フレームアームズ・ガール外伝〜その大きな手で私を抱いて〜 ep14 |
その日は12月24日、クリスマスイブ、言わずと知れた年末の一大イベント、大抵の人は家族や恋人と過ごすのが基本と言われてる日であり、筆者の様な人によっては忌まわしき日である。そしてその日の夕方、ある少年は、ある意味想い人と二人でクリスマスを過ごしつつあった。
「悪い。ちょっと休憩」
その少年。自室で机に向かっていたヒカルが目頭をつまみながら言った。そして柔軟として、両手を上に上半身をのけぞらせる。柔軟性のある背もたれは抵抗なくヒカルの身体を後ろに導いた。
「もう!マスターったら勢いついてるんだから一気にやっちゃいましょうよ!」
それをスティレットが不満げに呟く。勉強机の上に立つ15pの少女の周りは、袋から出したプラモパーツのランナーが散乱していた。
「つったって、これを一気にやるのは中々に骨でしょうが。いくらお前が手伝ってくれてるっていってもさ」
ヒカルがそう言いながら組み上げた一体のプラモを机に立てた。机の上に置かれたのは翼を広げた白い大鷲のプラモだ。二人が作ってるのはルシファーズウイング。この大鷲型メカと馬型メカを合体させる事により、大型パワードスーツとなる新型ギガンティックアームズである。
「とりあえず鳥の部分は完成したから区切りはついただろ。残りの馬の部分は休憩後にしようぜ」
「ハーピーとユニコーンよそれ……。まぁいいわ。折角の私へのご褒美ですもの。いい加減に作られちゃ困るものね」
ご褒美、前回の期末試験勉強でスティレットはヒカルの勉強を手伝い、結果は上々。何よりその中でスティレットは自分のトラウマを少しながら克服してみせた。今回のヒカルが作ってるルシファーズウイングはそのスティレットの為のご褒美である。
――でも……確かにトラウマ克服に向けていい傾向なのは嬉しいけどさ……かなりの値段でサイフが痛いぜ……――
ギガンティックアームズの類を買った事のない&親の仕送りに頼ってる(※部活をしている所為でバイトする時間的余裕がない)所のあるヒカルにとって、ルシファーズウイングの値段はかなりサイフに痛かった。更にヒカルの生活費は親の意向でスティレットに握られてる。
――ま、スティレットが喜んでくれるならいいんだけどさ――
机の上のスティレットは興味深そうに分離したルシファーズウイングを眺めていた。説明書も熱心に読んでおり、これが彼女にとって楽しみにしていたというのが解る。
「お前本当に楽しみにしてたんだなルシファーズウイング」
「そりゃね?私が装着前提になってるギガンティックアームズですもの」
「でも良かったのか?これがお前の欲しいクリスマスプレゼントなんてさ。あんまり女の子の欲しがるもんじゃないよな……」
ついそう本音が出た。FAGが人間でないとしても、女の子の感性をいつも見せつけられてはそう思ってしまう。
「何言ってんのよ。……所詮私達FAGは人形なんだから、人間の女の子みたいに扱われても困るわ」
自虐的に笑いながらスティレットは答えた。
「でもさ……」
「何よぉ。そんな事より人間の彼女が出来ないマスターの学園生活を心配した方がいいんじゃないの?」
おどけてからかう感じに言うスティレットにヒカルはムッと顔に不満を出す。
「お前なぁ!」
ヒカルが言葉を続けようとした時、玄関のチャイムが鳴った。
「あれ?誰だろう?」
そう言いながらヒカルが玄関を開けると、そこには……
「こんちわー」
「あれ?黄一?健君と大輔も一緒か」
いつものFAG仲間の親友達だった。全員が各々の相棒を連れている。
「よぉヒカル。クリスマスはやっぱり寂しく一人だよな?」
「黄一……友達を選ぶ権利は俺にもあるんだぞ……」
スティレットといいなんで皆、俺をこう決めつけるんだ……。冗談にしても皆タチが悪すぎる。と心の中で愚痴るヒカル。
「っていうかこんな時に俺んち来るって事はお互い様だろうが!」
「そりゃそうだ。まぁ彼女なんかいなくったって楽しい高校生活に支障はないさ。というわけでこれを持ってきた」
若干自棄になりながら同意する黄一は正方形の白い箱を見せた。それはクリスマスお馴染みの……。
「お!クリスマスケーキ!」
「轟雷以外家族が今日いないからさ」
「更に飲食できるのはマスターだけですからねー」
黄一が言おうとしていた事を轟雷が先に言う。そしてそれに大輔が言葉を続けた。
「どうせなら大人数の方がいいって黄一から誘われてね。ヒカルの家にお邪魔しようって事になったんだ」
「そう言う事か。だったら事前に連絡を入れてくれよー。俺に予定あったら台無しでしょうが」
「まぁその時はその時って事で、お詫びとして僕の方はこれを持ってきたよ」
大輔が持ってきたのはフライドチキンの詰め合わせ。クリスマスセットだった。少年一人含めて大の男三人が食べるとなると丁度いいであろう量だ。
「おっと大輔!そういうお土産があるなら歓迎するぜ!」
「ちょっとマスター!私の意見も聞かないで話を進めないでよ!」
そこをスティレットが流れを遮る。突然の展開に彼女は不満げだ。
「あ……悪い。駄目か?」
「別にそうは言ってないわ。来るなら事前に言ってくれれば、ちゃんと料理作っておいたのにって思ったのよ」
今からじゃ大したものは作れないわよ。とスティレットは言う。ルシファーズウイングを作るのが先送りになってしまうのは特別不満というわけではないらしい。
「そうだなぁ、何か買ってくるか?」
と、その時だった。玄関先で一台のトラックが停車する。宅配便だ。その場にいた全員が降りてきた宅配員を見ると。二つの長方形の箱を抱えながらこちらに来る。
「宅配便でーす!サインお願いしまーす!」
「あ、お疲れ様ですー」
そう言って社交辞令を交えながらサインを書いてヒカルは荷物を受け取る。発進するトラックを見送ると全員が家の中に入って居間で箱を開ける。
「わぁトマトですかー。更にこっちはウドの詰め合わせですね」
健が声を上げる。届いたのはトマトの詰め合わせとウドの詰め合わせだ。
「げぇー……よりによってトマトとウドかよ……」
うんざりした風にヒカルは言う。ヒカルが不満全開にした反応に全員が気になった。
「お前嫌いだもんなー。トマトとウド」
「へぇ、ヒカルってトマトとウドが嫌いなんだね。何でも食べる印象だったから意外だよ」
大輔の驚いた風な反応。嫌いな食べ物がある印象もなかった。
「ある意味当たってるよ大輔。コイツ子供の時の食い意地は凄かったんだぜ。好物はヤギ肉とドジョウなんだよ」
「それもちょっとマイナーだなぁ」
「コイツ幼稚園時代に遠足で立川のみどり地区に通りがかった時さ。ヤギ見るやいなや全力疾走で飛びついて、凄い形相で噛み付いた事あったんだよ。逃げるヤギにロデオ状態で噛み付き続けてさ。ヤギの群れ全体がパニックになっちゃって」
「ってうぉい黄一!勝手に人の恥ずかしい過去をばらすなー!!」
顔を真っ赤にしたヒカルが黄一の頭に軽めのチョークスリーパーをかける。
「ぐぁぁっ!!悪かったって!!」
バツが悪そうに黄一は答える。受け答えが出来るという事は首に入ってないおふざけだ。ヒカルは気を付けろよと付け加え腕を解いた。そして差出人を確認していたスティレットに問いかける。
「スティレット。差出人はやっぱり……」
「予想通りよ。出張中のママとパパだわ」
FAGのスティレットが言うパパとママという言葉にフレズは気になった。
「?ヒカルのパパとママって事?」
「出張中なんですか?ヒカルさんのご両親って」と健もほぼ同時に質問をする。
「まぁな、本当は父さんの単身赴任だったんだけど、母さんもついて行っちゃたんだよ」
「おかげで私が家事全般をしてあげなきゃいけなくなったってわけよ。いなくなった事で普段家事をしてくれるママの有難みは解ったかしら?」
「お前まで黄一みたいな追い打ちかけないでくれよー。当然親にもお前にも感謝してるからさ」
そういうヒカルにスティレットは満足げな笑みを浮かべる。いじられてもうまく回避するのがヒカルの良い所だな。と、やりとりを見ていた大輔は思った。
「そうだマスター!折角だからトマト鍋作りましょ?これだったら簡単に人数分出来るわ!」
思いついたようにスティレットは言う。
「それに……マスターもトマト鍋なら平気でしょう?」
「まぁな」とヒカルは言う。トマトなら何でも駄目というわけではない。
「でも今冷蔵庫には大したもん入ってないよな確か」
ヒカルは思い出したように言う。スティレットも思い出したように「あ」という反応を見せた。
「折角のクリスマスなんだし、もっと具材増やしたいから買ってきていいか?下準備の方はスティレットに任せたい」
「そうねお願い。オリーブオイルやチーズは揃ってるから、好みの物を買ってきていいわよ。折角だからヤギ肉とドジョウ入れちゃましょ?」
そう言ってスティレットは家の奥へと飛んでいく。暫くすると食費の一部を持ってきてヒカルに渡した。
「買い物かい?だったら俺達も手伝うよ」
それに賛同するのは黄一と大輔と健だ。
「別に俺一人で良いんだけどな」
「ついでに俺達の好きな物も買ってきて鍋に入れてもらおうかなって思って、自分の物は自前で払うからいいだろ?」
「詫びってよりそっちが目的だろ」
「ん〜。まぁいいわ。よっぽど変な物でもないなら入れても大丈夫よ」
ジェットエンジンのセイレーンmkUを装着し、素体にエプロンをつけたスティレットがそう言った。時間が惜しいとばかりに料理に取り掛かるようだ。
「まぁグチグチ言ってても仕方ないな。全員で行ってくるよスティレット」
「あまり遅くならない内に帰ってきてね」
台所に飛んでいくスティレットに対して言うと、ヒカルはウインドブレーカーを羽織ると既に防寒着を着た黄一達と玄関へ向かう。
「あ!だったら私もついて行っていいですか?」
と、そこへ名乗りを上げたFAGが一人、轟雷だった。
「轟雷?……怪しいな」
真っ先に黄一が怪しむ。
「ぎくっ!な!何を言うのですかマスター!この私が何か打算があると思うのですか!?」
「打算無い奴は『ぎくっ』とか言わない!」
憤慨する轟雷に黄一は当然ながら冷静だった。
「……実はですねー。買い物ついでにクリスマスプレゼント欲しいなーって」
うって変わって機嫌を伺う様な対応で接する轟雷。
「プレゼントだったら親からお前にプレゼントいった筈だろ。フレームアームズの轟雷改」
「それがですねー。……製作に失敗しちゃいまして、二個目が欲しいなーって……汚し過ぎたんですよ」
「お前ね、自腹で何とかしなさい」
「ケチー!仕方ないからとりあえず付いていきますよ」
「模型屋行っても、見るだけだかんな」
一応の話はまとまった。あまり時間はかけてられないと男達と轟雷は出掛けていく。
「留守を頼むぜ皆。じゃ行ってきまーす」
そう言って防寒着を着た男達は家を出ていった。まだ日は沈んでいないが緑のほとんどない冬景色。当然ながら肌寒い。
「ここからならショッピングモールが近いから歩きでいけるな」
「あるんですか?モールとはいえスーパーにヤギ肉って……」
そんな事を言い合いながら男達は買い物へ行くのだった。
――
男性陣がそんな事をしている中、轟雷を覗いたFAG達女性陣は鍋の準備に取り掛かる。といってもスティレットの手伝いがもっぱらだ。
「来客用の食器が棚の一番上にあるから、好きなの出しておいてね」
電気コンロの上で土鍋にトマト鍋の準備をするスティレット。その傍らで轟雷達に支持を出していた。
「それにしてもさー。いつ頃からなの?ヒカルの両親が仕事で家を空けたのって」
台所のテーブルに食器を並べるフレズが言う。彼女達のサイズでは一つずつ運ぶしかない。
「そうねー。もう一年近くになるわね。ママからは色々家事を教えて貰ったわ」
「どういう人だったの……?」
今度はアーキテクトが聞く。エプロンとキラービーク装備の彼女はスティレットの隣りで鍋製作の手伝いだ。アーキテクト自身トマト鍋のレシピに興味があるようだ。
「パパはちょっと寡黙だったけど、行動力と誠実さのある人だったわ。ママの方は……反対に豪快な人ね。……どっちともマスターと似てる所はあったわね」
この場に轟雷がいたらもっと詳しく伝えられたかもしれないとスティレットは思う。轟雷だけはスティレット以外でヒカルの両親に対して面識があるからだ。
「お世話になった人なんだね」とフレズ。
「本当にね。特に私がこの家に来た時なんかは」とスティレットは苦笑しながら言う。思い出しているのだろうか。
「その話、興味がある……聞きたい……」
「……ちょっと恥ずかしいわね」
「ボクも聞きたいなスティレット。お前とヒカルの始まりの歴史」
「……そうね。今日はクリスマスだから話してあげる。……特別なんだから。感謝してよね」
そう言ってスティレットは話し始めた。自分とヒカルの両親の繋がりの話を……
話はスティレットが最初のマスターに捨てられて、ヒカルが引き取ると言って本社へとオーバーホールへと送られた時に遡る。……その時のスティレットは、かなり精神的に自暴自棄になっていた。本社に送り返されてオーバーホールを受けてる間は、
「どうせまた捨てられる……」
そんな事ばっかり言っていた。信じてた人に、信じようとしていた人に裏切られたのだから。一方的にマスターに捨てられて、マスターがいきなり変わって納得するには時間があまりにも足りなかった……。そしてオーバーホールの後に、箱の中に入れられて眠りについて、登録手続きを済ませたヒカルの家に送られた。
「ん……んん……」
箱が開かれた事に反応してスティレットの目が醒めた。……どうも目の前がぼやけている。暫く闇の暗い環境にいた所為だろうか。光と、眼の前の人型のシルエット位しか判別できない。彼女はどうせマスターだろうと判断し喋り出す。
「……あぁついたのアンタの家。アンタも物好きよね。捨てられた私を拾って引き取ろうだなんて、とんだアホっ子よ。さぞかし親もアホ面してんでしょうね。親の顔が見てみたいわ」
自暴自棄になっていたスティレットは思いつく限りの毒を吐いた……いっそこれで怒って捨ててくれた方がスッキリする。そう思いながら……、だが相手の反応は、というか相手自体がスティレットの予想とは違った。
「うぉぉっ!!!すっごい!喋った!!」
ヒカルとは明らかに違う女性の声、直後に目のぼやけは収まってくる……。目の前で子供の様に目を輝かせていたのは……。マスターの母親である。
「……え?!」
別人であるという事に気が付いたスティレットは驚き固まった。
「ただいまー」
直後にヒカルが帰ってきた……。少年が玄関から入ってきて一番に目にしたのは……、
「あ、ヒカルおかえりー」
玄関先で箱から身を起こしたスティレットと、勝手に箱を開いた母親の姿。一瞬で状況を理解したヒカルは母親に慌てて食って掛かる。
「……母ちゃん!!じゃねーや母さん!!!また勝手に俺の届け物開けたのかよ!!!」
息子の怒る姿に母親は気にも止めずに片手をヒラヒラさせて答えた。
「怒んないでよー。息子とのコミュニケーションって事で」
「親しき仲にも礼儀ありでしょうが!!」
「で、何なのこのパンツ丸出しのエロ人形は?新しいエログッズ?」
『違う!!!』
スティレットとヒカル。お互いが顔を真っ赤にしながら叫んだ。その時が初めてスティレットとヒカルの息の合った瞬間だったのは言うまでもない。
居間に移動して状況をヒカルとスティレットは説明した。
「へぇー、フレームアームズガールねぇ」
ヒカルと母親はソファに座り、スティレットはテーブルに置かれた箱から立ち上がって説明をしていた。
「そう言うわけよ。私達が作られた理由は人間とのコミュニケーションとFAG同士のバトル。新世代の人形ね」
主ともいうべき相手に対してスティレットは若干ぶっきらぼう気味だった。
「コミュニケーションって事はエッチな事出来るの?」
『出来ない!!!』
再びハモる二人。あっけらかんとした表情で言う母親に対して妙な恐怖心を感じるスティレットだった。
「なんなのよ……FAGをそんな下品な風に見るなんて……」
額に手を当てるスティレット。予想の斜めを行く家の人達にスティレットは頭痛を感じていた。
「だってそうでしょ?パンツ丸出しにしてるんだし」
「っ!ボディスーツよ!!」
両手で股間部の前後を抑えながらスティレットは叫んだ。
「でもいいなー。こんな風に会話できる人形が今はあるんだー」
興味深そうにスティレットを眺める母、それに対して「母さんも昔は人形で遊んでたの?」と息子のヒカルは聞く。
「当然。もちろん子供の時の話よ。なんかアンタが羨ましいわねヒカル。今の人形は本当に友達になれるって事じゃない」
「友達……でも私は捨てられたわ。結局人間の真似をしたところで人間じゃないのよ。私は……」
どうも地雷を踏んでしまったようだ。爆発とはいかずとも元々不機嫌だったスティレットの機嫌は更に沈む。
「情を移さないで頂戴。所詮人間と友達になれるのは人間だけなんだから……」
俯きながら胸中の不安を混ぜての忠告、だが……
「あー、スティレット。シリアスやってる所悪いんだけど、母さんだったらもういない」
「はぁ?!」
言ってる相手がもういない事にスティレットは絶句した。
「なんかキラキラした目で出てったわ」
「非常識にも程があるでしょアンタの親……」
「苦労してます……。と、それよりも届いたんだったらお前の装備を作らないとな」
そう言ってスティレットは箱の底にあるランナーを取り出した。スティレット用の基本装備がついておりこれをプラモデルと同じ要領で切って、組み立てて完成となる。スティレットの武装は飛行能力も有しており、これが有ると無いとで大きく移動の幅に差が出る。
「安物のニッパーでは切らないでよね」
「ガン○ラ用でよけりゃ良いのがあるから大丈夫だよ」
「よりによってガン○ラ……コトブキニッパーとかないわけ?」
「文句言うなよ。あれ高いんだから」
「まぁいいわ。作って頂戴」
「ここじゃ母さんうるさいから俺の部屋でな」
そうしてヒカルはスティレットを箱ごと部屋へと運ぼうと移動する。ヒカルが持った箱から身を起こしながら、スティレットはついでとばかりに家の風景を見ていた。当然ながら以前のマスターの家とはまるで違う風景だ。
――今度の家はいつまでいるのかしらね……――
卑屈にそんな事を考えるスティレット、ヒカルには解る筈もなく階段を上がり、廊下を歩いていく。一分もかからずに部屋に付いた。
「ここだ」
そういってヒカルは部屋のドアを開けて入った。部屋の4分の1を占めるシングルベッドに、あまり本来の用途では使ってなさそうな勉強机、本棚の少年漫画に、戸棚の上のプラモデル、壁にはバスケットボール関係のポスター。インテリアを気にしてなさそうな簡素な雰囲気にスティレットは感じた。男の子の部屋だな……と。
「少しは片付いてるのね」
「まぁな」
本当はヒカルがFAGをお迎えするという際に、女性の情緒を持ってるという事でヒカルが全面的に部屋の掃除をしたわけだが、スティレットに言えるわけがない。
「じゃあま、とりかかるとしますか」
そう言って机に向かうとビニール袋からパーツを取り出す。ヒカルはニッパーでランナーとパーツを切り離し、組み立てていく。パチン、パチンとパーツを切り離す音が静かな部屋に響く。
「綺麗に作ってよね」
そう口うるさく言ってるとドアからノックがした。ヒカルがどうぞと言うと入ってきたのは母だった。
「あ、ここにいたのね」
「何か用」とヒカルが答えると母は人形用の服を何着か持ってきていた。
「折角可愛い女の子が来たっていうのに、そんな恰好じゃ可哀想だって思ってね。お古だけど人形用の服を着てもらおうかなって」
持っていたのは幼児用の人形服だ。だいぶ古いらしい。白い生地は黄ばんでいる所も多く見える。
「え……別にいいわよ」
「ヒカル、このえーと……なんだっけ」
スティレットの事を呼ぼうとするが、どうもド忘れしたらしく名前が出てこない。
「スティレットだよ」とヒカルは告げる。
「そうスティ子ちゃん!ちょっと借りるわねー」
そう言って母はスティレットを掴むと持っていた服をスティレットに合わせる。突然の事にスティレットは声を上げた。
「ちょ!ちょっと!」
服のサイズが合わない。本来想定していた人形とFAGのサイズが違うのかどうしてもブカブカになってしまう。
「あー合わないわね。こりゃサイズ合わせた方がいいかな」
「ちょっと。そういうのやめてよ」
こういう風に情けをかけられるのを今のスティレットには我慢できなかった。
「だから言ってるでしょ。情けをかけるのはやめて頂戴。私は友達になれないんだから」
「ふーん……友達にはなれない。ね。だったら主人として命令するわ。私の言う通りに衣装を聞きなさい」
「登録したの俺なんだけどな……」とヒカルがぼやいた。
「……あーもう……もう好きにしなさいな」
そう言ってスティレットは抵抗をやめた。母はそのままスティレットを持ったまま出ていく。
母はそのままリビングへと移動する。テーブルの上には先程なかったミシンが置いてある。さっき移動したのはこれらを取りに行っていたという事だ。母はテーブル前のソファに座ると巻き尺を取り出した。
「はーい。ちょっとサイズ図るわよー」
「へ……ちょっと待ってよ私の意志は?」
母はスティレットの意志はお構いなしに巻き尺をあてがいサイズを測っていく。巻き尺がスティレットの肌に当たるとピクンと体を震わせた。
「ん……!くすぐったいからやめてよ!」
「じっとしてて。へー、このサイズでこのバスト……人間サイズにするとなると大きさは」
「うー、変わらないわよどの機種も、共通規格なんだからぁ、ていうかわざとやってない?」
恥ずかしそうにするスティレット。と、その時に母の指がスティレットの腋を意図したかどうかは解らないがなでる。
「んひゃっ」
仏頂面だったスティレットはくすぐったさに笑顔を見せた。
「あら、やっぱり笑った顔の方が可愛いのね」
「っ!」
手を止めた母の反応に、すぐまた元の仏頂面に戻るスティレット。
「あらら、もうちょっと愛想良くしてくれたっていいのに」
「……悪かったわね。愛想がなくて……。どうせ私は捨てられた出来損ないよ」
まさに友達に突き放されたか、失恋でもしたかといった風に母は感じた。
「女の子がそんな風にしてちゃモテないわよ」
「だから私は人間じゃないの。何度も言ってるじゃない。いい加減解ってよ」
「難しい事は解らないわね」
「……」
「……でさ、私の息子があんたのマスターなわけだけど、ヒカルの事……どう思う?」
「バカね」
即答だ。スティレットとしてはわざと辛口な事を言って怒らせようという魂胆だろうか。が、自分を拾った事をスティレットは素直にそう評した。
「あ、アンタもそう思う?」
「な……」
これで怒る素振りも見せずにカラッとした反応にスティレットは「普通怒るでしょ」と思いながらも閉口した。
「昔っから変な所あったのよアイツ、アイツヤギ肉が好きなんだけどね」
「また随分とマニアックな物を……」とスティレット。
「聞いた話だけど、幼稚園時代に遠足で立川のみどり地区に通りがかった時さ。ヤギ見るやいなや全力疾走で飛びついて、凄い形相で噛み付いた事あったのよ。逃げるヤギにロデオ状態で噛み付き続けてさ。ヤギの群れ全体がパニックになっちゃって」
「本当にバカね」
「そう、バカよ。子供の時からいじめを受けていた子を庇ったり、それで相手と喧嘩してボロボロになった事もしょっちゅうね。あいつったら石頭だから殴った上級生の方が手を痛めて泣き出したって話よ」
コロコロと笑いながら話す母親に対して、スティレットの方は渋い顔は変えなかった。
「……あぁそう言う事。私もそんないじめられっ子同然って事ね」
「でも最後までアナタ信じようとしたんでしょ?最初の持ち主をさ」
「……」
捨てられた時を、置き去りにされた時を思い出す。確かにこれで捨てられたと思った。だが最後まで信じてようとした。でも駄目だった。それが逆効果でスティレットの心に与えた傷は大きい。
「良い子じゃないアナタ」
「所詮人に仕えるのが私達人形のつとめよ。馬鹿正直にそれに従うしかないの」
「そうかしら?そうやって投げやりになってるのは人間的としか言いようがないけど」
「投げやりになってなんか……」
「今はのんびり休みなさいな。どんな辛い思い出も、時間が癒してくれるものよ。大丈夫。追い出したりなんかしないわ。ご覧のとおりここでは緊張する要素なんか全くないんだから」
「……ホンット馬鹿な所ねこの家は」
「楽でいいでしょ?さて、こっちは服を作り直すとしますか。ミシンを使うからしばらくヒカルの所行ってなさいな」
そう言って母は人形服のサイズをスティレットに合わせるべくミシンを起動させる。母の顔つきは真剣そのものだった。近寄れないと思ったスティレットは渋々とヒカルの部屋へと移動しようとする。が、今の状態は素体であり移動出来ない。テーブルの上でミシンの動きを、母の表情を目で追っていくだけだ。
――……さっきまでとは全然違う表情……――
なんだか頼もしく思える。同時にふとスティレットは思った。『本当に、私の為にやってくれてるんだ』と。
――……何言ってんだろ私……――
人間なんて信じられない。と思っていると、ヒカルが上から降りてくる。
「あーここにいたんだ二人とも」
「どうしたのよ」とスティレットが聞く。
「組みあがったぜ。お前のアーマー」
ヒカルがそう言ってスティレットを肩に乗せ、自分の部屋に移動させる。机の上には組みあがったアーマー一式とガトリングガンに二連装ハンドミサイル、日本刀が置かれていた。
「ふぅん。……まぁまぁね。そこそこ綺麗に作ったじゃない」
まじまじと装備を見ながらスティレットは評価を口にする。
「とりあえずちゃんと飛ぶか確認よ」
そう言って装備一式を身に着けると、背中のエンジン『セイレーンmkU』を起動。緩やかながらにスティレットは机から飛び立つ。どうやら問題はなさそうだ。
「装備つけるとなんかお前サメみたいだな」
「どういう意味よそれ」目線をヒカルに合わせながらスティレットはホバリングで答える。
「額の形とか全体的なシルエットだよ。ていうかちゃんと問題なく飛べるな」
「まぁね、こうやって飛べるなら悪くない出来って事かしら」
そう言って部屋の中を飛び続けるスティレット。と、本棚の近くを飛んでいた時に異変は起きた。セイレーンmkUが『ガスッ』と詰まったような音を出し、エンストを起こしたのだ。
「え?ちょ!ちょっとぉ!!」
異変に気付いたスティレットはどうにか体勢を立て直そうとするが落ちそうになる。とっさに本棚の本の上部をつかんで本棚の上に降りようとするが、ズルッと本が抜けて本ごとスティレットは床に落ちた。
「キャー!!」
「あぁっ!」
見開き状態に広げた本の下敷きになっていたスティレットにヒカルは駆け寄る。
「大丈夫かスティレット!」
眼を開けてどうにか答えようとするスティレット、しかし直後、スティレットの出した声は。
「っ!!きゃあぁぁぁっっ!!!」
悲鳴だった。ヒカルは何かあったのかと本を持って引きはがすとスティレットは恥じらいで真っ赤になっていた。
「スティレット!大丈夫か!?どこか痛いのか?!」
「こ!この変態!!その本!!」
両手で目を覆いながらスティレットはそう声を上げた。ヒカルはなんだと本を見るとその見開きになったページは女性のヌードグラビアが写っていた。スティレットは目の前でそれを見てしまったわけだ。
「あ……これか」
「不潔!!最っ低よ!!そんな本持ってるなんて!!」
健全な男子なら別に普通ではあるが、免疫のないスティレットにとってはそうとしか思えなかった。
「別に普通だよ!それより体痛くないか?さっき落ちたんだから」
落ちたスティレットの身体を触って確認しようとするヒカルだったが、スティレットは当然それを手足をばたつかせて拒否。
「触らないでよど変態!!!」
「っ!おい!さすがに怒るぞ!!」
不服そうに表情にするヒカルとスティレット、そんなやり取りをしてると母が部屋に入ってきた。
「スティ子ちゃーん。服出来たよーってどうしたの二人とも」
問いかけようとするが二人は答えない。特にスティレットの方は拒絶するかの様にそっぽを向いていた。……これがスティレットが来て一日目の出来事であった……。
持っていたスティレットが壊れてしまい、ただいまレストアで素体作ってるので遅くなりました。最終回までには素体完成させにゃぁな。
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ep14『ヒカルと量産型スティレット3』(前編) 劇場版公開までに終わらせようとしましたが……すいません。無理でした。開き直っていきます。 |
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