ヤマボウシ
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 それは一人佇む。

 まるで、雪が積もっているように白いベールを被っている。

 

 瞳は、公園のベンチに座って小さくため息をついた。

 何度も携帯を見る。

 メールも着信もない。

 日曜の午後。

 五月の風は爽やかに通り過ぎる。

 もう一度携帯を手に取る。

 受信メールを何度も読み直す。

 

 明日12時、○○公園のヤマボウシの木の下で。さとし。

 

 昨日の日付のそのメールアドレスは、瞳の知らないアドレスだった。

 多分間違いメールだろうと思ったが

 瞳はなんとなく、公園に来てしまった。

 その公園は瞳が高校へ通う途中にある。

 同じ名前の公園がなければ、少なくともメールの送り主はこの近所の人のはずだ。

 なぜだろう、瞳はその送り主を確かめたくなった。

 公園の時計はすでに12時を過ぎていた。

 いたずらかだったのかな…。

 瞳はまたため息をつくと、ベンチから立ち上がった。

 もう帰ろう。

 もう来るはずない。

 そう思いながらも、もう一度ベンチから少し離れた場所に一人佇むヤマボウシを見る。

 公園の出口に向かう瞳は、向かい側から歩いてくる人影に気づいた。

 30歳くらいだろうか…見覚えのない顔だった。

 やはり間違いだったんだ。

 瞳はそう思って、またため息をついた。

 その人とすれ違って、数歩も歩かないうちに

「あの…」

 その人は瞳に声をかけた。

 瞳が振り返ると。

「…なんでもないです」

 その人は照れくさそうにそう言うと、さっきまで瞳が座っていたベンチに腰を下ろした。

「すいませんけど」

 今度は瞳からその人に声をかけた。

「昨日、私に間違いメール送ったの…あなたですか?」

 普段は引っ込み思案で消極的な瞳にしては、思い切っての質問だった。

「あぁ…やっぱりそうでしたか」

 その人はにこりと笑うと

「間違いに気づいたの、実はついさっきだったんです…」

 照れくさそうに笑う。

「だから彼女にはメール届いてないんですよね。ホントにドジなんですよね」

「どうして間違っちゃったんですか?」

 瞳は質問を投げかけた。

 その人は戸惑いながらも答えてくれた。

「彼女と大喧嘩しちゃって。いつもは間違えようがないんですけど、昨日は携帯の電池が切れちゃって、カリカリしながら会社のパソコンから送ったもんだから」

 そう言って、その人はため息をついた。

「今日ここで仲直りできたら、プロポーズするつもりだったんです。でも縁がなかったのかな」

 少し悲しい目をしてその人は言った。

「聡さん!」

 その時、女性の声がした。

「美里さん…!?」

 その人は驚いたような顔をして立ち上がった。

「どうしてこんなところにいるの?びっくりしちゃった」

 女性は笑顔で二人に近づいてきた。

「聡さんに昨日何度も電話したのに、全然繋がらなかったから心配してたのよ」

「美里さん…僕は…」

 その人が何か言おうとしたとき、女性はその言葉を遮るように

「ごめんなさい」

 そう言って頭を下げた。

 瞳は少し距離を置いて、二人をみつめていた。

「私が悪かったの。わがまま言って。でもまだ聡さんが…」

 女性の言葉を、今度はその人が遮った。

「結婚してください」

 女性は驚いた顔でその人を見つめた。

「今日ここであって、僕は美里さんしかいないって…運命のヒトだってそう思った。結婚してください」

 瞳は、何と答えるのかドキドキしながら女性を見た。

 すると女性は、ただ何も言わずに目からポロポロと涙を流して頷いた。

 二人は照れくさそうに無言のまま見つめあっていた。

 瞳は気づかれないように、そっと公園を後にした。

 

 

「幸せになってくれるといいな」

 そうつぶやいてもう一度公園のほうを振り返った。

 二人の後ろにひっそりと佇むヤマボウシは、二人を祝福しているように見えた。

 

 

 あんな恋がしたい。

 

 瞳は五月の風を思いっきり吸い込みながらそう思った。

 

 

               完

 

 

説明
公園に佇む、ヤマボウシの下で。
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タグ
ショートショート 恋愛 

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