイノリティ、性的少数派という言葉は昔からあったよ……。世間的に普通じゃないという恋愛はその人それぞれが答えを見つけるべきなんだ……。その人が言った事は正しい……。ボクらで解決出来る様な事じゃないんだ……」

 

「二人とも……。すいませんアーキテクトウーマン。困らせる様な事を……」

 

 渋々ながらも謝る轟雷。アーキテクトウーマンは「気にしないでください」と答えた。

 

「……でも、最後に聞かせて下さい。さっき言っていたFAGの限界を越える。それは……可能なんでしょうか。私達の本質はホビー、それを越える事は」

 

 轟雷の真剣な表情だ。その表情を見たアーキテクトウーマンは何か感じる物があったのかもしれない。少し違ったトーンで話し始める。

 

「そうですね……。かつて、あなた達FAGは人間とのコミュニケーションを目的に開発されました。その時はあくまで新世代ホビーとしてです。でもある時にその範疇を超える出来事がありました」

 

「……第二世代型、試作型轟雷と源内あおの生活ですね」

 

 有名な話だ。轟雷にとっても行動の根源にある物である。

 

「その通り、本社の予想を大きく超える轟雷の成長に、結果的に試作型轟雷は当初の予定よりもずっと人間に近い情緒を得ました。代表的な物が涙ですね」

 

 かつて試作型轟雷が再現不可能と言われた涙をナノマシンによって生成し流した。というのは量産型FAG達にとって有名な話だ。本社は試作型轟雷達のデータとノウハウを元に量産型のFAGを販売した。単純なビジネスに加えて、更なる多様性と成長の為に。

 

「知ってます。……マスターに対して恋愛感情を持つ事も、その結果だったのでしょうか」

 

「そこまでは解りません。なにしろ試作型のFAG達は男性と接触したデータが不足してますので……」

 

「でも……今度のは自己完結で済む涙とは違います。恋愛となると直接マスターを巻き込む物じゃないですか」

 

「……私は、そしてFAGの開発者の多くは、それも乗り越えられると信じてます」

 

 薄情な答えと言ってしまえばそれまでだ。しかし当事者でない彼女が言えるのはこれが精一杯だった。それは言われた轟雷の方も理解していたらしい。それ以上言う事は無かった。

 

「そうですか……有難うございます……そして、すいませんでした。意地悪な質問ばかりになってしまって……」

 

 深々と頭を下げる轟雷、彼女にとっての解決にはなったろうかとレーフは気になるところだ。

 と、その時だった。

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「轟雷!こんな所にいたのかお前!!」

 

 どかどかと大人数を引きつれて黄一が入ってきた。後ろに轟雷が覗きをしまくったFAG達とマスター達を引きつれてだ。

 

「あ!マスター!!と……げぇ!皆!!」

 

 顔面蒼白になり後ずさる轟雷。そして迅雷とライも同様の表情となる。全員がもっと早く逃げておけば良かったと同じ事を考えていた。ちなみにアーキテクトウーマンは邪魔にならない様にさっさと下がる。

 

「轟雷……覚悟出来てんでしょうねぇ……」ドリルランスを回すスティレット。

 

「バトルなんて必要ないね……即粉砕だよ」ベリルショットランチャーの二刀流を構えるフレズヴェルク。

 

「……地獄に落ちろ……」ルシファーズウイングの両手を向けるアーキテクト。全員が怒り心頭になっているのは解っていた。

 

――もう逃げられない。――

 

 そう轟雷は思った。観念しようかと轟雷が諦めた時だった。

 

「なぁ皆、待ってくれよ」

 

 それに待ったをかけた少年が一人。黄一だった。彼は轟雷達の前に楯になる様に躍り出る。

 

「皆、今回は許してやってくれないか?」

 

「黄一さん。止めないでよ」

 

「許すなんてそうはいかないよ。轟雷がいなかったら今頃もっと気持ちよく……」

 

「?気持ちよく……?」

 

「な!何でもないよアーキテクト!」

 

 慌てて必死にごまかすフレズであった。

 

「実はさ、今回轟雷が覗きをしたのは俺と轟雷が口喧嘩したのが理由なんだよ。こいつが俺と恋愛したいって言ってきてさ。……考えてみたけど、こいつと恋愛する発想ってのは一切浮かばないんだよな。それでこいつとしてはショックだったみたいで」

 

「それでも轟雷が実行した事には変わらないよ」黄一と向き合ったフレズはどうしても納得がいかない様だった。スティレットとアーキテクトも同様なのは表情から読み取れる。しかし黄一は動こうとしない。

 

「そうはいかないよ悪いけど、別に轟雷に恋愛感情は沸かないといったけどさ。コイツが俺にとって特別で大切なのは俺も変わらないんだからさ」

 

「そういえばさ……黄一にとって、轟雷はどういう存在なんですか?」

 

 大輔が黄一に問いかける。ピリピリしたFAG達の反面、マスター達は健を覗いて特に怒ってる様子はない。大輔が聞いたのも、少しは場を和まそうとしたのだろう。

 

「そうだなぁ……。俺さ、一人っ子だったから、ずっと兄妹が欲しいって思ってた。気がまぎれるかなって理由もあったからFAGを買ったんだけど、……買ってみて散々だったわ」

 

「え!?」

 

「口を開けば突拍子も無い事言うわ。変な所で意地張るわ。後俺の金でプラモ買うわで」

 

 フォローに入るかと思えばこの恨み節だ。轟雷にとってはあんまりだった。

 

「な!何を言ってるんですかマスター!私はですね!」

 

「まさに俺にとって手のかかる妹だよ。轟雷は俺の妹。掛け替えのない、俺の大切な妹なんだ」

 

「え……いもう……と?」

 

 自分にとって意外極まりない言葉だった。きょとんとする轟雷を尻目に黄一は話を続ける。

 

「幼い家族が迷惑かけたら上がフォローすんのは当然だよ。なぁ皆、今後埋め合わせはするからさ。今回は許してくれないか?」

 

 そう言って黄一は深々と頭を下げた。奇しくも轟雷と同じポーズで、だ。スティレット達は無言でそれを見つめる。

 

「……まぁ、黄一さんがそう言うなら、轟雷も見た事を言わないってのも付け加えるなら、僕は許しますよ」

 

 まず健が黄一に対して賛同する。

 

「……黄一さんが轟雷に言って聞かせるなら……、私のマスターとの親友なんだから悪い人なわけないもの」スティレットがそれに続く。

 

「マスター……ボクの意見はどうなるのさぁ」フレズは不満そうだ。健はそんなフレズをなだめる。

 

「……いつまでも恨んでいてもマスターの顔に泥を塗る……。今回は許す……」アーキテクトは大輔と顔を見合わせながらそう言った。

 

 全員が手に持った武器を下ろす。それは轟雷を許すという意思表示だった。

 

「マスター……」

 

 轟雷が背を向けた黄一に呼びかける。黄一は振り向かずに言う。

 

「申し訳ないって気持ちがあるなら、まずは迅雷とライとで謝れよ」

 

 そう言って黄一は体をどける。スティレット達と轟雷達とで目が合った。すぐさま迅雷が轟雷の隣に移動し、ライは逃げようとしたがレーフに耳を引っ張られて轟雷の横に移動。三人並ぶと取るべき行動は一つだ。

 

「その……ゴメンなさい!」

 

 アーキテクトウーマンにとったのと同じ動作、そして黄一と同じ動作で轟雷が頭を下げると、迅雷とライも同じ動作で謝った。

 

「何度も同じ事言わせないでよ。黄一さんに免じてよ」

 

「……親は選べない。あなたは自分のマスターに感謝すべき……」

 

 今回は特別と付け加えながら轟雷達への怒りは見せなかった。覚悟していた状況とは違う終わり方に轟雷は安堵する。

 

「素晴らしい!マスターとFAGの絆の繋がり!見せて頂きました!」

 

 と、そこへ静観していたアーキテクトウーマンが割って入ってくる。轟雷達はともかく、スティレット達はそのアーキテクトウーマンの姿に絶句した。

 

「あぁ申し訳ございません!ワタクシこういう者です!」

 

 と、自己紹介の下りは轟雷と同じだ。名刺を見せて自分の事を説明する。

 

「えーと、つまり……俺……いえ自分が連絡入れたのが心配で派遣されたのがあなたと」

 

「はい。最も杞憂でしたが。こういったマスターとFAGの絆を見る度に、FAGの開発者冥利につくという物ですよ」

 

「ど、どうも……」

 

「そして……そのお友達もそれぞれ強い絆を結んでいるのですね!」

 

 アーキテクトウーマンはスティレット達を、そしてその後ろのヒカル達を視界に入れながら感激した声を上げるのだった。最もスティレット達もアーキテクトウーマンに対する警戒を解く事はなかったが、

 アーキテクトウーマンは他のFAG達やマスターにも大いに興味があるらしく、食い入るようにヒカルやスティレット達を色々な角度で見ていた。

 

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 そして程無くして、全員が別れた。冬の為に辺りはもう夜の闇に包まれており温度は一層低くなる。吐く息が白い。そんな中轟雷達は人の多い通りを歩いていく。

 

「ったく、あっちこっちたらい回しで散々な日だったな」

 

「うぅ……すいませんマスター」

 

 黄一のバッグの中に入った轟雷が顔を覗かせながら、バツが悪そうに答える。

 

「ま、少なくとも今後は覗きなんてやめておけよ。今回許してもらえたのは特別なんだから」

 

「はい……」

 

「まだ恋愛したいって思ってるか?」

 

「いえ、それはもう諦めましたよ。あんな風に言われたらね……お兄ちゃん」

 

 あざとい感じで呼ぶ轟雷に昨日ほどではないがうすら寒さを感じてしまう黄一だった。

 

「悪い、普通に今まで通りで頼む」

 

「もう!マスターったら!……あの、マスター?」

 

「ん?」

 

「……あ、何でもないです」

 

『スティレット達の恋愛って、……成就すると思いますか?』そう轟雷は聞きたかったが、無理だと帰ってくるのは目に見えていたので言えなかった。でも何かしら今は黄一と会話をしたい轟雷だ。

 

「あの、マスター」

 

「だから何だっての」

 

「私、いつか自伝でも書こうと思うんです」

 

「自伝?なんでまた」

 

「やっぱり私、試作型轟雷の様に皆に影響を与えるFAGになりたいです。その為にも自分の事をアピールしたいって思って」

 

「でもお前の生活ってそんな売り物になる位面白いもんかねー。俺達やお前の周り、百合アニメみたいに、『キャッキャウフフなワンダーランド』って感じの面白みもない」

 

「『破壊も創造もすべてお前が決めろ』って位重苦しい物でもないですよ。いつか、ですよ。……スティレット達の恋愛感情も記録しておきたいってのもあります」

 

「それ、またスティレット達に怒られないか?」

 

「解ってますよ……。でも、誰か一人にでも知っておいて欲しくて……。もし、スティレット達の恋が誰も成就できなかったら可哀想で……そしてもし成就できたのならそれを知って欲しいと言う気持ちが……」

 

「だったら気持ちは解るけど尚更やめとけよ」

 

「……どうして、私達は心だけ中途半端に人間に近づいたんでしょうね……」

 

「轟雷。でもな、少なくとも俺にとっては、お前に心があるおかげで幸せだ。それを忘れるなよ」

 

 バッグの中から顔を出す小さな妹に対して、大きな兄は笑顔を向けた。

 

「マスター……有難う。黄一お兄ちゃん」

 

 そう言って妹も兄に笑顔で返すのだった。

 

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 その頃、夜の高速道路を疾走する車が一台、運転席に座ったドライバーはハンドルを握らず、車内の丁度中央部に備え付けられた台に、スマホを立て掛けて連絡を入れていた。今では当たり前となった自動運転なので問題は無い。運転席に座った女性。アーキテクトウーマンは、ファクトリーアドバンス社へと連絡を入れていた。

 

「はい……。いきなりですが一度にターゲット全員に接触する事が出来ました。直接話をしたというわけではありませんが」

 

 そう言ってアーキテクトウーマンは、被ったままのアーキテクト型ヘルメットの側面を一部開く。接続端子が露わとなり、スマホとヘルメットをコードで繋いだ。

 

「今そちらにサンプルのデータを送ります」

 

 そう言ってスマートフォンにある画像が表示された。スティレットとヒカル、フレズヴェルクと健、アーキテクトと大輔。恋愛組が集合していた時の画像だった。

 

「彼らの中から希望が生まれるはずです。人間とロボット、お互いが新しい関係を結ぶ希望の!」

 

 画像を転送するアーキテクトウーマンの声は、まるで救世主でも見つけたかのようだった。

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 始めFAGの話はリハビリの読み切りのつもりでした。轟雷を単に暴れさせるだけで完結していましたが、ラブコメに興味があったのでスティレットの話を書いてみたら湯水のようにアイディアが湧いてきたので今に至ります。

 一番この小説で黒歴史なのはぶっちゃけ最初の轟雷の話だったりします。

説明
ep13『黄一と量産型轟雷』(後編)
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コメント
mokiti1976-2010さん 読んで頂き有難う御座います!ま、その辺はおいおい話すとします。(コマネチ)
ファクトリーアドバンス社が恋愛用か家族のいない人用のFAGでも造ろうというのだろうか?(mokiti1976-2010)
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