連載小説3 |
長かった入学式が終わると、次はクラスごとに別れてガイダンスだ。
席は出席番号順。
同じ中学や小学校だった知ってる人間はいないかとひとしきり探してみたけど、
知ってる顔はない。
ガイダンスの後は自己紹介。
正直、何を言えばいいのかは毎度毎度悩む。
名前だけの奴、おちゃらける人、性格の悪さがにじみ出てる奴。
もちろん、真面目に色んな事を言う人もいる。
そんな中、私はと言えば、名前と出身中学だけという、
かなり地味な部類だ。
性格はそんなに暗くないつもりだけど、ちょっと人見知りする嫌いがある。
そんな自己紹介が終わると、今度は明日の予定の説明。
入学して数日なんてのは、ほとんどガイダンスだろう。
一応、それが終わると初めての休み時間だ。
多分、早速友達作りが始まるんだろう。
私は…幸か不幸か仲のいい奴が隣のクラスにいる。
ちょっとだけ距離はあるけど、ま、無理して友達を増やす事はない。
のんびり過ごさせてもらうか。
「ねぇ、倉橋さん…だっけ?」
はい? 誰だ、私に声をかけて来たのは。
「倉橋さん、でいいんだよね?」
それは前の席の女の子。正直、顔は前の席で見えなかったし、
名前も覚えてない。
でも、彼女の前髪は、とても綺麗にセットしてある。今日の私にとって、
前髪はコンプレックスだ。
「え。あ、う、うん。倉橋えりか」
「よかった。隣の出席番号の子くらい、覚えたいと思ってたんだ。
私は木谷まりな、よろしくね」
そう言って木谷さんは右手を差し出す。あぁ、握手ね。
「よ、よろしく」
場の空気に流されるままの、握手。そういえば、握手なんていつぶり?
「倉橋さん、自己紹介名前と出身中学だけだったよね。どういう女の子?
もしよかったら、教えてほしいんだけど」
「えぇっと…」
これは間違いなく「友達になりましょう」光線出まくりだ。さて、困った。
「どういう女の子かって言われても…」
「そっか、答えにくいよね。じゃあ、質問を変えよう。部活、もう決めた?」
今度は部活? まぁ、確かに答えやすさは増したけどさ。でも…
「正直、まだ決めてない…」
「えー、そうなの? それはもったいない。この学校、部活の豊富さが
魅力なのに」
ふーん、そうだったのか。木谷さんはさも残念そうに言ってるけど、
私なんて入れるレベルで一番制服のかわいい学校を選んだだけだ。
「私はねぇ、文芸部狙いなんだ」
「文芸部? ていうと…」
よく分からん! 私にはよく分からんぞ!
「なんか、よく分からないって顔してる。じゃ、部活見学の時、
一緒に行ってみる?」
「う…うん。じゃあ…」
また場の雰囲気に流された。でも、こういうのも悪くはないか。
「よし、決まりね」
「あの…木谷さん、一つ訊いてもいいかな」
ニコニコ顔の木谷さんは、正直とってもかわいい。
ここで自分の事をどう言う事はしないけど、これだけは聞いておかねば。
「なんで私に声かけてくれたの? 隣の番号なら、前の子でも…」
「なんだ、そんな事。んーとね…その前髪がかわいかったから。ダメ?」
ダメも何も、これは今日の私のコンプレックスであって…
あー、どう返答すりゃいいんだ?
「さっき教室入って来た時、髪の綺麗な子がいるなー、て思ったのね。
さらっさらな黒髪で、前髪ぱっつんの。そしたら、それが倉橋さんだった」
「むむむ…この私の今日の前髪を気に入ってくれる子がいるなんて…」
こ、これは…
「えっと…木谷さん。これから三年間、よろしくね!」
「こちらこそ!」
高校生活初日。初めて出来た友達は、あろうことか私のコンプレックスを
気に入ってくれた。
楽しい三年間になりそうだ…!
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